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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
222/1114

振り回されるって素敵やん

 「ゴメン、ちょっと寄り道していいかい?」


「いいですけど、どこへ行くんですか?」


「ちょいとお手紙を出しに」


「手紙ですか?」


「そう、学園にさ、キャリアンの事、先に知らせとこうと思ってさ。お前も国に手紙の一つでも書いたらどうだ?」


「それでしたら、大丈夫です!アッシュバーンさんにお願いして船便で出しましたよ!」


「おうそうそうか!そいつは良かった。家族も心配しているだろうからなあ」


「いやあ、私は昔から筆不精でして。ほとんど連絡しないで旅をしてましたから、多分、家族も特に心配していないかと」


 テヘへとばかりに羽で頭をかくキャリアン。


「まあ、便りが無いのが良い便りなんて事も言うもんだしな。ここだな」


 信書飛脚商と書かれた看板が下がっている店に俺たちは入る。

 俺はチルデイマ学園の学園長宛の手紙に、キャリアンの素性や学園に対して強い興味を抱いている事、そしてゆくゆくはそうした知識を祖国のために役立てたいと考えている事などをしたためた。


「これでよし、と。さあ、待望の冒険者登録だ。行くぞ」


「待ってました!。行きましょう行きましょう!」


 喜び勇むキャリアン。

 これでも族長国連邦の国王の三男だろ?王子様だよな?どうにも擦れてないってのか、素直で無邪気でなあ。

 そうした性格はとても好ましくはあるのだが、王子様としてはどうかな?もっと、酸いも甘いも噛み分けないといかんのじゃなかろうか?と心配になってしまう。

 まあ、そんなのもあっての旅なのだろうけれどもな。


「ほら、あれだ冒険者ギルド。大抵わかりやすい所に立ってるもんだよ」


 俺はフラトフェリー冒険者ギルドと書かれた看板を指さした。


「入りましょう!入りましょう!」


 ウッキウキの合成音で言うキャリアン。


「お前、めっちゃ嬉しそうだけど国では冒険者登録してなかったのか?」


「してましたよ!してましたけど、異国で冒険者登録ってのが燃えますよ!燃える男!キャリアン!只今参上っ!」


 そう言いながら勢いよくギルドの扉を開けるキャリアン。

 おいおい!テンション高すぎ!そして、男だったんかい!まあ、女って感じでもなかったけど!


「静かに入れよ!もう」


 俺もキャリアンに続いて中に入る。

 冒険者ギルドってのはどこもだいたい同じ作りね。

 受付があって依頼を張り出す壁があって、待合ロビー的なテーブル席がある。

 テーブル席に座っている冒険者たちが一斉にこちらを見る。

 みんな一癖ありそうな面構えだ。

 キャリアンがでかい声を出しながら入ってきたものだから、なんだこのよそ者は、とにらみつけてる感じだ。


「やーやーやーっ!どーもどーもっ!」


 キャリアンの奴はそんな空気もどこ吹く風で、睨みつけてる冒険者たちに手を振って、ならぬ羽を振って挨拶している。


「みなさん!私はキャリアンと申します!よろしくどーぞ!」


 挨拶された冒険者たちは毒気を抜かれたような顔をしてキャリアンを見ている。


「おいおい、皆さん仕事で来てるんだから程々にしろよ。ほら、受付に行くぞ」


「はいクルースさん!受付しましょうっ!」


 俺はキャリアンに付き合い、滞りなく受付を済ませると依頼が張ってある壁を見る。


「クルースさーん!!早速受けましょう!依頼を受けましょう!強い敵と戦いましょう!!」


「おいおい!あんま浮かれんなって。物事には順序ってものがあってな。キャリアンはFランクだろ?基本は自分のランクの依頼、後は上のランクの人と一緒ならひとつ上の依頼を受けられるってわけだよ。だから、受けられるのはFかEね。わかった?」


「わかりました!EかF!EかF!。これ!これはどうですか!!」


「どれどれー、えー、ガーナンドまでの荷運び護衛、と、なるほどなるほどっておーーーいっ!!逆戻りしてどーすんだよ!」


「ではこれはどうですか!!」


「どれどれ、フラトフェリー村穀物庫の害獣駆除、2~3日程度、か、なるほど最初にやるにはもってこいの軽い依頼だなって、こらぁーーっ!!ここに留まってどーすんだよ!ミバト山街方面に移動しながらできる依頼を探せっつーの!もう!疲れるなあ」


 なんてコントみたいなやり取りをしていると、突然俺たちの立っている場所にイスが飛んできた。

 俺とキャリアンはすぐに気づいて横に避ける。

 大きな音がしてイスが壁に当たり壊れる。


「あーあ、壊れてしまいましたね」


「ホント、あーあ、だな」


 俺はこれから訪れるであろう展開にうんざりして答える。


「この野郎!さっきからうるせーんだよ!ルーキーのくせに調子乗ってんじゃねーぞ!!」


「そうだよ、この野郎!ちょっと礼儀ってもんを教えてやるから表に出ろ!」


 テーブル席に座っていた目つきの悪い男たちが口々に恫喝しながらこちらにやってきた。

 数は4人。

 さてと、どうしたものか。


「おーーっ!!礼儀ですか!是非!教えてください!!表に行きましょう!さあ!」


 わかってんだかわかってないんだか、表情で読み取りづらいんだよなキャリアンは。

 そんな事を言われた男たちは、たがいに目配せをしながらニヤついて頷いている。


「ついて来いや」


 髭面で筋肉質な男がそう言ってギルドの出入口へ向かって歩いて行く。

 他の連中もそれに続く。


「いやー、さすがレインザー!刺激的ですねえ!国ではこんな事はなかったですからねえ!楽しみです!いやー!さすがです!」


「なにがさすがなのかさっぱりわからんが、手加減しろよ。ただのチンピラだから絶対に殺すなよ!できるだけダメージ少な目で頼むぞ」


「わかりましたー!手加減ですね!お任せください!」


 また、俺が小声で言ってるのにこいつは大きな声で!

