喜んでもらえるって素敵やん
ノダハにつくとシエンちゃんが、あれも買っていこうこれも欲しいと言うもので一旦事務所に帰って荷車を持って来よう、という事になる。
「皆の者!ただいまーー!荷車はどこだ!貸してくれ!。」
「シエン姉ちゃん、おかえりなさい!荷車ならそこに置いてあるけど、何するの?。」
空中ゴマを作っていたジョンが言う。
「今夜はパーティーですよー。食べ物を沢山、買ってきますからねー。」
ニコニコしながらアルスちゃんが答える。
「アルスちゃんもおかえりー!。」
ジョンが言う。
「みんな帰ってきた?。」
「そうみたいですね。皆さん、おかえりなさい!。」
奥からサラとシシリーが出てきた。
「今日はパーティーしようと思ってさ!今から食べ物買って来るよ。」
俺は説明した。
「あら、そうでしたか。丁度、今からサラと夕飯の買い出しに行こうとしていたところでした。では、一緒に行ってもいいですか?。」
そうシシリーが言う。
「おう!来い来い!なんてったってパーティーだからな!シシリーもサラも好きなものを買うと良い!今日は我らが仕事で稼いだお金があるからな!ドンと任せろ!。」
「パーティー?。」
サラがニッコリしながら聞く。
「そうですよー。楽しいですよー。」
アルスちゃんが答える。
「よしよし!では行くぞ!なんてったって今夜はパーティーだからな!くふふふふ!。」
荷車を引っ張ってとっとと行ってしまうシエンちゃん。
「ちょちょちょ!待って待って!。」
俺は後を追いかける。
「うふふふ、さあ、行きましょう!。」
後ろからアルスちゃんの声が聞こえる。
「急ぎすぎだって。」
肩に手をかけて急ぐシエンちゃんにストップをかける。
「早く行かねば、美味しいものが売り切れてしまうぞ!。」
「大丈夫だって!ほら、みんなが来るのを待って、一緒に行こうよ。みんなで買い出し行くのもパーティーの醍醐味だからな!。」
そう言って俺とシエンちゃんは後発組が追いつくのを待つ。
事務所のトビラが開いて中からアルスちゃんを先頭に、シシリーとサラが出てくる。
みんなが合流し一緒に商店の集まる方へと歩いていく。
「魔物と戦ったの?怖くなかった?。」
「ええ、怖くなかったですよ。戦ったというよりも退治しただけですからねえ。」
サラとアルスちゃんが話している。
「本当にアルスちゃんて、強いのね!ビックリしちゃう!こんなに可愛いのに!。」
珍しくシシリーが興奮しているようだ。
「おほほほほほ、ありがとう、シシリーちゃん。でも、シシリーちゃんも可愛いくて強いですよ。」
アルスちゃんがそう言う。
「そんなあ、そんなことないですよ。」
シシリーは照れて赤くなっている、女の子同士だとこんな表情も見せるんだな、と俺は思ったのだった。
「トモちゃん!まずはあれだ!あれを買うぞ!。」
そう言ってシエンちゃんが指さしたのは肉串の屋台だった。好きだねー、肉。
「よし、買って行こう!。」
そんな感じで目に付く美味しそうなものをどんどん購入して荷車に積んでいく。
なんだか、初めてこの子達の元に行った時の事を思い出すな。こうして片端から買い込んで行ったっけっかな。
それが今じゃ、こんな立派になってなあ。父さんは嬉しいぞ、うんうん、だが、まだまだ嫁には行かせんぞ!なんて心の中でひとり芝居をしながらみんなを見ていた。
「うふふふ。トモトモったら、父親のような目をしてますよう。うふふ。だったら、わたしが母親ですかねえ。うふふふ。」
そうアルスちゃんが言う。
