混乱と昔馴染みって素敵やん
「すべての騎士団を港に向かわせなさい!」
ダイム公が言う。
「しかし、それじゃあ、お前の警護がいなくなっちまう!」
焦るニキーモ侯爵。
「私も港に行きます!」
「しかしダイム!」
「我らもお供いたします!少しでもお力になれれば!」
「我らも!」
「そうだ!俺たちも行くぞ!」
ブッシュビーが力強く言うと、ブレッカン派をはじめた流派の武術家たちも声を上げる。
「俺たちも出来る事をやろうぜ!」
「そうだ!俺たちの土地だ!」
「出来る事をやろうぜ!」
観客たちも声を上げる。
「ちょいと、行ってきますよ」
俺はビキちゃん達に声をかける。
「私も行きます!」
「急いで飛んで行くから、無理せずにね!」
「わかりました!」
ビキちゃんが真剣な表情で言う。
俺はゲイルで飛び港へ向かう。
「ほっ!さすがに速いのう」
俺についてきたファカラ老師が言う。
「老師、ご無理をされずに」
「まだまだ、若い者には負けんわい。ビキは後れを取っているようだがな」
後ろを見ると、ビキちゃんミオちゃんを先頭に多くの者がゲイルジャンプや身体強化によるジャンプを使いこちらへ向かってきている。
「私もいる事を忘れないで頂きたいです」
「キャリアン!」
「おうおう、モスマン族の大将はさすが飛行能力が高いのう」
「ご老師!あれを!!」
キャリアンが言う先に見えるのは、粒のような黒いものに浸食されている様に見える港だった。
「急ぐぞ!」
ファカラ老師が言い速度を上げた。
「了解です!」
俺も自分で出せるトップスピードを出すが、ファカラ老師のほうが早いようで追いつけない。
ファカラ老師、キャリアンに少し遅れて飛ぶ俺。
風圧をガードしながらだと俺にはここいらが限界か。
俺たちはそのまま港に近づくと、黒い粒が段々とはっきり見え始めて来る。
「荷を守れ!これ以上進ませるな!」
「クソが!救援はまだか!」
「荷を燃やすなよ!」
「こっちだ!もっと矢を持って来い!!」
港では騎士団と港湾労働者が力を合わせて魔物と戦っていた。
降り立った俺たちは逡巡の暇なくその戦いに加わる。
俺は土魔法の鉄散弾を打つ。
近くにいた大型犬サイズのフナムシ数匹に当たりそいつらが砕け散る。
俺は手当たり次第に鉄散弾を放っていく。
周囲の魔物を蹴散らしながら船が係留されている辺りに着くと、船の上で船員たちが山刀片手に魔物と戦っているのが見える。
俺はゲイルで甲板に飛び、船の上で暴れている虹色したでかいイソギンチャクに鉄散弾を打つがヌルヌルした体表を玉が滑り逸らされダメージを与えられない。
「大丈夫か!」
同じように刃物でダメージが与えられずに苦戦している船員に声をかける。
「なんとか!」
「雷を使う!距離を取ってくれ!」
「了解!」
周囲にいた船員たちは意を察しすぐに巨大イソギンチャクから距離を取る。
さすが、常日頃から命がけで働いている海の男だ、判断も行動も早い。
俺はいつもより電力マシマシで空雷弾を放つ。
五発の帯電した空気弾が青白く光り、派手にバチバチと音を立てて巨大イソギンチャクに当たる。
イソギンチャクは煙を上げ虹色だった体表は白く濁った色になり、動きを止める。
「助かったぜ!」
船員が俺の所に来て言う。
「いったい何が起こってるんだ?」
「わからねー、だが、沖のほうで何かが強く光ったのを見た奴が沢山いる。海で何かあったのかも知れねー」
「そうか、わかった。ここは大丈夫か?」
誰かが沖合に何かを仕掛けたか?
