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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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キャンプって素敵やん

「言ったろう?。」


 キーケちゃんの声だ。


「わかったって!もう!薄々認めておったよ我は!。」


「うふふ、でも、嬉しいですねえ。」


 みんなの姿が見えたので俺は声をかける。


「どうだった?場所わかった?。」


「きひひひ、わかったぞ。プテターン領のラウム山に入っとる、なんならクブロスカに近いわ。」


「うふふ、幾らも行かないところに湖がありました。近くに例の消える小さな湖もありましたよ。うふふ、あれが、地下でつながっているんですねえ。」


「ま、そういうわけだ。シエンも認めざるを得まいて、キヒヒヒ。」


「だーーかーーーらーーー!もう、何度も言っていようが、認める、と!。まったく!年寄りはくどくていけない。あたた!いたーー!。」


 また、頭をはたかれてるよ。


「あら、いい感じに火が着いてますねえ。食事にしましょう。」


 アルスちゃんが言う。


「おう!肉を焼こう!。」


 シエンちゃんが言う。


「いいねえ、焚き火で焼いた肉は美味いんだよなあ。」


「キヒヒヒ、トモよ、こんなものがあるがどうだ?。」


 キーケちゃんがザックから革でできたひょうたんみたいな形の水筒を出してきた。


「あれれ?もしかして?。」


「酒だよ。カップもあるぞ。アルスとシエンもどうだ?。」


「わたしはお酒はちょっと。ご遠慮させて頂きます。」


「我もなあ、頭が痛くなるのだ。」


「そうか、トモはどうだ?。」


「いやー、頂きますよー。焚き火を見ながら、肉をつまみに一杯なんて、最高ですよーー!イヒヒヒヒ!。」


「きひひひ、いける口だな、まあ、一献。」


 そう言ってカップを俺に渡して酒を注いでくれるキーケちゃん。


「いやいやいや、こりゃ、どーも。おっとっとっと、ありがとうございます。では今度は私が。」


 注がれたカップを一旦置いて、今度は俺がキーケちゃんのカップに注ぐ。


「きっひっひっひ、こんなのも、いいものだな。では。」


「乾杯。」


 お互いカップをかかげてから、キュッっと飲む。かなり強い酒だ。ウィスキーのようだ。麦で作った蒸留酒だろう。濃い芳醇な香りが鼻から抜け、胃にポッと火がともる感触。


「くぅーーー。美味い。いい酒ですねーー。麦の蒸留酒ですね。いやー、最高だわ。」


「きひひひ。いける口だのう。きひひ。所で、穴の周りに柵をこしらえたのはお主か?。」


「はい、そうですよ。」


「なぜ、塞がずに柵を拵えたのだ。」


「ああした穴はきっと他にもあるでしょう。柵で囲っておけば見た人への注意喚起になるかなって。」


「きひひひ、トモよ、お主らしいのう。悪くないぞ。」


「いやいや、てへへ。」


「肉が焼けたぞ!ほれ!。」


 シエンちゃんが削った木に刺した肉をふたつ、俺とキーケちゃんに渡してくれた。


「おっ!ありがとう!うまそーー!。」


「きひひひ、いい匂いがするのう。頂くぞ。」


「こっちは肉と野菜を適当に炒めたものだ、良ければつまんでくれ。」


 シエンちゃんがコッヘルの蓋を皿にしてこちらへよこした。皿には木製のフォークが2本添えてある。


「いやいや、これはこれは、うん、美味いですねー。丁度良い塩気だ!。」


 一口食べて俺は言う。


「きひひひ、シエンが作ったのか?やるではないか。」


「くっふふふ。美味いだろう?アウロさんのおかみさんに教わった味付けだ。働いた後に食べると美味しさが倍増する味付けなのだそうだ。くふふふ。我ながら美味いぞ。」


「本当に美味しいですよ、シエンさん。後でわたしにも教えてくださいな。」


「おう、いいぞ!。」


「ありがと、シエンさん。」


「くふふ、アルスが我に何かを教えてくれとは珍しいからな。我こそ嬉しいわ。」


 アルスちゃんとシエンちゃんが仲良く話しをしてる。仲良きことは美しきかな。野菜の味もひとしおだよ。


「きひひ、トモよ、先ほどひとりで焚き火を見つめながら何を考えておった。」


「先ほどと言いますと?。」


「あたしらが帰って来る前よ。穴の奥からビョウビョウと寂寞な気配が伝わってきおったのでな。あやつらの声が届く頃には消えたが。あの気配は、まるで深い山中で傷ついた1匹の狼に出くわしたような、そうした感じがしたものでな。」


