話し合えるって素敵やん
「ねえ!どうだった!。」
「見てくれた?。」
子供たちが俺たちの前にワーッと駆け寄ってくる。
「ああ、見ておったぞ。とても、良かったぞ。」
ゆっくりと慈しむように言うシエンちゃん。
「素晴らしかったですよ。こんなに気持ちの良い見世物は初めてでしたよ。」
アルスちゃんも母性を感じさせるようなにこやかさで言う。
「最高だったよ。本当に。感動しちゃったよ。」
俺はみんなに感想とも言えない感想を言う。どうにもしまらないな。
「緊張しましたよー。上手くいって良かったです!。」
珍しく興奮気味にシシリーが言う。
「宣伝班以外のみんなは、いつの間に練習をしていたんだい?。」
俺は尋ねる。
「いやー、ケインが空中ゴマの練習を手伝ってるのを見てやりたくなったんだよっ!だって、ケインがどんどん上手くなるからさあ。」
カイルが言う。
「私もケインの練習に付き合っているうちにすっかり夢中になってしまいました。」
シシリーが言う。
「そーなのー!ジョーイとエミーもアンから踊りを教わってるしー!いいなー、私も何かやりたいなーと思ってたらトモ兄さんが楽器を買ってきてくれたからー。ベスとサラを誘って練習し始めたってわけ!ひとりおまけがついてきたけど。」
「何をー!おまけとはなんだよー!。」
マギーとジョンが言い合いを始めたので仲裁する。
「まあまあ、そうだったのかー。全然知らなかったよー。」
「我は知っておったぞ!。」
「わたしもです。」
「なんだよー。ふたりとも教えてくれたっていいじゃんかー。」
「くふふふ。だって、なあ、アルス?。」
「うふふふ、ねー、シエンさん。」
「なんだかなー、女の子たちはなー。そういう所がやっぱり男の子とは違うよなー。」
「え?なんで?なんで?。」
俺のボヤキにシンが尋ねる。
「いやさ、俺たち男組の会話といったら、仕事の事ばかりだったなあ、ってさ。もっと、食べ物の話しとか、日常の事を話すべきだな。反省するよ。」
「そうなの?。」
「そうでございます。」
シンの問いかけに、俺は反省して言う。
「きゃははは!わかればよいのだ!。」
「僕はアンとも他の女の子たちとも、色々話しするよ。ジョーイもだよね?。」
「うん。そうだね。どっちかって言うと僕は聞いてばかりだけど。」
「なんと!俺だけかー!。」
俺はどうやら、みんなとのカジュアルでポップなトークが足りなかったようだ。
「いやー皆さん!ありがとうございました!素晴らしい演技と演奏でした!。」
「本当に、良かったですよ。」
そう言って近づいてきたのは鍛冶ギルド長のスレッジさんとアウロさんだった。
「是非これからも、我がマキタヤで定期的に公演して頂きたいですよ!マキタヤの発展のため、是非お力添え下さい!これからはマキタヤも生産だけでなく観光にも力を入れていきたい!そう、私、鍛冶ギルド長、スレッジ・ラッシュは考えておるわけであります!御商売のためだけでなく、来てよかった、また来たい、多くの方にそう思って頂けるマキタヤを目指しております!そのためにも是非!みなさんのお力をお借りしたい!よろしくお願いします!。」
子供たちひとりひとりと握手しながら熱弁をふるうスレッジさん。なんだか、有権者を前にした政治家みたいだな。
「どうも、あのような男でして、すいません。」
アウロさんがそう言う。
「いやいや、立派な志ではないですか。」
俺はそう答えた。
