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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
31/1111

強いって素敵やん

「お疲れ様です!どうぞ、お入りください!馬は厩舎がありますので責任をもってお預かりさせていただきます。それでは場長がお待ちです、ご案内いたします!。」


 訓練場入口の番兵さんにカードを見せると、てきぱきと応対された。

 キットとナーハンにしばしの別れを告げ、俺たちは衛兵さんに大きなテントへと案内され中に入る。


「ようこそ、いらっしゃいました。私は訓練場場長のジョイトリクスです。」


 筋骨隆々とした大男が言う。


「特別依頼の事は聞いております。当訓練施設の設備はご自由にお使いください。ダイファーはおるか!。」


「ハッ!。」


 ジョイトリクスさんが呼ぶと、外からこれまた筋肉だるまのマッチョマンが入ってきた。


「こちらの方々は特殊依頼受託者だ。丁重に案内して差し上げろ!。」


「ハッ!。」


 両足のかかとをバチっとつけて敬礼で答えるダイファーさん。


「それではご案内させていただきます。」


 俺たちに向かってバチっと敬礼してダイファーさんが言うので、俺も背筋が伸びてしまう。


「よろしくお願いします。」


 ダイファーさんについてテントの外に出る。


「特殊依頼の受託、ご苦労様であります!。」


「いえいえ。ダイファーさんこそ、お国のためにご苦労様です!。」


「ありがとうございます!こちらが食堂になりますので、いつでもご利用ください!。隣りのテントが入浴施設になります!勿論、男女分かれておりますので、安心してご利用ください!そして、こちらのテントが来賓者用宿泊所となります。個室になっております。本日は皆さま以外の来賓者はおりませんですので、お好きなテントをご利用ください。何かありました食堂の奥が詰め所になっております。そちらには常に誰かしら常駐しておりますので、そちらへお声かけ下さい!なにか質問等はございますでしょうか?。」


 キビキビとした案内は非常にわかりやすかったので、俺は大丈夫ですありがとうございました、と礼を述べた。

 俺たちは食事をし風呂を使わせて貰ったあと、宿泊用テントに集まって作戦会議をした。


「さてと、明日はどうしたものかね?闇雲に探すってのも芸がないしなあ。なにか、いい案はないかね?。」


 俺はふたりに言った。


「いい案ですか。大海樹は上空からでは生い茂った木々で隠されてしまってなにも見えませんからねえ。やはり、地道に歩いて探索するほかないと思いますよ。」


「そうだな。歩きながら人のいた痕跡を追う他あるまい。」


「そうかあ、なら仕方ないねえ。しかし、中に入って食料の確保はどうなのかね?できるのかね。」


「この時期でしたら、キノコ、山菜などは豊富にあるでしょうね。あとは、小動物ですかね。」


「ほらな、つまらん土地だろ?。」


「まあまあ、シエンちゃんも今回はちょっと我慢して貰って、ねえ。」


「仕方ないなあ。」


「うふふふ。それでは、明日の探索頑張りましょうね。」


「おう!よろしくね!。」


「うむ。」


 という事で作戦らしい作戦も無く今日はお開き、就寝となった。

 翌日早朝、目を覚まして訓練場内を歩き木々が生い茂る大海樹入口に立ち、その深い森を眺めた。

 深くゆっくりと呼吸をし、体内を循環させそれに意識を乗せる感じで額辺りから森に向けてそれを発する。

 森の中で小動物か何かが移動する音が微かに聞こえる。なんとなく、小さな生き物の気配を感じる気がする。

 俺はアルスちゃんに教わった気の使い方、それを練習がてら森に向かって放ってみる。

 そんな事を続けていると後ろから声がした。


「なんだ、トモちゃん。もう探索しておるのか?。」


「いや、この間教わったやつ、練習してるんだよ。」


「この間?ああ、アルスがやってたやつか。あれは、害意を乗せていただろう。だから相手は恐れたのだ。トモちゃんがやってるのは、害意の無い意識を放っているだけだろう。それは、生き物の気配を探るのに使うやり方だ。もしくは、あえてこちらの存在を知らせる時にも使うな。どうだ?面白い反応はあったか?。」


