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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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カタギのやり方って素敵やん

 しかし、むさくるしい事この上ないね。人相の悪い男たちは肩で風切ってがにまたで時折道行く一般人にメンチを切ったりして歩いている。チンピラ丸出しで恥ずかしいったらないよ。ジーゲンフランド氏の所はまだ良かったけど、これじゃあカシヨンをかくまってた所の小僧共とあんまり変わらないよ。


「あのー?あんまりカタギの人に迷惑かけない方がいいと思いますけど?」


 俺は一般人にイキリ倒してる人相の悪い男に言う。


「ああ?なめてんのか?殺されてーのか?」

「おいヤンス、やめとけ。どうせ向こうに着いたらウーリーさんに殺されんだからよ」

「おう、そうだったな。今やっちまったらウーリーさんにヤキ入れられちまう」


 うわー、チンピラっぽいセリフ。それにヤンスって、まんま下っ端の口調じゃないの、そうでヤンスって言っとけよ。

 俺はバッチーノ氏を見て肩をすくめる。


「クルース君、あまり挑発するような事は慎んでくれ。君達が怪我するような事にはしたくないのだ」


「すんませんバッチーノさん、気を付けます」


 俺は心配して言ってくれるバッチーノ氏に謝る。その姿を見てチンピラ共はニヤニヤと笑っている。チンピラ共は汚く狭い裏路地に入って行く。そこかしこにゴミが打ち捨てられ、大きなドブネズミがちょろちょろとしているのが見える。


「うわっ、でっかいネズミ」


 サイマーが驚く。


「なにも驚くことは無いさ。僕の地元じゃもっと大きなネズミが出るよ、馬を飛ばして良く弓で仕留めたものさ」


 ストームがサイマーに言う。お前はどこぞの共和騎士か?これから宇宙要塞を破壊に行こうってか?


「無駄口叩くな」


 近くにいた男が恫喝する。


「怒られちった」


 ベロを出してウインクするサイマー。カワイクねーっつーの。恫喝した男が嫌な顔してるっつーの。


「ここだ、入れ」


 俺たちは何かの倉庫みたいなところに連れてこられる。肩を押されて中に入ると、複数の男達が焚火の近くに仁王立ちしているのが見える。


「なんだ?バッチーノのジジイだけじゃねーのか」


 中央で焚火にあたっている男が言う。


「へいアニキ、一緒にいたんで連れてきました」


「ふうん、まだガキみてーだな?まあ、いいさ。おい、バッチーノ!良く帰って来たな!会いたかったぜ」


「私は別に会いたくはなかったがなウーリー」


 バッチーノ氏が言う。ウーリーと呼ばれた男は顔中傷だらけ、片目も半分潰れかかって半開きになっちゃってるし、いかにも狂犬、ケンカ狂って感じだよ。トラブルメーカーだって言われるのもわかるね。


「俺はお前に会いたくて会いたくてよう、こうしてやっと会えて喜びに震えているぜ」


 ウーリーはポケットからナイフを取り出すとその刃を舐めながら言った。ホントにこんな事をする人がいるんだねえ。しかもそのセリフ。思うほど遠く感じても知らないぞ?


