祭りの夜の問題事って素敵やん
「ごめんねクルース君、祝勝会の最中に」
小走りで祭り気分の街中を進むストームが俺に言う。
「いや勝っちゃいないから祝勝会って訳でもないしお前には借りがあるから気にするな。それよりどうした?」
「賭けの話しなんだけどね。大番狂わせで大穴来ちゃったでしょ?しかも結構、大穴買ってる人間が多かったみたいでねえ」
「お前もだろ?」
「まあ、そうだけどさ。それで胴元がゴネちゃってね、配当金の倍率を下げるって言い出してさ」
「そんな事がまかり通るのか?」
「普通は通らないけど、今回は異例中の異例、何しろギライス祭史上初だからね、そこん所を加味して何とか頼むってさ。まあ、元々祭りをより楽しむためのお遊び的側面のが強いからさ、大人たちは胴元へのご祝儀だってんで納得したんだけどさ、うちの生徒の一部が頑固に詰め寄ってさ。胴元の金主の所へ連れてけって騒いでさあ、ホント、バカだよなあ。世間知らずにも程があるよ、どこでも自分の家の力が通用すると思っちゃってる甘ちゃん達さ」
「おいおい、そいつらはどうしたんだ?」
「行っちゃったよ金主の所に」
「マジかよ。どこにあんだよ?その金主の家ってな」
「それは、そっちの専門が駅で待ってるから彼に聞いてよ」
俺たちは速度を速めて駅へ向かう。
「お!クルース君を呼んできてくれたな!」
俺とストームの姿を確認し嬉しそうに言うのはサイマーだった。
「お前がいるって事は金主ってのは、そっちの筋のお方ってことか」
「そうだよ。クルース君の得意分野っしょ?」
「別に得意じゃないけどさ。変に話がこじれないうちに早く行こうぜ」
俺はサイマーに言う。早く行かねーと勘違いしたお坊ちゃんたちが踏み越えちゃいけない一線を踏み越えちまって取り返しのつかない事になりかねない。しっかし、大陸に生きてからそっちの筋の人と話し合いする機会が増えたようなきがするが、ま、気のせいかな。
「早く行こうってクルース君だけでいいのかい?アルスさんに声かけなくても?僕は戦力にならないよ?」
ストームが心配そうに言う。
「心配ねーって。俺だって戦力になんねーし、クルース君がいりゃあ大丈夫だよ。それよか行くぞ」
サイマーが言う。なんも大丈夫な感じがしない。
「荒事にならないように早く行ってお坊ちゃんたちを説得して解散させよう」
俺はストームに言う。
「そうだね、そうしよう」
「荒事になったってクルース君がいりゃ大丈夫だって。そんじゃ、早く魔導列車に乗るぞ」
「列車に乗るのか?」
俺はサイマーに尋ねる。
「そりゃそうだよ、さすがに学園都市内にはいねーって」
俺はサイマーに引っ張られるようにして列車に乗る。
「どこまで行くんだ?」
「この列車なら次の駅って事になるな、サタッドバーグの繁華街にあるジーゲンフランドさんの屋敷だよ」
「ジーゲンフラントさんってあのウィリプナハ・ジーゲンフランドさんかい?ザ・ビッグフィクサーの?」
「ああ、そのジーゲンフランドさんだよ」
サイマーとストームが話している。
「なんだい?有名なのかい?」
俺はふたりに聞く。
「有名も有名、超有名だよ。ジーゲンフランドと言えば輸入雑貨店や高級レストラン、ナイトクラブのオーナーとして知られた実業家だけど、それは表の顔で裏の顔は高級カジノの経営、密輸ビジネス、高利貸しなどで得た巨額の財と支配下に置いたギャング組織の暴力を使って貴族から裏組織までトラブルの仲介斡旋をやっていてね。人呼んでザ・ビッグフィクサーさ」
「フィクサーねえ。そんな有名なおっかねー人んトコになんでまあノコノコと学生さん達が出向くかねえ。理解しがたいよ」
俺は説明してくれたストームに言う。
「お坊ちゃんだからさ」
サイマーがニヒルに言う。おいおい、諸君が愛した生徒達はフィクサーの元に行った!なぜか!なんて芝居がかった演説をしたろうかい!
