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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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未来があるって素敵やん

 朝の目覚めは相変わらずスッキリ目覚まし時計要らずだ。

 今日も一日、頑張っていきまっしょい!

 まずは昨日も行った太陽亭で朝食。

 アンニュイなお姉様の顔を見てコーヒー飲んでシャッキリして、ソーセージと目玉焼きとトースト3枚とサラダとコーンスープでバッチリ朝食!

 食後にもう一杯コーヒーを頼んでくつろぎの時間を過ごしているとカウベルの音を鳴らしてお客さんが入って来る。


「フブキさん、いつものよろしく!。あれ?昨日の変わったコマの兄ちゃんじゃねーか」


 声をかけてきたのは昨日最初にご購入頂いた若い兄さんだった。


「これはこれは、先日はありがとうございました。これからお仕事ですか?」


「うちは昼過ぎからの営業でね、仕込みが終わったらいつもここで朝飯よ。ところで兄ちゃん、今日もやるのかい、あれ?」


「ええ、やりますよ」


「したらさ、昨日買ったコマ持ってくからまた教えてくれよ。カミさんに見せたんだけどぶん投げてキャッチしか出来ないもんでさ、最初は驚いてたんだけどさ、それだけ?なんて言われちゃってよう。売ってた兄ちゃんは凄かったんだぞって言ったら私も見たいし教わりたいなんてよー言うもんだからさ。頼むよ!」


 なんて頼まれたら嫌な顔できないよ。しかもお客さん第一号だしな。


「はい、大丈夫ですよ。奥さんといらしてください」


「ハハハハハ、ありがとうな!兄ちゃん!俺はミードってんだ。カミさんと二人で朧月って飯屋やってんだ。昼過ぎから夜までやってっから来てくれよな!サービスすっからよー!。ワッハッハッハッハ!」


 そう言って俺の肩をバシバシ叩くミードさん。


「朧月ですか。また風流な屋号じゃないですか。行かせてもらいますよ」


「おっ!へへへ、カミさんと考えた名前よう。そんでよ、うちが月でここが太陽だろ。縁起がいいってんでここにはよく来るんだよ。ねー!フブキさん!」


「なにが縁起がいいのやらねぇ~。ほら、お弁当二つね」


 アンニュイな姉さん、フブキさんって言うのね。


「ありがとー、フブキさん!それじゃ、これね。兄ちゃん、じゃあ後でな!」


 と言ってフブキさんにお代を渡し弁当を受け取るとミードさんは慌ただしく店を出ていった。


「騒がしくてごめんなさいね~」


「いえいえ、全然大丈夫ですよ」


 今日も忙しくなりそうだぞ!美味しいモーニングセットとフブキさんのキャラクターとで英気を養った俺は自分に気合いを入れるのだった。

 気合いの入った俺は背負子に背負えるだけ縛り付けて持って行こうと試みたところ、全てを括りつけて持ち運べる事が判明しました。この世界の俺は力持ちのようだ。露店場所へ行くと両隣りの人たちは既に商売を始めており、山盛りの荷物を背負ってやって来た俺を見て目を丸くしていた。


「おはようございます。今日も一日、よろしくお願いします」


「おはようさん。しっかし、お兄さん、随分沢山の荷物だけど荷車使ったらいいのに」


「確かにそうですねえ、でも荷車なんて高いんじゃないですか?」


「まあ、そりゃあいいやつはね、でも使えりゃいいんだったらそんなに高くないよ。太陽亭の近くにさ古道具屋があるからさ、帰りにでも見てったらいいんじゃない?」


「ありがとうございます、行ってみますよ。」


 古道具屋かあ、前世界でもリサイクルショップ巡りが好きで良く行ってたものだ、帰りに寄っていこう。いやー、いい事聞いたわ。

 さてと、お店を開きましょう。シートを敷き商品を並べる。昨日は空中ゴマ20個を一度に並べたけど今日は数量を増やした上にカホンもあるので空中ゴマを並べるのは10個にして売れたら袋から出すことにする。

 お隣でドライフルーツを購入し昨日買った布袋に入れてもらう。袋持参だと少し量をおまけしてくれるのだ。

 そして布屋さんで目を付けていた長めの布袋を見せてもらう。俺用の空中ゴマを入れてみると思った通りジャストサイズなので購入。空中ゴマを入れて腰に吊るす。

 折り畳みの椅子に新たにカホン大と小の値段を書き加えたポップ看板をセットして自分用のカホンに座って商売開始だ。ひとまずミニカホンだな。サウンドホールを下にして膝に挟む。サイズが小さいから叩く場所として側面も使用する。

 まずはゆっくりとエイトビートを刻む。今日は頭の中で前世界の超メジャーバンドが歴史の陰で暗躍する悪魔の独白を歌った曲、それを流した。

 膝に挟んだミニカホンでサンバのテンポを取り入れたと言われるそのリズムを叩く。

 その愉快なリズムに段々と調子が出てきて自然と自分の体も動く。

 チャカポコチャカポコとコミカルなリズムを叩き続けていると大分汚れた格好の子供が近づいてきた。

 ニコニコしながらその子供は身体を揺らし続けている。おやややや?なんだこの子、やけにリズム感がいいな。面白くなってしばらく続けているとお隣りの乾物屋さんがこちらにやって来る。子供はそれを見て素早くどこかへ走り去る。ムムム。これはもしかしなくてもあれですな。


「ちょいと、コマ屋さん。さっきの子はね、孤児でね、この先にある廃墟に住みついてて近所の人や教会がご飯持ってってあげたりしてるんだけどね。悪い子供たちではないんだけどね、ほら、うちは食べ物をあつかってるからさ。悪いんだけどね。ほんと。あんまりいつかれるとさ。ね、こんな事、言いたくないんだけど。すまないね」


 やっぱりかーーー。


「いやいや、わかりますよ。言いづらいことをすいません」


「うん、よろしくね」


 そうかあ、そうだよなあ。この世界の福祉システムについてはよくわからないけど前世界だってそうした子供たちは尽きることはなかったもんな。

 この時俺は幾つかのことを考えていた。せっかくの新しい世界での生活、好きなようにやってみよう。と言うことで見て見ぬふりは嫌だ。そして魚をあげるのではなく釣り方を教える事。やけにリズム感の良かった子供の事。廃墟。