「いや、別になにも。小さい動物が動く気配は感じたように思うけど。」


「まあ、そんなものだろう。しかし、山菜とキノコねえ。飯が憂鬱だよ。」


「まあまあ、たまにはいいじゃないの。健康的で。」


「健康ねえ。健康など気にしたことはなかったが、まあ、何事も経験か。」


 俺とシエンちゃんはふたりで歩いてテントに戻ると、食堂の前でアルスちゃん衛兵さんと話をしているとこだった。


「おはよ、アルスちゃん。」


「どうしたのだ?。」


 俺とシエンちゃんが声をかける。


「おはようございます。こちらの方は今日の料理当番の方なんですけど、お弁当と食材を持たせてくれるというのですよ。」


「どうも、おはようございます。今、アルスさんが言われた通りなのですが、なにかお好みはあるかと思いまして伺っていたところだったんです。肉が入っていればシエンさんは喜ぶとアルスさんに言われたのですが。」


「おおっ!でかした!さすがはアルス、わかっておるな!そうだ、肉だ!肉が良いな!な?トモちゃんもそうだよな。」


「おっ、おう。それで大丈夫です。すいません、助かります。」


「いえいえ、それでは準備しますので出発前に食堂にお寄りくださいね。」


 衛兵さんはそう言うと食堂へ入っていった。


「さあ、朝飯にしよう。行くぞ!。」


 シエンちゃんにしたがって俺とアルスちゃんは食堂に入るのだった。

 さすがは、衛兵隊訓練所の食事だ、朝からボリュームたっぷりな上、おかわり自由ときている。

 シエンちゃんは大喜びでおかわりしていた。

 確かに、肉も野菜も大きくゴロゴロと入ったスープは味にこくがあり、俺もおかわりしてしまった。

 アルスちゃんは食べ終わった食器をかたずけると、厨房へトコトコと入っていきしばらくしてから袋を抱えて出てきた。


「こちら、食材頂きました。」


「いやー、ありがたいですねー、こういったものは幾らあっても困りませんからねー。俺が持ちましょうねー。」


「はい、お願いします。」


 という事で袋を持ったのはいいが、ウェストバッグには入りそうもないのでどうしようかなと考えていると、親切な若い衛兵さんがよろしければこれをどうぞ、と背嚢をくれた。まあ、いわゆるリュックやザックの事なのだが、シンプルな黄土色した円筒形の布袋に、背負うための頑丈そうな布ベルトが2本付いている、そのいかにも軍用品といった飾りのない外観はやはり背嚢と言った方がしっくりくる。

 俺が丁寧にお礼を言うと照れくさそうに、いえいえ頑張ってください、応援しています、と若い衛兵さんは言ってそそくさとその場を立ち去ったのだった。。


「これで準備は整ったな。では、入りますか、大海樹に。」


「おう、行くか。」


「はい、自分の荷物は各自お持ちですね。では行きましょうか。」


 そして、俺たちは大海樹へと入った。

 足元がゴツゴツし平坦なところがありゃしないから、歩きにくいったらない。おまけに苔がびっしりなもんでジャンプしても着地がおっかない。

 なのに、ふたり共ヒョイヒョイ、ヒョイヒョイと軽やかに移動するもんだからついていくのが大変だ。


「ふひー、待ってくれー。」


「なーにをやってるのだ、トモちゃん!。」


「いや、小刻みにゲイル使うのがしんどくてさあ。飛ぶだけじゃなくて着地の時も下が滑るから気を付けなきゃならないしさー。」


「あらあら、それではちょっとコツを教えましょうか。小刻みに発動させるのは、1回1回分けて発動させなくても良いのですよ。」


 俺はアルスちゃんから、取り入れた魔法の気を1回の発動で使い切らないやり方を教わる。さらに、小刻みに連続して発動する感触を掴めるまで、何回も練習させてもらった。

 なんとなく、タバコの煙でわっかを作るときに、なるべく沢山作ろうとした、その時の感じが薄っすらとよみがえった。禁煙して随分立つから懐かしい感触だった。まあ、あくまでイメージの話しだが。


