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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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聞き込み調査って素敵やん

 「セイヤッ!トウッ!」

 「ハイヤー!」

 

 「セイヤッ!トウッ!」

 「アチャァーー!!」


 中庭から屈強な男たちの掛け声と素っ頓狂な掛け声が聞こえて来る。


 「トモよ、帰って来たようだな」


 中庭に行くとキーケちゃんがすぐにこちらに気づき、近づいてきた。


 「ただいま帰りました」


 「また、おかしな仲間を連れてきおったな。あれに、型を教えたのはトモか?」


 キーケちゃんが指さす先には、武術クラブ員に交じり素っ頓狂な掛け声を出して練習をしているキャリアンの姿があった。

 

 「うん、まあ、そうだね。ホント、軽くだけどね」


 「あの掛け声はトモ直伝だと言っておったぞ」


 笑いながら言うキーケちゃん。


 「参ったなあ。そんなこと言ってた?キャリアンの奴」


 「きひひひ、まあ掛け声はあれじゃが、さすがはモスマン族よ、身体能力は優れておる」


 「さすがキーケちゃん、モスマン族をご存じか」


 「きひひ、知っとるとも。なんせ東の族長国連邦の王じゃからな。屈強で知られる東の族長共を束ねる武勇に秀でた種族さね。しかも奴はそこの王家の血筋とな。まったく、面白い奴と知り合いになった者だな」


 「出自よりもあいつ自身が面白過ぎるんだよねー」


 「そのようだの」


 キーケちゃんがいい笑顔で言う。


 「時にキーケちゃん、怪異の件なんだけどさ」


 「なんだトモよ、帰って早々調査を頼まれたか?理事長も人使いの荒い事よ」


 「いやいや、仕事があるうちが華と申しまして、はい」


 「きっひっひ、やり手商人みたいな事を言いおって。しかしなあ、トモよ。怪異の正体見たり枯れ尾花と昔から言うでな。きっと、その正体も大したものではあるまいて」


 「そうかもしれないけどさ、なんだか、話は保護者にも行ってるみたいでね」


 「ああ、それも聞いておる。魔族を学園の生徒や教員として迎え入れたせいだと抜かす馬鹿者がおるようだな。まったく、けしからん事よ。そんな偏見をなくすためにアマルの坊主やキワサカがどれだけ力を尽くした事か。それを知っておればつまらぬ噂などに踊らされぬはずよ」


 「なるほどねえ。俺はまだ国王陛下には謁見したことはないんだけど、ゴゼファード様は先見の明のある方だもんなあ」


 「アマルの坊主も諸外国との交渉事などでいろいろ忙しい身だからのう。まあ、忙しくなった理由のひとつはトモだがの」


 「またまた、勘弁してよ、もう!キーケちゃんたら、冗談キツイよ」


 「きひひひ、なんで冗談な事があろうか。ケイトモブランドがスミス公国王女御用達という事で国外での人気に火が付いたのは、お主の行動から出たものだろうよ。エルミランドの依頼も元はと言えばトモの発見者事件解決の仕方が良かったから舞い込んできた話よ、そのエルミランドとの国交が以前以上に良い物になっているのも、やはりトモの貢献無くしては語れまいよ」


 「わかった、ゴメン、やっぱり勘弁しておくんなまし。照れ臭いにもほどがあるよ。えーと、あれだ、ほら、怪異!怪異の事なんだけどさ」


 「きひひ、随分と強引に話を戻したな。照れる事もあるまいに、普通の冒険者なら親子何代にもわたって語り継ぐべき偉業ぞ。まあ、その辺りもトモらしくて良いがな。それで、怪異についてだったな」


 「キーケちゃんの意見が聞きたくてさ」


 「ふーむ、まあ、先に言うたがあたしの意見なのだが、そうだな。恐らく、シエンもアルスも言っておったと思うが悪意や敵意は感じぬのよ。そういった害意ってのは残るものでな。あたしと、シエン、そしてアルスの三人で感じぬとなると、やはり害意は無いと考える方が自然かと思うぞ。後はな、こうした話には良くある事なのだが、当初、この怪異と言うのは掃除用具と机が外に出されていたに過ぎなかったのよ。いや、実際の所、現在でも、我らが直接確認しておるのはそのふたつだけでな、後は生徒たちの目撃談に過ぎぬのだ。そして、怪異の種類が増えておるのだよ」


 「最初から七不思議じゃなかったの?」


 「ああ、最初はふたつよ。今では我らが聞き取り調査して確認しているだけで二十六種類はある」


 「にじゅうろくー-っ!!」


 俺は思わず声が大きくなった。


 「きひひひ、まあ、そんなに驚くな。言うただろう、こうした話には良くある事と」


 「良くある事なの?」


 「ああ、そうだ。宮殿や城など多くの人が集まる場所でこうした怪異が噂されるのは良くある話だ。そして、その噂が変質していったり数を増やしたりするのもまた、良くある話なのだ」


