打ち上げって素敵やん
俺たちは、連行したウトーサ達をアッシュバーンさん監督のもと衛兵詰め所の牢屋へ移送し、その後で冒険者ギルドへ向かった。
「そう言えば聞きたいことがあったんだよ。」
「なんだ、トモ?。」
「いやさ、隣国隣国って言ってるけど、正式名称は何なのかなって。」
「わからんのだよ。」
「え?。」
「うふふ、それでは説明が短すぎますよ、キーケちゃん。隣国はレインザー王国との国交を一方的に断絶してから情報が入りづらくなってますが、その周辺国とは国交があるのである程度の情報は伝わってくるのですが、とにかく頻繁に革命が起き、王が変わっているようでそれに伴い国名も変化するので、いつしか隣国と呼ばれるようになったのです。周辺国もその国の事はそう呼んでいます。いろんな意味で困ったお隣さんですよ。」
「そうなんだー。しかし、こうして頻繁にちょっかいをかけてくるって事は、隣国も一枚岩になりつつあるって事かねえ。」
「いやいや、隣国はレインザー王国を仮想敵国にして国内を一致させようとするのさ。敵の敵は味方よ。ちょっかいをかけてくるのは昔からよ。」
「アルスちゃんの言うように、困ったお隣さんなんだなあ。」
「きひひひ、仲ようなれるのはいつの日か。ほれ、着いたぞ。アッシュバーンよ、どうすればよい。」
「はい、ひとまずは応接室へご案内します。ついてきて下さい。」
俺たちはアッシュバーンさんに続いてギルド内の応接室へ入り、ソファーに座って待つよう言われそうする。
しばらくするとドアが開き、グレチェンコギルド長とアッシュバーンさんが中に入ってくる。
「この度は特別依頼の完遂ありがとうございます。報酬金なのですが現金とカードとどちらになさいますか?。」
グレチェンコさんが笑顔で聞いてきた。
「えっ?カード?。」
思わず聞き返してしまう。
「はい、冒険者カードに記録させることもできます。各ギルドで現金化することが可能です。いかがなされますか?。」
なんとまあ、キャッシュカードではないですか。引き落とすのに手数料取られるのかね?でも、便利でいいよ。そうしてもらおう。
「ええ、お願いします。」
俺はカードでお願いすると、みんなも同じで良いと言う。
グレチェンコさんはひとりひとりのカードを持ってきた石板に乗せ、上から細長い鉱物でできたペンのようなものでサラサラとなぞり、それをひとりひとり確認を求めていた。
俺も確認するとカードの上に数字が光っている。
よろしければ、指で押してください、と言われるのでその通りにする。
「これにて、特別依頼完了となります。お疲れ様でした。」
グレチェンコさんがそう言って頭を下げる。
隣りでアッシュバーンさんも頭を下げている。
「いやいや、どうもこちらこそお世話になりました。」
「きひひ、楽しかったぞ。」
「ああ、楽しい依頼だった!。」
「お世話様でした。」
みな、それぞれの挨拶をしてギルドから出る。
「みなさん!待ってください!。」
みんなで外に出て歩き出すとギルドから声がする。振り向くと、アッシュバーンさんだ。
「みなさん!今回は本当にありがとうございました!約束通り、御馳走させてください!。」
「おっ!忘れてなかったか!くふふ!。」
「気持ちはありがたいけど、大丈夫?みんな結構食べるよー。割り勘でもいいよ。」
俺はアッシュバーンさんに提案してみる。
「とんでもない!御馳走させてください!こう見えても私、結構高給取りなんですから!それに、今回の件で昇進も夢じゃあないですからね!さあさあ!行きましょう!。」
「きひひ、せっかくだから、馳走になろうではないか。」
「そうだそうだ!皆!遠慮するな!行くぞ!。」
「また、シエンさんが言う事ではないでしょ?。それにしても、トモトモ。結構食べるとはわたしも含まれてますか?。」