 前を歩いている男が凄い目でこちらを睨んでいる。

 そりゃこんだけでかい声で言えば聞こえるよな。

 俺とキャリアンは凄い目で睨まれつつも素直に男たちに従って後をついて行く。


「どこまで行くんですかー?もう人目もないですよー!乱暴狼藉をするにはもってこいの場所ですよー!まだですかー?」


「うるせぇーっ!!黙ってついて来いっ!」


「怒られちゃいましたよクルースさーん!ワクワクしますよクルースさん!」


 チンピラに凄まれて喜んでるよキャリアンは。

 なんだかシエンちゃんとは違ったタイプの天然だな、先が思いやられるよ。

 にしてもどこまで連れて行こうってんだ?昔、前世界でコンビニのバイトをしてた時、万引きした奴を追っかけて、そいつらのたまり場まで追いかけちゃったもんだから、たむろしてた集団にボコボコにされてしまった人がいるって話を聞いた事があった。

 俺がバイトしていたコンビニ店長は、そんなこともあるから万引き犯は深追いしないようにと注意してくれたんだったな。

 思えば良い店長だった。

 って思い出に浸っていると、男たちが歩みを止める。


「おうっ!!ヤロー共!!」


 先頭を歩いていた筋肉髭男が大きな声を上げる。

 袋小路になっている路地裏、壁についている扉が開き、中からこれまた人相の悪い男たちが手に武器を持ち出て来る。


「いやークルースさん!来ましたよー!手に武器を持ってますよー!ほら!仲間にも武器を渡してますよー!仲間思いですねー!案外良い人たちなのかも知れません!なーーんて、そんな訳ないですよねー!それくらいわかります!」


 胸を張って言うキャリアン。

 男たちが手に持っているのは剣や手斧、トゲ付き鉄棒など脅しにしちゃ物騒なシロモノだ。


「オジサン達、ちょいとばかり大げさじゃあないかい?こっちは二人、ひとりはFランクだぜ?それをこんな大勢でしかも刃物なんて持っちゃって?」


 扉から出て来た男は6人、合計10人だな。


「ヒヒヒヒ、みんなでよそ者に礼儀を教えてやろうってんだよ。当然、無料って訳にゃいかねーだろうが?有り金置いて土下座だな。それが妥当って所だろ、なあ、みんな!」


「おうよっ!」


「大人しく全部置いてきゃあ半殺しで済ませてやるってんだようっ!!」


「わかってんのかっ!!おうっ!おうっ!」


 男たちは手に持った武器を俺たちに向けてイキリ倒している。

 トホホのホ。


「なんだかレインザーの恥を見せちまって心苦しいよ。すまねぇなぁ」


 俺はキャリアンに謝った。


「何をおっしゃるアルミラージさんってなもんですよ!楽しいじゃないですか!ワクワクしますよ!どんな非道な事をするのでしょう!こんな素晴らしく卑怯な真似をしてくださる人達です!さぞかし、外道な事をしてくれるのでしょう!」


「ざけんな!」


 興奮してまくしたてるキャリアンに、近くにいた男が剣を振り下ろす。


「イヤッホー!始まりましたねー!派手に踊りましょう!!さあっ!!」


 キャリアンは妙な雄叫びをあげて、振り下ろされる剣を素早く羽で撫でつけた。

 キャリアンに切りかかった男の剣は折れ、刃先が地面に刺さる。

 と同時にキャリアンの足が男の腹に食い込み、男は地面に突っ伏してしまう。


「みなさん!いらっしゃーーいっ!!踊りましょう踊りましょう!!」


 キャリアンは大きな目を光らせて、近くにいる男の襟首をつかみぶん投げる。

 キャリアンの後ろから手斧を持った男が、横からトゲ付き鉄棒を持った男が、同時に攻撃してくる。

 キャリアンは回転して羽で両方の武器を受け止めて、そのまま更に回転する。

 武器を振るった男たちは、まるで持ってた武器を強力な機械にでも巻き込まれたみたいに奪い取られ、手首が妙な方向に曲がってしまう。

 手首を押さえてうずくまる男ふたりをよそに、縦横無尽に暴漢たちの間を行き来し、ぶん投げ、弾き飛ばしするキャリアン。

 まるで嵐に蹂躙されているかのようだ。

 こりゃ、俺の出る幕はないな。


「踊り踊られ踊らねばーー!!楽しいですねーー!」


 良くわかんないことを言いながら、ベーゴマのように男たちを弾き飛ばしてるキャリアン。


「おーい!もうそろそろ終わりにしよーぜー!」


 俺はグルグル回っているキャリアンに向かって大きな声で言う。


「もう終わりですか?礼儀を教えてくれる話は?これからですか?」


 回転を止めて言うキャリアン。


「もういいから、こいつらも踊り疲れたってさ」


 俺は周囲に寝転がってる男たちを指して言う。


「そうですかー。残念です。教えて頂きたかったのに礼儀を」


 倒れている男の顔を覗き込んで言うキャリアン。

 どうにも表情が読み取りづらいんだよなあ、どこまで本気で言ってんのかね。


「ほら、当初の目的を忘れちゃったダメだぞ」


「そうでした!依頼!依頼を受けねば!」


 そう言って今度はどんどん歩き出すキャリアン。


「ちょ、待てよっ!」


 俺は前世界の永遠のイケメンアイドルのような口調になりキャリアンを追いかけた。

 どーも、こいつには振り回されちまうなあ。


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