 「なるほどねえ」


 俺は前世界の都市伝説を思い出していた。

 最初はただの不審者情報に過ぎなかったものが、徐々に尾ひれがつき、最終的には時速70キロで走る赤いレインコートを着て鎌を持った大女だとか、ある曲を歌うと姿を現し特定のワードを口にすると退散するとか、姉妹が沢山いて全国で獲物を探しているとか、どんどんおかしな話になっていったのを、当時少年だった俺はリアルタイムで味わっていたのだった。

 後にそうしたものを都市伝説と言い、なにがしかの起源なり元ネタなりがある事、そして、特定しづらい人の体験談として語られる事など、色々な面白い特徴があるという事を知り俺は興味を抱くのだった。

 どうやら、今回の怪異もそれと似ているようだぞ。


 「まあ、最初の怪異から噂が広がり種類が増えるまで、いささか期間が短すぎる気はするがな。それも、子供たちばかりが集まる場所だからと思えば、そこまで不自然ではないしな」


 キーケちゃんが腕を組んで言う。

 キーケちゃんのこの話し方、落ち着きのある雰囲気、安定感があって安心する。

 帰って来たなー!と力強く感じてしまうよ。


 「なんだトモよ。なにを笑っておる?」


 「え?笑ってた?ごめんごめん、なんかさ、シエンちゃんやアルスちゃんやキーケちゃんと話してたらさ、帰って来たんだなー、なんてしみじみ感じちゃってさ。自然と笑顔になっちゃってたよ」


 「きっひっひっひ、そうかそうか、そりゃ良かったぞ。どうもトモはあたしに似て旅好きのようだからな。一度飛び出すとそのままどこかに行ってしまいそうでな。帰って来たと感じて笑顔になれるのなら安心だわい」


 「そう言ってもらえると嬉しいけどね。キーケちゃんも帰って来たって感じた?」


 「この間ケインたちが学園に来て一緒に飯を食べたのだがな、その時は思ったの」


 「なら良かった」


 「きひひひ、あたしがいなくならぬか心配してくれるのか?そうかそうか」


 キーケちゃんはご満悦だ。


 「どうすんだトモちゃん?二十六の怪異を全て調べるか?」


 シエンちゃんが言う。


 「うーむ、そうだなあ、怪異の噂の発信源と話がしたいんだけどねー。もしくはそれに近い人物と。早い段階でそれを話していた人とか」


 「調査を続けるならば、魔族の者と一緒にやったら良いぞトモよ」


 「ああ、そっか!それで解決すれば魔族への誤った噂も打ち消せるか!」


 「完全に打ち消せるかはわからぬがな」


 「ありがとうキーケちゃん!そうなると、誰がいいかねえ?」


 「すいません、盗み聞きをするつもりはなかったのですが、お話が聞こえてしまったもので」


 ヒョコヒョコと近づいてきたのはマッケイ君だった。


 「お?聞いてた?」


 「はい、その役、僕にやらせてはいただけませんか?」


 「ちょうど良いではないか。渡りに船とはこの事よ」


 キーケちゃんが言う。


 「そうだね、こちらとしては願ったりかなったりだ。じゃあ、一緒に調査員として働いてもらおうかな」


 「ありがとうございます!がんばります!」


 マッケイ君がペコリと頭を下げる。


 「かわいい助手が出来て良かったなトモちゃん!それでは我はクラブに戻るとするか!」


 「なによシエンちゃん、料理クラブの途中だったの?なんだよ、引っ張りまわして悪いことしちゃったなあ」


 「いいって事よ!どうせ仕込みの時間だったからな。ちょうどいいや、少ししたら出来上がりを試食しに来ると良いぞ!うちのクラブ員にも怪異の噂に詳しい奴がいるから」


 「ありがとシエンちゃん!そうさせてもらうよ」


 「じゃーな!」


 そう言って手を上げるとシエンちゃんは走り去って行った。


 「走ってっちゃったよシエンちゃん。また怒られないといいけど」


 「きひひ、あいつはしょっちゅう怒られてるわい。余程、怒られるのが好きなようだな」


 キーケちゃんが笑って言う。


 「面白い先生ですね」


 マッケイ君が言う。


 「この学園は先生も生徒も面白いのが多いから、覚悟しといたほうがいいぞ」


 「クスクスクス、覚悟します」


 マッケイ君も笑って言う。

 さてと、ひとまずはマッケイ君と校内聞き込み調査をしますかね。


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