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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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ぐっと我慢って素敵やん

 と、元気よく歩き出したはいいが、いい加減日も暮れて来た。


「そろそろ日も落ちる。今日はこのぐらいにして引き上げよう。報告がてら理事長室に寄ってマッケイ君の寄宿舎部屋を聞こうか」


「やった!お願いします!」


 マッケイ君がピョンと跳ねて言う。

 寄宿舎部屋に喜んでるのね、うんうん、子供らしいところもあって良かったよ。

 そして、俺たちは理事長室に向かった。


「ほほう、そうでしたか、ビュッテン君がですか。なるほど素晴らしい観察力ですな。リドルさんもそうですが、我が校は実に生徒に恵まれておりますな」


「はい、そう思います」


「この調子で怪異の調査をお願いしますね」


「はい、わかりました。ところで理事長、マッケイ君の寄宿舎部屋なのですが」


「勿論、用意してありますよ。フレーナさんに案内してもらって下さい。今の時間でしたら食堂で厨房の手伝いをしてくれてますね、ちょうどいい。夕食がてら行って来なさい」


 てなわけで俺とマッケイ君は食堂に向かった。

 校舎から食堂へは屋根付きの通路があるので、そこを通って行く。


「うわー!校舎もそうでしたけど、食堂も立派ですねー!」


「この学園は、ご領主さんの発案で作られてるからね」


 俺とマッケイ君は話しながら食堂の中へ入る。


「あ!クルース先生、お久しぶりっす!」

「クルース先生―、どこ行ってんですかー、最近、見かけなかったけど」

「センセーっ!エマちゃんにしつこく絡む男子を何とかして下さーい!」


 食堂に入ると中にいた生徒たちから声をかけられる。


「おお!久しぶり!ちょいと依頼でね。エマは嫌がってんのかい?話を聞いとくよ」


「さすが、クルース先生!人気者ですね!」


 マッケイ君が目をキラキラさせて言う。


「いやいや、人気者ってよりは親戚の兄ちゃんか不満聞き係ってとこだよ。さて、フレーナさんはどこかな?」


 俺は食堂内を見渡す。

 談笑し食事をする生徒たち、厨房からはいい匂いが漂ってくる。

 俺はフレーナさんを探して厨房に近づいた。


「あらクルース先生、ご無沙汰じゃなーい。稼ぎが良くなって、もっと高級な食堂に行っちゃったのかと思ったわよー。あっはっはっはっはー」


「いやいや、そんな事ないですよ、依頼で隣の領まで行ってたんですよ、それに、ここの食事はどこにも負けないくらい美味しいですからね!そう簡単に他には移れないですよ」


「そーだろー?おまけに調理人が飛び切りのキレイどころときてるしねー、あーっはっはっはっは!」


 豪快に笑う食堂のおばちゃん、いつもの調子だ。


「それはホントですね。ところでフレーナさんはいますか?」


「ああ、フレーナさんなら手伝ってもらってるよ。中も、もう落ち着いてるから大丈夫だよ。フレーナさーん!クルース先生がご指名よー!」


「ちょっとちょっと、ご指名ってなんですか!もう」


「あーっはっはっはっは!だってクルース先生だって一応、男だろ?だったらご指名であっているだろうさ!ねえ!」


「わっはっはっはっは!やだねー若い男は!なにかってーと女を追っかけてばかりだよ」


「あーっはっはっはっは!」

「わっはっはっは!」


 食堂のおばちゃんがふたりで大爆笑してるよ。


「また、なにを盛り上がってるんですか?あら、クルース先生と、マッケイ君でしたね。寄宿舎部屋の事ですね。ちょうど良かった、こっちの仕事も落ち着いてきたところです。今すぐ案内しましょうか?それとも、先に食事を済ませますか?」


 フレーナさんを拘束しすぎても悪いな、ここは先に案内してもらうとするか。


「では、先に部屋を教えてもらっていいですか?」


「ええ、では今、案内しますね」


 という事で俺とマッケイ君はフレーナさんの案内で、マッケイ君の寄宿舎部屋に向かう事になった。


「ところでフレーナさん、ついでと言ってはなんですけど少しお伺いしたい事がありまして」


「あらあら、なにかしら?」


「実は、最近学園に広まってる怪異の噂に関してなんですけど、フレーナさんは何か気づかれたことってありますか?」


「はいはい、その事でしたら私も見ましたよ」


 おっとりと言うフレーナさん。


「え?実際に見られたんですか?」


「はい、見ましたよ」


「なにを見たんですか?」


 俺は思わず、つばを飲み込んで聞いた。


「あれは」


「あれは?」


「なんだったのかしら?」


 俺とマッケイ君はズッコケそうになった。


「って、フレーナさん。それを聞きたいわけでして」


「おほほほ、そうね。これでは答えになってないわね。あれは、ちょうど女子寮を夜回りしてた時です。たまーに、やんちゃな男子生徒が夜間忍び込んだりしますからね、私が夜中に巡回するんですよ。それで、その日も巡回してたんですよ、そうしたら、通路の先にモフモフしたものがすーっと」


