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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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歴史って素敵やん

 来てもらいたい場所があると言われて、俺たち4人はゴゼファード公の案内で城の地下へと歩みを進める。

 そこかしこに衛兵が立つ中、悠々と手を上げ通り過ぎるゴゼファード公。


「この部屋なのだ。」


 そう言って中に入る公に続いて我々も部屋に入る。

 室内は家具らしきものは何もなく、ただ壁に絵がふたつ掛かっているだけだった。

 ふたつの絵はまったく同じ物に見える。

 地面に座って何かを話しているような男とその周りに集まる人々が描かれているのだが、おや?まったく同じではないな。周りに集まる人の数が微妙に違う。


「あら、この絵はアルービン作の規範の源泉、ですね。」


 アルスちゃんが言う。


「そうです。わがゴゼファード家の家宝でもありレインザー王国の最重要絵画のひとつに挙げられている物なのですが。こちら、左の絵は代々受け継がれてきた物で、何度も一般観覧のために貸し出してもいるものです。問題は右の絵です。」


 右の絵は周りに集まる人の数がひとり多い。


「この絵は最近になってこの城の地下倉庫から見つかったものです。恐らくはグロウメン家の執政時代の物ではないかと思われるのですが。」


「グロウメン家とは?。」


「王国統一前時代にゴゼファード領は一時的にグロウメン家の領になったことがあるのです。」


「来る時に馬車の中で話した、統一前に権勢を誇った豪族とはグロウメン家の事ですよ、トモトモ。グロウメン家の栄華の痕跡は様々な史跡で見ることができますが、彼ら自身の行方は歴史の波に呑み込まれ、ようとして知れません。」


 ゴゼファード公の後をアルスちゃんが受けて話してくれる。歴史に消えた豪族とはまた、アルスちゃんが好きそうな話になって来たよ。まあ、俺も嫌いじゃないけど。


「ここで問題なのはどちらが本物なのかという事です。もしくはどちらも本物なのか、なぜ周りを囲む人の数に違いがあるのか、家宝に疑問を抱いたままではゴゼファード家の尊厳にかかわります。」


「また、お前らしい事を言う。今まで片方を本物として代々大切にしてきたのだろう?ならば、それはお前にとっては本物よ。それではいかんのか?。」


「タモクト殿のおっしゃられる事もわかるのですが、やはりゴゼファード家の宝にしてレインザー王国最重要絵画ですので、もしも、と思う余地を残したくはないのです。」


「どう?アルスちゃん、解決の糸口はつかめそう?。」


「難しいですけど、やはりグロウメン家の足跡を追うのが一番だと思いますね。それも宗教的意味合いが深い場所を探るのが良いかと思いますね。」


「お引き受け頂けますか?。」


 ゴゼファード公が俺たちに尋ねる。

 俺たちは互いに目を合わせてうなづき合う。

 最後に俺はアルスちゃんの目を見る。

 アルスちゃんは笑顔でうなづいた。


「はい。お受けさせて頂きます。」


「おおっ!ありがたいっ!それでは早速、迎賓館に案内しましょう!そちらを自由にお使いください!。」


「少しよろしいでしょうか?。」


 アルスちゃんが声を上げる。


「どうしたの、アルスちゃん?。」


 俺はアルスちゃんに聞いてみる。


「宿泊施設なんですが、街中の一般的な場所を用意してもらえませんでしょうか?。」


「それは、構わないですが、理由をお聞きしても?。」


「はい、情報提供者が現れた場合、警備のしっかりされている迎賓館では接触し辛いと思いますので。」


「なるほど!わかりました!ではそのようにします!しかし、タモクト殿がパーティーメンバーになられているのも納得致しますぞ。」


「きひひひひ、そうか?まあ、飽きない連中よ。アルスもシエンもトモも、腕が立つのは勿論だが、面白いのは皆、自分の考えを強く持っておるのに時に柔軟、そして好奇心が強い所よ。」


「それは、タモクト殿とよく似ておられますな。」


「そうかい?。」


「はい、タモクト殿はレインザー王の特別相談役としての座も、その他の様々な地位、名誉、財も選ばれなかった。私自身、ゴゼファード家の専属武術師範になって頂くべくお願いした事もありました。その時におっしゃられたこと、覚えておられますか?。」


「なんと言ったかな。」


「まだまだ自分はこの世界を知らない。もっと世界を知りたい。だからその話しは受けられぬ、と。」


「そんなことを言ったかね。」


「はい、私はその言葉通りに華やかな表舞台から姿を消されたタモクト殿に感服したのです。武術だけではなく、その強くしなやかな考えと探究心に。再会できた今、質問させて下さい。いかがでしたか?世界を知ることはできたのでしょうか?」


「きひひひ。本当にお前は真面目な男よな。答えはな。まだまだ、よ。そして、人の身では生涯を懸けても知り尽くすことなどできないと、思っている。が、案外とそれが心地よいのだ。まだまだ、知らぬことは沢山あるのだ、と。それが楽しくてな、こうしておるよ。」


「そうでしたか。それは、本当に良かったです。本当に。」


 ゴゼファード公はゆっくりとそう言った。


「ああ、あとな、あたしはナスタシア・ミキイケって名前でやってるから。みんなと同じようにお前もキーケちゃんと、そう呼んでくれ、きひひひ。」


「さすがに、それは・・・・。では、人前ではミキイケ殿とお呼びさせていただきます。」


「まあ、それでも良い。では、宿に案内してもらうとするか。」


 俺たちは執事さんに案内されて市街地の宿に行き荷物を置いた。

 宿近くの茶店で作戦会議を開くことにする。


「さてアルスよ、最初に行く場所はどこだ。」


 キーケちゃんが聞く。


「そうですね、まずはあの絵の舞台になったとされる場所に教会が建っていますのでそこに行こうかと思っています。教会には規範の源泉の模写がフレスコ画でありますのでそれも見ておきましょう。」