ともかく、魔物を掃除したらなるはやでそいつを確かめねーと。
時間がたてばたつほど、証拠が消えていく。
「ああ、今の奴さえいなきゃなんとかなるぜ。旦那は他を助けてやってくれ!」
「じゃあ、任せたぞ!」
俺は船から飛び降り、再び上陸している魔物の退治に向かう。
屈強な港湾労働者と騎士団達は、基本的に近海で出没する海の魔物程度ならばものともしないようで、数を削ってやれば戦局は有利に進む。
手こずっている所を見つけては数を削り次に移るってのを俺は繰り返す。
時折いる虹色イソギンチャクや、軽トラサイズのヤドカリなんかは手こずっちゃいるが、集団で挑めばタコ殴り状態で倒せている。
「クルちゃん!大丈夫ですか!」
「ビキちゃん!俺は大丈夫だ!そっちはどうだい?」
「ケガ人などは門弟達が安全な場所に移動させてます。今の所、死者は出ておりませんし、重傷者もなし。港湾施設の大きな損傷もないです」
「それは良かった。余裕が出来たらダイム公の警護に誰かまわって貰って」
「ブッシュビー師範代がついてます!」
「了解!俺はこれから原因らしいものを探りに行ってくるから、後は頼めるかい?」
「何かあったのですか?」
「船員たちが沖でなにかが強く光るのを目撃しててね。ちょっと、周囲を飛んで何か残っちゃいないか見てくるよ」
「気をつけて下さいねクルちゃん!」
「ああ気を付けるよ!」
俺はビキちゃんに挨拶をしてゲイルで飛びあがった。
空から港をみると魔物の数は激減しており、応援に駆け付ける人も続々と集まっている様子。
「こりゃ、大丈夫だな」
俺は独り言を言いながら沖へと向かった。
「おーい!トモちゃん!何処へ行くんだ?」
「おーシエンちゃん!どしたの?」
「港に魔物の大群が来たって言うから駆けつけたらもう、さほどいないじゃないか。残念に思っていたらトモちゃんが飛んでるのが見えたのだ」
「そっかそっか!実はこの騒ぎの原因と思わしきものを目撃した人がいてね」
「ほうほうほう!やっぱりトモちゃんといると楽しい事が起きるぞ!で?どうしたんだ?」
「沖で何かが強く光るのを見たって言うんだよね」
「ふむふむ!そりゃあれだな!」
「なんだい?」
「何かしら関係はあるな」
「またシエンちゃん、ずっこけるような事を!」
「きゃははは!ほんの冗談だ!港にいた魔物たちは海にいるやつばかりだったから、ムグリの時とは違うやり方、元々いる奴を狂暴にするようなやり方だろう」
シエンちゃんが言ってるムグリの時ってのは、エルミランド帝国バトマデルーイの街で追っていた耳長族の男が使った魔法具による魔物の大量発生の事だ。
「なるほどね、さすがシエンちゃん!。するってーと、沖合に船かなんかで出てそこでやったと仮定するとだよ、魔物達が上陸する先を避けて撤収しますわな」
「まあ、そうだろうな。我らのように飛んで行く手もあるが、平時であれば目立つからな。やはり、船を使ったと考えるのが妥当だろう。それも、目立たぬ地味な奴を」
港は湾の中、左右を陸地に囲まれた状態だ。
湾の外で何かの装置をぶちかましたとして、一番目立たずしかも早くに着ける陸地。
内陸から湾外を見て左手の陸地は住宅がチラホラ見える。
「さすがに住宅地がすぐそばにあるような場所には逃げないだろうな」
「まあ、そちらに逃げたのならば目撃者もあろうしな。それにほれトモちゃん、あれはなんでしょうーか!」
俺の方を向いて仰向けに飛びながら頭の上に組んだ腕を伸ばすシエンちゃん。
しかし、ちょいといくらなんでも無精が過ぎる飛び方だなあ。
進行方向見てないじゃないか。
「なんでしょうって、見てもいねーのに、ありゃぁ!!」
「ぎゃはははは!!ありゃぁだって!久しぶりに面白トモちゃんが出たな!」
俺は思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