「また!アルスは何をいっておる!そのポジションは我に決まっておろう!アルスはトモちゃんの妹でいいだろ!あっ!おじさん!そこ、もっとタレ塗ってくれ!そうそう!ありがとう!おじさん!このタレが美味しいんだよ!ホントだぞ!トモちゃん!ちょっとなめてみるか!本当に美味しいから!。」
店の前で超激キュートな娘が大きな声でそんなことを言っているものだから、周りを歩いていた人たちも足を止めて見ている。そうしてお客さんが増えてきたので邪魔になっちゃ悪いから退散する。
「これも宣伝?。」
サラが言う。
「そうだな、宣伝だな。」
俺は笑顔で答える。
「楽しいな!トモちゃん!みんなで一緒に買い出しするのもパーティーの楽しさなんだな!な!知っていたか?アルスは!。」
「知りませんでしたねえ。本当に楽しいですね。ね?トモトモ。」
「ああ、本当に、なあ。」
楽しんでもらえれば何よりだ。俺も楽しい。
「次は甘いものだな!サラとシシリーは何が好きだ?。」
「あっちのお店のパンケーキ?とても美味しい?。」
サラが言う。
「よし!行こう!みんな!ついて参れ!。」
そうして我々は沢山の食べ物を買い込んで事務所に戻ったのだった。
宣伝班も戻り今日はパーティーだと告げると、みんな笑顔で喜んだ。
あの、出自が気になるでお馴染みのキャスルとセイラでさえ喜びのハイタッチをしていた程だった。
食堂に集まり買ってきたものをテーブルに並べる。
「すごいね!ごちそうだね!。」
シンも興奮しているようだった。
「今日は俺とシエンちゃんとアルスちゃんの3人での初仕事だったんだけど、沢山魔物を退治出来て報酬も出たので、みんなでパーティーをしようという事になりました!みんな!シエンちゃんとアルスちゃんにありがとうの拍手をお願いしまーす!。」
「わーーー!。」
「お疲れ様でしたー!。」
「さすが!アルスちゃん!ありがとー!。」
「お姉さまー!。」
「ごちそうさまでーーす!。」
「やったーー!。」
「アルスちゃん、本当に強かったんだな!安心したよ!。」
みんなが思い思いに感謝の言葉を述べて拍手をしてくれる。
シエンちゃんもアルスちゃんも嬉しそうだ。
「さて、みんな、頂きましょう!。」
「頂きまーす!。」
「このお肉美味しいですわ、お兄様もひとつおあがりなさって。」
「くふふ!やはり、お肉は美味いよな!もぐもぐ!。」
「このスープもすっごく美味しーねー!。」
「くふふ!そうであろう!我とアルスで作ったのだ!もぐもぐ!。」
「アルスちゃんも手伝ってくれたんだ?。ホントに美味しいよ、このスープ。」
俺はアルスちゃんに言う。
「うふふ、そう言って頂けると嬉しいです。ただ、シエンさんが肉ばかり入れようとするので、止めるのが大変でしたよ。うふふふふ。」
「肉は美味いぞ!なあ!。」
「美味しいね。」
「みんなで食べると美味しいね。」
いつも以上に賑やかな食卓は、本当に温かで楽しくて、明日からも仕事頑張ろう!と思えるのだった。
「くふふ、楽しいのう!興が乗ってきたのう!ちょっと、面白いものを見せよう!。」
シエンちゃんが言って串の束を手に持った。
「ほい。」
気の抜けた掛け声で手を振ると、木の壁に串が刺さった。
「ほいほいほい。」
さらに連続して3つ串を投げる。
最初に刺さった串に次の串が刺さり、その串に次の串が刺さり、最後の串も同様に刺さり一本の長い串のようになるが、その自重に負けて壁から抜け落ちる。
「わー!姉ちゃん!すげー!。」
「カッコいーー!。」
「さすが!お姉さま!。」
「くふふふふー。どうだ!トモちゃん!。」