「いやあ、そんなでしたか?お恥ずかしい。」


「恥ずかしがることでもあるまい。それに、あいつらも気づいとったぞ。」


「えー、本当ですか?。」


「ああ、シエンの奴など一瞬泣きそうな顔をしておった。その後、殊更大きな声を出していたよ。まるで、お主を励ますかのようにな。」


「そうでしたか。・・・本当にありがたい事です。良い仲間に巡り合えました。」


「きひひ。そうか。」


「はい。」


 俺とキーケちゃんはそう言って、再びカップを傾ける。

 アルスちゃんとシエンちゃんの話し声をBGMに俺とキーケちゃんは肉を食べ、酒を飲み、語り、野菜炒めをつまみ、酒を飲み、語った。


「ふむ、お主も数奇な人生よな。こうして、この世界に来た事もそうだが、前の世界での経験もなかなかに難儀であったな。そうしたものをくぐっておきながら、そうして振る舞い他者に悲壮な姿を見せぬはお主の強さよ。ふむ、少し興が乗ったな。」


 キーケちゃんはそう言うとザックから何かを取り出した。

 それはコンサートサイズのウクレレ程の大きさの弦楽器だった。

 ネックが太く、弦が2本づつ6か所に張ってありペグ部分が直角に折れているのが見て取れた。

 どうやらリュートのようだ。

 キーケちゃんは弦をはじきながらペグを調整し音合わせをしている。

 とても神秘的で雰囲気のある音がする。


「なんだ?キーケちゃんは楽器が使えるのか。」


「それはそうですわ。なにしろ戦場の歌姫と呼ばれた方ですから。」


「歌姫が楽器を使えるとも限らないぞ。」


 ポロン、ティロロリロリロリ。

 キーケちゃんが丁寧に弦をはじき出す。

 とても温かみを感じる柔らかな音色だ。

 俺とシエンちゃんとアルスちゃんは静かに耳を傾けた。

 しみじみと身体に染み込むような音楽だった。

 ちょっとエキゾチックな感じがするようなメロディーは、物悲しくも聞こえる。

 俺たち3人は時を忘れて、キーケちゃんが奏でる音に酔いしれた。

 まるで、よくできた物語を聞いているように、時に勇壮に、時に牧歌的に、時に情熱的に、メロディーは変化し、クールダウンし演奏が終わった。

 俺たちは自然と拍手をしていた。


「素晴らしかったですわ。」


「うむ。心に響いた。」


「実に良かったです。」


 俺たちは各々感想を述べた。


「きひひ、お粗末様じゃ。」


「今のは何と言う曲なのですか?。」


 俺は聞いてみた。


「ジーフサ我が故郷よ、と言う曲だ。」


「ジーフサとはあのジーフサ山のジーフサですか?。」


「きひひ、そうだ。だが、この曲で言っておるのはジーフサ川だがな。アルスはこの曲の背景は知っておるか?。」


「はい。」


「では、よければトモの奴に聞かせてやってはくれぬか。あたしは喉が渇いたでな。」


 そう言って、酒を飲み始めるキーケちゃん。


「教えてよアルスちゃん。」


「我にも聞かせろ。」


 俺とシエンちゃんが聞く。


「はいはい。この曲はまだ王国がひとつになっていなかった戦乱の頃に作られた曲だそうです。当時ジーフサ川周辺は今では存在しない当時の豪族の領でした。元々はレインザー伯領だったのですが戦に負け占領されていたようです。この曲にはレインザーの復興と勝利への願いが込められていると言われております。この曲のタイトルもレインザー我が故郷よ、だったのですが占領下ではそれも許されるわけがなく、ジーフサに変えたと言われています。」