シエンちゃんの伸ばした腕の先には、住宅地方面とは逆の陸地、ゴツゴツした岩が露出する磯があり、海上に出た大きな岩山の影に停泊する中型船が見えたからだ。
「いやいやシエンちゃんあれはもう、そのものずばり、犯人のものだろ!」
「まあまあ、落ち着けトモちゃん、まだまだわからんぞ。船の中には人の気配なし、周囲にも人の気配なしだ。結論を急ぐな」
「しかしなあ、明らかに怪しいぞう」
俺たちは海上に露出してる大岩の影に係留されている中型船に近づいた。
ちょうどサイズ的には前世界で見た漁船くらい。
長さは十メートルくらいはあるか。
船室のついた立派な船だ。
シエンちゃんが言うように船内に人の気配はない。
「あれを見ろトモちゃん」
シエンちゃんが指さす先に見えたのは断崖の側面に空いた洞窟だった。
「ここからなら岩の上を歩いてあそこまで行けるね」
「この船に乗っていた奴らがあそこに入っていったと考えるのは自然な事だろ」
「ああ、そうだね。行ってみようか」
てなわけで俺とシエンちゃんは、そそり立つ崖の側面に空いた洞窟に向かった。
「なんか、シエンちゃんにレインザーまで送ってもらった時の事を思い出すなあ」
「ああ、あの時もこうして海から洞窟に入ったな」
俺はライトの魔法を使い洞窟内を照らす。
「地面が濡れておる」
しゃがんだシエンちゃんが地面を触って言う。
「満潮時に水没するのかね」
「いや、これは今しがた濡れた靴でここを通った跡だな」
「当たりかね」
「可能性は上がったな」
俺たちは洞窟を進む。
しばらく進むと洞窟は行き止まりになっており、真上に向かって穴が開いている。
「ここを上に行ったのか」
「まあ、そうだろうな」
天井を見上げ上方向に空いた穴を眺める。
ライトで穴の中を照らすとどこかの空間に出ているようで、穴の先に天井が見える。
俺たちは飛んで穴を上がって行く。
上のエリアに出ると穴の横に縄梯子がまとまっている。
「こいつを使ったのか」
「ああ、連中の中に飛ぶのが苦手な奴がいるのだろうな」
「なるほどね」
俺はシエンちゃんの意見に納得する。
これはもしかしたら結構な大物が釣れるかもな。
俺たちは周囲の気配に気を付けながら洞窟を進む。
所々に魔物の死骸が転がっているのが見える。
「それほど前ではないな」
シエンちゃんが転がる魔物を見て言う。
「うん、急げば追いつくか」
「この調子ならすぐに追いつくだろうな」
俺たちは洞窟を進む。
しばらく進むと前方に明かりが見える。
「出口のようだね」
「気を付けろよトモちゃん。出口からほんのり気配がする。かなりの使い手だ」
「了解」
俺は呼吸を整え全身の気配を研ぎ澄ませ、どこからの攻撃でも対処できるように身体から余計な力を抜いて出口へ進む。
洞窟を出ると一瞬強烈な殺気が熱風のように顔に当たり、俺は思わず身構える。
「なんだよクル坊かよ、あんまり老骨を驚かすな」
殺気が来た方向とは逆から声がして振り返ると、そこにいたのはサーヴィングのおとっつぁんだった。
「驚いたのはこっちだよ!寿命が縮んだわ!俺だってわかって気を当てたろ?やめてくれよ!もう!」
「けへへ、つい面白くてな」
「あんまりトモちゃんをからかうなよな」
「まあそんなに怒るなお嬢。でも面白かったろクル坊?」
「ああ、今度教えてくれよな」
サーヴィングのおとっつぁんが言ってんのはあの殺気の当て方の事だ。
任意の方向から殺気を当てれれば、戦闘時にいいフェイントにもなるし使い勝手の良い技だ。
「クル坊ならそう言うと思ったわ。時に中に誰かおらなかったか?」
「いなかった。って言うか俺たちは怪しい奴らを追ってたんだよ」
俺は港での騒ぎからざっと説明する。
「港の騒ぎは聞いてる。アルスお嬢が向かっているよ。俺はお姫と一緒に行動してたんだが途中で賊に襲われてな」