 この日の商売は太陽亭で出会った第一号のお客さんが奥さんと一緒に訪れてくれて、技を教えながらやっているうちに人が集まりだし、昨日買った人の物を見て来てくれた人や昨日カホンを譲ってくれと言ってきた人なども来られてまずまず盛況のうちに空中ゴマ23個とカホン大2個と小が3個が売れた時点で人の波が引いたため俺は撤収にかかった。

 俺は撤収時に乾物屋さんでドライフルーツを大袋で2個と布屋さんで子供サイズの衣類を上下20セット,

 そしてこの間貰ったのと同じ黄色のバンダナを20枚と手ぬぐいを20セット購入した。布屋さんに気持ちはわかるが程々に、と言われたので、いやいや逆に力を貸してもらおうと思って、と答えるとまた目を丸くしていた。

 それから朝お隣さんに聞いた古道具屋に行き手ごろな荷車というかリアカーだな、を購入。木製のタイヤが4個付いた手を離しても傾かないタイプのものをチョイス。そして、行く道すがら適当に食料を買い込む。串焼き肉やトルティーヤみたいなすぐ食べられるものから野菜や干し肉、干し芋などの日持ちするものを適当に買いリアカーに積む。更に空中ゴマとカホンの材料を大量に購入し製造に必要な工具も3セット仕入れる。

 そして目的の廃墟へ向かった。

 廃墟は元々は何かの倉庫だったのだろうか、割と大きな平屋のトビラはリアカーごと中に入れる大きさで、敷地内は荒れているものの空地もあり更には小さな川も流れていた。


「こんちゃーーーーっす!」


 俺は大きな声で挨拶して廃墟の中にリアカーごと入った。

 中はやはり倉庫だったのか高い天井に広い空間がありその先は元々事務所か何かだったのか普通サイズのトビラがある。


「誰もいないのかーーい」


 人の気配はある。奥のトビラの向こうからこちらを窺っているな。


「あれーーー?頼みたいことがあったんだけどなぁーー!仕方ないからちょっと待たせてもらおっかなーー!よーいしょっと」


 俺は大きな声で言ってリアカーからカホンを降ろして腰かけた。


「あ~あ。誰もいないのかな~。退屈だな~」


 俺はカホンを叩き出す。

 前世界で大好きだった熱いネズミ達の冒険を描いたアニメの主題歌を頭の中で流しカホンを叩き出す。

 ポンポンポコポポッポンポポコポコ。

 俺は歌いだす。


「みんな!みんな!みんみんみんな!。どこにいるんだみーーんな。出てきておくれよみーーんな。みんな!。みんな!みんみんみーーんな!やっほ!ほーーーーい!」


 チャカポコチャカポコポッポチャカポコ。段々と乗ってくる。


「一緒にうーたーおーー、ほっほっほーほっほっほーーー!食べ物だってあーるのになぁーーーー」


 少しトビラが開いてこちらを窺う子供の頭が見えた。


「願い事だよみーーんな!お願い聞いてよみーーーんな!みんな!みんな!力を貸してくれ!」


 ポッポコポッポ、ポコポコポッポ、何度も繰り返す。

 すると、トビラから今朝露店に来たニコニコ顔の子供が走ってきて俺の前に来る。

 ニコニコしながら小首をかしげるので俺はカホンを叩きながら笑顔でうなづいた。

 その子は更に笑顔になり手を叩いて踊りだした。

 俺は嬉しくなった。そして、感心した。ああ、これはイケルな、とその子の踊る姿を見て確信した。


「ほーら、ほらほら、みんな出ておいでーー!一緒にご飯を食べよう!」


 俺はそう言ってリアカーから食料品を降ろし踊っていた子にトルティーヤを渡す。


「いいの?」


 やっと口きいてくれたなぁ。思わずほおが緩む。


「おうっ、食べろ食べろ!腹いっぱい食べろ!まだまだあるからな」


 そうしていると、奥のトビラからぞろぞろと子供たちが出て来た。


「兄ちゃん、なんなの?近所の人でも教会の人でもないだろ?なんで食い物くれるの?」


 子供たちの中でも身長の高い男の子がそう俺に尋ねる。この子がみんなのリーダーなんだろう。

 俺はキッズのリーダーを見て言う。


「俺の歌、聴いてくれなかったのかい?力を貸して欲しいんだよ」


「でも、俺たちなんて何もできないぞ。汚ねーからくんなって石投げる奴もいるし。今日だって兄ちゃんとこにシンが行ったけどみんないい顔しなかっただろ?」


 そうキッズのリーダーが言うとすかさずシンが、「でも、このお兄ちゃんは追っ払ったりしなかった!」

 なんて言う。


 くそーーーっ。泣かせるじゃねーーか。これは、もう、俺の自己満足、俺の快楽のためだ。こいつらに職能つけて自立さす!町のみんなからも一目置かれるような集団になっ!


「まあ、いいからみんなひとまずは食え!話はそれからだ!」


 バーーっと子供たちが走って来る。


「沢山あるから心配すんな。のどに詰まらせないように落ち着いて食えよ!」


 子供たちを数えてみると16人いる。ドライフルーツ屋さんがだいたい十五人くらいと言ってたので二十人をみて仕入れてきたのは正解だったな。

 みんなが食事をほぼ済ませた頃合いを見てキッズリーダーに俺は尋ねる。


「これで、全員か?」


「うん、そうだよ」


「お前さん、名前は?」


「俺はケイン」


「そうか、ケインか。俺はトモだよろしくな」


「うん。それで兄ちゃん、さっきの話なんだけど」


「おう、力を貸してくれって話な。よし、じゃあ、みんな話が聞こえる所に集まっておくれ!」


 そう声をかけるとみんな一斉に近くによってきた。かわいいやつらじゃ。


「まずは自己紹介だな、俺の名前はトモ・クルース、露天商をやっている。売っている品物はこれだ」


 そう言って俺は空中ゴマとカホンを見せる。


「それ面白い!」シンがそう言ってカホンを指さす。


「おう、これはカホンと言って叩いて音を出す楽器だ。大きいのと小さいのがある」


 子供たちがじっと見てる。


「そしてこいつは空中ゴマだ」


 俺は腰の袋から自分用の空中ゴマを取り出して見せる。


「これは、こうして使うんだ」


 コマに回転を与えて上に放り投げ一周回ってからキャッチして見せる。


「わーーっ!」


 子供たちがどよめく。ワクワクした目つきになってきやがった。そーじゃなくちゃぁいけねーよ。

 そんな中でもケインは精一杯自分を抑えて俺に何か言いたそうにしている。


「どうしたケイン?」


「それで、兄ちゃんは俺たちに何をさせたいの?」


 こいつは、まったくたいした子供だよ。幾つぐらいなんだ?小学3年生くらいか。前世界ならスマホ欲しいとか何か欲しいとか、対価もなく物を得るのが当然のことと認識してる年齢だろうに。

