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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
29/1115

気をつかうのって素敵やん

 日も傾き、夜の入り口が見えてくる頃、俺たちはアウロさんに挨拶をして馬車で帰宅した。

 馬車の中ではまだ興奮冷めやらぬ様子の子供たちが、互いに祭りやステージの感想を言い合っていた。

 馬車の窓から見る風景は、段々と日が傾き暮れゆく山並みがとてもきれいだった。

 事務所に着く頃にはすっかり日も沈んでいた。

 子供たちが小腹が減ったと言うので、ジョーイたちが野菜スープを作ると言ってキッチンへと行った。

 俺も手伝うと言ったのだが、残り物でちゃちゃっとやっちゃうから任せてよ、とジョーイに言われてお言葉に甘えたのだった。

 庭にお風呂が完成したから順番に入って来なさいとシシリーが言うので、いつの間にそんなものを?と聞くと、宣伝の仕事が薄くなってきた時に業者さんに頼んで、自分たちでできるところは自分たちでやるからという事で、格安で作ってもらったのだそうだ。

 そんなに大きくはないからみんなで一緒には入れないけど、3人くらいなら一緒に入れるというので、みんなが入った後に使わせて貰うことにした。

 シエンちゃんとアルスちゃんも含めて、俺と調理担当者を除くみんなが一通り風呂に入って出てきた時に、丁度、スープができたというので俺は夕食後に風呂に入ることにした。

 ジョーイとサラとアンが食事と食器を運んでくれる。


「ありがとうね。」


 俺は3人に感謝する。


「どうぞ、召し上がれ。」


 アンが言う。

 みんなもいただきますと、ちゃんと言ってから食事をする。


「いやー、美味しいね。ホッとするよ。」


 俺は言う。


「本当だ!帰ってきたって感じがするね!。」


 シンが言う。

 みんなが笑顔になる。

 暖かい食事に心がほぐれる気分だ。

 元より小腹が減ったくらいなので、一杯食べれば十分で俺は食器をかたずけてからひとっ風呂浴びることにした。ジョーイに一緒に入るか尋ねると、腹ごなしに明日のカホン製造の準備をしてから入るから、お先にどうぞ、ときたもんだ。逞しくなってきたなあ、ジョーイ。

 と言うわけで俺は着替え片手に庭に出ると、プレハブ小屋みたいな、なんていうのか、よく工事現場なんかで簡易的な事務所になっているような建物がふたつできていた。

 ひとつの小屋のトビラには女と大きく書かれており、いまひとつの小屋のトビラには大きく男と書かれてある。当然俺は男と書かれている小屋に入る。

 小屋に入ると脱衣所までできており壁際に籠が3つ並べてある。脱衣所のトビラを開けるとそこそこ大きい浴槽にお湯が張ってあった。

 おおーっ!なかなか大きいぞ。これなら足を延ばして悠々と入れるな!

 張ってあるお湯に手を入れるとちょいとぬるい。

 俺は小屋を出て裏手に回ると庇の下に薪が積んであるのでそれを窯に幾らか足した。

 脱衣所に戻り服を脱ぎ、かごに入れる。

 浴室に入りまずは身体と頭を洗う。

 木で作った桶でお湯をかぶり、ゆっくりと風呂につかる。


「はひゃーーー、生き返るぅーーー。」


 思わず声が出てしまう。

 足を延ばして入る風呂は最高だなー!

 すっかり身体も温まりリラックス気分。

 今晩はゆっくり寝れそうだよ。

 風呂から出ると、みんなさすがに疲れたのかほとんどのメンツは部屋に戻って寝たとのことで、まだ起きていたのはケインとシシリー、後は入浴中のサラとアン、後はこれから風呂に入るジョーイだけだった。


「悪いなジョーイ。先に風呂使わせてもらったよ。いい湯だったよ。」


「うん!こっちも今、丁度準備が済んだところだったから。じゃあ、入ってくるね!。」


 そう言ってジョーイは風呂へ向かった。


「しかし、ジョーイは随分と逞しくなったなあ。」


「エミーと一緒に踊りを習うようになってから、あの調子なんですよ。」


 シシリーが言う。


「そーなんだよなー、どうもエミーとジョーイは、ゲフッゲフッ。」


「ねー、トモさん。男の子って急に成長しますよねー。」


 ニコニコ顔で言うシシリー。


 いや、今、ケインに肘打ち食らわしてましたよね!