「やるなあ、シエンちゃん。でも片付けときなよー。」
俺は拍手しながら言った。
「アハハ!。」
「シエン姉ちゃん言われちゃったー!。」
「言われてしまったな。トモちゃんにはかなわぬのう。」
子供たちに笑われてシエンちゃんも笑顔で答えている。
「では、わたしもひとつお見せしましょうか。」
「ええ、アルスちゃん何やるの!。」
「見たい見たい!。」
「では、皆さん、天井をご覧ください。」
アルスちゃんに言われてみんな天井を見上げる。
そこには雲があった。あの、お空に浮かぶ雲が天井付近にプカプカと漂っている。
「あっ!雲だ!。」
「ホントだ!。」
白い塊の雲が大小いくつか浮かんでおりその上にも筋のような雲が見られ、バックが青くないだけで本物の空のようだった。
「では、よーく見ていてくださいね。」
アルスちゃんが言うと天井の雲の更に上に発光体が現れた。
そして、雲が虹色になっていく。
「きれい?。」
「すごーい。」
「うわー。」
ほほう、俺は感心した。これは彩雲だな。雲が光の加減で色づく現象だが、前世界では昔、良い兆しだなんて言われてこれが多く見られたため元号を変えた、なんてこともあったらしい。
「こりゃ、めでたくていいねー!。」
俺は拍手をした。
みんなも呆気に取られていたが、すぐに拍手に続いてくれる。
「スゲー!すげーよ!アルスちゃん!。」
「本当!きれい!。」
「どうやってやったのー?。」
「あらあら、おほほほほ。みなさん、ありがとうございます。これは魔法ですよ。風と火と水を使いました。」
「わーーー!雲が消えていく!。」
「ホントだ!なくなっちゃった!。」
「うふふふ。なくなったわけではないんですよー。見えなくなっただけなんですよ。」
「へーーー!アルスちゃんは凄いなあ。」
「ねー、凄いね!今日は一緒に寝よーねー!。」
「私もーー!。」
「私はシエン姉さまのとーなりっ!。」
「俺はシエンねーちゃんのがかっこよかったなー!。」
「おい!ジョン!失礼なこと言うなよ!シエンさんはシエンさんでかっこよかった。アルスちゃんはアルスちゃんでキレイだった。どっちも凄かったろ!。」
「ちぇっ!スチュは真面目だなあ!。」
「ジョン、お前はそんなガサツだからいつまでたっても、」
「ごめん!スチュ!悪かったから、その先は勘弁してくれよー!。」
「あっははっはっはっは!。」
「きゃはははは!。」
「おほほほほほ。」
「ハハハハーーッ!。」
本当に楽しいパーティーだ。俺は心の中でみんなに感謝するのだった。
翌日、みんなで朝食を食べてから我々は再び坑道の魔物討伐依頼に挑む事となった。
坑道入口の換金所にアウロさんの姿が見えず、今日は別の仕事なのかね、なんて話していると地底湖のある場所に換金所ができておりそこにアウロさんはいたのだった。
「あら、アウロさん今日はこちらでしたか?。」
「おはようございます、クルースさん。昨日、ジャイアントイールを討伐して下さったでしょう。おかげさまでここまで安全圏を伸ばすことができました。」
「それはよかった!今日も頑張ってくるぞ!。」
「うふふふ。今日はどんどん奥までいきましょうね。」
「おっ!めずらしくアルスちゃんが燃えているな。」
「はい、昨日のパーティーで英気を養いましたからね。」
「そりゃ、よかった。よし、今日も頑張ろう!。」
「おーーっ!。」
「はーーいっ!。」
「みなさん、安全第一で気を付けていってらっしゃい。」
アウロさんに見送られて、我々探検隊は神秘的な地底湖の先、昨日より更に地底深くへと進むのだった!