「アルスちゃんも見た目で考えればよく食べるほうだよね。好き嫌いなくよく食べるのはいい事だよ。俺は
好きだけどね。」
「うふふ、なら良かったです。」
アッシュバーンさんに続いて街をしばらく歩く。
飲食店が軒を連ねる通りに差し掛かり、中から賑やかな声が聞こえてくるレンガ造りのお店の前でアッシュバーンさんは歩みを止めた。
「このお店です。さあ、入りましょう。」
トビラを開けて中に入るアッシュバーンさん。
トビラを開けた途端、中から食欲をそそるいい香りがしてくる。
ガーリックとバターと肉の焼ける匂い。
「うわー!めちゃめちゃ腹の減る匂い!これは期待できそうですねー!。」
俺はテンションが上がる。
「くふふふ、これはいいぞ!お手柄だ、アッシュバーン!。」
シエンちゃんが喜んでいる。
「喜んでいただけたようで嬉しいです。さあ、こっちのテーブル席に座りましょう。みなさんエールは飲まれますか?。」
「俺とキーケちゃんは頂きます。シエンちゃんとアルスちゃんはお酒じゃない飲み物でお願いします。」
「お二人とも飲み物はどうしますか?。」
そう言ってアッシュバーンさんはふたりにメニュー表を渡した。
「我はこれ、ハチミツオレンジにする。」
「わたしは、冷たいダスドラック茶でお願いします。」
「はい、じゃあ注文しますね。すいませーーん!エール3つとハチミツオレンジひとつとダスドラック茶ひとつ、それからステーキ大を5つ、大盛サラダ2つと取り皿人数分お願いします。後は、串焼きのセットを3人前。とりあえず以上でお願いします。」
「かしこまりました。」
「何か頼みたいものあったら言ってくださいね。最初はここに来たら是非とも食べてもらいたかった物を注文させてもらいましたけど、遠慮しないでどんどん注文してくださいね!。」
「きひひ、まあ、今注文したものを食べてから決めようじゃないか。」
「我は何でも良いのだ!肉さえ食べれたら満足なのだ!。」
安定のシエンちゃんだな。
「お待たせしましたー。」
そう言って店員さんが飲み物とサラダと串焼きセットを持って来てくれた。
「それでは乾杯と行きましょう!乾杯の挨拶をアッシュバーンさんお願いしまーーす!。」
俺はアッシュバーンさんに振る。今回の幹事さんだからね!
「えっ?あ、はい。では僭越ながら。皆さん、お疲れ様でしたーー!かんぱーーい!。」
「乾杯!。」
みんなで飲み物を掲げ、グッと飲む。
「ぷはーーーっ!これですよ!。」
「ングング、ふーー。仕事の後の一杯は格別だな。」
「本当ですねー!。」
俺とキーケちゃんとアッシュバーンさんはエールを飲んでひと息つく。
「うんまーーー!なんだ、この肉!バカうま!もぐもぐ!。」
「あら、ほんとに、これは、モグモグ。とっても美味しい!ただの肉串ではありませんよ。」
アルスちゃんまで絶賛の肉串、これは食べないわけにはいきませんねえ。
「俺もいただきまーす。」
「あたしも貰うとするか。」
「いただきまーす。」
エール組も遅ればせながら頂く。
一口食べるとこれは、かなりしっかりした赤身の肉から肉汁が出て、シンプルな塩と胡椒の味付けと一緒に口の中に旨味が広がる。
「うまーーっ!。」
「おっ!こりゃ良い肉を使っとるのお。」
「このお店のオーナーさんは牧場も経営してるんですよ。だから、良いお肉が手ごろな値段で食べられるんですよ。この街は海沿いなので海鮮が美味しいお店は結構あるんですけど、毎日海鮮じゃあさすがに飽きますからねえ。」
「いやあ、こいつはエールに合うねえ。」
「野菜サラダも美味しいんですよ、みなさんどうぞ。」
そう言ってアッシュバーンさんがみんなの分を小皿に取り分けてくれる。なにかとデキる人だよ。
「ステーキおまちどうさま。こちらお好みでどうぞ。」
ジュウジュウと音を立ててステーキ登場!