「ゲフゲフ、いやあ、ねえ、トモ兄ぃ。ねえ。」


 涙目で俺に何かを訴えかけてくるケイン。


「そ、そうだな、うん。確かにそういう所あるよな、男って。うん。いやー、そろそろ寝ようかな。眠くなってきちゃったよ。」


 すまん、ケイン。俺は退散させて頂きます。


「あっ!俺も!寝ようかな!。」


「所長はまだやること残ってますよ。」


 変わらない笑顔で言うシシリー。


「そうでしたね。ははは。」


 乾いた笑いをするケイン。

 頑張れ!ケイン!シシリーは、お前が選んだ相方だ。俺もシエンちゃんとアルスちゃんには頭が上がらないから心配するな!なんて、慰めにもならないことを胸中に俺は部屋に帰り寝るのだった。



 翌朝、俺とシエンちゃんとアルスちゃんは新たな依頼を受けるべく、冒険者ギルドへと向かった。

 ギルド内に入るといつも以上に人が集まっている。


「これは、あれかね?マキタヤの鉱山が再開するんで依頼も増えたのかね?。」


「どうだろうな。わからんが。」


「あら、あちらはギルド長ではありませんか?。」


 アルスちゃんが言う先には、ここに来るといつも顔を合わせますけど、もしかして見張っていたりしますか?でお馴染みのノダハ冒険者ギルド長、ニーソンさんが相変わらずのいぶし銀スマイルでこちらにやって来るのが見える。


「いやー、どーもどーも。お待たせいたしました。」


 ニーソンギルド長がそう言って近づいて来るのだが、なにをお待たせされたのかさっぱりわからない。


「なにがお待たせなのだ?。」


 シエンちゃんが率直に聞く。


「いやー、例の件ですよ、例の件。ちょっと、ここではあれですので、こちらへどうぞ!さささ!。」


 もうここに来ると必ずと言ってよいほど通される応接室へ、我々一同は連れていかれるのだった。


「さあ、皆さん!お伝えしなければならないことが沢山ありすぎて、どこから話したらよいのやら。」


「まず、落ち着け。」


 シエンちゃんが的確な突っ込みをする。腕を上げたな。


「いやあ、すいません。とにかく、私としましては実に、誇らしい気持ちです。まず最初にですが、クルースさんの特別依頼受託者としての推薦が通りました。拍手!。」


 パチパチと大きな音を立てて拍手する、いぶし銀オヤジ。なんら照れることなくたった一人で拍手している。

 俺は少しこのオジサンを見直してしまった。何たる鋼メンタル!


「すいません、もう、拍手するのやめて頂いてよろしいですか?。」


 アルスちゃんが静かに言う。ここにもいたよ!鋼メンタルの持ち主!


「いやー、すいません舞い上がってしまいまして。なにしろノダハ冒険者ギルドから特別依頼受託者が選出されるのは実に30年ぶりの快挙ですから!私がギルド長を務めさせて頂くようになってから初の事ですので!何卒ご容赦ください。」


「それはよい、わかった。後はなにがあるのだ?。」


 シエンちゃんが問う。


「えっ?えー、あーはい、後はですね、ランクのことなのですが。私としましては、もう、皆さんがただものではないことは十分理解させて頂きましてね、何しろあのジャイアントアーミーアントの死骸の量と恐ろしいまでに損傷の少ないクイーンの亡骸、きっちり見せて頂きましたからね。あれを見て文句を言うやつはおりますまい!。」


「だから、結局どうなのだ。」


 ゆっくりと表情を変えずに言うシエンちゃんが怖い。

 俺の怯えが伝わったのか、ギルド長が居住まいを正す。


「失礼しました。端的に申し上げます。クルースさんがB、シエンさん、アルスさんが共にCということで今後はお願い致します。皆さん、お帰りの際に受付でカードの提示をお願いいたします。それから、報奨金の件ですが、討伐量が多いため一括での支払いが難しいのですが、分割でもよろしいでしょうか?。」