どうも、このシチュエーションに探検気分が止まらない。
子供の時にテレビで見た、あの探検隊の番組。
子供心にもおや?と思う事が多々あったが、それを吹き飛ばす映像と大人たちが本気で右往左往する姿、そしてやたらと勇ましいナレーションは俺の心に未だ焼き付きそれは探検への渇望となって、先へ先へと歩みを進ませるのであった!って、もういいよ!自分で自分に突っ込みながら先へ進む。
昨日のようにシエンちゃんとアルスちゃんが魔物の気配を感じ取り、発見した魔物を討伐しては地底湖の中継地点で換金し、また坑道に潜るのを繰り返す。
ふたりともピクニック気分で魔物を討伐していく。
背中が燃えてる大きなラーテルみたいな魔獣や、口から岩を弾丸のように発射してくる人くらいの大きさのカマドウマだとか、段々と群れで襲い掛かってくる奴らが増えてくるが、ふたりともピクニック気分は変わらない。不愉快な音を発して襲い掛かってきた大きなコウモリの群れに出くわした時なんて、シエンちゃんが両手の平を強く打ち付けて大きな音を立てたらみんな地面に落下して息絶えてしまったりもした。
そうして、さらに深く、さらに深くと、どんどん進んで行くと広い空間に出た。
本当に広い空間だった。ランタンがかけてあるのも途中までで、鉱山採掘もここが最新ポイントのようだった。思えば遠くに来たもんだ。
「ランタンがあるのもここまでだね。でもこの先も薄っすらボヤーっと光ってるなあ。」
「あれは、コケですねえ。」
「ほー。ヒカリゴケかあ。」
「ランタンの光を反射しているんだ。光ささぬ暗闇の中では光らないのだ。」
「おー!シエンちゃん、賢いやんかいさーー!。」
「くふふふふ!どうだ!恐れ入ったか!。」
「ははー、恐れ入りましたー!。」
「ふたりとも、奥に何かいますよ。」
アルスちゃんが俺たちの小芝居を制する。
「おや?皆の者静かにして、そーっと近づくのだ。そーっとだぞ。」
小声でシエンちゃんが言う。
俺とアルスちゃんは無言で従う。
そうして、音を立てずゆっくりゆっくりと先に進むとランタンの光が途切れ、ヒカリゴケの反射光のみになりそれでもしばし進んでいると、その先の空間にサッカーボール位の頭に槍の穂先みたいな大顎が2本生えた、レトリバー位の大きさのアリがひしめいているのが見えた。
「いやーー、これはお手柄だぞ、トモちゃん。」
「なんでよ?。」
小声で言うシエンちゃんに小声で返す。
「あれは、ジャイアントアーミーアントですよ。奥にクイーンがいますよ。」
「そんな強敵なの?。」
「はい、なにしろどんどん増えますからね。」
「こいつらの増え方はえげつないぞー。ネズミより増えるぞ。あんまり増えるともう手が付けられないからな。もう火山の噴火や洪水なんかと同じだ。我とてその場を立ち去るのみよ。」
「早めに見つかって良かったですね。」
「そうだな。よし、丁度良いからトモちゃんの魔法練習に使ってやろう。なんせ数が多いからな、いい練習になるぞ。」
「うへー、お手柔らかにお願いします。」
「よし、じゃあ、まず我がやって見せるから真似てみよ。」
そう言ってシエンちゃんはスタスタと歩いてジャイアントアーミーアントの前に行く。
「コツは息を長く細く保つ感じだ。」
そう言って地面に座り込んだシエンちゃんは、両手を前に倣えみたいにそろえる。
そして両手の先からフォーカスの魔法を発射して素早く両手を扇状に開く。光線を出したままそれをしたものだから、ひしめき合っていたジャイアントアーミーアントの大群が、軒並み上下真っ二つになった。
「どうだ?薙ぎ払えたろう?。」
「すげー!。」
「ほれ、次々に来るからトモちゃんやってみろ。」