「なんとなくつかめてきたけど、今度は発動ってじゃあ、何なんだ?って気持ちになってきたなあ。」


「おう、良い傾向だ。誰もが通る道だ。」


「そうなの?。」


「はい、そうですよ。まあ、ちょっと通るのが早すぎますけどね。」


「いやー、そう?早い?参ったなー。えへへへへ、なんだか照れちゃうなあ。」


「きゃははは!なんじゃそりゃ!妙な反応しおって!。」


「まあまあ、良いではないですか。トモトモは褒めて伸びるタイプと見ました。」


「アルスちゃーん!わかってくれたか!そうなんだよ!俺って褒められて伸びるタイプなんだよ!わかった?シエンちゃん。シエンちゃんもこれからどんどん褒めてくれな!。」


「おうおう、トモちゃんは調子づくのも早いのう。」


「ですねえ。では、移動ペースも早くしますか。」


「良し来た!。」


 ふたりはさっきより早いペースでひょいひょいと移動しだした。


「うわっ、どっちにしても変わらないじゃないかー。待ってくれー。」


 俺は教わって練習したように小刻みにゲイルを使い、密集する樹木を縫うように進む。

 着地のコツがつかめたら、あとはリズムゲーだな。俺は徐々にふたりとの距離を詰めていく。


「おや、なんだ。調子に乗らぬよう釘をさすつもりでペースアップしたが、もうついてくるか。」


「うふふ。本当に子供の成長は早くて驚かされますねえ。これ以上早く動くと痕跡を追いづらいですねえ。」


「ブフッ!ふたり共このペースで痕跡を追ってるの?。」


「当たり前だろう。何しに来たと思っとるのだ。」


「うふふ。まあ、見つけた痕跡を追っているのではなくて、痕跡を探しながらの移動ですけどね。」


「余計凄いよっ!。」


「おい、ちょっと待て。」


 シエンちゃんが手で制止をかける。アルスちゃんはシエンちゃんの真横に並ぶ。


「この先に何かを感じますね。なんでしょう?。」


「うーむ、わからん。気配が読めぬ。だが、明らかに向こうはこちらに気づいておる。」


「それでも、こちらに向かって来るわけでもなし立ち去るわけでもなし。どうしますか?。」


「行くしかなかろう。これを避けていては何のために来たのかわからぬ。しかし。」


「トモトモですね。」


「うむ。」


「俺が?。」


「はい、トモトモはお強いですし魔法の量も人間離れしていますが、実戦慣れしてませんよね。」


「確かにそうです。」


「そう簡単に死なんとは思うが、我らふたりでも歯が立たぬ時は躊躇せずに逃げよ。」


 シエンちゃんがいつになく真面目なトーンで言う。

 しばし考える。いや、もう答えは決まってるな。


「済まんがそれはできない。俺も君たちと対等な付き合いがしたいと思っている。自分の行動の責任は自分で取る。君たちこそ、俺に惑わされずやりたいようにやってくれ。頼む。」


