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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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面白みのない土地って素敵やん

 俺たちは昼まで街中をブラブラして時間をつぶした。

 こうして3人でゆっくり街ブラするのもたまにはいいものだ。

 そうして再び冒険者ギルドに行くと入口のところに職員が立っており、俺たちの姿を確認するとしっかりとお辞儀をし出迎えてくれた。


「お待ちしておりました。どうぞ、ご案内させていただきます。」


 そう言う職員さんの後に続いていつもの応接部屋に入るとニーソンギルド長と一緒に小柄だが引き締まった身体の坊主頭にあご髭の中年男性に出迎えられた。


「初めまして、ゴゼファード領冒険者ギルド統括本部長のサムジェイ・ステイソンです。よろしくお願いします。皆さん、どうぞお座り下さい。」


 俺たちはソファーに座る。


「それではみなさん、恐れ入りますがこちらに冒険者カードを置いて上から手を添えて下さい。」


 そう言ってステイソン氏はカバンの中から石版のようなものを出した。

 ノートパソコン位のサイズで、緑色に鈍く光る長方形の物体だ。


「こちらは、特殊な魔道具でして、これにカードを置き手を添えて頂き、その後に私が手をかざすことで特殊依頼受託者としての身分が保障されるものとなっております。カードの外観はなんら変わりませんが、王国内の衛兵隊、近衛兵隊、すべてのギルド、などで提示して頂ければ優先的に便宜を図らせて頂きますので、依頼遂行の助けにして下さい。」


 こうした手続きに慣れているのだろう、流れるように説明されるのでその通りにする。

 俺とシエンちゃんとアルスちゃんの3人共がその作業を終えると、再びステイソン氏が口を開く。


「早速なのですが、特別依頼の話をさせて頂きたいと思います。」


 本当に早速だな。しかし、ニーソンギルド長は知っていたのだろう、表情ひとつ変えずにいる。


「ネイコウハ山にネズミが大量発生した事件はご存知の事と思います。それと、今回のマキタヤ鉱山ジャイアントアーミーアント異常繁殖事件が、同一犯の犯行ではないかという疑いがありまして。」


「え?人為的なものだったんですか?。」


 俺は思わず聞き返した。


「はい、ネイコウハ山の熊笹に成長促進の魔法薬が大量に散布してあったことがわかっています。さらに、ジャイアントアーミーアントの卵は領外への移動が禁じられているのですが、密輸業者を使って移動させた形跡が発見されました。残念ながら密輸業者は口を封じられてしまいましたが。」


 俺たちは黙って話の続きを待った。


「我々はこうした事を行うものが個人ではなく集団であることを掴み、その集団が潜伏している疑いのある場所をしらみつぶしにしている最中なのですが、その中で一ヶ所、派遣した捜査班が戻ってこない場所がありまして、今回はその場所の探索をお願いしたいのです。」


「その場所というのは?。」


 俺は聞いてみた。


「ジーフサ大海樹です。」


「うわっ!おもんなー!。」


 シエンちゃんが声を上げた。


「あらあ、確かに退屈な所ですねえ。」


「ふたりとも知ってるの?。」


「知っとる。行ったこともある。面白くないぞー。」


「うふふ。わたしは少しだけ滞在した事がありますよ。静かな所でしたけど。あまり、好きにはなれませんでしたね。」


「おふた方共、そうでしたか。さすがです。クルースさんは、いかがですか?。」


 ステイソン氏に尋ねられる。


「いやあ、すいません。行ったことないですねえ。」


「そうでしたか。では、ざっと説明させていただきます。ダスドラック領にある王国最大の山、ジーフサ山。その山裾に広がる広大な原生林がジーフサ大海樹です。読んで字のごとく、一面樹で出来た海のようにひたすらひろがる広大な森林地帯なのですが、遠い昔に大噴火を起こした際に流れ出た溶岩の上に森が形成されたために、木の根が横に張り、地盤となる溶岩に生えた苔は滑りやすく、時に岩穴を隠す天然の落とし穴が形成されたりもする、非常に探索困難な土地です。さらに、生い茂った木々は方向感覚を狂わせ入った人を迷わせるのです。」


