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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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昔を思い出すって素敵やん

 「結局どうなるんだ?俺たちの意見は聞き入れられるのか?どうなんだ?」


 うーむ、色々と話してみても堂々巡り。ストームやサイマーが、話の落としどころを見つけようとしてもこいつらは、自分たちの意見が聞き入れられる以外の選択肢を受け入れようとしないのでどうにもならない。


「参ったねクルース君。彼らがここまでわからずやだとは思わなかったよ」


 ストームがうんざりしたと言った口調で言う。


「なんでこんなになっちまったんだ?こいつら?」


 サイマーがそう言うのも仕方ない。こいつらは自分は正しい間違っているのは向こうだと言って聞かないが、どうも顧問弁護士のゴルケロ氏の話を聞くに、そうとばかりも言えないようで厳密に言えば帝国に許可をとっていない賭け事に関しては帝国法の範疇では裁かれないので、極端な話をすればこうした大番狂わせの大穴の配当者が多かった場合、質の悪い胴元だと暴力を全面に出してバックレてしまう事もあるのだとか。だから、こうした非公式の賭け事がわかってる人たちは、こんな場合は胴元を刺激しないように動向を見守り無理に配当金を迫ったりはしないのが暗黙の了解となっているのだそうだ。つまり、法的な正当性は主張できない訳で、後はその世界の流儀に倣う必要があるのだが、そこんところが世間知らずのお子様達にはわかりづらいようで、払う必要性が無いのなら払わないと言えばいいだろ!なんて極論を言う始末。

 サイマーなんかは、こう言ってる事だし払わないって事でどうですか?なんてゴルケロ氏に提案してみたが、それではジーゲンフランド氏の名前に傷がつくのでそういう訳には行かないと言われてしまう。

 そして話は堂々巡りに、てな具合であった。


「どうしますクルースさん。あきらめますか?」


 ゴルケロ氏が冷たい笑みを浮かべて言う。


「よろしければ、もう少しお時間いただけますか?」


「構いませんよ」


 ゴルケロ氏は言う。さてと、彼らのこの話し方には少しばかり思い当たるフシがあった。昔の職場の後輩がこんな感じだったのだ。彼の子供じみた意地の張りっぷりや経験の少ない人に特有の頑固さを俺は悪からず思っていたが、あまりに度が過ぎるものは強い否定こそしないが肯定もせずになんなら軽くたしなめたりもしたものだった。ゆっくりとでも彼の頑ななところが解けていけば良いなと思っていたのだが、彼はイエスマン的なポジションの年下の友人と深く付き合うにつれどんどんそうした傾向が強くなり、最終的には付き合いを断つに至ってしまったのだった。

 後に随分経ってから俺は、親が自分たちの力では対処不能になってしまった子供の自立支援をする人たちのドキュメンタリーを見た。そこには自分を制御できず暴力を振るってしまう子供とそれによって疲弊しきった家族がいた。自立支援団体の人は、その子供の話をとにかく聞いた。親が悪い自分は悪くないと大声でわめき続ける子供に、ずっとよりそってそばで話を聞いていた。子供の行動には必ずそうする理由がある、まずは本人の意見や意思を聞いて、自分たちの話をするのはそれからだ、と団体の人は言っていた。

 その時、俺は思ったのだ。あの時、あの子に対して俺はそれが出来ていなかったのかもしれない、と。俺自身、親がカルトの信者だったので、親からじっくり話を聞くという行為をされた事が無かった。親にとってカルト団体の言う事が絶対であったので、子供の意見や意思などは考慮に値しなかったのだ。

 俺の中にも、そうした傾向があるのかも知れないと怖くなったのを覚えている。

 同じ過ちを繰り返しちゃいけねーよな。

 それから俺は彼らの話しを意見を意思を、ただ聞いた。どんな風に感じているのか、どんな気持ちなのか彼ら自身の感じ方を理解しようと努めた。すると、彼らの話し方も顔つきも段々と落ち着きを取り戻し、柔らかいものへとなって行く。


「この世界でのしきたりがある事はわかったけど、僕たちは軽く見らるのがとても嫌なんだよ。他人から軽く見られないように時には命がけで主張するようにと教育を受けて来たんだ。とにかく、軽く見られるのだけは許せないんだよ」


 話を聞いていると、行きつく先はどうやらそう言う事のようだった。


「なるほどね。よくわかったよ。だったら、どうか安心して欲しい。誰も君たちの事を軽んじてなどいないのだから」


「なぜ、そう言えるんだい?」


「君たちがこうしているのが何よりの証拠だよ」


「どういう事だい?」


「君たちを尊重するからこそ、こうして応接室まで招いて話を聞いてくれたんだからね。普通は大人は学生相手にここまではしてくれないもんだよ。しかも、俺に話を任せて欲しいという願いも聞いてくれた。更に言うなら、あちらのゴルケロ氏は顧問弁護士さんだよ、専門的な知識を所有した専門家がこれだけの時間を割いてくれると言うのは、それだけでも君たちが軽んじられてはいない証拠になるのではないか?どうだろうか?」


 俺がそう言うと彼らは肩から力が抜けたようになった。


「・・・・わかった。そう言う事なら僕たちはもう何も要求することは無いよ」


「そうか、よかったよ。ゴルケロさん、彼らを屋敷の外まで送ってもよろしいですか?」


「いや、それには及びません」


 ゴルケロ氏はそう言って小さなテーブルに乗っかっていたベルをつまんで軽く鳴らす。静かに扉が開き初老の女性がやってくると、ゴルケロ氏は学生さん達をお送りしなさいと短く言う。

 初老女性は短く返事をすると、上品な口調で生徒達に挨拶をし屋敷の外へと案内して行く。


「ふうむ、なるほど。これはジーゲンフランド氏のご期待に沿える結果となりましたね。皆さん、ジーゲンフランド氏がお会いになりたいとおっしゃられています、ご案内しますのでどうぞいらして下さい」


 ゴルケロ氏は満足げな顔をして席を立つ。ストームとサイマーが俺の顔を不安そうに見る。


「どうされました?」


「いえ、なんでもありません」


 ゴルケロ氏に返事をしながら俺は心細げな顔をするふたりに目で行くぞ!と合図する。引きつった笑顔を浮かべてついてくるストームとサイマー。なにが待ち受けてるのかわからないがこれも社会勉強だ。まあ取って食われるって事も無いだろうし、ストームもサイマーも良い経験になるだろうさ。


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