「モフモフしたもの?」


「ええ、なんだかモフモフしたものが、スーッ。と通り過ぎたんです。ビックリしましたけど、急いで追いかけました。でも、角を曲がったら、もう何もいなかったんですよ。あれは、なんだったのかしら?」


「女子寮に夜出没するモフモフですか。うーん、生徒会のファイルにあったかなあ?」


「なかったと思います」


 マッケイ君が答える。


「てことは、新たな怪異だな。それ以後、夜のモフモフに遭遇した事は?」


「いえ、理事長に伝えたら、女子寮の夜間巡回はケリフ君のところから女性警備員をお願いする事になって、だものでそれ以来は見てないわねえ。だけど、あれは、怖いものではなかったわよ。どっちかと言えばおかしなものだったわ」


 フレーナさんが微笑んで言う。


「なるほど、ありがとうございます」


 俺たちはフレーナさんから怪現象にまつわる情報を得、マッケイ君の寄宿舎部屋の場所を教わってから食堂へと戻った。

 フレーナさんは、食堂の手伝いの合間にまかないを食べて済ませたという事で寮に帰っていった。


「しかし、新しい怪異を聞けるとは思いませんでしたね先生」


「ああ、そうだな。夕飯を食べながら新しい怪異について聞き込みしてみるか」


「おっ!トモちゃんもこれから夕飯か!マッケイも一緒に食べよう!」


 ちょうどシエンちゃんが食堂に入って来た。


「おつかれシエンちゃん!ちょうど良かった、一緒に食べよう!」


「ご一緒させて頂きます!」


 マッケイ君が言う。


「まあ、そう堅苦しくなるな!今日はいいボア肉が入ったと聞くぞ!楽しみだ!」


「そりゃいいね!」


 俺たちは今日のメニューからボア肉料理を選び、並んで受け取り空いてる席に座る。


「どうだ!見よ!我の肉大盛を!」


 大皿の上にてんこ盛りになった肉は、まるで前世界で見た大盛自慢の定食屋の特別メニューのようだ。

 いやー、近所の大学の運動部連中がね良く食べるからさ、若いもんには沢山食べて貰いたいからね、なんて初老の店長が言ってる姿が目に浮かぶよ。


「凄いです!シエン先生!ビックリです!」


「きひひ、マッケイは初めてだから仕方ないがシエンはいつもこの調子よ」


「あ!ミキイケ先生!お疲れ様です!」


「キーケちゃんお疲れ様」


 俺とマッケイ君は夕飯を手にやって来たキーケちゃんに挨拶をする。


「アルスはどうした?まだ何かやってるのか?」


「アルスならさっき文芸クラブの者と一緒にいるとこを見たから、そのうち来るだろう」


「ならいい。さあ!食べよう!」


 言うが早いかシエンちゃんは大盛肉をバクバクと食べ始める。


「まったく、いつもながらせかせかしとるなシエンは。夕餉くらいは落ち着いて食せばよかろうに」


 キーケちゃんのそんな言葉もシエンちゃんにはまったく届かず、見ていて気持ちのいいペースでモリモリ食べている。


「我々も頂くとしましょうか。頂きます」


「頂きます」


 マッケイ君は俺に続いて礼儀正しく言うと、本日のおすすめ焼肉定食を食べる。


「!!」


 一口食べたマッケイ君は、目を大きく見開き一瞬固まった。


「美味しー-い!!ビックリしました!」


「そうかそうか、そいつは良かった。おかわりできるから、足りなかったら行ってくるといい」


「ありがとうございます!」


「きひひ、マッケイもシエンも落ち着いて食わんとのどに詰まらすぞ」


 キーケちゃんが笑って言う。


「ところでさ、キーケちゃん」


「なんだ?」


「怪現象についてなんだけどさ、実は生徒会の聞き取り調査ファイルにもない新たな怪異が発生しててね」


「ほう、あの調査書なら我らも作成を手伝った故に良く知っとる。それにも載せられない新たな怪異か」


「そうなんだよ」


 俺はさっきフレーナさんから聞いたばかりの女子寮に出没する謎のモフモフについて、キーケちゃんに話して聞かせた。


「ふむ、女子寮か。確かに夜間忍び込もうとする不埒者がいるとは聞いたが。どうやら、そうした輩という訳でもなさそうだな」


「今日のクルース先生の調査のように、きっと何か説明できる原因があるはずです!」


 マッケイ君が言う。


「ほう、説明できる原因とな」


 俺は今日あった出来事を、ビュッテン君やリドルさんが解明して見せた怪現象の原因について、キーケちゃんに話した。


「なるほどの、面白いな。ビュッテンもリドルもやるではないか。やはり、何にでも原因はあるという事だな。そうすると、女子寮の怪異にもなにがしかの原因があるという事になるな」


