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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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役者が揃うって素敵やん

 「はい、ちょいと失礼しますよ」


 俺は絶句している男の傍に近づく。


「まあ、座りなさいよ。話をしましょう」


「お、お前、本当にクルースなのか?あの、トモ・クルースなのか?」


 男はようやく気を取り直したようで、傲慢な物言いをしながら長椅子に座った。


「ええ、そうですよ。あのと言うのが何を意味するかわかりませんが」


「わからないかい?クルースさん。こいつは発見者幹部、十人委員会のひとりで消息不明になっていたデッキ・ブグリンだ。何かと話題の組織だったからな、幹部の顔くらいは俺も押さえてるぜ」


「繋がりましたよ!クルースさん!発見者幹部、助祭枢機卿、警護隊隊長、そしてフラトフェリー村の冒険者ギルド長!悪党のラインが繋がりましたよ!」


「普通、下から上に言わないか?キャリアンよう?ギルド長から始まって発見者幹部で締める方が様になってないか?」


「えー-!そんな事ありませんよークルースさん!ここはやっぱりトップダウンですよ!」


「いやお前、トップダウンの意味がおかしいだろ!」


「ふたり共、そのぐらいにしとけよ。ブグリンの野郎が赤い顔してるぜ。」


 ハリレストさんが言うようにブグリンは怒ってるのか何なのか、顔を真っ赤にさせて震えている。


「貴様、聖堂騎士団団長だった男だな?さっさと処刑しとけばよかったものを」


「ハハハハ、さすがにあれで処刑は難しいんじゃないか?今の警護隊にも俺が嵌められたと気づいてるやつもいるだろうからな。強引に処刑なんかして隊の統率が取れなくなっても困るだろ?サルツじゃ人望無いから抑えきれねーだろーしな。それにしてもよ、あんた、こんな所に隠れてどうするつもりなんだ?もう発見者は解散してんだぞ?お前だって手配されてんだろうしよ。一生隠れているつもりか?」


「そんな訳はないだろ、私を誰だと思っているんだ。あの組織をあそこまで大きくしたのは私だぞ。そのためのノウハウはすべて私のここに入っているのだ。つまり私がいる限り発見者の火は消える事がないのだよ、わかるかね?」


「いや、お前らが何をしたのか、本当はどんな組織なのかはオウンジさんの事件で多くの人に広まっている。国民もバカではない。お前の思っているようにはならないだろう」


 俺は自信満々なブグリンに言う。


「お前らの言っている事は全て間違っている。多くの人に広まったと言うがそれは情報の伝達が早い大きな街に限った事だろう。それに国民にとってまだまだモミバトス教会の影響力は大きいのだ。貴様らもモミバトス教聖典をよく読むことだ、そうすれば私の言っている事の真の意味も分かるだろう」


「何を言っているのですかこの人は?いちいち言う事が大げさすぎますねえ!」


 キャリアンが羽をすくめて言う。


「ホント、あきれるね。お前が言うなってやつだよな。」


 俺もキャリアンに同調する。


「ブグリンよう、お前がモミバトス教を語るなよ。俺が元聖堂騎士団の団長だって事、もう忘れたのか?」


 ハリレストさんが怖い目をして言う。


「ぐっ、何を言うか罪人風情が!」


「俺らは冤罪。お前の方が本物の罪人だろう。逃げ隠れして陰から何を言っても、誰にも届かねーよ」


 ハリレストさんが言う。


「だからお前らの言っている事はすべて間違っていると言うのだ。誰が冤罪だと証明するのだ?誰が私を罪人として裁けるのだ?教えてやろう、私はこうして地下に潜んではいるが、協力者は沢山いるのだ、そして、私の発言は彼らの口を通して密かに広がっているのだ。誰にも届かないだと?国民はバカではないだと?人は信じたいものを信じるのだよ。もう一度言ってやろう、お前たちの言っている事はすべて間違っているのだ」


 ムムム。こいつはちょっとばかり痛い所をつかれたな。

 顔の見えない誰かが発した情報に多くの人が踊らされるのは、前世界でよく見たことだった。

 そして、人は信じたいものを信じるってのも、また同じくよく見たことだ。

 前世界で大昔の支配者も似たような事を言っていたものだ、人は自分が見たいものしか見ようとしない、と。

 こいつのやっている事は、前世界で言えばフェイクニュースを広めているような事だ。

 どんな内容なのかは知らないが、自分にとって都合の良い内容なのだろう。

 俺は返す言葉が見つからず黙ってしまう。


「そうはさせませんよ!我々に見つかったが最後、悪は栄えないのです!ねえ、皆さん!」


 キャリアンが元気良く言う。

 そうだった、思わず小悪党の屁理屈に飲み込まれそうになっちまったが、俺らでこいつを明るみに出してやればいいだけの話だ。


「だな、ありがとよキャリアン。本筋を見失う所だったぜ」


 俺はキャリアンに感謝した。


「さてと、ほんじゃまあ、お天道様の元に出て貰うとしますかね」


 ハリレストさんが鉄棒槍を軽々と肩に担いで言う。


「そう上手くいくかな」


 ブグリンが不敵な笑みを浮かべる。


「脱獄は重罪だぞ?これで晴れて処刑できるなあハリレスト」


 嫌な声がして振り返ると俺たちが入ってきたトビラからサルツ警護隊長が入って来る。

 そしてサルツに続いて警護隊員たちがぞろぞろと中に入って来た。


「ふはっはっは!飛んで火にいる夏の虫とはお前らの事だよ。まったく笑いが止まらないよ。あーっはっはっはっ!よくやったぞサルツ警護隊長」


 警護隊に守られながら現れた大仰な衣装を着たオッサンがそんな事を言う。


「誰?あのオッサン?」


「セルリーゼル助祭枢機卿だよ」


 俺の質問にハリレストさんが答えてくれる。


「今回の絵を描いたのはあんたって訳かい?」


 俺は卑しい笑みを浮かべるセルリーゼルに尋ねた。


「ふふふふ、宝物窃盗団を捕縛したが脱獄、激しい抵抗をした末に再び捕縛される。窃盗団は魔族と手を結びその伝手で国外に聖遺物を流していたため取り戻すのは難しい。実に遺憾であるなあ、嘆かわしい事だと思わぬか?だが安心せよ、その聖遺物を国外から取り戻した団体が現れる。モミバトス教会はもとよりレインザー王国としても、それは喜ばしい事で高く評価されて然るべきだろう。ブグリン殿の言っている事の真の意味がわかったかね?君たちは我々の筋書き通りに動いてくれた。感謝しているよ。お礼に君たちの死は無駄にしないよ。国賊として大いに宣伝してから処刑してあげよう。クルース、宣伝は君の得意技だったね?ふふふ」


 マジで嫌な笑い方をする奴だなセルリーゼルは。


「クルースさん、私の鱗粉で全員眠らせますか?」


「いや、ちょっと待て。誰かが来たようだぞ。」


 小声で提案するキャリアンの声の他に入り口の向こう、地下墓所方面から大勢の足音が聞こえて来たのを俺はサウンドコレクションで確認した。


「はっ!こちらであります!どうぞお通り下さい!」


 入り口近辺にいた警護隊員達が道を開け誰かが入って来る。


「皆、そこを動くな!」


 部屋に入って来たのはミバト山街衛兵隊隊長のテドクールさんだった。


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