 俺はケインの目を見る。ケインも俺の目を真っすぐ見る。

 よし、決めた。


「力を借りたいと言ったが、正確には少々違うな。仕事を頼みたいんだよ。ケイン事務所に」


 ケインはそれを聞いてキョトンとしている。


「なあに?ケイン事務所って?」


 シンが俺に尋ねる。


「今日からここはケインを所長とした事務所だ。お前たちは所員ってわけだ」


「ちょ、ちょっと待ってくれよ兄ちゃん。わけがわかんねーよ。ここは廃墟だし俺たちは身寄りのないただのガキだよ」


「今はな。でも、すぐに変わるんだよ」


「無理だよ!近所の人だって教会の人だって俺たちに何かができるだなんて思っちゃいないよ。みんな俺たちなんてゴミみたいに思ってるよ!」


「いいや、無理じゃないよ。みんながどう思ってるかなんて関係ないよ。自分を決めるのは自分だよ。自分のなりたい自分になればいいんだ」


 俺は前世界でこれまた大好きだった鉄巨人と少年の友情を描いたアニメ内で少年が言っていて感銘を受けた言葉をつい言っていた。俺が前世界で出来なかった事であり、この世界でやりたい事であるそれを。


「なあ、シン。お前はどうだい?今のままでいいのかい?変わりたくないかい?」


「変わりたい!」


 間髪容れずにシンは言う。鼻をひくつかせて手をギュッと固く握って言う。


「な?シンだってそう言ってる。みんなはどうだ?なあ?どうだい?」


「わーーーっ!」

「変わるぅーー!」

「なんでもいいからなにかやりたいっ!」

「やるぅーーーっ!」


 俺はケインを見て言った。


「ほら、みんなこう言ってるけど所長はどうなんだ?」


「わかんないよ」


 くしゃみを我慢してるみたいな顔してケインは言う。そうか、今までもそうやって耐えてみんなを引っ張っていたんだな。


「お前は偉いな。偉いし強いな。よく頑張ってきたな」


 俺はケインの頭をガシガシと撫でた。


「でもな、今回ばかりは我儘言ってもいいんだぞ。正直にどうしたいか言ってみな」


 ケインの両目から堰を切ったように涙がこぼれた。


「俺だって、っぐっ、俺たちだって、んぐっ、ぐぅ、役に立つんだって、んぐっふぅ、ゴミなんかじゃねーって!うぅ、うっうっ、証明したいっ!!」


「わーーーーん」

「あがぁーーーぅ、わーー!」

「ケイン兄ぃ、ごめんなさいっ!!」


 ケインの本音を聞いて子供らがみんな泣いたり叫んだりしだした。


「よーーーしよしよし、みんな、泣くな泣くな。今日はめでたい日になるぞ!!ケイン事務所の創立記念日だぞっ!めでたい日に涙は似合わないぞ」


 そうして俺はみんなが落ち着くのを待って本題に入った。


「さあてと、みんな、これから言うことをよく聞いておくれ。みんなにやってもらいたいことは大きく分けて二つあるんだ。一つはさっき見せた俺の商品、これを作って貰いたい。勿論、作り方は教える。そして二つ目はこれを使って宣伝してもらいたい」


「宣伝って何?」


 女の子が質問してきた。


「良い質問ですねーー。名前は?」


「アン」


「よーしアン、良い質問だったのでドライフルーツを差し上げまーす」


 俺はドライフルーツをアンにあげた。満面の笑みになるアン。


「いいなぁーー」


 みんなが羨ましがり始めたので俺は言う。


「いやいや、みんなも自由に食べていいんだから」


「違うんだよ、トモ兄ぃ。みんな人から褒められたことなんてないから、それが羨ましいんだよ」


 ケインが言う。

 そうか、そうだったか。俺は胸の奥が熱くなって鼻の奥がツーンとなる。年を取ると涙腺が弱くなっていけねーなー。まあ、身体は若返ってるけれども。


「お前らなー。これからどんどん褒められて自分たちの力でお金を稼いで、自分たちのやったことで沢山の人を笑顔にさせるんだからな。覚悟しなさいよ。それで、何だっけ?ああ、宣伝、宣伝ね。宣伝ってのはねぇ、なんつーの?例えばこれ、空中ゴマとかカホンをね、みんなが欲しいなぁって思うように知らせて回ること。これだけじゃあないんだ。町の色んな商売をね、そうやって知らせて回ってそのお店が儲かるようにしてお金を貰う。お店の人はありがとうって言ってお金をくれる。それが宣伝」


 子供たちは静まり返った。


「トモ兄ちゃん!トモ兄ちゃん!それ!僕やりたいっ!」


 シンが大きな声で俺に言う。ふっふっふ、最初に見た時から君のリズム感の良さには目を付けていたのだよ!君こそスターになれる人材だとねっ!それを自分からなりたいだなんて、シン、恐ろしい子っ!!なんて独りで盛り上がっても仕方ない。


「シンは踊りが上手だったな。踊りが好きなのか?」


「うん!好き!」


「よーし、シンは宣伝担当けってーい!」


「やったーーーー!」


「ケイン、お前はこの場所の責任者だ。一番偉いがその代わりやらなきゃいけないことや気を付けなけりゃいけない事は沢山あるぞ。まずは、ケインが頼りにできる者を一人選んでほしい。その子を副所長に任命したい。誰が良い?」


「それなら、シシリーだ」


「よーしシシリー、出ておいでー」


 俺が呼ぶと子供たちの中からケインと同じくらいの年の女の子が出てきた。


「よし、それじゃあケインとシシリーは一緒に、ここにいる子供たちを何人かの班に分けて欲しい」


 二人はうんうんとうなづく。


「まずは製造班、これは手先が器用な子、絵を描くのが得意もしくは好きな子を選んで欲しい」


 二人を見る。うん、二人ともいい面構えになってる。責任感を持ってる人の顔。俺の話をキチンと理解しようと前のめりになってる感じ。いいぜ!凄くいいぜ!