「ほうほう。」


「ただし、先ほども説明したように基本的に地盤が岩で食料となる物が少ない点と、密集する樹木のせいで大型生物の生息は確認されておりません。」


「な?面白くないだろ?。」


 シエンちゃんが俺に言う。


「まあまあ、続きをお願いします。」


「はい、食料となるものが少なく、資源として活用できるものも樹木以外にあまりなく、その樹木すら運搬の手間を考慮すると価値は低い、と言うわけでこの大海樹内には王国で確認が取れている集落は存在しません。」


「確認が取れていないものは、あるかもしれないんですか?。」


「おかしな言い方になってしまいますが、存在する可能性は高いと考えております。ただ、現在まで確認を取る意味が薄いという事で放置しておりましたが、先ほどの災害が人為的に発生させられており、その被疑者達が潜伏している可能性から今回、捜査班を派遣したのですが連絡が途切れたのです。こちらが捜査班の資料になります。」


 そう言ってステイソン氏は鞄から5枚の紙を出し、こちらに向けてテーブル上に置いた。


「どうぞ、御確認下さい。」


「はい。」


 俺は返事をしてその紙をシエンちゃんとアルスちゃんにも見えるように並べる。

 A4サイズほどの大きさの紙には、白黒写真のように見える精緻な顔の模写と指名、簡単なプロフィールが記入されている。男性が4人と女性が1人である。皆、冒険者で、得意項目にそれぞれ、近接戦闘とか、隠密行動とか、追跡術などと書かれている。


「そちらはお持ちになられて結構ですが機密書類になりますのでご注意下さい。」


 ステイソン氏が言う。


「今回の依頼は基本的には彼らの生存確認、できるようでしたら保護をお願いします。もしも、被疑者集団についての情報が手に入るようであれば、そちらもお願いいたします。さて、こちらの依頼、お受けして頂けますでしょうか?。」


「俺は、人助けにもなるみたいだし、受けてもいいと思うがふたりはどう?。」


「トモトモが受けるならわたしはついていきますよ。」


「我もだ。」


「では、こちらの依頼、お受けさせて頂きます。」


「ありがとうございます。それでは特別依頼受託ということで、皆さん、今一度、こちらの板にギルドカードを置いて上から指で押さえて下さい。カード内に現在特別依頼遂行中の情報が書き込まれます。」


 俺たちは言われた通りにする。


「ありがとうございます。それでは、ダスドラック領衛兵隊ジーフサ大海樹訓練場に話を通しておきますので、まずはそちらにいらして下さい。」


 という事になった。

 俺たち3人は一旦事務所に戻り、旅支度をすることにした。

 事務所に居た子供たちに仕事でしばらく留守にする事を伝えると、わかった、留守は任せて安心して行ってきてね、と言う心強い言葉を貰う。本当に、どんどん大きくなっていくなあ。

 さてと、まあ荷物と言ってもさほどの事はない、いつものウェストバッグにカード現金を入れた巾着、アウロさんに貰った切り出しナイフ、後は手ぬぐい、それだけだ。

 シエンちゃんとアルスちゃんは何を持って行くのか聞くと、俺とたいして変わらない、ナイフがないだけで後は同じだった。ふたりとも女の子なのに軽装ですこと。

 俺は買っておいた地図を広げてダスドラック領の衛兵隊訓練施設の位置を確認する。


「これはどのぐらいで着くかね?。」


「そうだな、バンコウテの街からマズヌルとは逆方向、内陸部に向かうのだが距離的にはマズヌルに行くのとそうは変わらぬ。今からだと、日は暮れるだろうがそれ程夜は更けない時間には到着するな。どうする?今、行くか?。」


