街ぶらって素敵やん
「さて、服も着替えたし、お次はどちらに行きましょうかねえ。」
「もっと、この街全体をまわってみたいです。」
「街全体と言っても結構広いからねえ。よし、じゃあ馬でまわろうかね。」
「お馬さんですか!是非!。」
「よし、じゃあ、ついてきてよ。」
俺はスミスさんをつれて一旦事務所に戻り、馬小屋で馬にブラシを当ててくれていたジョンにスミスさんを紹介し、キットに乗って街を案内してあげるのだと教えた。
「へー、わかった。いってらっしゃい!。」
キットを小屋から出して首をなでる。
「じゃあ、キット。お客さんが乗るからね。よろしくね。」
俺は先に乗ってからスミスさんを前に乗せた。
今まで俺と行動した人達は馬に乗りなれていたし、まあ、常人ではなかったもので気にしていなかったのだが、実は馬の後ろってかなり揺れるのね。
慣れてないとガクガクしちゃうからね。
てなわけで、スミスさんには前に乗ってもらい出発する。
「じゃあ、行ってくるね。」
「行ってきますね。」
俺たちはジョンに手を振った。
どうにもスミスさんの手の振り方の優雅さったらないね。
振られたジョンもその雰囲気に当てられたのか、やけに情熱的な手の振り方で見送ってくれた。
俺は気を取り直して馬を進める。
「まずは街の端っこ、街を一望できる場所に行ってみましょうか。」
「はい、お願いいたします。」
俺はキットを走らせてノダハの街が一望できる小高い丘へ向かった。
「お馬さん、速いですねえ!風を感じられて!なんて気持ち良いのでしょう!。」
「でしょ?馬っていいよね。かわいいし賢いし。なー、キット。」
俺はキットを撫でてやる。
「ええ、本当に。お利口さんね。乗せてくれてありがとう。」
スミスさんもキットの首筋を撫でて言う。
「ブルフッフ。」
気持ちよさそうに鼻を鳴らすキット。
街の端にある丘。
その丘のてっぺんには教会が建っているのだが、そこまでは上らず途中にベンチや出店のある広場があるのでそこに行く。
馬を繋ぎ先に降りて、スミスさんが降りるのを手伝う。
「ありがとうございます。うわぁーー!なんて素晴らしい景色でしょう!。」
「そうでしょう。周りを囲む低い山とその後ろにでっかいキレイな山が見えるでしょ。あの一際大きな山がジーフサ山。レインザー王国屈指の山だよ。」
「なんて素晴らしい!ノダハの街もとってもキレイですねえ!。」
「ちょっと待っててね。」
俺はスミスさんに一声かけて屋台に行く。
さて、若い娘さんの好きそうなものは何かなー、と見ているとあったあった。
アイス屋さんを発見。
ナッツミルク味とミックスベリー味を買う。
「ほい、おまたせ。どっちが良い?。」
ふたつのアイスを見せて尋ねる。
「あらぁー!可愛らしい食べ物ですねえ。どちらを選んでもよろしいのですか?。」
「ええ、どちらでも。」
「まあ、迷いますわ。では、こちらを。」
そう言ってナッツミルク味を選ぶスミスさん。
「おっ、通ですねえ。」
「そうですか?。」
「はい、見た目のきれいなベリーを選ぶかと思いましたよ。」
「凄く迷ったのですけど、こちらに決めました。」
「そうでしたか。そんなに迷われるとはねえ。では一口だけ、こちらもどうぞ。」
そういってまだ手を付けていないベリーアイスを渡す。
「いいんですか?。」
満面の笑みで聞くスミスさん。
「はい、どうぞ。」
「では、失礼して。」
俺のカップからスプーンでひとすくいしてベリーアイスを食べるスミスさん。
「!。」
目を大きくさせるスミスさん。まるで、子供のようだ。
「甘酸っぱくて!美味しい!。」
「それは良かった。」
「ミルクもとっても美味しい!ナッツの味が濃くてとっても美味しい!。」
俺もベリーアイスを食べて高台からの景色を眺める。
まあ、悪くない休日じゃないの?
