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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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物を売るって素敵やん

 翌日の目覚めは実に爽やかだった。

 窓から差し込む朝日に鳥のさえずり、あの雲はなぜわたしを待っているのかおじいさんに尋ねたくなるような朝だった。

 こんなスッキリ爽やかな朝はいつぶりだろう。身体が若返っている事を実感する。さあっ、朝飯ガッツリ食ってバリバリ働くぞいっ!

 宿屋のギョロ目おじさん、タフーミさんと言うのだが彼にスパロウは朝飯やっているのか尋ねると昼からの営業だと言うので近所を散策がてらいい感じの朝飯が食えるところを探すことにした。

 宿屋を出て飲食店の集まる方へとぶらぶら歩いていく。

 まったくもって足取りも軽い。昨晩そこそこ酒を飲んだのにまったく残ってないし、前の世界での四十路過ぎの身体で悩まされた左わき腹の鈍痛もまったく無い。

 素晴らしきかな人生!身体を大きく伸ばして辺りを見回す。

 コーヒーの良い香りがするお店を発見!入ってみることにする。

 お店の看板には太陽亭と書いてあった。シンプルでよい。

 トビラを開けて店内に入るとお約束のようにカウベルが鳴る。


「カランコロン」


「いらっしゃ~い」


 ベルの音に続いてカウンターの向こうから声をかけてくれるのは、四十前くらいか、ちょっと色っぽい女性である。いい感じじゃん。


「よかったら、カウンターど~ぞ~」


 そうアンニュイなトーンで言ってくれるのでカウンター席に座る。

 小さな木の衝立的なものにメニューが書いてある。

 俺はスパゲッティとサラダ、ハムエッグトースト1枚にコーヒーを頼んだ。

 身体が若返ってるせいか朝から食欲がある。生きてるぜ!俺!


「コーヒーは後か先かどっちにしますぅ?」


 はは、このちょっと鼻にかかったダルな感じ。いい感じ!通っちゃおうかな。


「先でお願いします」


「はぁ~い」


 少ししてスッとコーヒーが出てきた。

 う~ん、いい香り。香りだけでシャキッと目が覚める感じ。

 一口飲む。

 うん、いい!しっかりとコーヒーの味がする。

 いい朝だぜ!前世界では仕事の前にこんなリラックスできる朝食なんて考えられなかったな。

 旨いコーヒーを飲み思わず小さく息をついてしまう。


「ふぅー」


「は~い。おまちどおさまぁ」


 来ましたよ、スパゲッティはスタンダードなミートソースで割とボリュームがある。ムム、トーストは余計だったかと思いながらミートスパを食べるとトマトの酸味が効いてて美味い!


「うまっ!」


 思わず声に出る。

 サラダもオリーブオイル的なものと塩が振ってあるだけのものだが野菜に歯ごたえがあって美味い。

 トーストもパクつく。前の世界のようなしっとり感はないものの麦麦しくてハムエッグとメチャ合う!

 後は一気呵成に平らげてしまう。

 いやー、食った食った。最高の朝食だわ。


「すいませーん、コーヒーお代わりお願いします」


「は~い」


 食後のコーヒーもまた良い。

 バックにゆったりとしたジャズかボサノバでもかかっていれば言うことないのだが、この世界で音楽と言えば楽器の生演奏と言うことになるから気軽に流すってわけにもいかないだろう。

 昨日作ったカホンを使っての客寄せも、そうした事情を考えると勝算高いんじゃないかと俺は考えていた。


「ごちそうさまー」


「は~い、ありがとうございますぅ」


 俺は会計をする。

 店を出て改めて考える。パスタとサラダとハムエッグトーストとコーヒー2杯で100レインちょっと、この2倍の値段で玩具を売ると言うのはどうなのか。

 この世界の飯は基本的に安いのだが飯代2回分と思うと考えてしまう。

 しかしポップ広告も作ったしな、売れなきゃ売れないでその時また考えよう、という事で俺は露天商売をするための道具を用意することにした。

 空中ゴマ20セットと実演用1セット、商品を置く敷布、折り畳みの椅子、ポップ看板、そしてカホンを持つと割と大荷物だ、背負子を買っておいて正解だったな。俺は買っておいた大袋に空中ゴマと看板、敷布を入れる。その袋と折り畳み椅子、カホンを背負子に結び付け背負ってみると以外に軽く感じるし、身体にフィットして動きやすいしこれはなかなか良い背負子だな。という事で商いに出発だ。

