仲間が増えるって素敵やん
山を下り元の道に戻ると、キットとナーハンは仲良く待っていた。
「待たせたな。」
そう言ってキットの首筋を撫でてやる。
「あら、かわいらしいお馬さんだこと。それでは、失礼しますよ。」
そういってキットに乗ろうとするアルスちゃん。
「おーーーいっ!ちょっとまてーーい!お前はこっちに決まっとろうっ!。」
「あら、そうでしたか。残念です。」
「まったく油断も隙もない奴だな。なんなら、我がトモちゃんの後ろに乗るからアルスがナーハンに乗っていけ!。」
「あらあら、まあまあ。ナーハンちゃんって言うのね。かわいいお名前ね。よろしくね。」
そういってナーハンを撫でようとするアルスちゃん。
「あっ!危ないよ!。」
俺は声をかける。
「大丈夫だ。見ていろ。」
息まいたナーハンがアルスちゃんの手を噛むが、アルスちゃんはまったく動じないでいる。
「あらあら、かわいい。」
嚙まれた手はそのままに反対側の手でナーハンを撫でるアルスちゃん。
「大丈夫?。」
俺は近寄ってアルスちゃんに聞く。
「何がですか?。」
ゆっくりとナーハンが口を開け噛んでいた手をなめる。
「いや、手。」
「トモちゃん、大丈夫だといったろう。ノーライフキングだぞ。」
「いや、でも外見はうちの子たちより小さいし。」
「トモちゃん。ノーライフキングはな、ことわりから外れた者だと言っておったろう。」
「うん。」
「ノーライフキングの強さはな、スケルトンやアンデッドを使役することでも不死という事でもないのだ。」
「と言いますと?。」
「ことわりの外にいることだ。誰もあいつを傷つけることはできないのだ。」
何ですと!物理無効ですと!
「ほへー。魔法は?魔法も効かないの?。」
「あたりまえだ。誰もあいつを傷つけることはできないと、そう言ったろう。」
あちゃー!魔法無効の物理無効とは!作るのに苦労するやつ!
「痛みはないの?。」
「どうなのだ?。」
「はい?。」
「だから!痛くはないのかと聞いている!。」
「はいはい、そんなに大きな声を出さなくても聞こえていますよ。痛覚はありませんよ。」
「ほんとに、殴っていいか?トモちゃん!。」
「こらこら落ち着いて。攻撃は?攻撃はどうなの?。」
「わたしは、あまり攻撃は好きではないですねえ。」
「だから!好きかどうかを聞いとるのではない!質問が、肉は?肉はどうなの?だったらわかる。今の答えで通用する!だが、攻撃だぞ!お前は攻撃を食べるのか!。」
「攻撃は食べませんねえ。それとも、こうげきって新しい食べ物なんですか?。」
「ちがーーーうっ!。」
「あーーーはっはっはっはっはっ!いーーっひっひっひ!面白い!ふたりとも面白い!。これはいいねえ。」
「なにがだっ!。」
「なにがですか?。」
「おうおう、息もぴったりだ!これはうちの事務所に新たなスターが生まれる予感がするぞ!。」
「なんだ、またトモちゃんの好きだった前世界の娯楽の話しか。我らの会話がそんなに面白いのか?。」
「面白いですねえ。」
俺は笑顔で言った。
「わたし、面白いだなんて初めて言われました。」
「我もだよ。そりゃ昔、挑んできたやつが、俺の攻撃を跳ね返すとは面白い!とかそんな事はあったが、それは意味が違うだろ。」
「あら、それならわたしもありました!では初めてではなかったです!。」
「だからっ!意味が違うと説明したよな!そんなに我の話しはわかりづらいか?伝わらぬか?トモちゃーーん。助けてくれーー!。」
「ギャハハハハハハ!もーーっ!勘弁してくれ!わかった!わかったから!もう!キリがないよ。客もいないのに勿体ない。コンビ名、考えなきゃだな。いやー、もう出発しよう。マジで日が暮れちまう。」
そうして俺とシエンちゃん、アルスちゃんの3人はノダハに戻った。
ノダハに戻るとまずは冒険者ギルドに報告だ。
事情を話すと依頼完了と認められ、お金を頂く。
そして次にアルスちゃんの冒険者登録を行う。
これは、道中シエンちゃんが、冒険者登録をして俺と冒険者活動をしていることを散々自慢しており、アルスちゃんはそれを羨ましがって自分もやりたいと言ったので、では登録しましょうという事になったのだった。
しかし、龍とノーライフキングのパーティーとは、随分な事になってしまったが、救いなのはふたり共、基本的に何でも腕力で解決しようという脳筋ではない事だ。