「そうねえ、行ってみっか。」


 と言うわけで俺とシエンちゃんとアルスちゃんの3人は、いつものようにキットとナーハンに乗って出発するのだった。


「しかしなあ、大海樹ってのはそんなに面白くない所なの?。」


 俺はふたりに馬上から尋ねた。


「まあ、そうだな。ひたすら同じ光景、美味しいものがあるでもない。歯ごたえのあるやつもいない。面白くないことこの上ないな。」


「こればっかりはシエンさんと同意見ですね。」


 アルスちゃんまでそう言う。俺もシエンちゃんとは同意見!お前に三つの選択肢を与える!っておい!自分にツッコむ。


「ふーむ。ってことは安全な依頼ってことだよね。」


「さあて、どうであろうなあ。トモちゃんもあの捜査班のメンツが書かれた紙は見たろう。」


「うん。」


「あの者たちもなかなかの手練れだろうに、中にひとりいた女な、あれはAクラス冒険者だろ。残りもBクラスだと書いてあったぞ。どうなのだ、それは?どう考える?。」


「A級ひとりにB級4人のパーティーでしたら、そう簡単に全滅することもないでしょう。説得されて向こう側になった、と言うほうがまだ説得力がありますね。まあ、向こう側がどこなのかはわかりませんけど。」


 シエンちゃんの問いにアルスちゃんが答える。


「俺もこちら側の世界情勢に疎いんだけど、ステイソン氏の言ってたようにネズミの大量発生やジャイアントアーミーアントの繁殖を人為的に起こして得をするのってどこなんだろうね?ゴゼファード領に敵対する領?レインザー王国に敵対する国?。」


「我もそこまで詳しくはないが、今時王国内で領同士が争うのは、考えづらいだろう。結局王国近衛兵団や周辺領の衛兵団に抑えられて領地没収の上、爵位はく奪、リスクの高さに対してのリターンも少なすぎる。まだ、周辺国の画策だと言われたほうが現実味があろう。」


「わたしもそう思います。しかし、レインザー王国に表立って戦争を仕掛けるほどの力がある国があるでしょうか?。幾つかの国が手を結んで敵対したのであればもっと表立った動きをするでしょう。」


「てことは、表立って戦争を仕掛ける程の国力はないが、この国に大きなダメージを負わせることで利益を得る国となると?。」


「うむ、まあ、隣国であろうな。」


「そうですねえ、トモトモはレインザー王国が島国であることはご存知ですか?。」


「いや、知らなかった。」


 アルスちゃんに問われて俺は正直に答える。


「そうですか、まあ、とても大きな島ですが、周囲の国とは海を隔てています。マズヌル、オカシス、ネムツマなどが面した方の海はとても広いですので、こちら側からは海を渡ってやたらと攻め込めるものではありません。反対側の海は隣国まで一番近い場所は、そうですねえ、ノダハからオゴワナリヤより若干近い位の距離ですかねえ。そちら側の地域は過去に隣国からの侵攻を受けたことが幾度もありますが、その度に周辺の領主が力を合わせて撃退してきました。王国としてひとつにまとまってからは、現在まで侵攻を受けてはおりません。」


「なんだ、アルスは詳しいのう。」


「はい、この国の事は割と気に入ってまして、その歴史も色々と調べましたからねえ。」


「しかし、本当に隣国なのかねえ、国内の犯罪組織とか、国家転覆を狙う秘密結社とかそうした可能性もあるんじゃない?。」


「ないのう。」

「ないですねえ。」


「ふたり共即答!。」


「さすがにのう、現実味が薄いのう。」


「今の王国内にそこまで大きな犯罪組織はどうでしょうかねえ。そうしたものが存在するならば耳に入ってくると思いますねえ。ステイソン氏もそうした事は触れてませんでしたよね。」