「まあ、実際、政治的な手腕はある男なので、この街の事を考えての行動ならば私も大目に見ているのですが、いかんせん野心が強すぎましてなあ。ゆくゆくはゴゼファード領鍛冶ギルド統括本部長になるだなんて言っておりましてなあ。」
「それは、随分な野心家ですねえ。」
「己の器をわきまえればよいのですが、放っておくとマキタヤの発展を足がかかりに考えて、強引な事の運び方をするもので、私も気苦労が絶えぬわけなんです。」
「なるほど。しかし、案外とスレッジさんの存在がアウロさんの若さの秘訣なのかも知れませんねえ。」
「確かに、あいつがいると老け込む暇もないですなあ。あっはっはっはっは。」
「ねー、はっはっはっはっは。」
「おい、ラッシュギルド長!その辺にして皆さんを開放して差し上げなさい。さあ、皆さん、マキタヤを存分に楽しんでいって下さい!。」
「ありがとうございましたー!。」
「また、呼んでくださいねー!。」
「今度はノダハにも来てください!。」
「楽しかったです!。」
子供たちはみな、口々に感謝を述べてお祭りを満喫するためにそれぞれ連れ立って行く。
アルスちゃんとシエンちゃんも、それぞれ子供たちに引っ張られて行ってしまい、みんな三々五々に街へと散って行ったのだった。
なんだか、久しぶりにひとりだなあ。どうしてくれようか、なんて伸びをしながら考えているとアウロさんが話しかけてきた。
「クルースさん、この後お時間ありますかな?。」
「ええ、ありますよ。」
「では、よければ一杯いかがですか?。」
「いいですねー、しかし、昼間から飲んで怒られませんかねえ。」
「なんせ、めでたい日ですからね。今日くらいは許されるでしょう。さあ、行きましょう。」
という事でアウロさんと飲みに行くことになった。
アウロさんに連れてきてもらったお店は、なかなか雰囲気の良い大衆居酒屋といった風情の店だった。
「この店は私のお気に入りの店でしてね。ワインビネガーを使った料理が絶品でしてね。是非、クルースさんと一緒に来たかったのです。」
「いやあ、そうですか。嬉しい限りですよ。」
「最初はエールでよろしいですか?。」
「はい。」
「おーい!。」
アウロさんが手を上げると、すっと店の姉さんが寄ってくる。
「いらっしゃいませ。」
「エールふたつと、いつものふたつ。お願いね。」
「かしこまりました。」
店のお姉さんはすっとさがっていく。そして、エールをふたつ持ってやって来る。
「はい、エールふたつ、お待ちどう様。」
「早いですねえ。」
「ふふふ、この街の男どもは気が短いですからねえ。では、乾杯といきましょうか。」
「ええ。」
俺とアウロさんは木製ジョッキをかさね、グビグビとエールをやる。
「ぷはーーーっ!生き返りますねえーー!。」
「これなんですよねえ、クルースさんもいける口ですねえ。」
「いやあ、好きなほうですねえ、私も。」
「はい、注文お持ちしました。」
料理も早いよ!
「ありがとうね。」
「うわっ!食欲をそそる香りですねえ。」
テーブルの上が賑やかになる。
「姉さん、エールふたつ追加よろしくね。良いですかなクルースさん?。」
「はい。」
いいねえ、アウロさんも好きなほうだなこりゃ。俺は残っていたエールを飲み干してジョッキを姉さんに渡した。
持ってこられた料理は、どれもこれも非常に美味しそうだった。
全部2皿ずつなのも遠慮しなくてすむので良いねえ。
「いやー、こいつは美味そうですねー。頂きます。」
俺はまず深皿に入った煮込み料理を頂くことにした。
上に乗ってるのはチキンですねえ、おや?下には、ライスだ!米あるんだ!リゾットみたいになってる!