「うふふふ。やはり男の子ですね。」


「そう言うだろうとは思っとったが。わかった。行くぞ。」


 この辺の腹のくくり方、グダグダ言わない感じ、ふたり共やはり強い。いろんな意味で、強いわ。

 俺はふたりに並んで先に進む。

 開けた場所に出る。

 少し先に大きな岩がある。

 その上に誰かがこちらに背を向けて座っている。

 小柄な体格に肩にかかる程度の髪の色は白銀。

 胡坐をかいて座っているように見える。

 その人物は音もなく立ち上がってこちらをゆっくりと振り向いた。

 自然な動作だった。

 俺たち3人はジッと動かず、呼吸を整え身体の力を抜き、相手のアクションに対処できるようにしている。

 岩の上に立ち上がった人物はどうやら老女のようだった。

 深いしわが刻まれてはいるが、若い頃にはキレイだったのだろうと思わせる顔をしていた。

 裾のすぼまった、ジョガーパンツのようなズボン、いや、もっとシルエットがゆったりしている、拳法着のようなズボンに生成りの長袖シャツを着ている。

 俺はことさら深く呼吸を整え、キッチリと螺旋をイメージし、それをへその下までしっかりと下ろし、そのまま回転させるイメージで力をたわめた。

 老女は軽やかに岩の上から飛び地面に降り立った。

 気をたわめていないと直視できない程の圧迫感を感じる。

 まるで、身体の力を吸い取られるような、気力を奪われるようなプレッシャーを感じる。

 俺はもうシエンちゃんとアルスちゃんの方を見ることもできない。

 マジでションベン漏らしそうだ。

 俺はへその下でグルグルと回していた気をゆっくりと喉元まで上げていき、そこで回転させる。

 遠のきそうだった意識がはっきりしてくる。

 婆さんは無言でこちらに近づいてくる。

 ザッっと小さな音がしてシエンちゃんが飛びかかった。

 ちっ、と舌打ちの音がしてアルスちゃんも続く。

 正面からふたりの猛攻撃を軽くさばく婆さん。

 まるで虫か何かを手で払うように、軽く、自然に、いや、もっともっと、まるで相手がいないかのような動きは、そうだ、演舞だ、演舞のような動きだ。

 アルスちゃんもシエンちゃんも一旦距離を取り、場は静けさを取り戻した。


「すいません。我らはレインザー王国特別依頼受託者なのですが、戦う理由がありますか?。」


 俺は婆さんに尋ねた。


「なんだ、アマルの坊主のとこの者か、アマルは息災か?。」


「はい?アマルと言いますと。」


「アマルザント・レインザー王の事ですか?。」


 アルスちゃんが聞き直してくれた。


「ああ、息災か?。」


「すいません、王に謁見を賜った事はないのですが。」


 俺は答えた。


「何かあれば国民に御触れがなされるでしょうから、そうした事がないという事は、お元気にされているという事でしょう。」


 アルスちゃんが答えてくれる。


「そうかい、なら、良いのだけどね。しかし、こっちの不死者は良いとして、そっちの龍に戦闘状態を解くように言ってやりな、そのままじゃあ、息みすぎて倒れちまうぞ。」


 見るとシエンちゃんは顔を赤くしてまだ構えていた。


「シエンちゃん!もう大丈夫だから!力抜いて!どうやらレインザー王のお知り合いのようだから。ドウドウドウ。ほーら、力を抜いてー。」


「くふぅーーーーー。」


 シエンちゃんは大きく息を吐いた。


「しかし、お婆様は何者なのですか?わたしたちの事もお見抜きのようでしたが?。」


 アルスちゃんが尋ねた。


「お婆様なんて呼び方はやめとくれな。あたしの名前はキーケ・タモクト。キーケでよい。」


「まさか、レインザーの戦乙女と言われたあの、タモクト様ですか!。」


 いつも冷静なアルスちゃんが驚いている。


「きゃははははは!乙女?乙女はなかろう!キャンキャンキャン!。」


 大笑いしたシエンちゃんはキーケさんに拳骨くらってキャンキャン言ってひっくり返った。


「あたしにも乙女の頃はあったのさ。しかし、そんな昔の話しを良く覚えているな。さすがは不死者よ。」


「やだー!すいません!知らぬこととは言え、襲い掛かってしまうとは!わたし、大ファンなんです!握手してもらっても良いですか?ホントにすいませんでした!ほらっ!シエンさんも!一緒に頭を下げて!。」


「えー、なんで我もー。アルスだけ頭を下げればよかろうに。」


「何言ってるんですか、もう!頭を冷やしますか?。」


「わかったわかった。もう。ごめんなさい。」


 ふたりして、キーケさんに頭を下げている。


「なんか、すいませんキーケさん。しかし、アルスちゃんは知ってるの?キーケさんのこと。」


「知ってるも何も、レインザー王国に住む人ならみんな知ってますよ。救国の英雄、王国のミスリルローズ、実在する神話とまで言われる方ですから、本当にお会いできて嬉しいです!。」


