焚き火って素敵やん
「しっかし、いつまで続くのかね。さすがに代り映えのない景色に飽き飽きしてきたぞ。」
シエンちゃんが言う。
先ほど食事をとってからどれだけの時間が経過したのだろうか。シエンちゃんじゃあないが、腹が減ってきているってことは結構な時間が経過したのだろう。なんの変化もない景色が延々と続くのは、やはり退屈するものだ。
そして、ずっと溶岩洞窟内を流れる地下水脈に沿って舟で移動するのは、まだライトの魔法で明るくて仲間もいるから耐えられるけど、ひとりで暗闇のままならとても耐えられないと思う。
「この先に地形の変化がありそうだな、水音が変化しとる。恐らく陸地があるのではないかな。」
キーケちゃんが言う。
言った通り、しばらく進むと、ってよりも流されて行くと、と言った方が正確だがまあ、進むと陸地が現れた。最初に歩いて侵入したところのように水路に沿って横幅1メートル程の陸地が続いている。
「ほいっと。」
シエンちゃんが軽い掛け声をかけて陸地へ飛んだ。
恐るべきことに舟は揺るぎもしない。
「くふふ、我は陸地を走ってついていくとしよう。くふふ。」
タッタカタッタカと軽快な小走りで舟に並走するシエンちゃん。
「きひひ、まったく、じっとしておれんやつよ。」
キーケちゃんが言う。
「どーだ?オババも一緒に走らんか?。イッテーーっ!。何ぶつけたーー!。」
「きひひ、水をすくってぶつけただけよ。」
「あいたたた、いつぅーー。ホントにただの水か?金剛石でもぶつけたんじゃああるまいな?。」
「きひひひ、今一度見せてくれようぞ。」
「ぎゃっ!勘弁してくれ!悪かった!まったく、キーケちゃんといいアルスといい、離れていても安心できぬ。」
「うふふ、シエンさんが余計なことを言わなければ良いだけの事ですよ。」
「ちぇっ。」
あはは、ふくれてるよ。かわいいねー。
「シエン!舟を止めよ!。」
「あいよ!。」
キーケちゃんに言われてノータイムで舟を止めるシエンちゃん。何だかんだ息あってんだよなあ。
「あら?この先もしかして、滝ですか?。」
アルスちゃんが言う。
「どうも、そうらしいの。一旦舟を上げるぞ。皆、陸にあがれ。」
キーケちゃんが言うので陸に上がる。
「よいせっと。」
キーケちゃんが降りた後の舟を陸にあげる。
「ちょいと、見てくる。」
シエンちゃんがそう言って文字通り空を飛んで行った。
「大した高さじゃないけど、ちょっと舟じゃ無理だなあ。でも、この先に迂回路っぽいのがあるぞ。舟を分解していくか?。」
「いや、ここに舟が置かれとらんとこを見るに、奴らも運んだに違いない。このまま運んでいこう。」
さすがにキーケちゃんは、色々と踏んでる場数が違うのだろう、状況把握と決断が早い。
アルスちゃんとキーケちゃんとで先を歩き、俺とシエンちゃんとで舟を持って後に続いた。
「どうやらここだな。」
キーケちゃんが言う先は水路沿いの陸地が途切れ溶岩壁内部へと道が続いている。
道幅も高さも水路沿いの道より広く高い。これならば、悠々と舟を運んで移動できる。
中に入るとそこは広い空間になっていた。
かなりの広さだ。野球場ほどもあるだろうか。
しばらく進むと水音がし、先ほど一旦離れた地下水脈が流れているのが見える。
地下水脈に近づくと上流から水の落ちる音が聞こえ、滝をパスして下流へ来れたことがわかった。
舟を地下水脈近くに置いて辺りを見渡す。
「おい、これを見よ。」
キーケちゃんが言う。
「あら、入口付近にあったのと同じ焚き火を埋めた跡ですねえ。」
「そのようだの。」
「我らもここで眠るとするか。この先舟で寝ている時に滝に遭遇するようなことがあってはたまらんからな。」
「わたしも、シエンさんの意見に賛成です。」
「俺も賛成。キーケちゃんはどう?。」
「うむ。構わぬ。」
というわけで、ここを本日のキャンプ地とする!
「よし!じゃあ、俺は薪を探してくるね!。」
「あら、別に料理も明かりも魔法でまかなえますわよ。」
「チッチッチ。やっぱり野営の醍醐味は焚き火なんですよねー。それに、アルスちゃんの魔法にばかり頼るのは不甲斐ないし、アルスちゃんも疲れたろうから休んで欲しいし。」
「あらあら、これくらいなんてことありませんのに。では、お言葉に甘えさせて頂きますかねえ。ありがとう、トモトモ。」
「それじゃあ、我が料理の下ごしらえをしよう!アルスとキーケちゃんは休んでおれ!。」
「うし!じゃあ探してくるねー。」
焚き火の跡がある、という事は、薪になるようなものがあるということだ。俺はシエンちゃんに習ったライトの魔法を使ってこの広い空間を散策した。
入ってきた道や今いる水脈近くとは反対の奥に広がる空間へと進む。
地面には薪になるようなものは見受けられない。
更に奥へと進むと風の流れを感じる。
おや?こんな地下で風?