「いやー、これ!中にお米入ってますね!いやー!これは!嬉しいなあ!。」
「おや、クルースさんは米好きでしたか。」
「ええ、それはもう!故郷は米で有名な国でしたからねえ。」
「そうでしたか。どうですか?こちらの米は?。」
「美味いです!この味付けも濃厚でいいですねーー!こりゃ、エールが進みますねえ。」
「もう一杯いきますか?それとも違うのいきますか?。」
「よければ、もう一杯エールを。」
「そうしましょう。」
ニッコリ笑ってアウロさんが言う。
美味しい食事に美味しいお酒、そして、良き友。最高だなあ。
「クルースさん、特別依頼をご存知ですか?。」
「いや、聞いたことはないです。」
「そうでしたか。特別依頼というのは関係各所からの推薦により選ばれた人に国から依頼されるものなのですが。」
とアウロさんはここで話しを区切り、エールをグイと飲んだ。
「普通のギルドに張り出される依頼とはどこが違うのですか?。」
「ほとんどは秘匿性の高さですね。大勢に知られる事が望ましくない場合です。他にも、難易度の高さ、達成された依頼内容が悪用されないため、なんてことも理由になっています。」
「ほほう。」
「まあ、詰まる所、人柄も評価基準という事です。そこで、本題なのですが。」
ムムム。アウロさんが真面目な表情になった。俺はエールを飲み、続きを待つ。
「先ほどのギルド長、スレッジがですなあ、クルースさんたちのパーティーを推薦したと言うのですよ。」
「オフッ、オフオフッ、すいません、ちょっと気管に、エールが。」
「申し訳ない。やはり、驚かれますよね。私にも事後報告だったもので。クルースさんの了承も得ずに、すいません。」
「これって、本人に了承をとるような事なんですか?。」
「いいえ、ただ推薦するのに了承をとる必要はありません。」
「でしたら、お気になさらずに。それに、まだ推薦されただけで選ばれたわけではないですから。」
「これも、大変、お聞かせしづらい情報なのですが、ザンザス隊隊長、ノダハ衛兵隊隊長、更にはランツェスター首座司教からも同様の推薦が出ているらしくてですな。どうも、かなり高い確率で選ばれるのではないかという事なんですよ。」
「・・・・。その依頼というのは断れたりするんですか?。」
「勿論ですよ。これに選ばれるという事は、国にとって特別な存在である、という事でもありますからな。云わば要人ですな。」
「なら良いんですけど、なにか、それによって行動に制限がかかったりします?。」
「いいえ、なにせ要人ですから。中には外国に住んでいる方もいると聞きます。そのくらい自由である、という事ですな。まあ、依頼を引き受けた場合、守秘義務は生じるでしょうが。」
「まあ、それくらいは当然でしょうから。しかし、私だけでなく、パーティーとして選ばれるには無理があるのではないでしょうか?パーティーでの実績は今回の任務が初ですから。」
俺は人間界のゴタゴタにシエンちゃんやアルスちゃんを巻き込みたくなかった。
「それは、そうです。ですから、実際に選ばれるのはクルースさんおひとり、という事になると思います。ですが、選ばれるという事は、それだけ信頼されるという事でもありますので、実質、選ばれた者が信頼し行動を共にするものも選ばれた者と同義なのです。無論、要人扱いされるのも同様です。」
「そうですか。まあ、シエンちゃんもアルスちゃんも私より強いですから、誰も彼女たちに無理強いは出来ないでしょうが。アウロさん、教えて頂きありがとうございました。この件、彼女たちに伝えてもよろしいですか?。」
「勿論ですよ。」
「ありがとうございます。いきなりだと心の準備ができないですからね。助かりました。」
「いえいえ、煩わせてしまって恐縮です。」
「いえいえいえ!そんな!アウロさんがそんなに思われることは何もないですよ!ほんと!こちらこそ、なんだか気を使わせてしまって、すいません!。」
「いや、そう言ってもらえると心のつかえが降りた思いです。」
「ええ、改めて、乾杯といきましょう!よく考えれば、何も悪い話ではなさそうですし。」
「はい、乾杯といきましょう。」
そうして、アウロさんとしばし酒を酌み交わしたのだった。