男ひとりじゃ、景色の良いところに来てアイス食べるなんて、まず、やらないからなあ。
たまにはこんなのも悪くはない。まったくお互い恋愛感情のない異性ってのが、また丁度良いんだろうな。
アイスを食べて無邪気にニコニコしているスミスさんを見ていると、本当に父親目線になってしまう。
お互いアイスも食べ終わり、景色も満喫したのでアイスカップとスプーンを屋台に返却して、次はどこに行こうかと言う話しになる。
「あの、真ん中に行きたいです。」
スミスさんが指さしたのは街の中心、噴水広場だった。
確かに、あそこは賑やかでノダハを知ってもらうに良い場所だ。
「噴水広場ですね。了解です。行きましょう。」
という事で再びキットに乗り我々は出発したのだが、スミスさんがキットを操縦してみたいと言い出した。
まあ、キットは利口な馬だ。そう簡単に暴れたりはしないだろう。俺はキットを撫でながら、操縦変わるけどいいかい?ときいてみる。
キットは軽く首を縦に振り、「フッフ。」と軽くいなないた。
「ふふ、良いみたいですよ。では手綱を渡しますよ。軽く握ってください。」
「はい!。」
「そうそう、無理やりやらないように、軽く軽く、いいですよー。」
「うふふ、どうですか?上手くできてますか?。」
「ええ、覚えが早いですねえ。では、軽く当ててみましょうか、速度を上げてみましょう。」
「大丈夫ですか?。」
「ええ、軽くでキットは理解しますから。ほら、やってみて。」
「はい!。」
言われた通りに軽く手綱を当てるスミスさん。キットは待ってましたとばかりに軽やかな歩みになり速度が上がる。
「速度が上がると揺れますからね、自分も揺れに合わせるようにしてみて下さい。」
「はい!。」
なかなか、呑み込みが早いし運動神経も悪くない。
キットも気持ちよさそうに走っている。
「そろそろ、街中に入りますから速度を緩めましょうか。手綱を軽く引いて下さい。」
「わかりました。」
引き方もソフトで、それでいてキットには確実に伝わっている。
「うん、いいですね、もしかして経験者ですか?。」
「いいえ、初めてです!。」
「でしたら、才能ありますよ。家に帰っても続けられるといいですよ。」
良家のお嬢様なんだろうけど、馬術くらいはさせてもらえるだろう。なんかわからないけど、貴族の嗜みとかなんとか、せっかくセンスあるのにもったいない。
「はい!そうしてみます。」
スミスさんは元気よく答えた。
街中に入り速度を緩め、常歩と書いてなみあしと読むでお馴染み、常歩で進む。要するに歩いているわけですねお馬さんが。
ちなみに先ほどスミスさんが上げた速度、あれくらいの走り方は速足、そのまんまはやあしと言って、パカパカパカパカとリズムよく小走りしてる感じ。
もっと速度を出して馬が一生懸命駆けてる感じの走りは駈足、かけあしと言ってまあシエンちゃんと競争するときなんてこんな感じですかね。
更に上になると襲歩、しゅうほと言ってこれはもう、競馬で見るあの走り、お馬さんの全力走行ですね。
これらはお馬さんの足の使い方に違いがあったりするのですが、生憎とあたしゃ、競馬好きの上司から聞きかじっただけの付け焼き刃なので、こんなもんですわ。
さてと、馬上でそんな感じの聞きかじり話をしているうちに、噴水広場に到着。
馬をつなぎ、スミスさんが降りるのに手を貸して辺りを見渡すとなんだか賑やかな様相。
噴水公園の西側から音楽が聞こえてくる。
おや?このリズムはもしかして。
「あっちの方から何やら楽しそうな音が聞こえてまいります。」
スミスさんが笑顔で言う。
「行ってみますか?。」
「はい!。」
そうして二人で歩いて行きますと、公園の西側に簡易的なステージがこしらえてあって、やってましたよ。
うちの子達の公演でした。
「あら、可愛らしい演者さんですこと。」
「たははははは。」
ステージではいつものメンバーに加えてマギーとベスが横笛を吹いている。メロディーがあるといいね。
ステージ前では人々が踊っている。
「踊りましょう。」
スミスさんが俺の手を取りステージ前に引っ張る。