「次に宣伝班、まずシンは決定。シンには踊りを担当してもらうつもりだ。それ以外にもカホン演奏する子と空中ゴマを実演する子が必要だ、これは興味を持つ子、こうした事が好きな子、得意な子を選んで欲しい。そして、これが大事なんだが、お前たちは読み書きとお金の計算は出来るか?」


 シシリーは強く、ケインは自信なさげにうなづく。


「なんだ、ケイン。自信ないか?」


「読み書きはできるけど、計算はちょっとだけ自信ない。」


 しょんぼりとするケイン。


「そんな時のための仲間だろ?できるものができないものに教えるんだ。ケインは読み書きをみんなに教えればいい、シシリーは計算をみんなに教えてあげてくれ、ケインにもな」


 シシリーは嬉しそうにうなづく。ケインは少しばつが悪そうだ。


「でも基本的に二人はここの責任者だから、人に教えることができる子をどんどん作ってその子にどんどん任せられるようにしていきなさい。君たちの一番大切な仕事はみんなが仲良く安全に仕事ができるように調整する事だからね」


「それって、どういう事なの?」


 ケインが俺に尋ねる。


「すぐに上手にできる子もいればなかなか上達しない子もいるだろう。うまくできない子を周りの子が責めたりしないように注意したり、どうしても上手にできなかったら他にその子に向いた仕事はないか一緒に考えたりね、他にも仕事をする時に危ない事はないか、やりにくい事はないか、注意して見て、もしそんなものがあればなくせるように考えたりする」


「大変そうだね!」


 ケインを見ながらそう言うシシリーは笑顔だった。ケインと一緒ならやれるという決意が見て取れる。この二人、いいんじゃない?なんて、すぐにそうやって男女をくっつけたがるのはオッサンの悪い癖だな、自重せねば。


「まずは、みんな着替えなさい。働くからには清潔でないといけませんよ。ここに着替えと身体を拭く布があるからみんな持っていってくださーい!」


 そう言って俺は子供たちに着替えと手ぬぐいを配った。


「身体を拭いて着替えたら集合ねー!」


「はーーい!」


 みんないい返事だ。

 敷地内の小川で身体を拭いて着替えた子供たちが集まってくる。


「おお、随分と見違えたぞ。じゃあ順番にこれを持っていってちょうだい」


 俺はみんなに黄色いバンダナを渡した。


「今日からみんなこれを身に着けて欲しい。頭に巻いてもいいし、腕に巻いてもいいし、首に巻いてもいい。とにかく見える場所にこれを着けてくれ。これはケイン事務所の一員であるしるしになります。これを着けているものは仲間同士力を合わせ助け合って行くんだよ」


 バンダナを受け取った子供たちの目から力を感じる。こうして同じものを身に着ける事で集団への帰属意識が強まるものだ。


「さて、じゃあ俺が実際にやって見せるので自分は何をやりたいかどれが得意か、じっくりと考えてほしい。仲間と相談してもいいぞ」


 そう言って俺はまずカホン製作を始める。

 買ってきた板の大きさを測り小刀で印をつけノコギリで切る。板にニカワを塗り接着し箱状に組み各所を釘打ちする。そして一面はキリで穴を開けそれを小刀で広げホールを作りヤスリでバリを取る。


「これがカホンね」


 続いて空中ゴマを作る。


「このオモチャは空中に投げて受け取るところが面白いところなんだけど、失敗して落とすこともよくあるんだ。だから、このコマのところは丈夫に作るのがコツだ」


 そういって軸部分の製作を見せる。

 そしてリアカーから今日の売れ残りの空中ゴマを見せて説明する。


「このコマ部分は回転するからね、まわってきれいに見える柄をつけるんだよ」


 売れ残った2個のコマの柄は小花模様と雷紋だった。


「見てい~い?」


 小首をかしげて女の子が聞いてくる。


「勿論、いいよ。君の名は?」


 その仕草がかわいらしくて思わず前前前世界の映画タイトルみたいな返答をしてしまった。


「あたしはサラ。見ーして」


 コマ部分を渡すとサラはそれをいろんな角度から見始めた。


「かわいい。サラこれ描きたい」


 そーかそーか、小花模様はかわいいよな。残っていて良かった、と思ったらサラが俺に見せてきたのは雷紋の方だった。うおっ、これは、ちょっと面白いセンスの持ち主が現れたぞ。またもや逸材発掘か!


「よし、じゃあサラは製作班で決まりだな。次は宣伝班だな、まずはさっきも見せたけど空中ゴマから」


 俺はエレベーターや背面キャッチ、ウィップを決める。


「すっげーーっ!」

「カッコイイーー!」


 やんややんやの大喝采。気持ちがいい。


「次はカホンだ。よーし、シンこっちゃ来い」


 俺が手招きするとシンがトテトテターと走ってくる。まったくかわいいやっちゃで。


「よーし、シン。これから俺が教える事を音に合わせてやってみな。足を見てな。まず右足のかかと左足のつま先をこうな」


 シンが一生懸命に真似をする。


「そして、今度は左足のかかと右足のつま先に切り替えるの、これがちょっとややこしいんだけど見といてな」


 俺がシンに見せているのはヒップホップダンスの基礎中の基礎ステップ、クラブだ。蟹のクラブ。その名の通り蟹の歩き方みたいなステップなんだがこれをスローテンポの打楽器と合わせて上手く決まるとなかなかカッコよろしいのだ。


「出して、戻して、出して、戻して、出す」


 何度かゆっくりやって見せる。


「出す、戻す、出す、戻す、出す!」


 おうっ、覚えるのはやーーーっ。すげーな。やはり俺が見込んだ逸材だ。


「よーし、んじゃちょっと早くするから一緒にやってみ。いくぞ」


「うん!」


「はい!いち、にい、さん、しい、ごお、ろく、しち、はち。と」


 テンポに合わせて左右にクラブのステップを踏む。


「よーし、じゃあ俺がカホンを叩くからそれにあわせてみ」


 俺はカホンを叩き出す。

 それにあわせてシンが踊りだす。

 最初はスローテンポで、ポンポコポンポコ続ける。頭の中で前世界の探偵ドラマのテーマ曲、というよりは黒スーツにサングラスの兄弟が大騒動を起こす最高のアクションコメディミュージカル映画でかかっていた曲と言ったほうが通りが良いか、それを流して叩く。トントントンツートントントントン繰り返す。