「ういっす!。」
俺も真似をして地面に座り、両手を前に出す。シエンちゃんはすべての指を真っすぐにしてたけど、俺はなんか発射するイメージからか人差し指を伸ばし親指は立て、要は指鉄砲を作る。
フォーカスの魔法を両手の人差し指先から発射して両手を左右に開く。
しかし、光線を上手くキープ出来ない。途中で切れてまた発射して、その間も手を動かしているもんだから途切れ途切れになってしまう。
「難しいなー。」
「それはそうだ。元より人間にやれることではないからな。」
「では、次はわたしがやって見ましょう。光魔法は得意じゃないので、水魔法でお見せしますね。とにかくできるだけ細く練り上げます。いきますよ。」
「くふふ、闇の眷属が光魔法を使えるわけあるまい。くふ、くふふふ。」
「闇の眷属ではありません!もう!失礼しちゃいます。」
頬っぺたをプクーっとふくらましたアルスちゃんは、立ったまま両手を真っすぐ前に出し、手の甲を上にこぶしを握り、人差し指だけ伸ばした。
指先から細い線が伸び、そのまま手を左右に開いていく。
俺が打ち漏らしたアリとあわせてこちらに向かってきていたアリの群れが、キレイに上下に分かれて崩れ落ちる。
「ほう、水を使ったか。やるではないか。」
シエンちゃんがアルスちゃんを褒めるとは!
「水魔法でこれをやるのは難しいの?。」
「もっと近い距離までなら我にもできる。しかし、あれだけの距離、威力を保つのは容易ではない。おい!アルス!今度は何魔法との複合技だ?。」
「うふふふふ、気づかれましたか?土魔法も使ってます。うふふ。さあ、トモトモ!頑張って!。」
「ふわー!鬼教官が増えた!。」
「誰が鬼教官だ!。」
「誰が鬼教官ですか!。」
「ひゃー!ごめんなさい!やってみまーす!。」
「もう!トモトモは!冗談ばかり。」
「まったく!トモちゃん!ちゃんとやれよ!。」
俺は地面に座って息を整え、意識して体内に螺旋を描くようにしっかり落とし込み練り上げ、ゆっくり息を吐きながら指先に集中する。
「あら。」
「おう。」
そのまま、ギリギリと力を結い上げるようなイメージで、細く細く保ちフォーカスを発射する。
そして、イメージと気が続く限り緩やかに両手を広げていった。
「どうよ!。」
俺は後ろの2人に聞く。
「いいぞ。2回目にしては上出来だ。」
「ええ、本当に。後は発動までの速さと、技の維持ですね!この調子ならクイーンにたどり着く頃には、なかなかのものになってますよ。楽しみですねえ。さあ!進みましょう!。」
「アルスよ、お前は鬼教官だな。トモちゃん、我が守ってあげるぞ!ほれ!こっち来い!。」
「何言ってんだシエンちゃんは。まだまだやれるぜ!俺はやる気が出てきたぞーー!。」
「な、なんだ急に、どうした?光魔法の副作用か?。」
「うふふふ、いいですよ、トモトモ!その意気です!。」
「はい!先生!。」
「きゃははは!また、面白トモちゃんが始まったのう!よし!我も乗るぞ!トモちゃん!さあ!明日に向かって叫ぶんだ!お前の思いのたけを!。」
「はい!先生!びょぃ~~~~~~~~~~~ぃん。」
俺は前世界で得意だったホーミーをかました。
これはモンゴルなどで行われる倍音を発する独特の歌唱法で、初めて聞いた人は必ずと言ってよいほど、もう一度やって見てくれ、やりかたを教えてくれと言ってくる、そうした、ちょっと面白い歌唱法なのだった。
面白半分でやってみたのだが、バツンバツンと小気味良い音がして周囲のアリたちが次々にはじけ飛んだ。
「おおーーっ!。なんだ!それは!。」
「あらーー!初めて見ましたけど、風魔法ですか?。」