奥へと進むと天井からぼんやりと月の光が差し込んでおり、どうやら穴が開いているようだ。
俺はゲイルを使いその穴から表に出た。
「おーーっ。山の中か?大海樹内ではなさそうだぞ。」
周り一面に木々が生い茂っているが、地面が溶岩質特有のでこぼこした苔むす岩場ではない。
ライトの魔法を使って薪に丁度良さそうな木を探し、穴から下へどんどん落としていく。
しかし、こんな所に無造作に穴が開いているのは危なっかしいな。
俺は道中シエンちゃんに習った土魔法を使って穴のまわりに柵をこしらえた。
埋めようかとも思ったのだが、こうした穴は他にもあろうから注意喚起の意味も込めて柵にしてみました。
俺は再び穴に入り、落とした薪を持ちみんなの元に走る。
「おーい!天井に穴が開いてて外に出れたよー!。」
「ほうほう、面白い。」
「あら、ここがどのあたりかわかりますかねえ。」
「きひひ、ちょっと見てくるか。」
「それじゃあ、俺はここで火を起こしてるからみんなで行ってくれば?この先を少しを行くと風が流れてるからすぐわかるよ。」
「よし、ではちょっと行ってみようかな。」
「では、すいません。」
「すぐに戻る。」
3人はそう言い残して去って行った。
さてと、俺は焚き火をやりますか。
やっぱり野営は焚き火だよなあ。しかも直火だもんなあ。
前世界でもひとりで車中泊や貧乏キャンプをよくやったものだったが、直火でやれる場所ってホントに限られてたんだよなあ。つーか、焚き火をやれる場所がそもそも限られてたもんだ。
拾ってきた木を細いものから組んでいく。周辺に岩なんかは良く転がってるもんだから、適当に拾ってきて、かまどなんて作ってみる。馬蹄型に岩を組み、先ほど作った細い木の組み合わせを囲む。
そして、木の枝をひとつ、先端部分をアウロさんに貰った小刀で薄く削る。削ると言っても切り取ってはいけない、枝の先端部分を削ってカールさせるのだ。先端部分にたくさんのカールを作ると、それがまるで鳥の羽みたいに見える所からフェザースティックと呼ばれる、焚き火の焚きつけなのだ。
そうして、フェザースティックを3つばかり作り火魔法で小さく小さく火を出して、スティック先端に火をつける。
火の着いたスティックを組んだ木の内部に突っ込む。
続けて残りのフェザースティックも突っ込んで火を大きくする。
組んだ木がパチパチと音を立てて燃えだすので、その周りにさらに大きな薪を組んでいく。
このパチパチという音がまた、いいんだよねー。
そして、段々と育っていく火。
大きな薪に火がきちんと移ったのを確認して、太めの薪を幾らか投入する。
コッヘルに水を汲み、太い薪の上に置く。
コーヒーがあれば言う事なかったなあ。
燃える火を眺めていると薪の上に乗せたコッヘルから湯気が出てくる。
さらに待つとポツポツと沸騰し始めたので、大きめの薪2本を使ってコッヘルを挟み地面に置く。
みんなが行ってしまった後、自力で展開していたライトの魔法の照度を下げる。
コッヘルを手に取り白湯を飲む。
「フヒーー。」
ひと息ついた感じになるね。
後は虫の音なんか聞こえてくれば、まったりキャンプなんだが、さすがに虫の声はないな。
代わりに地下水脈の流れる音がする。それも、また良しか。
焚き火の炎を眺めながら、白湯を飲んでいると、なんだか不思議な気持ちになってくる。
俺はキャンプに来ていて、うとうとしている間に見た夢だったのではないか、こちらに来てからの事はすべて。そんな事を考えてしまう。本当は、現実は、たったひとり、かわらずひとりのままなのではないか、と。
そんな事を考えていると胸がキューっと締め付けられるように痛む。
ああ、どうやら俺は、もうひとりが辛く感じられるようになってしまったらしい。
あるいは、ひとりが辛いのではなく、ここで知り合えた人々と会えなくなることが辛いのか。
そうだな、そっちのほうがしっくりくる。
どうも焚き火の炎を見ていると感傷的になってしまう。
「・だったろうに・・で・。」
「また、・から・だろ。」
声が聞こえてくる。どうやらみんなが帰ってきたようだ。
胸の痛みが消え、温かい気持ちになる。
なんだか悲しい夢から覚めたような気持ちだ。
俺は近づいてくる騒がしい声がとても嬉しかった。




