捜査って素敵やん
「ありがとうございます。実はこの街で捜査をしているのですが協力的でない方がおりまして、捜査の性質上、衛兵隊についてきてもらうわけにもいかないので困っていた所なんです。そちらの聞き込みに同行して頂きたい、というのが依頼になります。」
そうアッシュバーンさんが言う。
「ほうほう、これは面白くなりそうだのう。」
「くふふ、キーケちゃん、嬉しそうな顔をしてるぞ!好きだねえ、こういう話し。」
「シエンこそな。きひひ。」
「あらあら、ふたりとも殺さないように気を付けてくださいね。トモトモに迷惑かけないようにしてくださいよ。」
「アルスちゃんありがとうね。シエンちゃんもキーケちゃんもくれぐれもお願いね。腹が立ってもなるべく戦意を喪失させるくらいでよろしくね。」
「くふふ、任せとけ、我らとて鬼ではないぞ。なあ、キーケちゃん。」
「きひひひ、シエンの言う通りよ。さあ、早く行こうではないか。」
「もう、ワクワクしてるし。」
「うふふふ、それではアッシュバーンさん、お願い致します。」
「わかりました。みなさん、出発してもよろしいですか?少しばかり荒事になるかもしれませんが。」
「これ、置かせて頂いてもよろしいですか?。」
俺は部屋の隅に置いた舟の分解部品が入った袋と背嚢を指さす。
「はい、ギルドで責任を持ってお預かりいたします。」
グレチェンコギルド長がそう言ってくれたので、安心して任せることにする。
俺たちはアッシュバーンさんに続いてギルドを出る。
「本当にありがとうございます。私はどうも見た目のせいか軽くみられる事が多くて。仕事上、任務内容を告げることができないことが多いので毎回こうした事で頭を悩ませているのですよ。」
「きひひ、わかるぞ。あたしも若い頃はそうだった。その度に無用な戦いをせねばならず難儀したわ。」
「確かに、見た目で判断される方は多いですよね。わたしも見た目で色々と不自由な思いをしてきました。」
「アルスは見た目が、まんま子供だからな。我など見た目からして大人の淑女だからな。この見た目は得だぞ。なんたってな、人気のない裏路地なんかに行くだろ?そうすると、すぐににな、」
「ちょっとちょっと!シエンちゃん!お国の安全を守ってらっしゃる方の前で何を言おうとしてらっしゃるの!。」
「そうだったそうだった。これは失態だったな。」
「シエンさんの言わんとされる事、わかります。人気のない裏路地なんかに行くとすぐに不逞の輩に絡まれるんですよね。まったくもって、嘆かわしいですし、これも我々の力至らずでして恐縮です。」
「いやいや、そんな、アッシュバーンさんがそんなに思われることはないですよ。いつの世も悪は絶えないものです。それでも、レインザー王国の国民がこうして安心して暮らせるのはアッシュバーンさんたちのおかげなのですから。」
どうやら、アッシュバーンさんは真面目で責任感が強い人のようだ。
「そう言って頂けますと、とてもありがたいです。」
「しかし、ジャイアントアーミーアントの人為的繁殖は成功しておれば大きな災害になっとったろうが、もひとつのネズミな。あれは何のつもりだったのかのう?。」
キーケちゃんが言う。
「あれについては、隣国の歴史に詳しい学者が言うには、過去、隣国では何度かそうした生き物が過剰に大繫殖した事例があるようです。その度に作物が大打撃を受け、民衆は飢餓と貧困に見舞われ、それでも国は租税を変わらず取っていたため、民が一斉蜂起し内乱が起き国は混迷を深めたそうです。その度に、国の中枢を担う勢力が変わったのだそうですよ。」
「現在のレインザー王国では、そこまでの事にはなるまい。各領主と国王の連携も取れておるし、例え今期の作物が大打撃を受けたとしても、それだけで国中の民が飢餓と貧困に見舞われるほど脆弱な政策は敷いてはおらんだろ。」
「キーケさん、ありがとうございます。そこまで我が国を理解して頂けるとは嬉しい限りです。しかし、隣国ではそこまで理解されていないようです。」
「情報が古いのだろうな。潜入する者たちの活動範囲も限られているのだろう。あのレベルでは、長期の滞在は怪しまれるだろうからな。それを考えると、今回の奴らの亡命は痛いのではないか?。」
シエンちゃんが言う。
「ええ、本当にそうです。水際で食い止められなかった事が悔やまれます。」
「まだ、わからないですよ。」
アルスちゃんが言う。
「どういうことですかアルスさん?。」
「まだ、彼女たちが国外へ出たとは限りません。我々が回収した品物は潜入者が手にすべき物だったはずです。それが、そのまま海上にあったという事は潜入者がまだ来ていないと考えられます。隣国へ行く手立てが潜入者の入国と入れ替わりならばどうでしょうか。さらに、錨が付いていたロープが切れた痕跡があると言ってましたよね。ここしばらく海が荒れていたのではないですか?。」
「確かにそうです!。」
アッシュバーンさんの声のトーンが上がった。
「すげーな!アルスちゃん!名推理だ!。」
俺は言った。さすが見かけは子供、頭脳は大人!ネクストアルスヒントは何!