「なにを話してるんすか!面白い話っすか!」


「皆さん、お疲れ様でした」


「お!エマとアルスちゃん、お疲れ!」


 食器を持ったエマとアルスちゃんがやって来た。

 エマの皿もシエンちゃんに負けず劣らずの肉盛りマシマシぶりだ。


「ミニシエンがやって来たわい」


「なにそれ?」


 俺はキーケちゃんに聞く。


「エマの奴はな、シエンに憧れてるんだとさ。それで、なんでもマネしたがりよるのよ。クラブも料理クラブに入りよってな、まったく、あの身体能力、武術クラブに欲しかったのになあ、惜しい事よ」


「あらら、そうだったんだ。それで、お肉の量もマネしてるってわけ?」


「いや、あれは元々だ。単なる食いしん坊よ」


 キーケちゃんが笑って言う。

 学園にいる時やケインたちといる時って、キーケちゃんは良く笑うんだよな。

 やっぱり、若者の成長を見守るのって楽しいよね。


「ふふっ、そうなんだ。シエンちゃんの妹分か。それはいいね」


「いや!バクバクバク!そんな!シエン先生の、モグモグモグ、妹分だなんて、おこがましいっす!モグモグモグ」


「わかったから、食べるか喋るかどっちかにしとけって」


「あいっ!」


 エマが返事をして食べる事に専念し始めた。


「ついさっき、フレーナさんから聞いた新たな怪異について、キーケちゃんと話してたんだけどさ」


 俺はアルスちゃんにも説明し意見を聞いてみた。


「うふふ、それでしたら原因はわかってますよ。うふふふ」


 アルスちゃんが上品に笑って言う。


「なんと!アルス先生はもう謎を解いてしまわれたのですか!ビックリです!」


 マッケイ君が驚く。

 マッケイ君じゃなくても驚きますわな。


「俺もビックリだよ。なんなの?その原因は?」


「うふふ、その原因でしたら、ほら、そこで元気よくご飯を召し上がってますよ」


 アルスちゃんの視線の先には一心不乱に肉を食べるエマの姿があった。


「エマが?」


「はい、そうですよ。エマさん、この間の話をしてあげて下さいな」


「ひゃい?にゃんすか?なんの話っすか?」


「うふふ、ほら、ちゃんと噛んで食べなさい。ちゃんと食べ終えてから、ケリフ君の所のラデリアさんに捕まった話ですよ」


「モゴモゴッ、ゴフゴフ。すいませんっす」


 エマが目を白黒させて水を飲んだ。


「ふひー、すいません。あれですかー、面目ないっす」


 小さくなったエマ。


「実は、夜中にお腹がすきすぎて、自分でも気づかないうちに獣人スタイルに変化して食堂に残り物をあさりに行ってしまったっす。それで、警備をしてたラデリアさんを驚かせてしまったっす」


「うふふ、エマさんったら夢うつつで自分でもあまり覚えてなかったようですので、許してあげて下さいね。そんな事もあって、夕飯はしっかりとる事にしてるんですよ」


「面目ないっす。念のために、部屋に幾らか食べ物を置くようにしたっす」


「うふふ、ラデリアさんもケリフ君の所の優秀な警備員なんですけどねえ、さすがに獣人化したエマさんが天井にぶら下がってたんですからね。うふふ、あー、おかしい」


「どうかご勘弁をー。もぐもぐ」


 肉を頬張って言うエマ。

 こいつ、懲りてないと見た。


「凄いです!凄いです!あっという間に解決です!クルース先生も皆さんも凄いです!」


「きっひっひっひ、マッケイよ。今のはどこが凄かったのだ?」


「うふふ、これはトモトモのファンですかねえ」


 キーケちゃんとアルスちゃんが笑って言う。


「どうもマッケイ君は、ずっとこの調子でねえ。参ってるのよ」


 俺は頭を掻きながら言う。


「うふふ、いいんじゃないでしょうか。トモトモは褒めて伸びるタイプですから」


「きひひ、違いないねえ。トモにはぴったりの助手かも知れんな」


「ありがとうございます!!がんばります!!」


 何を頑張るのやら、あんまり俺の事を持ち上げないで欲しいのだが、また、そんな事を言うと、みんなから自己評価が低いとたしなめられてしまうので、ぐっと我慢する俺なのであった。


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