 シンはすぐにテンポをあわせてクラブのステップを踏む。胸でビートをとってやがる。

 膝が柔軟に動いて見ていて気持ちいい。

 よーし、テンポを速めていくぞ。

 タカタカタカタカタカ。頭の中で今度は前世界の海外ガールズバンドのエジプト人みたいに歩けって歌ってる曲を流す。

 タッタカタッタカタッタカタカタタン、繰り返す。

 シンがニコニコしだす。このくらいのテンポが好きか。


「いいぞーー!シン!。好きなように動いてみろっ!」


 シンはステップを左右左右から右2左1にして見せたり、足をスライドさせてフォーシングっぽくさせたりそれを前後で表現し始めランニングマンチックなことまでやり始めた。腕の動きも大きくてカチっと止めるもんだから俺はビックリした。

 いやいやいやいや、俺なんて以前付き合ってた娘の連れ子が授業でやるんだってんで一緒に練習してようやくクラブの足の動きができるくらいだっつーの。

 シンよお前に教えることはもうない。鍛錬を続けなさい。って勝手に師匠づらしてる場合じゃないや。

 後は俺はできないけど覚えてるやつを教えて他に何人か訓練して組ませれば、いける、いけるぞグラミー賞!って違うよ、ケイン事務所の看板ダンサー!!


「よーし、終わらすぞ」


 タタタタンタンスパーン。


「わぁーーーーっ!」

「シンちゃんすげーーーーっ」

「かっこよかったぁーー」


 子供たちの拍手と歓声。どうだ、シンよ。肩で息してるシンに俺は話しかける。


「はぁはぁ、凄い、凄い」


「凄い、なんだい?」


「ふぅーーーー。すーーーっごい気持ちいいーーーーっ!!」


「シン、みんなを見てみろ。みんなお前の踊りを見て、あんなに楽しそうにしている」


「うん!」


「シンも嬉しいし楽しいだろ」


「うんっ!!」


「これが宣伝の仕事だよ、シン。どうだ、やりがいがあると思わないかい?」


「思うっ!!」


 よし、力強い返事だ。この子は芯の強い子だ。シンだけに。ってしょーもないオッサンギャグは置いといて、冗談抜きでこの子の持ってる強さは、初めて俺の所に来て踊って見せたあのメンタルの強さや好奇心の強さ、そしてこの意志の強さだな。

 種類にもよるがダンスってのは見かけほど楽な運動ではない。かなりキツイ有酸素運動であり全身運動でもある、この位の年の子供が肩で息するほどの運動をストップかかるまでやりぬくってのは生半可な事ではない。

 俺は呼吸が安定してきたシンの頭をワシワシと撫でた。


「お前は根性あるな!」


 シンは満面の笑みで俺を見る。くぅーー、眩しい、眩しすぎるぜ!


「さてと、ケインとシシリー。以上がケイン事務所の仕事内容となります。現在決まっているのはまずは所長ケイン、副所長シシリー、空中ゴマ製造サラ、宣伝班踊り担当シン。以上四名です。空中ゴマ製造に後二人は欲しいな。それからカホンの製造と演奏にそれぞれ3~4人づつ。空中ゴマ実演に2人位、踊りももう1人欲しいな」


 俺はそう言いながら木の板の端材に塗料で役割と必要人数、現在決まっている名前を書いていく。


「2人には一通り経験してもらう。実際の仕事はさっきも言ったようにみんなのまとめ役だけど、仕事内容を経験しているのといないのとじゃあ全然違うからな。実際にやることで初めてわかる難しさや面白さがあるからね。勿論、すべてを上手にできる必要はないぞ。どういう仕事なのかわかってくれればいいんだ」


「わかった」


 ふたりは顔を見合わせうなづく。


「よし、じゃあ早速ですがみんなの班分けをお願いしたいと思います。よく話しあって嫌がるものを無理矢理決めないこと!嫌々やっても上達しないし怪我の元だからね」


「わかった!」


「よし、じゃあ俺は買い出しに行ってくるからね。ああ、持ってきた道具も材料も何でも自由に使っていいからね。みんなにも実際に触って貰ってね。すぐに戻って来るからね」


「うんっ!」


 大丈夫だな。ここに来た時とは目つきが違う。俺はうなづき返しリアカーを引っ張って外に出た。

 まず最初に向かったのは商業ギルドだ。

 俺はギルドの受付嬢に孤児達が住みついてる廃墟の権利関係と会社設立の仕方を尋ねた。

 まずは土地家屋の権利関係について、元の持ち主が夜逃げして行方知れずであり権利は商業ギルドが持っているとの事。

 現在は孤児達が住みついているのでそのままにしているのだと言う。まあ、建屋を補修するにも取り壊すにもお金がかかるというわけで、誰も買い取り手が現れないのが実情らしい。

 そんなわけであの広さの土地にしては破格の値段だと受付嬢が言う。気になるそのお値段は、10万レインとの事。フム。それでも、なかなかのお値段だ。

 そして会社設立の仕方だがこれは簡単だった。まずはギルドに入会する必要がありその入会金、そして月々の商会税、これは前世界の法人税みたいなものだな、そして保証人、これは俺がやるから良し。というわけで俺は書類を用意してもらい責任者ともう一度来ることを告げギルドを後にする。

 それから、衣服、バンダナ、手ぬぐい、寝具、商品作成のための材料、家屋を応急補修するための材料、食器、掃除用具、洗濯用具、大工道具、人数分の巾着とウェストバッグを買って廃墟改めケイン事務所へ戻る。