「きひひ、アルスの言っていることは仮定の上の仮定よ。だが、まあこの際、その方が面白い。」
「面白いほうが、良いな!。」
シエンちゃんも続ける。
「もしも、そうだとしたら、下手をすればA級ひとりとB級4人相手の戦闘になるかも知れません。どうされますか?その危険性がある以上、ここで依頼を辞めるのも正当な権利です。」
アッシュバーンさんが言う。カッコイイねー。凛としてますな。勿論、我々の答えは決まっている。
「なにを言ってる。辞めるわけなかろうが。なあ、みんな?。」
シエンちゃんが言う。
「うふふ、一応、わたしたちもB級ふたりにC級ふたりのパーティですからねえ。」
「きひひひ、冒険者ランクなどでは測れぬ強さもある。我らがその良い例だと教えてやろう。」
「と、そういうわけなので、引き続きよろしくお願いいたします、アッシュバーンさん。」
「ご協力感謝いたします。」
「いやいや、我々も仕事ですから。」
俺は答えた。
「もっともっと歯ごたえのあるやついないかな。楽しみだなあ。」
「シエンさん、くれぐれも無用な殺生と大規模な破壊は慎んでくださいね。」
「そうだぞシエン。基本的に魔法禁止で行こうではないか。体術のみで、どうだ?。」
「くふふ、望むところだ!。アルスとトモちゃんはどうだ?。」
「わたしは構いませんよ、でも、シエンさん、ひとりで突っ込みすぎないように気を付けてくださいよ。何があるかわからないんですから。」
「俺も構わないけど。それじゃ、ちょっと飛び道具仕入れてもいい?。」
「ははーん。あれだな!釘だな!。」
シエンちゃんが言う。
「正解!どこか売ってるところありますかね?。」
俺はアッシュバーンさんに聞いた。
「それなら通り沿いに金物屋さんがありますけど。」
「ではちょっと寄って行っていいですか?。」
「ええ、案内しますね。」
という事で、金物屋さんに立ち寄ってもらい釘を買う。
俺が購入しているのを見てどうやらみんなも思う所があったようで、次々に購入しだす。あのキーケちゃんまで買っていた。
キーケちゃん曰く、こうした小型の武器を隠し持ち戦う武術も心得ているとの事。やはり師匠とお呼びしたい!