 いつにないハイテンションでキーケさんと握手をするアルスちゃん。


「人の形をした災害、出会った時が寿命尽きるとき、目が合っただけで軍隊が壊滅した、くしゃみしたら津波が起きたなんて事も聞いたことがあるぞ、キャンキャンキャン。」


 余計な事を言ったシエンちゃんがまた頭に拳骨食らっている。


「ちょっとシエンちゃん!キーケさんを挑発するようなことばかり言わないでね。」


 俺はシエンちゃんに言う。


「わかったわかった。トモちゃんがそこまで言うなら自重するわ。しかし、頭の形が変わるわっ!」


「お前の頭は殴りやすくてよいな、キヒヒヒヒヒヒ。」


「クソー、ババアー、いつかやり返してやる。」


 キーケさんの笑いに、めちゃめちゃ小さな声でシエンちゃんが言う。


「何か言ったか!。」


「いいえ!なにも言ってません!。」


「キヒヒヒヒヒヒヒ。」


 凄むキーケさんに直立不動で答えるシエンちゃん。そして、それを指差して笑うキーケさん。


「まあ、お前らが王国に仇なす者ではないのはわかった。この先にあたしが寝泊まりしてる所があるから、そこでゆっくり話を聞かせてくれ。お茶くらい出そう。」


「光栄ですー!。」


「すいません。ありがとうございます。」


「痛っ!。」


 喜ぶアルスちゃんと感謝する俺、そして顔をしかめて頭をはたかれるシエンちゃん。

 もう、シエンちゃんは叩かれるとわかってるのに、何故に挑戦的なのだよ。

 そんなこんなで、俺たち3人はキーケさんに続いて森の更に奥深くへと向かった。

 移動速度がまた速いこと!今の俺じゃあついていくことができん!必死になって続こうとしてもジリジリと引き離されてしまう。


「すんませーーん。追いつかないでーーす!。」


 仕方ないから見失う前に叫んだ。


「なんだ、どうした?。」


 キーケさんが止まって俺に問うた。


「すいません、トモトモは魔法の調整がまだ苦手なんですよ。」


 アルスちゃんが代わりに答えてくれる。


「ふむ、それだけの器に練りこみもできておるのに、不思議な男だな。」


 キーケさんに言われて俺は頭をかく。


「まあ、良い。少しペースを落としてやろう。」


「助かります。」


 ふがいない気持ちになるが、今は仕方ない。シエンちゃんやアルスちゃんと、対等の付き合いが出来るように精進せねばなあ。

 そうして、俺のペースに合わせてもらい森を進む。

 しばらく進むと集落みたいな所に出た。いや、廃村か。


「ここだ。」


 キーケさんが言う。


「何なんですか、ここは?。」


「さあてなあ、ここはあたしが見つけた時からこうだったからな。だが、こうした集落の跡地は割とあるぞ。現役で機能している集落もあるしな。」


「マジっすか!。」


「ああ。勿論、すべてを把握しているわけではないぞ。まあ、細かい話は茶を飲みながらにしよう。ほれ、この家だ。」


 キーケさんが示した家は他の廃屋に比べてしっかりしているように見えた。


「まあ、遠慮せずに入れ。」


「おじゃまします。」


 キーケさんの後に続い入ると、中は驚くほどきれいに整頓されていた。


「あらあ。」


 思わずアルスちゃんが声を出す。


「ほれ、遠慮なく座れ。今、お茶を出してやる。」


 部屋の中はシンプルで、キッチンにいくらかの食器があり、テーブルにイスが四脚、隅にベッド。ベッドにザックが引っかけてある。それだけだった。


「カップがまちまちだが、気にするな。」


 そう言ってキーケさんは座っている我々の前に不揃いのカップを置いてくれた。


「いい茶だぞ。」


 キーケさんが飲む。

 我々も後に続いく。


「美味しい!。」


 本当に美味い茶だった。


「あらあ、本当に。」


「確かに美味いな。」


「龍の小娘のだけはマグマタケの煎じたのを入れておいたがな。」


「ゴフッゴフッ。」


「冗談だよ。」


「ゴフッ、勘弁してくれ!。」


「キヒヒヒ。からかい甲斐のあるもので、ついな。まあ、許せ。」


 そして、お茶を飲みながら事情を話すこととなった。今回の依頼に関してネズミの大量発生、ジャイアントアーミーアントの繁殖活動から俺の素性に至るまで話し聞かせたのだった。