 噴水公園西4ブロックの13区画、俺が許可を取った場所はまだ朝の早い時間なのにもかかわらずそこそこの人が行きかっており、まったくのギャラリーなしでの開始にはならなくて済みそうだった。

 まずは両隣の露店、ドライフルーツなどの乾物売り屋さんと衣料品などの布製品屋さんに挨拶する。

 丁度良いから布屋さんで安い小袋を買ってからドライフルーツを買い中に入れた。小腹が減った時に摘まもう。一口食べると新鮮な甘さが爽やかに美味しい。

 よーし!準備完了!所定の位置に陣取る。布を敷いて商品を並べるのだが、空中ゴマはコマ部分とスティックがセットなのでこれを一組とする、そのセットの並べ方なんだけどまず模様ね。コマ部分の模様は俺がひとつひとつ手塗りしたものなのでそれがよく見えるように置く。そして配置ね、前世界でフリマに参加したことが幾度かあるのだがその時にベテランさんから整然と並べるより少々ラフに並べた方が売れるとアドバイスされ、その通りにしたら売り上げが上がったのでその作戦で行く。

 配置も終え折り畳みの椅子にポップ看板を立てかける。

 足元に売り物じゃない実演用の空中ゴマを置いて俺はカホンに座った、さあ、商売開始だ。

 まずはゆっくりとエイトビートのリズムでカホンを叩き出す。周りには木の箱に座り正面を叩いているように見えていることだろう、まあ事実そうなのだが、ただの木の箱と違うのは一面に穴を開けていることなのだがその穴を後ろ向きにして対面の板を叩く。

 両手で交互に箱の端部分を叩くのだが三回目は箱の中央を叩く。叩く場所によって音の高低に違いが出る。中央付近は重めの音、端は高いキレのある音がする。

 俺は頭の中で前世界の辛そうな名前のバンドがところどころで退廃的なこと言ってるノリの良い曲を流しながらカホンを叩き客寄せの歌を歌う。


「そこのおにーさん、道行く方々、見てってよ、おもしろいーよー、見たことあるかい?変わったオモチャでしょ?是非見てってよー」


 だんだんと俺もテンションが上がってきた。


「どーだい!飛ぶよっ!回るし!きれいだよっ!」


 だんだんと刻むビートもノッてくる。これも、また前世界より全然イメージ通り叩けて面白いったらないわ。

 うかうかしてるとノリ過ぎて客寄せ目的忘れちまうわ、自重せねば。少しテンポと音量を落として口上に力を入れる。


「さあさあっ、みなさんっ、よってらっしゃい見てらっしゃい、見るだけならお代はいらないようっ!今からこちらに並べたる、空中ゴマを使いまして、面白い技をお見せします!練習すれば皆さんも、きっと同じにできますよ!まったく同じにできなかったとしましても!面白さには変わりなし!きっとやりたくなりますよ!ひとつ持ってりゃお仲間の!注目浴びてモテモテよっ!」


 俺はカホンでリズムを刻みながら口上を続ける。


「そこのお兄さんもてそうね!どうだいひとつ!これから見せる技をマスターして好きなあの子に見せたなら!さあさあ!どうだ!よっ!大人気ぃーーーっときたもんだっ!」


「ええ?またえらく調子の良い売り子だな」


 よーし、食いついてきたぞ。


「どーぞ、どーぞ、見るのは無料!見なきゃ損だよ!」


 一人来ればこっちのもの。さっきから遠巻きに見てた人たちが近づいてくる。

 よーし、実演と行きますか!