まあ、呼ばせては貰えないのだけれども。
買い物も済ませて引き続きアッシュバーンさんに案内してもらい、非協力的な人物に会いに行く事になるのだが気になるのはその人物の詳細だ。俺は単刀直入に聞いてみた。
「ちなみに、その非協力的な人物、と言うのは?。」
「デフマス・ヒュエイムといって玉の売買で財を成し、それを元手に諸外国との交易業で大成功を収めた大富豪です。その財力で貴族界にも太い繋がりがあります。彼に多額の借金をしている貴族も少なくないと言います。」
「協力的でないのはなぜなのでしょう。」
アルスちゃんが聞く。
「それは彼の裏の仕事にかかわることだと思います。とかく黒い噂もある人物です。」
「ほう。どんな噂なのだ?。」
嬉しそうにシエンちゃんが聞く。
「人身売買、違法薬物、御禁制品などの取り引きですね。それに関係して犯罪組織との繋がりも噂されています。」
「実際のところ、どうなのだ?。」
「これが難しい所なのです。現在のレインザー王国では衛兵隊の運営が非常に上手くいっております。賃金や保障が手厚いので優秀な人材が集まっている、というのもあるでしょうし国王の善政による所も大きいでしょう。そうした理由で、王国全土に及ぶ大規模な犯罪組織というのは育ちづらく、今現在では確認されておりません。逆に言えば、管理しづらい小集団が増えたと言えます。また、犯罪行為のみを収入源にしない組織も増えているようです。そうした組織は表の顔を持っていますので、余計にわかりづらくなっています。違法売買の現場を押さえても、末端のチンピラが捕えられてお終いというケースが非常に増えており、我々としても犯罪組織の存在自体を掴みづらくなっているのが現状なのです。」
「ウーム、昔はどこそこの大親分みたいに呼ばれる者が居たものだったが、今ではそうしたものも廃れてしもうたか。」
「まあ、そうですね。これから行くのはデフマス・ヒュエイムの本邸です。何度行っても門前払いで本人に会う事も出来なかったのですが、今日は少し強引に行こうかと思っています。」
「おっ!いいねえー!強引!いいねー!。」
シエンちゃんが舌なめずりする。
「なにか手があるのですか?。」
アルスちゃんが尋ねる。
「ええ、皆さんがいますのでハッタリかましてやろうと思っています。」
「ほほう、面白そうではないか。具体的な策を聞かせてみよ。」
キーケちゃんが嬉しそうに尋ねた。
アッシュバーンさんの策を聞きながら俺たちはデフマス・ヒュエイム邸へ向かったのだった。
「まさか、この家がそうですか?。」
「はい、そうです。」
案内されたのは高い塀に囲まれた、とんでもなくデカいお屋敷だった。これは、王都で止まらせてもらったVIP用の宮殿みたいな宿泊施設より大きい。ただ、あれは宮殿のような優雅さが感じられたがこっちは要塞みたいな印象を受ける。何故か考えてすぐにわかった。窓が少ないんだ。
「窓が少ないですねえ。襲われることを極端に恐れているのでしょうね。だからこそのあの策なんですけど。」
「きひひ、アルスはもう中に入ったようだぞ。さて、我らも行くとしようぞ。」
キーケちゃんが言う。
「はい。それでは皆さん。手筈通りお願いします。」
「了解!。」と俺。
「心得た。」とシエンちゃん。
「キヒッ。」キーケちゃんは笑うばかり。
「また、あなたですか。主人はお会いしないと何度も申し上げたはずです。あまりしつこいと主人も頼むところに頼むと言っております。いい加減にしては頂けないでしょうか。」
門の前でアッシュバーンさんの姿を認めた屈強な男が声をかけてきた。
どうやらアッシュバーンさんは顔を覚えられるほど何度も来たようだ。本当に仕事熱心で真面目な人だよ。
ま、この策は真面目なだけじゃ思い浮かばないけどな。
「今日、伺ったのは別の話しです。情報筋よりヒュエイム氏の暗殺計画についてかなり具体的な話しを掴みましたので、その確認に来たのです。ヒュエイム氏は御無事ですか?。」
「そんな話しはこちらの耳には入ってませんが、主人も敵が多い方ですから、用心はしております。中にもその道のプロが大勢詰めています。御心配下さって感謝しますが、今日のところはお帰り下さい。」
「そうもいきません。私も王国に使える身です。王国領内での暗殺など見過ごせるものではありません。早く、中に入れて下さい。」
アッシュバーンさんはそう言って門を通ろうとする。
「ちょっと待ってください。勝手に通らないでください。」
ドゴーーーン!