「最初に言っておくが、私が島で助けた奴は怪盗なんかじゃないぞ?当然、隠し財宝だかなんだか知らないが、そんなものは欠片もないぞ」


 バッチーノ氏はきっぱりと言う。


「わかってるって、鬼のバッチーノがそう簡単に口を割るなんて思ってねーさ。おい、そこの冴えねえツラした小僧」


 ウーリーが俺を見て言う。は?冴えないツラ?この野郎、自分のツラ見てから言えや。俺は少しムカついた。


「なに?」


「なんだその反抗的な態度は?あんまナメた態度だと同じ死ぬにしても苦しい死に方になるぞ?ん?小僧?コラ?」


「で?なに?」


「この野郎。まあ、いいや。いつまでその調子でいられるかな?おい、そこの鉄棒を取れ」


 ウーリーはナイフを俺に突き付けて言う。


「焚火に刺さってる奴の事?」


「それしかねーだろうが!!」


 おう、キレたよ。大物ぶってたが速攻で地金が出たね。


「やだよ、熱いし。火傷しちゃうじゃん」


「っの野郎、おい誰か持ち手に布でも巻いてやれ!」


 ウーリーが怒鳴ると近くにいた男が頭に巻いていた布を取って鉄棒の持ち手に巻いてくれる。


「どーもすいませんねえ」


 俺は布を巻いてくれた男に言い熱せられた鉄棒を手に取る。先端部分が熱で真っ赤になっている。


「で?取ったけど」


「よーし、それじゃあそいつでバッチーノの顔を焼け」


 ウーリーが言う。俺は無造作にウーリーの頬を棒の先端で突いた。


「あっちぃぃぃぃぃぃ!!!バカ野郎!!俺の顔じゃねー!!バッチーノの顔だ!!お前はバカか!!」


「いやあ、あっちーのをくれって言ったのかと思って。変わった趣味の人だなあって」


 俺は頬を押さえ怒鳴るウーリーに言う。


「この野郎、下手に出てりゃあつけあがりやがって!お前らは手を出すなよ!俺が直接ぶっ殺してやる!」


 ウーリーはナイフを俺に向かって突き出すのでその手の甲を鉄棒の先端で突いてやる。


「ぎゃぁぁぁ!あっちぃぃぃぃぃぃ!!!」


 ウーリーはナイフを手放し手の甲を押さえてうずくまる。


「て、テメーらなにぼさっとしてやがる!!」


「いや、アニキが手を出すなって言うから」


「バカ野郎!!もういいから!やっちまえ!!」


 男たちはお互い顔を見合わせ、俺に向かってにじり寄って来る。俺は鉄の棒の先端をそいつらに向ける。


「わっ!あぶね!こっち向けんじゃねー!」


「うわ、こっち向けんな!」


 俺はにじり寄って来る男達に棒を向ける。向けられた男達は声を上げる。


「ウーリーよ。遊んでるのなら帰らせて貰うぞ」


 バッチーノ氏が地面に転がってるウーリーに言う。


「ふざけんなジジイ!」


 ウーリーは立ち上がり持っていたナイフでバッチーノ氏に突きかかる。バッチーノ氏は素早くかわしてウーリーの手首をつかみひねり上げた。


「ぎゃあぁぁいてえぇぇぇ!!」


「お前、そんなに間抜けで良く生きてこれたな。私が若い頃ならとっくに殺されてるぞ?お前はこの稼業には向いてない、命があるうちにカタギになれ」


 バッチーノ氏はさらにひねり上げてナイフを取り上げてから、ウーリーの腹を蹴り飛ばして地面に転がした。


「お前らもこんな無能の下にいたら一生使いっ走りか良くて片道切符だぞ?」


 片道切符、つまり帰って来れない鉄砲玉ってやつか。


「うるせえ!こんなジジイの戯言、黙って聞いてんじゃねー!!口を割らせて隠し財宝の在り処をはかせりゃ、幹部のイスはミンブートさんが約束してくれてんだ!!おめーらだって俺についてくりゃいくらでもいい目を見させてやるぞ!」


 ウーリーが吠える。


「ミンブート?無節操のミンブートか?」


 バッチーノ氏は地面に這いつくばるウーリーにしゃがみ込んで顔を近づけて聞く。俺は周囲の男達を見渡すが、皆、ミンブートと言う名前を聞いて微妙な顔になっていた。


「ミンブートさんはなあ、今じゃ立派な親分さんよ!それもギースのケチ野郎なんかとは比べもんにならねー気前の良い親分さんだ、お前の首と財宝の情報を持ってくりゃギースのケチ野郎とは話をつけ幹部として向かい入れてやるって約束してくれてんだ!!」


「そうか、お前に空気入れてたのはミンブートだったか。やっぱりお前、向いてないよこの稼業。あんな日和見野郎にコロっと騙されちまって。お前、子分共の顔を見てみろよ、お前について行く気なくしちまってるだろ?そりゃそうだ、ミンブートなんてな目先の利益しか目がいかないゲス野郎だ。あいつが今までどれだけ組織を変えて来たか知らないのか?裏切りの常習犯だぞ?大方、今回もお前を使って私を殺す事でギースとジーゲンフランドを争わせて、うまい汁をすすろうって絵図だろうよ。安い絵図に踊らされやがって」