「さてさて、皆さんお立会い!」


 俺は足元から自分用の空中ゴマを取り出す。

 スティックを両手で持ち紐の上にコマを置く。


「ほらほら、皆さん!きれいでしょう」


 俺は紐を動かしてコマに回転を与えていく。ドンドン回転を与えて十分に遠心力を発生させてからたるませた紐を勢い良く張ってコマを飛ばす。


「おおぉ!」


 集まったお客さんがどよめいた。


「ほら、よっと!」


 落ちてきたコマをキャッチする。


「おぉーー」


 お客さんの声に気持ちが良くなってくる。


「さーて、お客さん、今のは少し練習すれば誰でもできますよーー。ちょっと派手に見えますでしょう。明日注目を受けるのはあなただっ!なんちゃってねーー。次はすこーし難易度が高い技をお見せしましょう」


 コマに回転を与え続けながら話すのにも慣れてきた。

 俺はコマに紐を巻き付け上に登らせるエレベーターという技を繰り返す。


「へぇーー」

「面白いなぁ」


 幾らかレスポンスがある。


「そーでしょう、そーでしょう。仲間の前でやってごらんなさいよ!なにそれ!すげー!ってんで貸してちょうだい貸してちょうだいの人気者だよ!。もうちょっと難しめの技を見て頂戴!」


 俺は飛ばしたコマを交差させた手で受け止めるクロスキャッチ、両スティックを片手持ちして落下してくるコマに鞭のように叩きつけて絡めとるウィップを続けてやって見せた。


「おおおおおぉーー」


 かなりのどよめき。ビックリして改めて周りを見れば結構な人だかり。

 おおぅ、いつの間に!俺はコマに回転を与えながら話す。


「さあさあ皆さんいかがです。仕組みは簡単、後は買って練習するだけ!熟達すれば大道芸で稼げるかもよっ!好きなあの子に見せるも良し!家で待つお子さんに買って帰れば、大喜び間違いなし!仲間に見せれば人気者!みなさん幸せ私も幸せ!」


「どっ!」


 お客さんが一斉に笑う。


「まだまだお見せしましょうか!みなさんどうせ見物するならお隣さんで布袋とドライフルーツ買ってつまみながらいかがかな?実は私も買ってましてね。これがなかなかいけますよ!」


 俺は空中高くコマを投げて地面に置いてある小袋の中からドライフルーツをつまみ口に入れてから落ちてくるコマをキャッチした。


「アッハッハッハ!」

「兄ちゃん、商売上手だな!」


 受けてる受けてる。あまり人が集まると両隣りのお店に迷惑かかるかも知れないからな、ご近所付き合いは大切にってなもんだ。実際に買いに行く者もチラホラいる。

 俺は回転をかけた空中ゴマを跨いだ状態で飛ばして足の上を通してキャッチしたり、投げ上げたコマを一周回ってキャッチしたりして見せた。


「よぉっ!兄ちゃんいいぞっ!」

「パチパチパチパチ」


 拍手きました!これは気持ちいいな。ジャグリングにハマる気持ちがわかるよ。


「ありがとうございまーす!拍手頂きましたー。さてさて、みなさん、今お買い上げ頂いた方限定でこの場で技のレッスンを無料でさせて頂きますよーー!」


「よーし、200レインだな!一個買うぞ!」


 おおっ、最初に見に来てくれた若い男性のお客さんだ。


「ありがとうございまーーす!それではお兄さん好きな柄を選んでください!」


 俺はひとまず空中ゴマを置いてお客さんからお金を受け取った。


「よーーし、どれにしようか・・・これだっ!これに決めた!」


 そう言ってその兄さんは赤のファイヤーパターンをらせん状にあしらった柄の物を選んだ。どこの世界でも男の子はこういう柄、好きねー。まあ塗ったのは俺だが。


「毎度ありがとうございます!。では早速回転の与え方から一緒にやってみましょう」


「ちょちょちょ、ちょっとまって、私も!」

「じゃあ、私も子供の土産にもらおうかな」


 若い女性と中年男性がお買い上げーー!