俺はふたりに前世界の民族的伝統歌唱法であり、ちょっとコツがいるのだと、やり方を説明してからもう一度やって見せた。
「面白いではないか!ちょっと我もやってみる!ミョウミョウミョ~~~~~~~~~~~~ィン。」
バツンバツンとかなり奥のほうからも音がして、どうやら威力はシエンちゃんのが強いようだ。
「あら、シエンさん上手ですわねえ。なるほど、同時に低い音と高い音を出すんですね。」
「そうそう、舌で口の中に空間を作ってやる感じなんだけど、一発でモノにするとは、やはりシエンちゃんはすげーな。しかも、声の高さの問題で女性の方がマスターするのが難しいと言われているのに。」
「そうだろう!我は天才肌だからな!。」
「あらあら、シエンさんたら。これは、あれですね、空気の振動を利用した風魔法の一種ですね。どうやら、アリには有効なようですね。どうしますか?それで進みますか?。」
「いや、魔法の練習を続けよう!フォーカスのコントロールの練習をやるよ!。」
「よし!良い心構えだ!。では続けよう!。」
そうして俺は、フォーカスの練習をしながらジャイアントアーミーアントの群れを退治して先に進む。
「大分サマになって来ましたね。」
「うむ、いい感じになってきたな。」
倒したジャイアントアーミーアントの死骸は、アルスちゃんが風魔法でどかして道を作ってくれる。
そうして地道にジリジリと進み、左右には膨大な数のジャイアントアーミーアントの死骸が積まれ、稀に当たり所が悪くまだ攻撃をしてくるアリはシエンちゃんが、気に入ったのかホーミーで倒してくれる。
そんな事を続けて、ゆっくりゆっくりと前進していく。
「そろそろ、クイーンがいてもおかしくないのですが。」
「おう、臭うな。」
「そうなの?」
「はい、気配が濃厚になってきました。油断しないで下さいね。」
アルスちゃんにくぎを刺される。
「了解!。」
「ほれ!天井を見てみろ。」
そこには、天井に張り付き卵を生む巨大な女王アリがいた。
「兵隊倒されて怒っとるな!。」
「ええ、警戒信号を出してますね。でも、兵隊アリは全て倒してしまいましたからね。女王自らやってきますよ。」
天井に張り付き、巨大な腹から卵を生んでいた女王はギチギチギチと大顎を鳴らしてこちらを見ている。
「さて、どうしてくれようかな。」
「女王のお腹は魔法薬の素材として価値が高いので、なるべく傷つけないで倒しましょう。」
「わかった、じゃあ、ホーミーは禁止だな。」
「なんだ、つまらぬ。」
「では、せっかくですから、ここはわたしがやりましょう。」
そう言ってアルスちゃんがスッススッスと歩いていく。
「よし、我らは高みの見物といこうじゃないか、な!トモちゃんも頑張ったから疲れたろう。ここに来て座れ!。」
地面に腰を下ろしたシエンちゃんが、隣りの地面をパンパン叩いて言う。
「おう、アルスちゃんの戦いっぷりを見せて頂くとしますか。」
俺はそう言ってシエンちゃんの隣りに座る。
天井から降りてきた女王アリは兵隊アリとは比べもんにならないくらいに大きい。
兵隊アリは大型犬位のサイズだったが、女王アリは電車2両に手足が生えた感じ、正真正銘の怪獣だ。
そいつがうねうねと身体を動かしながら、大きな顎をガチガチ言わせてアルスちゃんへとにじり寄ってくる。
「大丈夫かな。」
アルスちゃんの強さは良く分かっているつもりだが、相手のデカさや、気味の悪いフォルムについそう言ってしまう。
「どうだろうな。アルスは遊び下手だからな。見ていてもあまり面白くない戦い方をすると思うな我は。」
「いや、そういう意味じゃないんだけど。」