踊りましょうなんて言われて手を引っ張られるなんて、まさか、自分が経験することになるとは思わなかった。そうすると、まあ、映画みたいなセリフのひとつも言いたくなりますよね。
「すいません、踊りは不得手でして。」
まったくカッコがつかないね。でもホントにそうなんだから仕方ない。
「大丈夫、私がリードしますわ。」
ふへー、俺が女の子なら惚れちゃいますよ。
俺はスミスさんにリードされて、ギクシャクとステップを踏む。
うむむ、ヒップホップダンスと似てるような似てないような。
段々と彼女と息があって来たのか、彼女のリードが上手いのか、両方か。
少しづつだがサマになってきたような。
緩やかな曲が終わって俺たちもダンスをストップし互いに礼をする。
「ありがとう、おかげで上手く踊れたよ。」
俺はスミスさんに言う。
「いいえ、どういたしまして。」
「それにしても、上手だねえ。やっぱり子供の頃からやってたの?。」
「はい!。」
笑顔で答えるスミスさん。
「よろしければ、私とも踊っていただけますか。」
中年男性がスミスさんにダンスの申し込みに来た。
こういうのはやっぱ日本人の俺には、おいそれとできないよなあ。
俺はスミスさんを見て、どうぞ、とうなづいた。
笑顔でうなづき、男性にエスコートされるスミスさん。
俺は並べてあるイスに座って、踊るおじさんとスミスさんを眺めていた。
やっぱ、サマになってるね。映画の1シーンのようだもんね。
しかし、喉かわいちゃったな。何か飲み物でも近くに売ってないものかね、なんて周りを見渡していたら俺の服を引っ張る人がいる。
どちら様でしょうかと振り返ると、キーケちゃんだった。
「きっひっひっひ。お主も隅に置けんのう。シエンにもアルスにも手を出さぬはそれだけの思いかと、案じておったが、このぉっ、なんじゃあれは。どこで見つけた?。」
「やめてくれってキーケちゃん。そんなんじゃないのよ。まあ、喉が渇いたから飲み物でも買って飲みながら事情を説明しましょうよ。」
「きひひひ、今日はお子達の晴れ舞台を見に来たのだ。酒は飲まんぞ。」
「俺だって酒は飲まないよ。」
俺は近くにあった飲料屋さんで冷たいダスドラック茶を2つ買って席に戻った。
「はい、お茶でいい?。」
「よいよい、早う話せ。きひひ。」
俺は茶を飲みながら今日あったことを話した。といっても大した事は起きちゃあいないのだが。
「ほうほう、なんだか良くわからぬが、あの娘、ただの金持ちでは無いように感じるのう。なんであろうかな、なにか、どこかで見たことがあるような、うーむ。」
「ただの金持ちじゃないって、ものすごい金持ちか貴族様かねえ。」
「きゃー!クルースさーん。」
声がする方をみるとスミスさん男2人に手を引かれ連れてかれそうになってる。
「おいおいおいっ!。」
俺はダッシュで距離を縮めて手を引っ張る男2人の元に行き、その手をはたいた。シッペをやるときみたいに強くペシッと叩く。
「あいたっ!。」
男たちが手を離し、俺はスミスさんを抱えてキーケちゃんの元に行く。
「きっひっひ、なんじゃ面白くなってきたな。ほれ来るぞ。」
今来た方から男たちが再び向かってくる。
俺は向かってくる男の手を取りひねる腰にのせてゆっくりと投げた。
ステージではカホン隊が激しめのリズムを刻みだし、横笛も続いていく。
やるやんけ!集まっていたお客さん達は何かのイベントだとでも思ったのだろう、ワラワラと集まって踊りだした。
踊りに来た人々に揉まれるその間をかいくぐって、別の男がスミスさんを連れ去ろうとするのをキーケちゃんが笑いながら放り投げてる。
投げられた男は集まってる客の上に落ち、お客さんたちはその男を手渡しでどんどんと遠くに運んでしまう。まるで、ライブでのモッシュやダイブみたいだな。
「うふふふ!愉快ですね!。」
「笑ってる場合じゃないよ!逃げるよ!。」
俺はスミスさんとキーケちゃんの近くに人ごみをかき分け寄っていく。
「はい!逃げましょう!クスクスクス。」
笑ってるスミスさんの手を引っ張りその場からずらかろうとする俺の耳にキーケちゃんが囁いた。
「気を付けよ、今の奴らレインザーの者ではないかも知れんぞ。」と。