「しかしなあ、規範の源泉と言えばモミバトス教でも有名な話だ。モミバトス様が教えを説いて回り信者が集まったと、その中から内弟子を選び信者達の指導育成を任せたわけだが、その内弟子だけを集めて信者たちの規範となるべく特別な教えを説いたのがその絵の題材にもなった話なわけだろ?確かその話でも内弟子の人数については明確に触れられてなかったはずだよな。」


 シエンちゃんが言う。


「そうだな、モミバトス聖典によればその時集まった内弟子の数は両手の指より少なかった、とある。一般に知られるあの絵に描かれている内弟子の数は8人、そして新たに発見された絵には9人描かれておった。いずれも聖典の記述と違ってはいない。」


「我が気になったのもそこよ。どちらの絵も同じ作者によるもので本物なのではないかと、我はそう考えるが、アルスはどうだ?。」


 キーケちゃんの話しを受けてシエンちゃんがアルスちゃんに尋ねる。


「実はわたしもそう考えています。しかしその仮説を証明するには、どちらが先に描かれたものなのか、なぜひとり増えたもしくは減ったのか、そしてグロウメン家はなぜこの絵を表に出さなかったのか、これらの疑問に答えを出さなければなりません。うふふふ、面白くなってきましたよ。うふふふ。」


 アルスちゃんがいつになく興奮しているよ。


「さて、茶も飲みほした、その教会へ行くとするか。」


「よし!。」


 俺もワクワクしてきましたよ!こりゃ、ツイードジャケットにローファー、プレミア付きのキャラ時計をして美女と共に事件を解決する独身主義の教授気分だ!

 まあ、共通点は美女と行動を共にしている事と独身主義ってとこだけだけれども。

 俺たちはアルスちゃんの案内で、規範の源泉のフレスコ画があると言う教会へ向かった。


「うふふふ、図らずしてトモトモにゴゼファード領主都の名所巡りを案内できて嬉しいです。うふふ。」


「そう言えばそんな話しをしていたっけねえ。こうやって、実際に起きた事と歴史ある場所が重なるように見られると、また感慨深いんだよねえ。楽しみだよ!。」


「うふふ、本当に楽しみです!。」


 こうしてアルスちゃん主催のゴゼファード領主都謎解き観光ツアーの最初のスポット、モミバトス教会へと到着しました。ここで最初のクエスチョンです!なんてクイズを出したくなるよ。

 到着したモミバトス教会は入口に大きく、規範の源泉教会、と書いてあった。

 入口に木箱が置かれており、あなたのお心遣いに深い感謝と神の祝福を、と書かれていたので幾らかのコインを投入し中へ入る。

 教会に入ってすぐ、正面の壁一面に大きな絵が描かれている。


「これが規範の源泉のフレスコ画です。内弟子の数は8人です。」


 アルスちゃんが説明してくれる。

 しかし、こうして明るいところでよくよく見ると、周りを囲む内弟子の配置ってのかバランスがなんだか不自然に感じる。もう1人足された絵を見てしまったからなのか。


「このフレスコ画はもう何回も見ているのですが、以前から感じていたのです、内弟子の座っている位置に違和感を。皆さんも感じませんか?。」


「確かに、妙にここだけ間隔が空いておるな。」


「あれを見た後だと余計にそう感じるな。」


 キーケちゃんとシエンちゃんが続けて答え、俺もうなづく。


「皆さんもそう感じられましたか。良かったです。更に、このフレスコ画には本来の絵に足された箇所があります、気づかれましたか。」


「上に長いな。空が足されているからだろう。」


 シエンちゃんが答える。


「そうなんですよシエンさんっ!そして、教会の改築に伴いフレスコ画に空を足したのが当時この領を治めていたグロウメン家です。」


「おっ!なんだか点が線になりつつあるねえ。そうすると、なぜグロウメン家は空を足したのか、また疑問が発生するねえ。」


「それは、改築工事で天井を高くしたためにそうしたと言われているのですが。」


「それだけが理由では無い可能性も出て来たわけか。」


 アルスちゃんの話しにキーケちゃんが答えた。


「しかし、なぜ天井を上げたのかねえ?。」


 俺は疑問を口にした。


「それはなトモちゃん。自分の統治は以前の統治より優れているという証拠を民衆に示すために教会の改築ってのが良くされていてな、そのなかでも天井を高くするのが最も優れた行為とされていたのだ。だから、やたら天井が高い教会は統治者が頻繁に変わった証でもあるわけだ。」


 シエンちゃんが教えてくれる。


「へーー!面白いねえ。グロウメン家が没落しゴゼファード家が治めるに際して改築はしなかったの?」


「しました、けれど天井を高くすることはしなかったのです。」


「ほうほう、何かありそうだの。」


「歴史学者はグロウメン家以前はゴゼファード家が治めていたのでそこまではしなかったのだろうと言ってますが、当時、領地を取られて取り返すなどよくある話しでその度に天井が高くなっている教会は沢山あります。やはり、なにか意味があったと考えるほうが自然でしょう。なぜ空が足されたのか、そして足された空をそれ以上広げなかった意味とは何か、面白くなってきましたね。さあ次に行きましょう。」


「次は何処へ?。」


 俺はアルスちゃんに尋ねた。


「祈りの壁です。」

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