考察するって素敵やん
森林を進み、溶岩内洞窟を進み、俺たちは例の舫いポイントに来た。
「さて、組みたてっぞ!。」
張り切るシエンちゃん。
「きひひ、頼んだぞ。」
「いや、手伝えよ!。」
「ひとりのほうが早かろうて。」
「まあ、そうだけれども。」
そう言ってる間にどんどんと組み立てていくシエンちゃん。
なんだか、キャンプなんかでテントの組み立てを人に任せているようで申し訳ない気持ちになる。
「すまんねシエンちゃん。お役に立てなくて。」
「本当に、シエンさんが頼りですよ。」
俺とアルスちゃんが言う。
「くふふふ、任せておけい!。ほれ、できたぞ。」
あっという間に完成した組み立て式舟。オールまで組み立て式になっているとは、なかなかの優れものだ。
「それじゃあ、俺が舟を支えてるからみんな乗ってちょうだいよ。」
「きひひ、レディーファーストだな。」
「それでは、失礼しますね。」
「みな、そっと乗れよ、そっと。我も続くぞ。」
3人が乗り込んだ後に俺も乗り込み、オールを手に取り陸を押して出発進行だ。
「キヒヒヒヒ、さてと、どこに出るのかのう。楽しみだ。」
キーケちゃんが言う。
「我は近い方と見るな!。」
「まだ言うかシエンよ。では、何かを賭けるか?。」
「おっ?上等だっ!何を賭ける?。」
「そうよのう、お前のそのカチューシャ、それはミスリル製だろ。それはどうだ?。」
「これは、ダメだ!これだけは、ダメ!。」
頭を抑えて言うシエンちゃん。
「なんだ、そんなに大事なものかえ。ならば、そうだな、ノダハの事務所の寝室はベッドが足りないから誰かがハンモックで寝ることになると、そう言うておったの。ベッドを賭けるのはどうだ?。」
「乗った!くふふ。ハンモックで寝ると良いぞ!くふふ。」
「あらあら、いいんですか?シエンさん。分の悪い賭けになると思いますよ。」
「くふふ、分の悪い賭けは嫌いではないぞ我は。だが、今回に限って言えば、分が悪いのはキーケちゃんだ!。」
ビシッ!とキーケちゃんを指差して言うシエンちゃん。
「指をさすなと言うに。」
「いってーーー!。」
シエンちゃんの人差し指をつまみ横に向けるキーケちゃん。
「まったく、シエンさんは懲りない方ですねえ。うふふふふ。」
「はー、痛っ。指が取れるかと思ったわ!だがな、我の方向感覚を見くびるなよ。この水脈はマズヌル方面に流れている!間違いない!。」
「本当にわかるのー?シエンちゃん。」
「わかる!。この調子なら幾らもせずに外に出るぞ。くふふふ。いやあ、ご老体にハンモックは辛かろうなあ、忍びないなあ。あたーーっ!。」
また余計なことを言ってキーケちゃんに頭をはたかれてる。
「きひひひ、果たしてそうかのう。」
「キーケちゃんとアルスちゃんは、やっぱり反対側の海に流れ出てる可能性のほうが高いと思うの?。」
俺はふたりに聞いてみた。
「そうですね、流れ出る先がクブロスカかどうかまではわかりませんけど、そちら方面の海に流れ出るのは、まず間違いないと思います。」
アルスちゃんが言う。
「ほう、なぜだ?。」
シエンちゃんが聞く。
「ひとつは、今回の人為的災害の被疑者候補ですね。わたしは隣国である可能性が高いと睨んでいます。そうすれば流れ出る先も当然隣国方面の可能性が高いでしょう。そして、もうひとつ。こちらの方がわたしにとっては大きな理由なのですけど、やはり、世界樹ですねえ。この地下水脈が世界樹の跡であるのなら、より遠くに繋がっていて欲しい、そうあるべきだ、とそんな風に思ってしまいますねえ。」
「なんだ、アルスは結構夢想家なんだな。」
シエンちゃんが言う。
「キヒヒヒ、シエンは随分と現実主義者のようだな。さすがは龍よ。しかしな、こんな事は知っとるかな。ダスドラック領からクブロスカ領にかけて幾つかの湖が点在するのだがな、これらの水位が連動している可能性が高い事を。」
「本当ですか?。」
「噓を言え!なぜ連動しているとわかるのだ!。」
アルスちゃんに続いてシエンちゃんが反応する。
「きひひひひ、シエンよ、そう焦るでないわ。長い道中になりそうだのう。アルスよ、この国が好きだと言ったな。」
「はい。」