「キャーーーー。」
大きな物音と女性の悲鳴が鳴り響く。
「問答している暇はありません!通ります!。」
「えっ?あっ?今のは?まさか。」
動転している門番を尻目に我々は中に入る。
「どうしたーー!。」
「なにがあったーー!。」
中に入ると慌てる声があちこちでしている。
植え込みの陰からアルスちゃんがトコトコと出てくる。
「うまくいったようですね。」
「アルスさん、ありがとうございます。さあみなさん、玄関へ行きましょう。」
アッシュバーンさんに続いて玄関へと向かう。
途中、屋敷の壁に大きな穴が開いており、大勢のボディーガードが集まって中を調べろだの何だのとやっていた。
「アルスさんあの穴はどうやって?。」
アッシュバーンさんが聞く。
「はい、魔法禁止なので殴りつけました。うふふ。」
「そ、そうですか。」
笑って答えるアルスちゃんと返事がひきつってるアッシュバーンさん。
それでもなんとかキリっとした姿を取り戻したのはさすがだ。
「ごめんください!大丈夫ですか!王国安全対策委員会のアッシュバーンです!どなたかおりますか!。」
トビラを叩きながら大きな声で身分を名乗るアッシュバーンさん。
「ちょっと、どうやって玄関まで入ってこれたのですか?困ります。」
ドアを開けて屈強な男が言う。
「王国安対のアッシュバーンです。」
懐からカードを出して言うアッシュバーンさん。
「それはわかりましたが、困りますよ、勝手に入ってこられたら。」
「ヒュエイム氏は御無事ですか?ヒュエイム氏と話しをさせて下さい。」
「ですから、そうした事は事前にお知らせください。お帰り下さい。」
「今の爆発騒ぎは、ヒュエイム氏暗殺計画の一端かも知れないんです。帰るわけにはいきません。」
「お入り頂きなさい。主人がお会いするとの事です。」
トビラの奥から白髪の初老女性が声をかけてきた。
「ですが。」
「お前はいいから下がって壁の修復を手伝いなさい。」
静かに初老女性が言う。
「失礼をいたしました。」
男は背筋を伸ばして踵を返した。
どうやらこの女性はこの屋敷内でかなり強い立場にあるようだ。
「どうぞ、お入りください。ご案内いたします。」
そう言う女性の後に続き我々は中に入る。
最後に俺が入ろうとするとキーケちゃんが小さな声で俺に言う。
「あの女、かなりやるぞ。」
「まじで?。」
「ああ。きひひ。」
まったく、物騒なところに来ちまったなあ。
中に入ると、これまた豪華絢爛、金がかかっているとひと目でわかる内装だ。逆に言えば、金がかかっているだけとも言える。
「目障りな家だな。」
シエンちゃんが言う。
「わたしもそう思います。」
アルスちゃんが続く。
毛足の長い絨毯が敷き詰められた階段を昇り、大きなホールを通り過ぎ、長い廊下を渡り頑丈そうなトビラをくぐり、さらに廊下を進み、階段を下り、また頑丈そうなトビラを開けて中に入り、中規模のホールを抜け長い廊下を通りドン付きのトビラの前で女性は歩みを止めた。
「少々お待ちください。」
そう言って中に入る女性。
「ここに来るまで随分いろんな所を通らされたけど、随分と人の気配がしたねえ。」
「トモもわかるようになったのう。シエン師匠の修行の賜物かのう。きひひ。」
「くふふ、さすがは我の弟子よ!くふふ。」
「押忍!シエン師匠!これからも研鑽を積みます!。」
「やっぱ師匠やだなー。ちゃんがいいぞ!呼び方は戻してくれ!。」
「えー、なんか雰囲気出ないじゃん。」
「頼むよー、トモちゃんからシエンちゃんと呼ばれるのも我の楽しみのひとつなのだよー。」
「わかったわかった。わかったからそんな声出さないで。ね?。」
「おう!わかったなら良いぞ!。」
「どうにも緊迫感にかけますねえ。」
アッシュバーンさんが言う。
「うふふ、すぐに慣れますよ。」
「きひひ、慣れても困るろうに。ほれ、迎えが来るぞ。」
キーケちゃんが言うとすぐにドアが開く。
「お待たせしました。どうぞ中へお入りください。」
案内してくれた初老女性がドアを開けて招き入れてくれる。
アッシュバーンさんを先頭に中へと入る。
中は窓のない大きな部屋で、手前にソファーとテーブル、奥にバーカウンターが見て取れた。