「毎度ありがとうございまーーす!どうぞ、お好きな柄をお選びくださーーい!皆様のご多幸を祈って一発高く高くたかーーーく上げて見ます!成功しましたら皆さん盛大な拍手をお願いいたします」


 俺は力を入れて高く高く投げ、その場で三回ターンを決めてからバチっとキャッチをして見せた。

 場は盛大な拍手と歓声、早く教えてくれ、私にもひとつ頂戴ってなもんで沸きに沸いた。

 そんな調子で俺は昼過ぎまでには空中ゴマ20個完売となった。

 思わぬ売れ行きに俺はホクホク顔だった。撤収前に両隣りへ挨拶すると、もう売り切れかいと驚かれた。

 いつまでやるのか聞かれたので後九日ですと答えると、おかけでこっちも売り上げ上々だからあんたんとこがやってる期間は在庫を増やすつもりだ、あんたのところも在庫を増やしたらどうだ、なんて言われる始末だった。

 そして別れ際にこれ持ってきなって、乾物屋さんからドライトマトを布製品屋さんからは黄色いバンダナを頂いたのだった。

 あざーっす!てな感じで現場を撤収すると、俺は宿屋に戻り荷物を置き背負子を担いで材料を仕入れに行くことにした。

 宿屋ではタフーミさんに随分と早いお帰りですなと驚かれたので、今日はたまたま調子良かったんですよーとかなんとか言ってドライトマトをおすそ分けする。


「いやこれはどーも。ありがとうございます」


「どーぞどーぞ、頂きものですけど、なかなかいけますよ」


 ドライトマトなんて初めて食べたけどこれが意外に美味しいのね、食材かと思ったけどそのまま食べても酸っぱくてほんのり甘い、結構後引く旨さだよ。

 ドライトマトをつまみながら材料調達に出向く。

 今回は空中ゴマ25個分の材料を購入。更にカホン用の材料も買い足した。

 実はカホンを売ってくれって人もいたんだよな。商売道具だし使用品だからと断ったのだが、それでも欲しいと言う人もおり新しく作成しますのでまたお越し下さいとお答えしたのだった。

 今度はミニサイズのカホンも作ってみる。サイズは高さ25センチ幅と奥行15センチとノーマルサイズの半分で作成。これがこっちの世界の面白いところなんだけど、空中ゴマの方が材料費がかかるんだよね、少しだけど。

 カホンの材料ってお椀のような加工品がないからね。まあ、木の板も加工品っちゃあ加工品なんだけどさ。前世界では空中ゴマは高くても2千円位だったけどノーマルサイズのカホンは6千円はしたしミニサイズでも3千円以上したもんだ。だから自作経験あったわけだけどね。値段設定が空中ゴマ以下ってのはどうなのかね。でも、ま、カホンはメイン商材じゃないからな、仕入れ材料から大小共に4つ出来るから一日それだけの販売で、キリ良く大は200レイン小は100レインでいくことにしよう。

 そんなわけで各材料を調達した俺は再び宿屋に帰り商品製作に取り掛かった。

 空中ゴマを25個、何回も作っているとだんだん作業に無駄がなくなり手際が良くなる。

 コマ部分に柄を付けるのが割と楽しい。細かい星を沢山あしらったり、小花をちらした模様をつけたり子山羊を沢山歩かせてみたり、ラーメン丼によくあるグルグル模様いわゆる雷紋をあしらったり、なんてちょっと凝り始めるとあっという間に25個終了。

 カホンは変に色塗っちゃうと音が悪くなっちゃうから残念だが模様に凝ったり出来ない。その代わりに底面に小刀でサインとシリアルナンバーを削る。

 サインはアウロさんへの感謝を込めてアウトモとした。

 余った材料で自分用にもミニカホンをひとつ作った。自分用のカホンは底面にサインと共に初号と削った。

 カホンがだいぶかさばるので明日の露店は荷物持って往復するようだな。かさはあるけど軽いから持ち運びはそこまで不便じゃない。ただ落として壊れるといけないので荷造りはしっかりせねばなるまい。

 まあ、ここから露店場所まで近いしな。大丈夫だろう。

 そうして準備も整ったので昨日と同じくスノースパロウで夕飯を食べて宿で休んだ。

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