帰って来たなぁって素敵やん
「センセー、頼んますよー。センセーが走るとみんなビックリするんですからー」
「スマンスマン!トモちゃんと例の調査をやっててな!つい!気を付けるぞ!」
やっぱり怒られたよ。
夜学部に来ていたケリフバイ君に注意され、胸を張って謝る男らしいシエンちゃん。
「そう言えば、ケリフ。お前のとこで夜間警備に入って貰ってたよな?例の怪異について何か新しい情報は無いか?」
シエンちゃんがケリフ君に尋ねる。
「今の所、特にはないですね。勘のいい奴や気配に敏感な奴を配置しているのですが、それでもいつの間にか掃除道具や机が外に置かれているような状況です。今後はもっと人員を増やそうかと提案したのですが、特に設備の破損や盗難、人的被害なども出ていないので学園内での調査を継続する形でしばらくは様子を見ると言われまして。お力になれず申し訳ないです」
今度はケリフ君が頭を下げる。
「いやいや、お前の所は良くやってくれてるぞ!謝る事は無い!評判が良いから忙しいのは我らもわかっている。こちらこそ、スマンな!」
「何かあればいつでも声をかけて下さい。それでは失礼します」
「おう!頼むな!」
シエンちゃんがビシっと手を上げる。
「ほら、怒られたっしょ」
「な!」
同意を求めるような口調で言うシエンちゃん。
しかも輝くような笑顔ときてるよ、まったく、久しぶりのこの感じ。
帰って来たなとしみじみ思い、つい笑顔になってしまう。
「ふふっ、気を取り直して屋内運動場へ行こうか」
「ああ!そうしようそうしよう!」
元気いっぱいシエンちゃんと俺は屋内運動場へと向かう。
「あ、あ、あ、あー、アダマンタイマイ大枚払って仇討ち狙う、アダマンタイマイ大枚払って仇討ち狙う」
屋内運動場から発声練習らしき声が聞こえる。
しかし、なんちゅう文言やねん。
「失礼するぞ!」
「あら、シエンさん。トモトモお帰りなさい、いかがでしたか依頼の方は?」
「ただいまアルスちゃん。色々あったよー、面白い仲間ができてね。一緒に学園に来たから紹介するよ」
「みなさん、しばし休憩しますよ」
パンパンと手を打って良く通る声で言うアルスちゃん。
「ふいぃー-、ちょっとなんか飲んでくるわ」
「ちょい待ち!俺も行く」
「ちょっと、本読み付き合ってくれよ」
「おいおい、休憩しろよ。休む時は休む、アルス先生も良く言ってるだろ?」
「そうそう、剣術王を目指す俺でも休憩はとるぜ」
「それお前良く言ってるけど、入るクラブ間違えてねーか?」
文芸部員のみんなはワイワイガヤガヤと休憩に入る。
「その面白い仲間と言うのはキャリアンさんとマッケイ君ですか?おふたりなら先程お会いしましたよ。ネージュさん達に学内を案内してもらってましたからねえ」
「もう会ってたかー。キャリアンとはここまで一緒に旅を続けて来たんだけどさ、ホント、面白い奴でさ。あっ!そうそう!ミバト山街では助かったよ!手紙!ありがとうね!」
「いえいえ、できる事をしただけですし、シエンさんとキーケちゃんの助けがあってのことですから」
「それでも、ありがとね!実は帰って早々だけど怪異の調査を頼まれてね」
「ええ、わたしたちも頼まれて調べてはいるんですが、特に大きな被害もなく悪意も感じないですし、どうしたものかと思っていたところなんですよ」
「そっかあ、アルスちゃんが悪意を感じないってんだから、こりゃ本当にただのいたずらなのかねえ」
「だろ?我もそう言っておる」
「しかしねえ、そんないたずらして何の意味があるのかね?」
「いたずらに意味など無かろう。ただ、面白いからやっとるんだろう」
「面白いのかねえ?」
「やってる本人は面白いのだろうよ」
「現状ではシエンさんの言う事が可能性としては一番高いと思いますねえ。ちょっとしたイタズラが思いのほか多くの耳目を集めるようになり、楽しくなって止められなくなったといった所でしょうか」
「なるほどねえ」
確かにその気持ちはわかる。
わかるのだが、そうしたモノはエスカレートしやすいんだよね。
だんだん周りもちょっとしたことでは騒がなくなり、やっている方はさらに刺激的な事をやり始める。
前世界では動画の配信絡みでそれをやって、お縄頂戴になった者が結構いたもんだった。
「だとすれば、段々とエスカレートしないか心配だなあ」
「まあ、まだそうと決まったわけではないですからね」
「そうだね。もっと調査して見ないとね。キーケちゃんの話も聞いてみないとな」
「キーケちゃんなら、中庭で武術クラブの稽古をしていると思いますよ」
「わかった、じゃあ、行ってみるよ」
「行ってらっしゃいトモトモ」
「ごめんね、クラブの邪魔しちゃって」
「いえいえ、ちょうど休憩しようと思ってたので大丈夫ですよ」
アルスちゃんがにこやかに送り出してくれる。
おっとりしたアルスちゃんのこの感じ、やっぱり帰って来たって感じるねえ。
俺とシエンちゃんは続いて中庭へと向かうのだった。