「ほうほう、なるほどな。そのような思いと背景で作られたものだったのか。あの曲の表情の変化もうなづけるよ。」


「おっ!シエンちゃんたら粋なことを言いますなあ!ほんとにそうだよなあ。」


「褒められるのは嬉しいが、トモちゃんは酒臭いのう。」


「いひひひ、そう?なんだか今日は楽しくてねえ。酒が進んじゃって。」


「きひひひ、そうだのう。いいものだなあ。」


「いいものですねえ。」


 そう言って俺とキーケちゃんは酒を飲む。


「さて、酔っぱらいは放っておいて我は寝るとするかな。」


「わたしもそうしますね。おやすみなさい。」


「きひひひ、お子様2人はお眠の時間か。後は大人の時間よう。」


「にしししし、まだつまみも少し残ってますなあ。もう1軒行きますか?。」


「おうおう、はしごじゃな。きひひ。」


 というわけで、もう少しだけキーケちゃんとふたりで飲むことにする。


「しかし、トモよ。お主は前世界では幾つだったのだ?。」


「えーと、なんだか随分昔の話しみたいに感じられるもんで、とっさに思い出せないなあ、えーと、40も半ばはこえておりましたなあ。」


「ふむ、そうか、もしかしてお主、前世界の記憶が段々と消えていってるのではないか?。」


「いや、そんな事はないですよ。元々、前世界で40過ぎた辺りから自分の年齢をあまり意識しなくなったもんで。」


「そうか。なら良いのだが。お主のような者の話しは聞いたことがないが、なにか自然の摂理の外にあるように感じられてな。そうしたことわりの外にあるものには、何らかの代償を伴うのが常であるからな。アルスもそうであろうて。不死者は死という摂理から外れた代わりに多くのものを失う。その多さが理解できるか?。」


「なんとなくは。最も辛いのはやはり、ひとりである事なのか、と。」


「うむ、そうだな。不死者同士で一緒に行動することはまずない。まあ、存在自体が珍しいのだが。それでも、この世の中にアルスだけと言うわけではない。あたしも会ったことはある。だが、そ奴は永遠の眠りを選んだ。不死者は消えない、が眠りはする。存在することに飽いた不死者から大金を貰い、親子代々眠りの魔法をかけ続ける事を生業とする一族がいる。そ奴もそうすることを選んだのだよ。常に周囲に気を払い、明るく愉快な奴だった。暴力を嫌い話し合いで物事を解決することを選ぶ男だった。あたしが唯一惚れた男だった。」


 俺は黙って話しを聞いた。


「きひひ、少し飲みすぎたかね。どうもお主には奴と似た匂いがするでな。」


「そうでしたか。・・しかし、不死者同士で行動をしないのはなぜなのでしょう。」


「それは、あたしは不死者ではないので本当のところはわからぬが、奴に聞いてみたことはあった。」


「なんとおっしゃられてました?。」


「消えないものには心動かされない、と。」


「そうですか。」


「また、こうも言っておった。心が動かされる度に心が減っている気がする、と。心を失いたくないと、そう言っておったよ。」


「そうでしたか。」


「ああ、難儀なものよな。」


「本当に。ですが、やはり、愛しいですな。」


「愛しいか。」


「はい。やはり、不死者であろうと龍であろうと、人であろうと、心がある限り悩みや苦しみは無くならぬものですね。それが、とても愛しいです。」


「そうか。きっと奴もそう思っていたのだろうな。」


「その方のお名前は何と?。」


「ナスタだ。」


 それは、キーケちゃんの冒険者カードにあった名前、ナスタシアに入っている名前だった。


「では、ナスタさんに。」


 俺はそう言ってカップを掲げた。


「おう、ナスタに。」


 そうして、静かに深く夜は更けていくのだった。

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