サーヴィングのおとっつぁんが言う事にゃ、アルスちゃんから港の騒ぎを聞き、一旦ダイム公と合流しようと御前試合会場に行ったのだがそこは避難所になっており、ダイム公は騎士団を引き連れて港に向かったのだ聞く。
それで、後を追っかけたのだが、途中で怪しい集団に襲われたのだと。
おとっつあんとキーケちゃんを襲うなんて、そいつらも運がなかったな。
結局、瞬殺されたわけだが、問題はそいつらの目的だった。
「どうやら、追放されたランブラス流とスルデライの一派が呼応してクーデターを計画していたみたいでな。混乱に乗じてダイム公とニキーモ侯爵を暗殺、同時に中央行政館を占拠し新領主即位を宣言する計画だったようでな。お姫はダイム公とニキーモの護衛に飛んだ。新領主即位宣言をするのにスルデライ派の大物が密かに潜入してると言う話でな、そいつの身柄から押さえてやろうと来たのだが、もうここにはいなかったか」
「まだ、そう遠くには行ってないぞ」
「ここから中央行政館へは?」
シエンちゃんに続いて俺は尋ねる。
「うむ、ついて来い」
サーヴィングのおとっつぁんはそう言うと飛びあがった。
俺とシエンちゃんは後に続く。
「お爺は髭を剃れ!飛ぶ時に邪魔だろう?」
「けっへっへっへ、シエンのお嬢にゃ敵わんなあ。この髭は気に入って生やしてるんだ。似合ってるだろ?」
「そんな髭を生やしてるからお爺と言われるのだ」
「いや、お爺って呼んでるのシエンちゃんだけだし!」
俺はつっこんどいた。
「このまま森を突っ切るぞ」
おとっつあんが言う。
「了解」
敵は森の中を移動中と言う事も考えられる。
俺たちは森の中を木を避けながら飛ぶ。
幾らも進まぬうちに森の中を移動中の団体さんを発見。
三十人はいるか?まったくゾロゾロとどこから湧いた!
「人の家で随分好き勝手やってくれるじゃないか?ええ?」
サーヴィングのおとっつぁんが冷たい声を発する。
団体はピタリと動きを止める。
「ああ、誰かと思えば裏切り者の老犬か。小僧と女連れて死にに来たかよ」
「ほっ!貴様バンゲルか?敗軍連れてまた負けに来たか。ご苦労な事よ。クル坊、こいつはスルデライ近衛兵団長だが、命惜しさに最後まで戦わず逃げおったのよ。笑えるだろ?」
おとっつぁんが笑いながら言い、バンゲルと呼ばれた男は怒りに震えた。
と、その時、乾いた破裂音が二回、周囲に響き渡った。
「ぎゃははは!中央行政館を落とした合図だ!!今回は俺たちの勝ちだな!」
バンゲルが笑って言う。
「シエンちゃん!」
「ああ、心得た。お爺、トモちゃんと仲良くやれよ!」
「お嬢は余裕だね、わかった。そっちも気を付けろよ」
「気を付けるほどの奴がいればよいのだが」
シエンちゃんはポツリと言うと、ものすごいスピードで飛び去って行った。
「奴らの中にスルデライ派のお偉いさんがいる。奴らはそいつをかばって逃げようとするだろう、そっちを任せて良いか?」
「任された」
シエンちゃんが飛び去るのと同時に俺たちに向かって放たれる大量の矢や魔法を弾きながら、俺とサーヴィングのおとっつぁんは集団に向かって行く。
集団は皆揃いの黒装束に身を包んでいる。
乱戦になった時に敵味方の区別がつきやすいようにか?
地面すれすれまで急降下し、集団の先頭方面にダッシュする。
飛んで来る土魔法の石槍や矢を鉄散弾で迎え撃ちながら、こちらに向かってこないで走り去ろうとする集団を探す。
後方で派手な爆発音。
おとっつぁんが敵を引き付けるのにやってくれたのか。
黒装束の集団と生い茂る木々の間に走り去って行く連中が見える。
「はい!どいてちょうだいよー!」
俺は前にいる黒装束に空雷弾を放ち続けながら声をかける。
「そんなに急いでどこ行くんだ?」
走っている集団の後尾に空雷弾を放ち、ふたりを弾き飛ばしてから俺は言った。
ちょっと雷多めだったかな?