ほろ酔い気分に美味しい料理でお腹も満腹になった俺は、この後まだ祝賀会関連の仕事があると言うアウロさんと別れて、街をぶらつくことにした。
しかし、腹がいっぱいだと屋台で買い食いするにも、まるまるは食えそうもないな。
少し食べたいんだがなあ。なんて思っていると、向こうから子供たちとシエンちゃんとアルスちゃんが歩いてくるのを発見。
「おーーいっ!。」
「おっ!トモちゃん!どこへ行っておったのだ!探したのだぞ!。」
「うふふ、食べながらですけどね。うふふふ。」
「アウロさんと一杯やってたんだよ。しかし、みんな、もう、お腹いっぱいかい?俺はもう少しだけ食べたいんだけどさあ、誰か半分こしない?。」
「いいですよ。」
「我もまだまだいけるぞ!。」
「うひゃー!シー姉さんスゲーー!まだ食べれるの?。」
「本当、そんなに食べてもスタイルいいなんて羨ましいわー!。」
「マギーも十分スタイルいいよ。」
「なに、マギー顔赤くして!。」
「もーっ!。」
「きゃははは!みんな、そんなことは気にせずいっぱい食べればよい!いっぱい食べていっぱい動いておれば大丈夫だ!。」
「いやー、さすがに腹いっぱいだよーー!。」
「本当にねー。美味しかったねー。」
「そうかそうか、みんな、お祭りは楽しめたみたいだな。良かった良かった。しかし、みんな、お小遣いは足りたのか?」
「それがね!どこのお店いっても、さっきの芸良かったぞっておまけしてくれたり、安くしてくれたりでね。あんまりお金使わなかったよ。」
「そうよね。悪いから払うって言っても受け取ってくれないんですもの。参りましたわ。」
「ほい!トモちゃん!これこれ!半分こしようじゃないか!。」
さすがシエンちゃん、安定の肉串だ。
「おう!貰うよ。」
俺はシエンちゃんと肉串を交互に食べる。
「ところで、シエンちゃんとアルスちゃんに、ちょっと話しとかなきゃいけないことがあるんだけど、いいかな?。」
「なんでしょうか?。」
「なんだ?。」
俺の声のトーンにいつものおふざけがないのを感じたのか、ふたりとも簡潔な受け答えで俺についてきてくれる。子供たちを視界に収めながら、道の端による。
「実はね、さっきアウロさんから聞いた話なんだけど。」
俺はふたりに事の経緯を説明した。
「人間同士のゴタゴタに巻き込んでしまうようで済まない。」
俺はふたりに頭を下げた。
「よせよせっ!何を言っておるのだ、トモちゃんは!今までと何ら変わるまいに。それにな、トモちゃんと一緒にいることは我が選択したこと、誰の責任でもないわ!」
「そうですよ。シエンさんの言う通りですよ。そんなことで気に病まないでくださいな。わたしもシエンさんも、自分の行動の責任を誰かに転嫁するようなマネはいたしませんよ。」
「そうだぞ。トモちゃんが以前に言っておったな、好きに生きたいと語るものがはき違えている自由の話よ。なんとなく、見えてきたぞ。大方、この辺りの認識の違いなのではないか?。」
「それは、何の話なんですか?。」
俺はアルスちゃんに、以前にシエンちゃんと話した事を説明した。
「なるほど。シエンさんの言わんとすること、なんとなくわかりました。自分の行動の責任をとることが当たり前であると、しっかり認識していない者が語る自由などは自由ではない。好きに生きるとは他者に任せてできる事ではない、と。そうした事でしょうか。」
「まあ、そういう事だ。我もアルスもそうして、好きに生きておる。トモちゃんが謝ることではない。」
「ふたりとも、ありがとう。俺にも俺なりの倫理観や美的感覚や恥の概念があって、それは拙いかも知れないが俺の行動の規範になっている。俺の行動に疑問があったら、いつでも言って欲しい。ふたりとは、そういう関係だと、俺は思っているから。これからもよろしくな。」
「くふふふ。こちらこそ、だな。」
「ええ、こちらこそ、です。」
俺たち3人は子供たちの方へと向かい歩いていく。
彼女たちの強さは、そして、本質は、ああしたものの考え方にあるのだ。
俺ごときの物差しではとても測れるものではないが、それでもお互い認め合い、信頼し合えるというのはなんとも不思議な気持ちだし、なにより、嬉しい。俺は自然と笑顔になっていた。