「ならば、ジーフサ山よりクブロスカまで歩いた事はあるか?。」
「ええ、あります。」
「ならば、その間にどれほどの湖があるかわかるか?。」
「正確なところはわからないですが、20程でしょうか。」
「キヒヒヒ、いい線をついておるの。ネイコウハ山頂の湖と同規模のものが6、それより小さなものが14、さらに、普段は乾いた土地なのだが大雨などで現れるものが3ある。これはあたしが実際に見てきたものだ。」
みんな黙って話しを聞く。
「きひひひ、どうやら興味を持ってもらえたようだの。あたしは、この大雨で現れる湖の水位がそこに一番近い湖の水位と連動しておることに気づいたのよ。それは、その土地に良く立ち入る猟師や山仕事をする者に聞いても、皆、気づいておる事でまあ、地元の者にとっては常識だった訳だが。そこで、あたしは考えたのだ。先に述べた湖にて、その水位はどこまで連動しておるのか、と。」
「で?どうだったんだ!。」
シエンちゃんが食い気味に聞く。
「まあ、そうあわてるな。あたしも時間はあったからな。すべての湖の絵を描いたのよ。それを一定の期間で繰り返した。その結果、あたしは確信した。ジーフサ山からクブロスカまでに見つけた23の湖、これは繋がっておる、とな。」
みんな、声が出なかった。
「きひひひひ、驚いとるな。これこそは、ジーフサからクブロスカ側の海まで地下水脈が繋がっている証左よ。」
「確かに、そうしたものは存在するのだろう。それは認めても良い。だが、今、我々が進んでいるこの水脈がそれとは限るまい。」
シエンちゃんはなおも食い下がる。
「シエンよ、既に認めておるのに先を説明させるために議論を吹っ掛けておるな?まあよい、乗ってやるとするか。良く聞いておれよ。」
そう言うとキーケちゃんは手のひらを強く叩いた。
パッチーーーーーーンと大きな音がする。
「音の跳ね返りに気づかなんだか?。」
キーケちゃんが俺たちに問う。
「音が向こう側へ抜けていますね。これは・・。」
アルスちゃんが言い淀む。
「きひひひ、アルスよ続きを話して見せい。」
「これは、この溶岩壁の向こう側には、さらに空間があるのですか?。」
「シエンは気づいておったろう?。」
「うむ、我らの話し声の反響がそれを知らせてくれていた。しかし、なあ。」
「しかし、なんだ?シエンよ。」
キーケちゃんが問う。
「我がハンモックかーーーーーっ!ちっきしょーーーーーっ!。」
大きな声でシエンちゃんが言う。
「きーひっひっひっひっひ。そんな事を心配しておったのか?。」
「大事なことよ!皆は我の事を、お姉さまお姉さまと慕い憧れておる。その我がハンモックというのは、些かカッコがつかんっ!。」
「きひひひ、自分で言うかねえ。」
「別にハンモックで寝ている姿も、オシャレでカッコいいと思うけどなあ。ただ、ハンモックもサイズや張り方を間違えると快適じゃなくなるからね。帰ったら、シエンちゃんに合わせたやつを拵えてあげるよ。」
「本当か!トモちゃん!。」
「ああ、ホントだよ。今あるやつは子供用だしね。あ、でも、シンとジョンのやつも弄ってやるかな。頭と足の所に棒を付けてピンと張ってやるだけで大分寝心地が変わるからな。あ、でもジョンは揺らすからなー。あいつのは棒なしのがいいかなー。」
「くふふふ、楽しみになってきたなあ。」
「しかし、この壁の向こう側にも更に空間があるのだとしたら、今わたしたちが通っている空間は世界樹の枝だったのでしょうか?。」
「きひひひ、そこまではわからぬ。が、伝承にあるような大きな空間ひとつではなく、幾つかの空間が出来上がっておってもなんら不思議はあるまい。それに、だ、さすがにあたしも世界樹がいかに大きかったとしても、ジーフサ山からクブロスカ側まで届くほどの大きさであったとは考えていないよ。ただな、大昔の大噴火により地形や何かも大きく変化した事だろう。その際にできた湖もあろうよ。そして、そのさいに埋まった川などもあったのかも知れぬ。そうしたものが、長い時間をかけて他の地下水脈と結合したりするのは自然な事と思えぬか?。」