「いやあ、でもよ、みなさんゆくゆくは領地に帰ってご領主さんになるか、そうでなくとも貴族として生きていくわけだろ?それを考えるとちょいとばかり危機管理がなっちゃいないんじゃないか?」
「そこはやっぱりお金の怖さだね」
「そうそう、お金は怖いよ」
ストームとサイマーが揃って言う。
「ふーん、お金持ちの貴族の子でもそう思うのか」
「あればあったでもっと欲しくなるのがお金ってものでしょクルース君」
ストームが言う。
「飲んでも飲んでも喉が渇く、金ってのは海水みたいなもんだって爺ちゃんが言ってたけど、マジでそうだよな」
「へえ、サイマーの爺さんはいいこと言うなあ。確かにそうだな。そこら辺をわきまえてないとヤバい事になっちまうよなあ」
「だろ?まあうちの爺さんは金で結構やらかしてるからな。実感がこもってたんだと思うよ」
肩をすくめて言うサイマー。
「金も怖いけどジーゲンフランドさんは本気でヤバイからね、早いとこ行って止めてやんないと」
俺たちは十分速いはずの列車の速度に焦れる。俺たちは列車がサタッドバーグ駅に着いた瞬間に飛ぶように降りて走る。サイマーに先導して貰い俺とストームが続く。サイマーの奴、中々に足が速いしすばしこいな。
サタッドバーグは夜の街の様で大勢の人が行き交い活気に溢れている。その人ごみの中をスイスイとうまい事進んで行く。俺とストームは奴がかき分けた人の隙間をぬうようにしてついて行く。
「ヤベーな」
「どうしたサイマー」
「着いちまったよ」
大きな屋敷の前で足を止めたサイマーが言う。
「ここが、ジーゲンフランドさんの屋敷なのかい?」
ストームが聞く。
「そうだよ。どうやら間に合わなかったみたいだな」
サイマーが肩を落として言う。
「まあ仕方ないだろ。中に入れて貰おうぜ」
「いやクルース君、簡単に言うけど俺らみたいなガキをはいそうですかって入れちゃくんねーよ」
「友人が失礼したみたいなんでごめんなさいしに来たって言えば入れてくれんじゃない?」
「プッ、クルース君、それマジで言ってるのかい?冗談じゃなくて?」
「ああ、冗談でもなんでもないよ。結構いけると思うんだよね、こういうのってストレートにいった方がさ」
俺は苦笑するストームにそう言ってデカイお屋敷の立派な門へと歩く。
「ちょ、マジか。どうするよストーム」
「行くしかないでしょ」
「やっぱりか~」
後ろからふたりも着いて来る。
「ふたりは待っててもいいんだぜ?」
俺は振り返って言う。
「僕は一緒に行くよ。サイマー君は待っててもいいんだよ」
ストームが言う。
「なんで俺だけ置いてこうとするんだよ、勘弁してくれよ」
サイマーが言う。
「まあ危ない事にはならないと思うよ」
俺は軽い感じでそう言い物々しい門の前に立つ、これまたいかめしいスキンヘッドのおじさんに声をかける。
「すいませーん」
「なんだ?」
「あのー、ちょっとお伺いしたいのですが、私はファルブリングカレッジの生徒でクルースと申す者なんですが、どうもうちの生徒がご迷惑をおかけしているようでして、本当に申し訳ありませんです」
俺は直角に頭を下げる。
「ああ、デノンが連れて来たあのガキ共か。お前は少しはまともそうだが、あいつらはダメだ、これも社会勉強ってやつさ、うちのボスもさすがに学生さんを殺しはしないさ。兄ちゃんがわざわざ骨を折るこたあねーだろ?な?帰りな帰りな」
いかめしいオジサンは結構話の分かるお方のようだ。実業家としての顔もお持ちのボスさんだから、強面のオジサンもただオイコラだけじゃないけないんだろうね。
「お計らいに感謝します。ですが自分にも通すべき義理がございまして、ご面倒おかけしますがどうか取り次いでは頂けませんでしょうか?」
「通すべき義理だって?まったく兄ちゃんホントに貴族の子供か?まあいいや、そこまで言われちゃ取り次ぐぐらいの事はしてやるが、あんまり期待すんなよ?兄ちゃん、名前、なんて言ったっけ?」
「トモ・クルースです。よろしくお願いします」
俺はまた直角にお辞儀をする。
「トモ・クルースな、わかったわかった。おい、ちょっと行ってくるから頼むぞ」
「ういっす」
スキンヘッドのオジサンは門番をしてるもうひとりのガッチリ短髪オジサンに言うと中に入って行った。
「マジかよ」
「信じられないよクルース君」
サイマーとストームが驚いて言う。
「驚くことは無いさ。ちゃんと礼節を尽くして真摯にお願いすれば、きちんとした大人は話を聞いてくれるのさ。しかも、ここにいるのはプロ中のプロの大人だから余計だよ」
「そういうものなのかい?」
「そうさ、どうせなら筋金入りのプロの大人を見てみな。学ぶところ多いぜ」
「おう待たせたな兄ちゃん。どうやら兄ちゃんはツキを持ってるみたいだなうちの先生が会うってよ。ほれ、案内するぜ」
スキンヘッドのオジサンが戻って来てそう言う。
「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」
俺が挨拶をすると、ストームとサイマーも目を丸くしてお辞儀をした。
「まったく、さっき来た連中も兄ちゃん達の半分くらいでも礼儀をわきまえてりゃあなあ。ギンニもそう思わねーか?」
スキンヘッドのオジサンが短髪のオジサンに声をかける。
「自分もそう思います」
短髪オジサンはスッと背筋を伸ばして言う。
「ふはは、だよな。んじゃ、案内するから少しの間、頼むぞ」
「ういっす」
俺たちは短髪オジサンにお辞儀をしてスキンヘッドオジサンの後に続き立派な門をくぐる。ここまでは上々だ。しかし、先生って誰?ボスじゃないの?まあ、行ってみりゃわかるか。