「ええ、それで構わないです。」


 不機嫌になっているシエンちゃんに代わり俺は答えた。


「それから、最後になりますが、本日のお昼に特別依頼受託者証明をギルドカードに付与する為に領主都より冒険者ギルドゴゼファード領主都統括本部長のサムジェイ・ステイソンが来ますので、申し訳ないのですが本日お昼ごろに、もう一度御足労願いたいのですが、よろしいでしょうか?。」


「ええ、構いません。」


「ありがとうございます。では、また後程、よろしくお願いします。」


 そう言ってギルド長が頭を下げた。


「わかった。では、昼ごろまた来る。」


 シエンちゃんが言う。


「では、失礼しますねー。」


 アルスちゃんは平常運転、にこやかに言う。


「では、お昼に。」


 俺がそう言ってギルド長を見ると、ギルド長は額に汗を浮かべながらお疲れ様でした、とゆっくり言った。

 部屋を出てから受付で冒険者カードを提示しランクアップの手続きをしてもらう。

 まあ、手続きと言っても渡された書類にサインして指で押すだけの事だったが。

 俺はシエンちゃんに言う。


「あんまり人間相手に強いプレッシャーかけたらダメだよー。ギルド長汗かいてたよー。」


「いやいや、あの男もなかなかやるぞ。我のは単なる不機嫌だったが、アルスは軽く気を当てておったぞ。」


「ええー、何したのよー、アルスちゃんはー。」


「かるーく気を当てただけですよ。ホントに軽くですから。」


「なに?気を当てるって?。」


「取り入れた魔法の気を練って各元素を意識し、イメージを固めて効果を発動させるのが魔法だろ。そのイメージに物理的効果を乗せず意識のみを乗せる。と、まあ口で説明するのもなかなか難しいが。」


「うふふふ、シエンさんは実践派ですからね。しかし、概ねそういった感じです。」


「おい、お前ら。」


 ギルド内でふたりから気を当てることについて説明を受けていると、大男が声をかけてきた。


「はい、なんでしょうか?。」


 俺は返事をする。


「なんでしょうかじゃねーんだよ。さっきから、ペチャクチャペチャクチャと、ここは女子供の来るとこじゃねーんだよ。」


「あれ?これってもしかして、難癖つけられて絡まれてます?。」


 俺はシエンちゃんとアルスちゃんに聞く。


「そのようだな。」


「丁度良いので、実践しますから、トモトモは良く見ていてくださいね。ゆっくりやりますからね。」


「てめーら、なにをごちゃごちゃ。」


 大男がすごんでいるのをよそに、アルスちゃんがゆっくりと深く呼吸をする。

 なんだか、もやっとしたものがアルスちゃんの額辺りに渦を巻いているようにみえた。

 その渦はすぐに消えて、次の瞬間、アルスちゃんの額から空気の振動のような、実際には髪の毛ひとつ揺れていないのでなんの物理効果も持たないものなのだろうが、そうしたものが大男に向かって発せられた。

 それを受けた大男はガクガクと膝を震わせてその場にへたり込んだ。


「なんか、薄っすらとモヤモヤしたものがおでこに見えたけど。」


「ほほう、見えたか。それはちゃんと注意して見ておった証拠よな。」


「どうでしたか?やり方はわかりましたか?。」


「うーん、なんとなくは。」


「ちなみに、今のはギルド長に放ったものよりだいぶ弱めだぞ。な?あのギルド長はなかなかやるだろう。」


「なるほどねー。しかし、あれだな、人間相手なら平和的に無力化させるのに丁度良いな。」


「人間じゃなくても効果があるぞ。」


「そうなの?。」


「はい。今度試して見て下さい。」


「うん、やってみるよ。」


 なんて話をしていたら、奥からギルドの職員が出てきてへたり込んだ大男を起こして連れていった。

 ギルド職員はしきりに恐縮してたが、大したことじゃないんでそのオジサンも怪我がなくて良かったです、とだけ告げて俺たちはギルドを出るのだった。

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