アルスちゃんはおっとりした平和主義者で攻撃は好まないと言うし、シエンちゃんも人間に対して特に塵芥のように感じているわけではないし、むしろアウロさん夫妻や事務所の子供たちには非常に友好的だ。
「さてと、登録も済んだし買い物をして帰ろう。」
「何を買うんですの?。」
「ふたりとも鞄のひとつもないだろ?こうして依頼料も手に入った事だし、鞄と巾着を買おうと思って。」
「そいつはいいな!トモちゃんとおそろいが良いぞ!。」
「いや、女の子っぽいかわいいやつにしたらよ?。」
「あら、かわいらしい物もよろしいですねえ。」
「かわいらしい物か。それを持てば可愛らしく見えるのか?。」
「あらあら、赤龍さんともあろう方が。おほほほほ。可愛らしく見えるのか?ですって。おほほほほ。それでは、かわいらしい鞄を選んだほうがよろしいですねえ。わたしは、トモトモと同じ物でお願いしますね。」
「なんだと!ずるいぞ!アルスはズルい事ばかり言う!もう、ズルスと呼ぶぞ!。」
「あっはははは!もう!好きなの選びなよー!。」
という事でお店に行ったのだがふたり共、結局俺と同じ物を選んだのだった。まあ、使い易くていいけどね。
「同じ物にするなら、帰ったら補強してあげるよ。」
「おお!頼む!。」
「お願いしますね。」
そうして、俺たちは事務所に戻った。
「おーい!皆の衆!。」
シエンちゃんが帰宅後、開口一番にそう言ってみんなを集める。だから、殿様か?
「お帰りなさーい!。」
「お姉さま!初の依頼はどーでしたかっ?。」
「あれ?隣りの子は?。」
「よーし!集まったな!紹介しよう!これはアルスだ!山で会った!弟の友達だ!そして、アルスよ、ここにいるみんなは我の友達だ!どうだ!可愛かろう!。」
「ちょっとちょっと、シエンちゃん。山で会ったって。熊やなんかじゃないんだから、まあ、あってるっちゃー、あってるんだけど。みんな、こちらはアルスちゃんだ。今日から、俺とシエンちゃんと共に冒険者として活動します。こう見えて、とっても強いんだよ。仲良くしてあげてね!。」
「アルスです。皆さん、よろしくお願いしますね。」
そう言って、両手でスカートの裾を持って片足を後ろでつま先立ちで折り、もう片方の膝を軽く曲げて優雅に挨拶をして見せた。
「わー!なーに?その挨拶?かわいい!。」
「アルスちゃんって言うの?。」
「強いの?冒険者やるの?スゲー!カッコいーー!。」
「いいなー!いいなー。」
みんながアルスちゃんを囲んでワイワイとやりだした。
「あっという間に人気者だな。」
「ふふふふ、皆、良い子ばかりだからな!さすがは我のお友達よ!。」
「アルスちゃんもお友達だろ。」
「うーむ。お友達ねえ。まあ、そうだな。お友達で良かろう。」
「うんうん、よかろう、よかろう。」
見た目の年も近いしな。子供同士ってのはあっという間に仲良くなるからな。
そう言ってる間に女子たちに手を引っ張られて奥の部屋に連れていかれるアルスちゃん。
「ほら、女子たちの仲間に入れるための儀式が始まるぞ。」
「何よ?儀式って?。」
「くふふふふ。それは男子には秘密なのだ!くふふふふ。」
「なんだい、なんだい、きになるなー。」
「なんだ、その起伏のない喋り方は。目も虚ろだぞ。さては関心ないな!。」
「そんなことはござんせん。」
「また、変な事を言う。」
「シエン姉さーーんっ!こっちこっち!。」
マギーがシエンちゃんを呼びに来た。
「くふふ。では行ってくるとするか。」
シエンちゃんも行ってしまった。
傍にいたジョーイに聞いてみる。
「女の子たちだけで何の話しをしてるんだろうねえ?。」
「好きな人の話しをすると仲良くなれるんだって。あっ、これ、エミーから秘密だよって言われてたんだ!。」
咄嗟に口を押さえるジョーイ。
「聞かなかった事にするよ。秘密は守らないといけないからな。」
「うん。ごめんなさい。」
「まあまあ、つい口が滑ることもあるさ。今度は気を付けるんだよ。」
「うん!。」
元気よく返事をするジョーイ。逞しくなってきたな、ジョーイ!
そんなこんなで、部屋から出てきたガール達はまだキャイキャイキャピキャピと盛り上がっており、アルスちゃんもあっという間に馴染んでいたのだった。
そうして、新たな仲間としてアルスちゃんが加わり、益々事務所は賑やかになったのでした。