バーカウンター横には大きくて豪華なソファーがあり、そこにはでっぷり太ったオールバックの中年男が座ってグラスを傾けていた。
「声は聞こえるだろうか。」
男は粘着質な少々甲高い声で俺たちに言った。
「ええ、十分聞こえます。」
アッシュバーンさんが答える。
「ではそこのソファーに座ってくれたまえ。」
我々は彼の言う通りにする。案内してくれた初老女性は静かに太った男の横に立った。
「自己紹介するまでもないと思うが、私がデフマス・ヒュエイムだ。君は王国安全対策委員会のサンドラ・アッシュバーンだな。一緒にいるのは君に雇われた冒険者といった所か。ブルマイアの見立てではかなりの腕のようだな。」
そう言ってヒュエイム氏は初老の女性を見た。どうやらこの女性、ブルマイアという名のようだ。
「はい、くれぐれも敵対行動をとられませぬようお願い致します。私を含めてこの屋敷の者全員で当たってもヒュエイム殿を守れますかどうか。」
「ブルマイアにここまで言わせるとは。恐ろしい事よ。聞かせてもらおうか、暗殺計画とやらを。」
「では私が説明させて頂きます。私はトモ・クルースと申します。」
「トモ・クルースだと?どこかで耳にしたことがあるな。なんだったかなブルマイア。」
「ヒュエイム殿、例のモミトスの発見者に捜査が入るきっかけになった事件です。」
「おお、そうかそうか、オゴタイの記者と脱会した幼子を襲撃者から守り抜いた冒険者か。あの件では大いに儲けさせてもらった。そうかそうか。話しを聞かせてくれ。」
「はい、そもそもはその時に専門職の殺し屋集団に何度も襲撃された事が原因なのですが、複数回彼らと戦い、撃退したのですが、彼らに死者は出ず衛兵に捕縛される者も出ませんでした。捕える機会はありましたが、彼らを捕えてもろくなことはないので見逃しました。」
「ほう、捕えるとどうなるのだ?。」
「周りを巻き込んでの自害、もしくはその仲間が依頼以上の執念で関係者を殺しに来るとか。」
俺は答える。
「本当かブルマイア。」
「はい。確かな話しです。」
「そうか。続きを頼む。」
「というわけで、暗殺集団とはそれほどの遺恨を残さずに依頼を済ませることができたのですが、どうしたわけか向こうさんに気に入られたようでして、コンタクトを取られるようになりまして。」
「なんと。それでは、暗殺集団と接触しているのか?。」
「いいえ、さすがに直接は。途中に幾つもの中継を挟んだ末端からの一方的なものですから、後追いも出来ませんよ。そうした末端のひとつから得た情報なのです。その集団に対してあなたへの暗殺依頼が来たと。」
「続けてくれ。」
「私にコンタクトを取っている集団は、モミトスの件で表に出すぎた事と消耗が少なくなかった事を理由に断ったそうです。本当の理由は依頼内容に虚偽があったからだそうですが、そこまで詳しいことはさすがに口にしませんでした。依頼者は別の所に頼む、と言って去っていったそうです。」
「そうか。・・・しかし君はそんな情報を持ってきてどうしようと言うのだ?金が目的か?。」
「いいえ、理由のひとつはその集団から伝えてやってくれと頼まれた事です。彼らも彼らなりの専門職としての矜持なのか商業原則なのか、そうしたものがあるのでしょう。その辺りの事はヒュエイム氏の方がご理解されておられるかもしれませんね。」
「まあ、わからぬでもない。ふたつめは?ふたつめはどうなのだ?。」
「はい、こちらが本命の理由になります。その集団はどうやら私とコンタクトを取りながら、私がその集団に復讐をするようなことはないか見張っているようでして、こちらにはそんな気はないのですが、口で言っても信用しないのがあちらの流儀らしく、今回の話し上手く使ってくれ、それで手打ちにしてもらいたい、と言われています。話しの持って行き方次第では依頼者がどこの組織にも依頼できないように取り計らうことも可能だと言われています。ここからは、アッシュバーンさんに話していただきましょう。」