「なるほどな。お前が変わった奴なのもうなづける。しっかし、モミバトス様じゃあ、あるまいに。そんな事ってあるんだな。シエンもアルスも知らんのか?そうか、知らぬか。それでは、まあ、仕方あるまい、その件は良いとして、特別依頼の件よな。」


「そうなんですよ、キーケさん何か見ませんでした?捜査班のメンバーとか、怪しい人間とか、さっき言っていた集落に潜伏するやつとか?。」


「うーん、見てないなー。それとな、集落な。とてもじゃないが排他的過ぎて他者を受け入れるような連中ではないぞ。まったく自分たち以外の世界とは接触しない奴らだ。他者に見つかるとすぐに居場所を変える程だからな。あとなあ、トモよ、そのキーケさんと言うの、やめちゃあ貰えぬか?あたしも、ほれ、そいつらのようにな、気さくに、親しみを込めて、気の置けない関係の呼び方があるだろ?な?。」


「なにが気さくだ、バーサーカーめが。キャンキャン」


 めっちゃ小さな声で横を向いて呟いたシエンちゃんがキーケさんに頭をひっぱたかれた。


「ええ?なんて呼んだらいいですかねえ?。」


「トモよー。お前、そんな事をレディーの口から言わすのか?わかるだろ?。」


「プッ、痛っ!。」


 ちょっとふきだしたシエンちゃんがちょっとはたかれる。


「でも、そんな救国の英雄にちゃんづけは、さすがに申し訳ないと言いましょうか。」


「本人が望んでおるものを無下にするでないわ。」


「わかりました。じゃあ、キーケちゃん。」


 どーーーっん!


「キーケちゃんてーーーー。」


 でかい音を立ててシエンちゃんがイスごとひっくり返った。


「シエンよ、お前はよっぽどはたかれたいらしいな。」


 キーケちゃんがシエンちゃんをにらむ。


「や、や、や、やめろ!その目!マジでこえーー!。」


「ならば、速やかにイスを元に戻せ。キヒヒヒ。トモよ、お主の受けた依頼、手伝うてやっても良いぞ。」


「本当ですか?。」


「ああ、ただし条件がある。」


「なんですか?。」


「お主らと行動を共にする間、お主らに稽古を付けようと思う。どうだ?。」


「俺は願ったりかなったりですが、ふたりはどう?。」


「わたしも同じ思いです。こちらからお願いしたいです!。」


「うむ、我もそれは賛成だ。確かにこのオババは強い、とても人間とは思えぬほどに。イッテーーーーッ!」


「だれが人間離れしたババアだ!。」


 シエンちゃんはかなり強めにキーケちゃんに頭をひっぱたかれた。


「それでは、今後は師匠と呼ばせて頂きます!オスッ!。」


 俺は言った。


「よせよせ!そういうのが嫌で隠居したのだ!。」


「わかりました!では、これからは鬼ババアと呼ばせて頂きます!オスッ!キャンキャンキャン!。」


 俺の真似をして失礼な発言をしたシエンちゃんが盛大に拳骨をくらい倒れた。


「まったく、懲りぬ小娘よ。」


「頭がでこぼこになったらどーすんだ!責任とれよ!。」


「おうおう、さすが丈夫よの。よしよし、責任とってずっと一緒にいて稽古を付けてやろうではないか。キヒヒヒヒヒヒヒ!。」


「どーも、すいませんでしたーーーっ!。」


 直角に腰を折り謝罪するシエンちゃん。

 こうして我がパーティーに、王国の英雄、激強お婆ちゃんキーケちゃんが加わったのだった。

 益々賑やかになりそうだよ。

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