「帰ったぞーー」


 中に入ると空中ゴマをやっているもの、板をノコギリできっているもの、カホンを叩くものありでとても賑やかな様子だ。


「お帰り!トモ兄」


「お帰りなさい」


 ケインとシシリーがやって来る。


「やってるな。どうだい、うまいこと決まりそうかい?」


「はい、やりたい子にやらせてみて、得意な子に見てもらってます。トモさんの言ってた人数でうまくまとまりそうです」


 シシリーが言う。おう、いいねえ、敏腕秘書って感じじゃん。


「よし、それじゃあ、みんなにこれを配ってあげてちょうだいな」


 俺は買ってきた服、バンダナ、手ぬぐい、巾着、ウェストバッグを見せた。


「これ、みんなの分あるからね。服とバンダナは毎日洗って交換すること。巾着とバッグも人数分あるからね、これからみんなも仕事をすることでお金を始め持ち物が増えるだろうからね、そうしたものの保管と持ち歩きに使って欲しい」


「わかったよ!」


 ケインの小気味好い返事に俺は続ける。


「後は、この場所を少しづつ改良しようと思っているんだ」


「かいりょうですか?」


 シシリーが尋ねる。


「そうだよ。これを見てくれ」


 俺は買ってきた、家屋補修の材料、寝具、食器、掃除用具、洗濯用具と大工道具を見せる。


「みんなの手でこの場所を、仕事場として家として快適な場所にしたいと思っている」


「トモ兄、こんなに色々としてもらって、本当にいいのかい?トモ兄は大丈夫なのかい?」


 ケインが俺を見て言う。こいつは本当にしっかりした男だよ。


「大丈夫、先行投資ってやつだよ」


「せんこうとうしって何ですか?」とシシリー。


「君たちの将来の価値にお金をかけるってことだよ」


「私たちのですか?でも、そんな確かじゃないものにこんなに沢山の物をですか?」


 おずおずとシシリーが言う。この子も見るべきものはしっかりと見ている子だな。ケインの相方として申し分ないな。


「俺は、確かじゃないとは思ってないし、その価値は結構すぐに形になると思ってるよ」


「本当ですか?」


 シシリーはあまり楽観的ではないようだ。まあ、こんな生活を子供が続けてきたんだ、当然のことだろう。

 むしろ、そうした性格は今後ビジネスで必ず役に立つだろう。俺は好感を抱いた。


「後で詳しく話すけどね、ザックリ話すと空中ゴマを一個作るのに50レインかかる。そして売値が200レイン。昨日と今日で40個以上売れている」


「それだと、1個150レインの儲けだから、10個で千五百レインで、40個だと六千レイン!二日でそんなに!」


「おぉーー。シシリー計算早いな。そこにはカホンの売り上げは入ってないし、場所代や俺の手間賃も入ってないけどまあ、そうだ。これは俺一人でやった場合の話だから複数人で分担してやればこんなもんじゃないぞ。さらにだ、宣伝の効果もバカにできないんだぞ」


「そうなの?」


 おっ、宣伝班ダンス担当のシンが来た。


「そうさ、例えば店先にイスとテーブルを出してるご飯屋さんあるだろ」


「うん」


「そこで食べてる人を見て急におなかが減ってその店に入る人って以外に多いものなんだよ」


「わかる!いつもいいなーーって思ってた!」


 ううぅ、また泣かせることをこの子は。


「この仕事が順調に進めばすぐにシンも行けるさ。それで、そう、いいなーーって思わせることが宣伝の効果なんだよ。これからはシンたちが町のみんなにいいなーーって思わせるんだ」


「できるかなぁ?」


「できるさ」


 シンがニカーーーっといい笑顔を見せる。


「さてと、話を戻すぞ。ここを改良する話だ」


「なになに?僕もやる!」


「勿論、シンにもやってもらうさ。みんなに割り振った仕事以外でみんなで力を合わせる大事な作業だ」


「うんっ」


 3人が力強くうなづく。


「いつもはこの奥の部屋でみんな寝てるのかい?」


「そうだよ。ここは外の通りからすぐだからね。たまに石やゴミを投げ込まれたりするから」


 また、切ない事をケインが言う。


「そうか、もう、そんなことは無くなるから安心しろよ。でも、まあ、この場所は物を置いたり作業をしたりの仕事場にできればと思っていてね、奥の部屋の大きさ次第なんだよね。みんなが生活する場所として十分な広さかい?」


 見てみますか?とシシリーが言うので見せてもらう事にする。

 奥のトビラを開けると学校の教室程の広さの部屋があり、いたるところにぼろきれがまとまって置いてある。


「ここで、みんな寝てるんだ」


 ケインが言う。


「そうか、布団も買ってあるから今日からはそれを使っておくれな。まあ、寝室としての広さは十分だな」


 俺は室内の壁や柱を軽く叩いて回る。


「奥にもあるよ!」


 シンが続きを案内してくれるようだ。


「よし、見せてくれるか?」


「うんっ!」


 シンに案内してもらい更に奥へ行くと、元々は従業員用の食堂だったのだろうかイスとテーブルが置かれている。イスもテーブルもかなり傷んでいるが修繕すれば使えるだろう。

 木製品は部品交換も補修も見栄えを気にしなきゃ割と簡単にできるし出たゴミは薪にすればいいだろう。

 部屋の奥にはキッチンらしきスペースがある。石造りのシンクっぽいものと竈っぽいものも見受けられる。竈の上部には外への排気口らしき穴も開いておりこれらはきれいにすればすぐに使えそうだった。

 更に奥のトビラの向こうは通路になっており通路沿いにまず男女で分けられたトイレがありそのとなりは奥へ向かう通路の先にトビラ、さらにとなりに物置部屋がある。


「ここは裏に出るよ!」


 シンたちと一緒に奥のトビラから裏手に出る。

 ほうほう、かなり広い敷地面積だ。以前はかなり大きな作業場かなにかだったのだろう。

 裏手の空地には表からも見えた小川が流れておりその向こうは林になっているようだった。


「なるほど、造りは分かった。コツコツとやれば自力で何とかなりそうだ」


「やったーーーー!」


 シンが喜んで声を上げる。


「だが、ところどころ板や柱が腐ってるようだったから気をつけるんだよ。あて木をするか完全に取り替えるかは傷み具合を見て決めよう」


 俺たちはリフォーム工事の段取りを軽くしながら元居た倉庫スペースへ戻った。

 子供たちは班に分かれて道具をみたり使ったりしている。


「よし、それでは、みんな、今はできる範囲でいいから作業や練習をしてみてくれ。ケインは俺と一緒についてきて欲しい。シシリー、みんなの事は頼んだよ」


「わかりました」


 シシリーは相変わらず敏腕秘書みたいだな。余計な質問しないのが凄いよ。ケインは尻に敷かれないよう気を付けろよ。なんて妄想してる場合じゃない。俺はケインを連れて商業ギルドへ出向いた。