「では、改めまして王国安全対策委員会のアッシュバーンです。最初にお断りしておきますが私が現在追っている案件は、隣国よりの破壊活動及び諜報活動となります。その調査過程で王国法に反する事を目にしたとしても、人道にかかわることでなければ、追っている案件に集中したいと思っています。ご理解頂けますでしょうか?。」
「ぐ、ああ。わかった。」
「ありがとうございます。では、単刀直入にお伺いいたします。あなたの裏の仕事を引き受けている組織のアジトを教えて頂きたい。彼らが何らかの形で隣国に協力している可能性があります。」
「バカな!そんな事をすれば己の首を絞めるようなものだ!。」
「はい、その通りです。裏稼業の方であろうと誰であろうと、王国の国土に暮らす国民であるならば隣国の諜報、破壊行為は生活の基盤を脅かすものです。ですので、おそらく事実を知っているのは少数なのではないでしょうか。もしくは、誰もそうと知らずに加担している可能性もありますね。お金だけ貰えれば、依頼者の素性も依頼内容の前後も知らなくても良いといった仕事の受け方をするのかも知れません。」
「そうだ、確かにあいつらはそうだ。私も、もうあいつらなどとは付き合いたくはないのだ。だが、一部の貴族連中への貢物を調達するためにはどうしてもあいつらが必要だったのだ。できることならば、私も後ろ暗い事などもうしたくない。」
「それなら、恐らくは心配ないと思いますよ。隣国の破壊活動の一環と見られるジャイアントアーミーアントの人為的繁殖事件において、禁止されている卵の移動が行なわれていた事を重く見た国は、違法な物品の売買に対して大規模な取り締まりを行う事を決定いたしました。御禁制品、違法薬、人身売買に関して所持も厳罰になりますのでご注意ください。」
さてと、こちらが出せるカードはすべて出した。どう出る?
「・・・どう思うブルマイア?。」
「良い条件だと思われます。身辺をキレイにする良い機会でもあるかと。」
「わかった。地図を持ってきてくれ。」
「わかりました。」
という事で、我々は無事に隣国に協力している可能性が高い犯罪組織のアジトの地図をゲットしたのだった。
屋敷の出口まではブルマイアさんが案内してくれたのだが、別れ際に、懸案事項が解決されました、感謝します。と頭を下げられたのだった。
「きひひ、あの女、ブルマイアと言ったか。トモのハッタリに気づいておったな。その上で乗っておったな。」
「あいつもオッサンの違法な仕事を辞めさせたかったのだろうよ。」
「あらあ、シエンさんたら随分と人の気持ちがわかるようになって。まあ、驚きましたよ。」
「何を言うかアルス!我はこう見えてもな、事務所のみんなからは明るいお悩み相談姉さんとまで言われておるのだぞ!どうだ!凄いだろ!。」
「きひひ、その称号が凄いのかどうかはわからぬが、あの女の思いはシエンの言う通りであろうよ。それによ、アッシュバーンの取り引きも効いたな。」
そうなのだ、アッシュバーンさんの言った所持の厳罰化に注意しろとは、所持しているなら気を付けろよと言う警告であり、情報を引き出すための取り引き材料のひとつだったのだ。
「いや、お恥ずかしい限りです。しかしクルースさんも大分役者でしたねえ。」
「ああ、なかなか迫真の演技だったぞ。あの女には通じなかったようだがオッサンは完全にビビってたからな、くふふふ。」
「確かにヒュエイムの奴は持ってたグラスに一度も口を付けませんでしたね。それにトモさんのお名前を出したのも良かったです。奴はモミトスの発見者の没落で共倒れになった商会の穴埋めでかなりの利益を上げたようですからね。」
アッシュバーンさんが言う。
「うふふふ、大体にして幾ら何でも屋敷の奥に引っ込みすぎですよね。怯えていますよ、と宣伝しているようなものです。」
「もっともだ。家も要塞みたいだったしな。」
「きひひ、人間、過剰に物を持つと失う事を過剰に恐れるものよ。」
「しかし、我は消化不良だな。次こそは楽しませてくれような。」
「まあまあシエンちゃん、穏便に済めばそれが何よりなんだから、ね?。」
「さすがに次は穏便にいかないと思いますよ、トモトモ。」
「やっぱり?。」
「それはそうだろうよ、なんせ犯罪組織だからのう。きひひひ。楽しみだのう。」
「くふふふ、楽しみよな。」
どうなることやら。