「でも、被疑者集団と言っていたけど。」


「まあ、ステイソン氏が所属する集団も掴み切れていないのが実状なのでしょう。」


「ああした人間はハッキリ確認が取れるまでは、言いきらぬものだ。立場と責任であろうな。」


「おっ!シエンちゃんたら、随分人間の事わかってきたじゃないのさあ!俺は嬉しいねえ!。」


「そうか!くふふふふ。嬉しいか!よーし!調子が出てきたぞ!久しぶりに競争と行くか!ハイヨーナーハン!。」


 そう言うとシエンちゃんはこちらに確認も取らずに速度を上げて走り始めた。


「うわっ!ちょっと!待ってよ!。」


「待たないぞー!どうだ!同じ手は食わないぞ!。」


 ちぇ、では、スリップストリーム作戦だ。以前に競馬の番組か何かでレースに使うエネルギーのうち約20パーセントは空気抵抗だとか、そんな事を聞いたことがあった。

 俺は前を行くナーハンの後ろにキットをつける。果たして馬の細い体でスリップストリームの効果が得られるのか、とも思うが、なんせロードバイクでもあるくらいだからな、長距離を複数人で進むときには先頭を走るものはローテーションするものらしい。らしい、と言うのは、前世界ではおひとり生活だったので、グループライドはやったことがなかったのだ。

 さて、自転車ではドラフティングと呼ばれたこの行為、効果はいかほどか。

 俺はナーハンの真後ろに位置取りできるように気を払い少しづつ距離を詰めていく。

 そうして、ピッタリ後ろについて走らせていると、キットの呼吸が落ち着いてきた。

 どうやら、効果はあったようだ。しかし、ナーハンもタフな馬だよ。

 ペースを落とさず走り続ける。

 マキタヤを過ぎ、山間の道に入り速度が落ちる。


「なかなか、やるではないか!しかし、ついぞ前には出られなかったな!どうだ!参ったか!。」


 シエンちゃんは大威張りだが、ナーハンはやや苦しそうだ。


「まだまだ、わからないぞ。」


 俺は真後ろポジションをキープしながら言う。


「よし、いいだろう、峠道を抜けたらまた競争だ!。」


「ブルッフフンッ!。」


 ナーハンが自分に気合を入れるように荒ぶった息を上げる。


「ナーハンもまだまだやる気だぞ!。」


「あんまり無理させるなよー。」


 俺は声をかける。


「なーに、へっちゃらだ!。」


 峠道を抜けバンコウテの街を通り過ぎ内陸部へと向かう大きな道に出る。

 シエンちゃんが速度を上げ、ナーハンがいななく。

 さすがのナーハンにも疲れが見える。

 俺はキットを変わらず真後ろに位置取りし、一定のリズムで辛抱強くついていく。

 さすがにシエンちゃんも俺の真後ろのポジション取りに何かあると気づいたようで、真後ろにつかれないように緩やかに左右にナーハンを動かすがその時はこっちは真っすぐに進むだけだった。

 そんな調子でしばらく走っていると、さすがのナーハンもスタミナ切れかジリジリと速度が落ちてくる。

 俺は一定のリズムと速度を維持したまま、真後ろのポジションからやや右に出る。

 ナーハンがどんどん近づきやがて横並びになる。


「ムムム!なぜだ!ナーハンが力負けするとは!。」


「フフフーン!キットはずっとナーハンのすぐ後ろについていたからね、風の抵抗をあまり受けずに済んだんだよ。今度はナーハンをキットの真後ろにつけてみな。」


 俺はそう言ってナーハンの前に出る。

 後ろから聞こえるナーハンの呼吸が徐々に徐々に落ち着いていく。


「なるほど、そういうことか!やるではないか!。」


「このペースなら陽が沈みきる前に到着できそうですね。」


 シエンちゃんに続いてアルスちゃんが言う。


「そうか、暗くなる前に到着したいな。」


 我々は、こうして先頭を交代して一定のペースで走り続け、完全に陽が沈む前に衛兵隊ジーフサ大海樹訓練場に到着したのだった。

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