「こんちわー、責任者連れてきたんで手続きお願いしまーす」


 俺は受付嬢に言った。


「ああ、先ほどの方ですね。どちらも書類は整ってますよ。後はサインと既定の料金をお納めいただければ手続きは完了となります。それではこちらです、どうぞ」


 受付嬢から書類を受け取り記入用のテーブルへケインと共に行く。


「まずこれが土地家屋の権利書だ。2枚あるからサインしてくれ」


 俺はケインに権利書の書類を渡す。


「えっ、兄ちゃん。これは」


「お前たちが住んでる場所を正式にお前たちのものにするための書類だ。ちゃんと目を通してからここにケインの名前を描いてその上から親指で押すんだ」


「あ、ああ、わかった」


 ケインは俺に言われた通りにやる。

 その間に俺はもう一つの書類、会社設立のための文書に目を通し、保証人の欄に名前を記入し親指を押し付ける。

 この指を押し付けると捺印が浮かぶシステムは逆に未来っぽくて何とも言えない気持ちになる。


「できたか?よし。できたら、次はこの書類、ケイン事務所設立のための書類だ。これもちゃんと目を通してから、ここに商会の名前、ここにお前の名前を記入してそれぞれにまた指を押しつけてくれ」


 一生懸命書類を読むケイン。これからはこうした仕事も増えるだろう。頑張れよ、ケイン!


「トモ兄ぃ。商会の名前なんだけどさ」


「どうした?」


「トモ兄の名前も付けたらダメかな?」


「と、言うと?」


「トモ&ケイン事務所にしちゃダメかな」


 俺は考えた。どうなんだろ、そうすることが彼らの今後の成長の妨げになりはしないか、自立の邪魔にはならないだろうか。と。だが、そうだな、まだ彼らは子供でしかも今まで町のみんなからの施しで何とか生き延びていた存在だったのだ。少しづつでいいだろ。


「ケイン&トモならいいぞ」


 俺はケインに言った。


「うんっ!」


 ケインはその年頃にふさわしい笑みを浮かべて書類に書き込んだ。


「はい!」


 記入が終わった書類をケインから受け取ると俺は受付へ持っていき既定の料金を支払った。


「それでは、こちらは控えになりますので失くさないように保管して下さい。それから、本日より商会の設立が認められますので毎月の帳簿の提出と商会税をお納めいただく義務が生じますので宜しくお願い致します」


 そう言って控えの書類を渡された。


「あと、すいませんちょっとお聞きしたいことがあるんですけど・・・」


 最後に気になっていた事を聞き、俺たちは商業ギルドを後にした。


「トモさん」


 姿勢を正してケインが言う。


「なんだ?どうした?」


「ありがとうございます。この恩は忘れません。必ずトモさんの期待に答えます」


 そう言ってケインは深々と頭を下げた。

 何なんだこの世界の子供は凄すぎだろ。武士かよ!驚きを隠して俺は言う。


「頭をあげろよケイン。前にも言ったが先行投資でやってんだ。言わば好きでやったことよ。俺は本当にお前たちと出会えて良かったと思ってるんだ。これからは商売仲間としてもよろしく頼むわ!」


 俺はケインに手を差し出した。

 頭を上げたケインは俺の手をギュッと握り、俺たちは固い握手を交わしたのだった。


「さてと、社名も決まったし後は看板が必要だな。帰りに看板屋に寄るか」


「トモ兄!それなら、俺たちでやってみるよ。俺たちで出来ることは俺たちでやりたい!」


 グッとくる事を言うよ。ケインは。俺は胸が熱くなる。前世界の職場の人間に聞かせたいよ、ぬるい職場なのに文句ばっかり言っておったよあの人達は。


「よし、いい根性だ!じゃあ材料と道具だけ買って帰ろう」


 というわけで木材と塗料、ハケを仕入れて俺たちは帰った。

 ケインは手先の器用なものと一緒に看板製作に取り掛かると言うので俺はみんなの様子を見て回った。

 まずは空中ゴマ製作班から見る。

 男の子が2人、お椀を付ける作業をしている。

 完成された物も2つあり着色されている。

 1つは緑色で沢山の木の葉が風に吹かれて流れているような柄だ。サラの仕事だな。やっぱセンスあるな。

 もう1つは黒で牙のようなトライバル模様のようなものがあしらってある。

 ・・・・、まあ、良い。


「調子はどうだい?」


 俺が尋ねると2人はこっちむいて挨拶をする。


「作業をしたままでいいよ。2人の名前は?」


「ジョンっす。」


「カイルです」


 ムムム、ムムムのム。サラとジョンとカイルとな!

 大丈夫か、この3人に任せて。自我を持ったコンピュータの誕生に関わってしまわないだろうか。なんて前世界のアクションSF映画を思い起こしてしまったが。まあ、冗談はおいといて。