女王アリがノーモーションでアルスちゃんに噛みかかってくる。凄い速度でまるで空間をショートカットしたかのようだったが、首がポロリと取れて地面に落ち、次の瞬間に胴体部分も崩れ落ちた。
「ほらな、言ったろう。魅せる戦いと言うものを知らんのだアルスは。我のように勇猛で時に愛嬌もある戦い方をせねばトモちゃんにも飽きられるぞ。」
「ええーーー!そういうことは早く言って下さりませんかーー。もう一度やりますから、ちょっとまってくださいね。今、使役しますから。」
「やめてーーっ!せっかく倒したんだからー!それに、使役してどうするの!。」
「いや、だから、魅せる戦いを改めてやりますからぁ。」
「いやいやいや、大丈夫、大丈夫!十分見せてもらったから!アルスちゃんは凄いってのがよーーーくわかったから!ちなみに今のは技は?何をしたの?。」
「はいー。今のはですね、風と火の魔法を使いましてね。温度を高めた風の刃で前胸背板と後頭部の付け根をですね、」
「おい!天井に何かいるぞ!。」
アルスちゃんの説明をぶった切ってシエンちゃんが言った。
「なに?。」
見上げるとそこには大きなカタツムリに乗った女の子がいた。
「あらあー、マイマイ姫ではないですかあ。これはアウロさんが聞いたら喜びますよー。」
アルスちゃんがそう言う。
「珍しいなあ。」
シエンちゃんが続ける。
「え?なあに?どういう事?。」
「トモちゃんは知らぬか。マイマイ姫の事を。」
「うん、初めて聞いたねえ。」
「本当に珍しいですからねえ、マイマイ姫は精霊の一種でミスリルなどの希少金属が産出される場所に姿を現すんですよ。ほら、降りてきましたよ。」
マイマイ姫が天井からフワフワと降りてきた。
「ありがとうございましたーー。危うくアリに吸い尽くされるところでしたーー。」
か細い声でマイマイ姫が言う。
「ああ、そうか、女王は短期間で兵隊を増やすのに精霊の力を吸い取っていたのだな。」
「危なかったですーー。本当に助かりましたーー。」
「あらあら、それは良かったです。」
「おかげさまでーー。この山には長く居ようと思ってたのでーー。良かったですーーー。」
「あら、これもアウロさんに伝えたら喜ばれますよ。マイマイ姫が滞在すると希少金属の産出量は増えるし、採掘事故は減ると言われてますからねえ。」
「へーー、そうなんだーー。それはーー、アウロさんにーー、教えてあげなきゃだねーー。」
「きゃははは!マイマイ姫の喋り方がうつってるぞ!。」
「うそーー、本当にーー?。」
「どうやら、トモトモは精霊の影響を受けやすいのかも知れませんね。」
「うふふーー、みなさん、ありがとうございましたーー。それでは、お暇しますねーー。みなさん、さようならーー。」
そう言うとマイマイ姫はフワフワと浮かび上がって洞窟の奥へと消えていく。
「おっ!これを見ろ!。」
そう言ってシエンちゃんが拾ったのは大きな鈍く光る白い玉だった。
「あらあ、マイマイ姫の卵ですねえ。」
「エッ?卵?卵産んで増えるの?精霊って?。」
「違うぞトモちゃん!卵と言っても本当の卵ではないぞ!形が似ているからそう呼ばれているだけだぞ!。」
「なんだ、そうかあ。びっくりしたよ。」
「それでも、珍しいものですよ。空気の汚れに反応して色が変わるので採掘場のお守りとしても珍重されるのですよ。アウロさんに差し上げましょう。」
「いいのかい?アルスちゃんが助けたんだからアルスちゃんのものだよ。」
「わたしは採掘師ではないですからねえ。それにアウロさんのことは、わたしも好印象を抱いてますよ。」
「そっか、だったら良いんだけどな。」
「はい。」
「よーし!アウロさんに早く知らせに行くぞ!。」
そうして、我々は地底湖の中継地点へと向かうのだった。