「なるほどねー。もしかしたら、大噴火と同時期に大地震が起きた可能性もあるしねえ。前世界でも火山の噴火と巨大地震は連動しているって言われていたからねえ。まあ、前世界でもその仕組みは良くわかってはいなかったけども。」
「そうですか、そう考えるととっても面白いですねえ。伝説や伝承の裏にはなにかそうした物語ができる事実があった、と考えると。なんだか、ワクワクしますねえ。うふふふふ。」
「ふむ。我は今まで伝説は伝説だと考えておった。おとぎ話や昔話と同じであると。なかなかどうして、面白いではないか。それでは、やはり、神もおるのか?。」
「そこまで行くとちょっとうかがい知れないよなあ。さすがに。」
「きひひひ、それはまあ、究極の命題だのう。シエンよ、も少し手近なものから考えてみい。」
「手近ねえ。それでは、あれはどうだ?よく父上が言っておったのだが、食べ物を無駄にすると無駄無駄虫が頭に湧くと!これは、どうだ!なにか、それの元になるような事実が!。」
「ないな。」
「ないですね。」
「それも、まあ、伝承のひとつとは言えるけど。シエンちゃんはその教えを守って食べ物を無駄にしなくなったのね。」
「そうだぞ!。」
胸を張って答えるシエンちゃん。
「だったら、それは役立ったわけだ。庶民の知恵的民間伝承と言えるよ。まあ、龍の王族を庶民とか民間と言ってよいのかは別としてね。前世界でも子供を守るため、または集団生活に馴染ませるためのそうした民間伝承は古くからあったからね。まあ、俺が居たころにはほぼ聞かなくなっていたけどね。」
「きひひひ、お主もこうした話は嫌いではないと見える。あたしもね、こうして好き勝手に生きているから時間はあるものでな、気になることは実際に自分の身体で確かめたくなる質でな。本当に世の中とは面白いものよな。」
「しかし、こうしていると今がどのくらいの時間なのか、昼なのか夜なのかまったくわからないね。」
「わかるぞ。もう夜だぞ。日は沈んでおる。」
「まじで?シエンちゃんわかるの?。」
「ああ、わかる。」
すげーな!体内時計ってやつか!
「腹の減り方で時間経過は大体わかる。」
腹時計でした。
「きひひひ、食事にするか。」
キーケちゃんの言葉で食事をする事になった。
舟を係留できるような陸がないので流れる船の上での食事となった。
「調理ができないから、干し肉と果物かね。」
俺は言う。
「なんなら、わたしが火魔法で調理しましょうか?まあ、舟の上だから簡単なものにはなりますけど。」
とアルスちゃんが言ってくれたので任せることにした。
食料品を入れていた背嚢にはコッヘルのセットも入っていた。
肉や野菜のカットもアルスちゃんは風魔法でキレイに素早くやるものだから、俺は感心して見入ってしまう。
「うふふふ。なんですか、そんなに見られると照れますよ。」
「いやあ、器用なものだなあと思ってさあ。アルスちゃんは魔法が上手だよねえ。」
「我はこうした細かい調整は苦手だ。」
「きひひひ、シエンが苦手なのは微調整ではなくて忍耐することであろうて。」
「うぬぬぬぬ。本当の事だけに反論できぬ。」
「戦闘も同じよ。実力が拮抗する者の戦いにおいて明暗を分けるのは、多くの場合、どこまで耐えられるのか、よ。シエンはこれからもトモに魔法を教えたり、お子達に算術などを教えることを続けると良い。」
「うむ。わかった。」
「きひひ。お前のそうした素直さは、大したものよ。賢さの証よな。」
「くふふふ、褒められたよ。くふふ。」
「はい、皆さんできましたよ。具だくさんスープですよ。」
「やったー!肉が沢山入ってるやつをくれ!。」
「はいはい、シエンさんのはお肉沢山入りですよ。」
「くふふふ。いっただっきまーす!うまっ!美味いぞ!スープは美味いし、褒められたし今日は良い日だ!。」
「どれどれ。おうおう、本当に美味しいのう。アルスは料理上手だの。」
「俺も、頂きます。うんうん、これは、いいねー!まさか、舟で移動中にあったかいスープが頂けるなんて思わなかったなあ。うん、これは、美味しいねえ。」
「うふふふ、好評なようで嬉しいですよ。」
そうしてみんなでアルスちゃんが作ってくれた具だくさんスープで腹を満たし、舟旅は続くのだった。