「うまくやれそうかい?」


 俺は2人に聞いてみた。


「サラがうっさいけど、物を造るのって楽しいね」


「こら、ジョン、お前がサラちゃんを怒らすようなことを言うからだろ」


「へへへ、サラ怒らすと面白れぇんだもん」


「こいつ、こんな事を言ってるけど、ほんとはサラちゃんの事、」


「わーーっ!バカ、カイル!バカ、よせっ!」


 楽しそうで良かったわ。あいるびーばっく。と言うことで次はカホン製造を覗いてみる。


「エイショ、エイショ、エイショ」


 こっちは女の子が2人、ノコギリで板を切っている。

 たくましいなあ。

 彼女たちの切った板を男の子と女の子が組み立てている。


「調子はどうだい?」


 声をかける。


「あっ!トモさんだ!」

「ありがとーございまーす!」


 板を切っていた女の子たちが言う。

 板を切ってる2人がマギーとベス、組み立てをしている女の子がエミーで男の子がジョーイとの事。

 ・・・・・。一瞬頭に前世界の名作四姉妹が浮かぶ。こっちは一人男の子だが。


「ノコギリで怪我しないように気をつけてね」


「気をつけまーす!」


 と言ったのは最初に俺の名を呼んだマギー。


「大丈夫です!男の子達みたいにガサツじゃないもん!」


 これは、ベス。活発そうな子たちだ。元気があってよい。


「ジョーイはガサツじゃないもんね」


 優しくエミーが言う。


「うん」


 ジョーイは遠慮気味に返事をする。

 頑張れよ!ジョーイ!という事で次は宣伝部隊だ。

 音がする方を見れば男の子3人がカホンを叩いている。

 大カホン2人に小カホン1人か。

 なかなかいーじゃないの。

 ドツドツコンッドツドツコンッ、コンコンココンココン。

 ちゃんと叩く場所変えて重い音と軽い音をわけてるな。

 シンプルなリズムだが3人の息が合ってるんで聴いてて気持ちがいい。

 演奏が止むのを待ってから声をかける。


「よっお疲れさん。いい感じだな」


「ありがとうございます」

「あ、トモ兄さん。お疲れ様です」

「ありがとっす!」


 最初にありがとうと言ったしっかりしてそうな子がフィル。

 次に俺にお疲れ様と言ってきた真面目そうな子がスチュー、最後に体育会系の返答をよこしたのがアランとの事。

 うん、なかなか良いトリオだと思う。息もあってるし。ただ将来、二日酔いでトラブル起こさないように注意してもらいたいとは思う。3人の友情よ永遠なれ!

 お次は空中ゴマ実演部隊。

 男の子と女の子が互いにコマを投げてキャッチしあっている。

 おおっ、やるじゃない。

 それは俺ひとりではやって見せられない技だ。自分たちで考え付いたか。たいしたもんだ。

 俺は拍手をしながら近づいた。


「いーーじゃないの。君たちー」


 男の子はコマをキャッチするとすぐにこちらを向いて頭を下げた。


「トモ様、この度はこのように過分なご配慮、誠にありがとうございます」


 おいおいおいおいおい。この方、おいくつ?


「まあまま、そんなに固くならないで、ねえ。しかし、君は随分としっかりしてるねえ。名前は何て言うの」


「私はキャスルと申します彼女は妹のセイラです、トモ様」


 オゥフ。どうりで紳士的だと思った、仮面をかぶらなくても大丈夫ですか?って言うてる場合か!


「そっか、兄弟なんだな。どうりで息もピッタリなはずだよ。それから、様は辞めような様は」


「はい。仰せのままに」


 そう言って頭を下げるキャスル。そんな兄を見て口を押え上品に笑う妹。

 ・・・どういう出自なのか非常に気になるがまあ、良い。次に行きましょう。

 お次はダンス担当だが、こちらは見知った顔の2人、シンとアンだ。

 アンにステップを教えているようでシンが手拍子している。手拍子もリズミカルでいい音たててるのは流石と言えよう。


「いいよー、アン、上手!上手だよ!そう、出す!戻す!出す!戻す!そう!もう出来てるよー!」


 シンよ、どうやらお前には人を育てる才能もあるようだな。シン、怖い子!俺は目を白くして見守る。


「よし、ちょっと休憩しよーー!」


 シンが言う。


「お疲れちゃん!いいじゃない、いいじゃないー!シンは教えるの上手だし!アンも覚えが早いじゃないのー!」


「エヘヘーーー、アン凄いんだよ!僕のやることすぐ出来ちゃうんだよ!」


「へーー、それはすごいなあ」


 アンを見るとどうもシンへの視線に熱を感じる。おやややや?アン、かわいい顔してこの子は、割とやるもんだね、と。昭和を生きたオッサンギャグを心に俺は言う。


「よし、2人とも頼むぜ!」


「「うん!」」


 返事も息が合ってますこと!

 しかし子供らの適応力はすげーな。ビックリするわ。予想以上だよ。後は販売なんだよなー。


「トモ兄ぃ、できたよーー!」


 ケインの声だ。どうやら看板ができたようだ。

 ケインとシシリーとサラとで看板を掲げている。

 そこには中心に大きな太陽、それを囲むように六つの星と八つの月、上にやや大きめの月と星が描かれており下に大きくケイン&トモ事務所と書かれている。

 ああ、いいじゃないか。じっくりと見る。

 いいよ。本当に。


「いや、予想以上にいいよ。一瞬言葉が出なかったくらい。本当によくできてる」


「ほ~んと?」


 小首をかしげてサラが聞いてくる。

 おぬし、かわいいってわかっててやってはいまいな。だが、かわいいもんは仕方ねえ。俺の負けだぜ!


「ああ、本当だ」


「この太陽はトモさんなんです」


 シシリーが言う。


「そうなのか?」


「そうさ!それを囲む星と月はみんなさ!月が男子で星が女子さ!」


 ケインが言う。


「一番上の月と星はケインとシシリーなの。所長と副所長だから」


 サラが言う。

 そうか、俺は胸にこみあげるものを感じた。前の世界ではあまり縁がなかった家族ができたようなそんな気持ちになって、たまらなくなる。


「なんで泣いてるの?」


 サラに言われるまで自分が涙してることに気付かなかった。ああ、こんな事ってあるんだな。


「トモ兄ぃ、どうしたんだよ、何か悪いところがあったんならすぐに直すよ!」


「トモさん」


 ケインとシシリーが俺のことを気遣い始めたので急いで弁解する。


「いや、違うんだ。嬉しくてな。本当に。嬉しくてな。ごめんな。ビックリさせたな。よし、看板を取り付けたら飯にしよう!奥の台所で何か作ろう!」


「えっ!トモ兄ぃ作れるの?」


「私も手伝います」


「サラも手伝う」


 入口トビラ横に看板を取り付けると俺たちは奥の部屋へそれぞれ食材を持って行くのだった。

 大きな鍋はまだ使える状態だ。適当に足の速い食材を使って煮込みものと後はパンを買ってあるからそれを食べるとしよう。

 俺たちは4人で調理をしポトフ的なものを沢山拵え、みんなで夕食を食べたのだった。


「それじゃあ、また明日の朝に来るからな。みんな早く寝るんだぞ」


「うん」

「わっかりましたーー」

「おやすみなさーーい」


 みんなの声に送られて俺はスノウスワロウに帰ると残っていた材料で空中ゴマを作れるだけ作った。

 ペイントまで終えて数えると12個あった。

 まあ、明日の商売は早めに切り上げて、子供たちの指導育成と行くか。

 という事で俺は眠る事にした。

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