すげー!肉だ!ステーキだ!一緒に持って来てくれた小鉢にはソース3種類。
「こちらは、ガーリックソース、グレイビーソース、ベジタブルソースとなってございます。」
「イヤッホー!待ってました!。」
シエンちゃんはいいリアクションするねー!
俺はひとまずベジタブルソースをかけて食べてみる。
たっぷりと入った玉ねぎの触感がいいねー。玉ねぎ主体に色々な野菜が入ったソースはさっぱりしていて脂身のついたロース肉によく合う事!
「うまうま!最高か!ガーリックソース、最高か!。」
「グレイビーソースもミルクが入ってるのかしら、滑らかで美味しいですよ。うふふ、美味しいものを食べると幸せな気持ちになりますねえ。うふふふ。」
「ほんに、そうよな。」
「キーケさんとクルースさんは同じのでいいですか?シエンさんとアルスさんは?はい、みなさん同じので。すいませーーん!、はい、飲み物同じやつでお願いします。」
そうして俺たちは肉を食べ、エールを飲み楽しく談笑をした。
「しかし、みなさんお強いですねえ、私、シエンさんの戦いぶりには痺れてしまいました!。」
「おっ!アッシュバーン!わかっとるなー!我の戦いは魅せる戦いだからな!。」
「基本、力技ですけどねえ。うふふ。」
「いや、最後のウトーサとの戦い!良かったですよー!私もね、ここだけの話、一瞬ですけどウトーサの言ってる事がわかる気がしてしまったんですよ。私も安対委員になるまで結構苦労もしましたからね。ウトーサも同じような苦労があったんだろうなって、ちょっと自分と重ねたりして。でも、シエンさんは甘えるなって一喝されましたよね、他人をわかろうと努力もせずに自分をわかってくれなど笑止千万!もう一度人間を勉強し直せ!って!。私、感動しちゃって!そうだ、私には分かり合おうとお互い切磋琢磨する仲間がいたんだって。でも、やっぱり、もし仲間がいなければ自分がウトーサだったのかも知れないって、そうも考えてしまうんですよね。」
「きひひひ、若いってのは良いのう。色々と悩み考えると良い。だがな、アッシュバーンよ、お前とウトーサを分けた大きな違いは仲間だけではないぞ。」
「と申しますと?。」
「心根よ。」
「心根ですか?。」
「そうよ。シエンも言っておったろう、甘えるなと。お前は人をわかろうと努力し、責任転嫁して甘えるようなことはしなかった。そこが一番大きな違いよ。」
「そうそう!今、こうして肉を食べて美味しいと思うは我よ。その事実はどう理屈をこねようと変わらん。泣こうが喚こうが恨もうが何をしようが、結局は自分の口に入れなきゃ食べれないのだ。モグモグ。あーー美味しい。」
「シエンさんは普段はおふざけが過ぎる所もありますけど、掴むべきものはしっかり掴んでらっしゃるんですよね。」
「なるほどー、本当に皆さんいいパーティーですね。」
「きひひ、まあ、みな立派な大人よ。こう見えてもな。」
「キーケちゃんは見たまんま、あいたぁーーっ!。」
「シエンよ、手の届く距離でよう言うた。」
「イッテーー。手が届かなくても何かしらするから一緒の事だ!我もこうなるとわかってるのに、憎まれ口がやめられぬのよ。とほほほ。」
「うふふふふふ。」
「あははは、本当に、楽しいパーティーですね。」
「うん、楽しいパーティーだよ。」
俺は胸を張って答えた。
「またいつか機会があったら、一緒に仕事をさせて下さいね。」
アッシュバーンさんが言う。
「お互いこの仕事を続けていれば、また会う事もあろう。」
とキーケちゃん。
「はい、その時を楽しみにしていますよ。」
とはアルスちゃん。
「また、美味い肉を食わせてくれよ。」
安定のシエンちゃん。
「はい。」
とだけ、俺は答えた。だって、キーケちゃんの答えがカッコよすぎたんだもん。