集団のうち後ろにいた奴らがこちらに向きなおり、一斉に魔法を放ってくる。
反応速度は早いが魔法の練りっぷりが足りねーな。
俺は土魔法でガードを施した両手で、進むに邪魔になる攻撃だけを受け蹴散らししながらそいつらに接近、至近距離から広角に空雷散弾を放つ。
なかなか素早い連中だが、至近距離からの散弾を避けられるほどじゃあなかったみたいだ。
手前の連中が吹っ飛び走ってる連中が一瞬こちらを見る。
「な、なにをやっている!!簡単だと言ってなかったか!早く!なんとかしろ!!」
集団に囲まれた男が大きな声で甚だ人任せな事を叫んでいる。
間違いなくそいつがスルデライ派のお偉いさんだろ。
まあ、偉かったのは過去の話だが。
「見―つけた」
俺は思わずニンマリしてそいつに指をさした。
「ひぃぃぃ!!」
いひひひひ、ビビりまくってやんの!おもろいやんけ!
「悪い子はいねがぁぁぁぁ!!」
俺はデカい声で言い風魔法で突風を吹かせる。
「ぎゃぁぁぁ!!早く!なんとかせい!!」
あーおもろ!
律儀にも俺に向かってくる黒装束。
そんなしょうもない奴のお守り、本当にご苦労さんとしか言いようがないよ。
「まったく、そんな奴のためによくやるなあ。逃げた方がいいと思うよ」
俺は向かってくる黒装束の投げるナイフを強化した腕で叩き落としながら言う。
それでも、やはり逃げる奴はいない。
「その義理堅さ、仕える相手を間違えたな」
仕方ないな、殺しはしないから寝てろ。
俺は近づく奴には帯電させた手足で軽い打撃を当て、遠距離攻撃を放つ相手には空雷弾を放ち戦力を削る。
「まだやってんのかクル坊」
振り向くと肩に男を担いだサーヴィングのおとっつぁんの姿。
「今、片付いたとこ。後はあのうるさいのを残すのみ」
俺は見苦しくヒィヒィー叫んでいる男を指さして言う。
男は腰が抜けたのかへたり込んで動こうとしない。
「んー?おや?これはこれは、誰かと思えばケンシュ丞相ではありませんか。お久しぶりですな」
「ひぃー!お前など知らん!わしも丞相などではない!知らん!知らん知らん!!」
へたり込んだままのオジサンは顔を手で隠し下を向き頭を振る。
「なんです?じょうしょうって?」
「ああ、スルデライの側近中の側近だ。王の補佐役の最高位ってやつだ。こりゃ、思わぬ大物が釣れたな。良かった良かった」
「あ!そうだ!中央行政館に早く行かなきゃ!」
「大丈夫だろ、シエンのお嬢が行ってんだから」
「だから心配なのよ!建物ぶっ壊さないうちに行かなきゃ!」
「そりゃマズイな。よし、そいつを背負ってついて来い」
「ウィっす!」
俺は手で顔を覆いうずくまってるオジサンを背負い、先に飛ぶサーヴィングのおとっつぁんに続く。
「静かにしてないとビリビリするよ」
ジタバタするオジサンに俺は言ってやる。
それでも動くのをやめない偉かったオジサン。
やっぱり今はもう偉くないだけの事はあるね、アホですわこの人。
アホはビリビリですわ。
軽くオジサンに電気を食らわす。
「あぎゃぁぁぁぁぁ!!!」
オジサンは大げさな声を出して身体をピーーンとさせた後、ぐったりして静かになった。
「ったく、偉そうな奴は効いたふりがうめぇーなーって、聞こえちゃいねーか」
電撃の威力ではなく驚いて気を失っただけのオジサンを背負い、俺は飛ぶ。
待ってろよシエンちゃん!
建物壊す前に行くからね!