「噓だ!ミンブートさんは言ってくれたんだ!俺の怖いもの知らずの勇気を高く買っているって!!」


「お前のは勇気じゃない、蛮勇って言うんだよ。ミンブートだってそこんところをわかって言ってるんだ。まったく、お前みたいのいるからミンブートみたいな奴がつけあがるんだよ」


「ふ、ふざけんなぁぁぁ!!おまえらぁぁぁ!!やっちまえぇぇぇぇ!!」


 ウーリーが叫ぶが誰も動く気配がない。


「ウーリーさんよ、俺たちは引き上げるぜ。この件は上にキッチリと報告させて貰うからな、もうお前はアニキでもないしうちの組織の者でもないと思ってくれ。バッチーノさん、後は俺たちは手を引かせて貰うが構わないか?」


 周囲に立っている男のひとりが言う。


「ああ、構わない」


 バッチーノ氏は短く答える。男は頷き他の男達に首を振って撤収の意思を伝える。男達はぞろぞろと建屋を出て行く。


「この稼業はな、腕っぷしと向こう見ずだけでやってけるほど甘くはないんだよ。それに、もう昔とは違うんだウーリー、私たちのような老兵は引け際が肝心なんだよ」


 ウーリーは下を向いたきり口を開かない。


「これからどうするのかはお前の自由にしたらよいが、ひとつだけ教えて欲しい。ミンブートはどこにいる?」


「・・・なんだよ、どうするつもりだよ?ケジメつけに行くのかよ」


 ウーリーが細い声で言う。


「私はもうカタギだ。そっちの理屈で動くわけじゃない」


 バッチーノ氏が言う。


「じゃあ、どうすんだよ?」


「一言文句を言ってやるのさ」


「ふっ、ふふふふ、文句?文句を言いに?今やミンブートファミリーのボスとなったミンブートに?カタギのジジイが?死にに行くようなもんだろ」


「そうとも限らんさ」


 バッチーノ氏はウーリーの目をまっすぐ見つめ力強く言った。


「カジノかげろうってあったろ?あんたが島に行っちまう前にもあったはずだ」


「ああ、わかる」


「今じゃミンブートファミリーの事務所だよ」


「ありがとうよ」


 バッチーノ氏は立ち上がる。


「俺は街を出るよ」


 ウーリーは力が抜けたように地面に大の字に転がって言った。


「好きにしたらいいさ」


 バッチーノ氏はそう言って建屋を出るので俺たちも後に続く。


「君達に頼みたいことがある」


 建屋を出て歩きながらバッチーノ氏が言う。


「なんです?」


 俺は尋ねる。


「ウィリーに、・・ジーゲンフランドに伝えてくれないか?経緯を」


「わかってたんですか?」


 俺はバッチーノ氏に言う。


「最初からって訳じゃない。だが、そうでもないと説明がつかんのさ。見ず知らずの年寄りのヤバイ揉め事にこんなに付き合ってくれる酔狂がいるとは考えられんからな」


「良く言われますよ物好きな奴だって」


「ふふ、頼みごとの件は受けてくれるのかね?」


「ええ、その代わり私からもお願いがあります」


「何かね?」


 バッチーノ氏の目つきが鋭くなる。


「私がひとりでジーゲンフランド氏に報告に行きますから、その間、例のカフェで待っていて下さい」


「これ以上君達が付き合う事は無いのだぞ?ここから先は本当にヤバくなるぞ?」


「バッチーノさん、さっき言いましたよね?腕っぷしと向こう見ずだけじゃやっていけないって。だったら、ここから先も今までと同じで行きましょうよ?」


 俺の言葉にサイマーとストームも真剣な表情をしてバッチーノ氏を見る。


「・・・わかったよ。君の帰りを待とう」


「ありがとうございます。サイマー、ストーム、頼んだぞ!すぐに帰って来るから」


「おう!任せてくれ!」


「甘いものでも食べて待ってるよ」


 サイマーとストームが言う。俺は軽く手を上げて走る。夜の街を、ジーゲンフランド氏の屋敷に向かって走る。人目が無くなった所でゲイルを使って飛ぶ。

 さて、ジーゲンフランド氏はどう出るかな?


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