表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
22/1098

お化けって素敵やん

 冒険者ギルドに入ると依頼書を見ている連中が一瞬こちらを見て元に戻りまたこちらを見返す。

 シエンちゃんのルックスに見惚れてるよ。

 まあ、それも仕方ないな。なんせ見てくれは超激キュートだもんな、ふはは、まあ、見るだけなら構わないけど変なちょっかいかけると痛い目見るぜ!俺が痛い目見せるわけじゃないよ、どっちかって言えば止めるほうだな俺は。


「すいませーーん!登録お願いしまーす!。」


「はーい。あら、クルースさん。クルースさんは既に登録されてますよね。」


「今日は彼女の登録できました。」


「シエンだ!よろしく頼むな!。」


 右手を前に出して元気よく言うシエンちゃん。

 気に入ってるの?そのあいさつ。


「はい、わかりました。それでは、こちらにサインして頂いて指で押さえて下さい。」


「よし!。」


 という事でシエンちゃんは無事にFランク冒険者として登録することができたのだった。


「これで一緒に依頼を受けることができるな!ワクワクするなー!よし!早速受けよう!どうやるのだ!。」


「ちょい待てって。焦りなさんなって。こっちに依頼が貼ってあるからそれを見て決めるんだよ。」


「そうかそうか、よしよし!どれにしようかなーー!。」


 そう言って依頼掲示板の前に来るシエンちゃん。


「なーなー!トモちゃん!どれが良いと思う?面白いやつがいーなー!な!。」


「待て待て、シエンちゃん。今のシエンちゃんはFランクだろ?受けられる依頼は限られてるんだよ。基本は自分のランクの依頼、後は上のランクの人と一緒ならひとつ上の依頼を受けられるから、俺がDだから丁度Eなら受けられるんだけど、いや、待てよ。ひとつ下のランクを受けられるのは初回限定の救済処置って言ってたよな、あれ?この場合どうなるんだ?俺はシエンちゃんと一緒の依頼は受けられないのか?。」


「どういう事だ!それは!トモちゃん!。」


「クルースさーん!いらっしゃられたなら寄って行ってくださいよ!。」


 出た!いぶし銀ギルド長!ニーソンさんだ。


「あー、どうもギルド長。丁度良かった。少しお伺いしたい事がありまして。」


「なんでも聞いてください。」


 俺はさっきの疑問を聞いてみた。


「ああ、それでしたら下のランクの依頼をひとりで受ける事ができるのは初回だけ、という事になりますから低ランク冒険者と一緒に受けるのならば何度でも可能ですよ。それに、依頼の報奨金がいらないのならばそれは自由ですからね、やってはいけないと言うわけではありませんよ。」


「なんだ、よかったな、トモちゃん!。」


「こちらの方は?。」


 ニーソンギルド長が俺に聞く。


「ええ、なんて言いますか、うーんと、あれですな、相方!相方です!相方のシエンちゃんです。」


「うむ!相方のシエンだ!くふふふ。トモちゃんの相方だぞ!覚えておけな!。」


「こらこら、シエンちゃん。まあ、こうした感じの娘でして、ただ腕は滅法立ちますよ、多分、私よりも。」


「なんと!クルースさんがそこまでおっしゃられるとは!これは期待の新人ですな!楽しみです!。」


「くふふふ。楽しみにしていろ!ところでギルド長!我らが受けられる依頼でなにか面白い依頼はないか!。」


「面白い依頼ですか。うーん、FかEですね。そうしますと、面白いかどうかはわかりませんが、これなんかどうでしょうか。」


「ほう、どんな内容ですか?。」


 俺は聞いてみる。


「これはEランクの依頼なのですが、バンミドル組壊滅後にその後釜に座るだろう有力候補の犯罪組織がおりまして、衛兵隊や我々もその動向に気を配っていたのですが、このところ急に鳴りを潜めまして。奴らのアジトと見られる場所を探っているのですが行方がつかめない状態です。こちらはその捜査依頼となっています。」


 詳しく話しを聞くと、依頼書ごとにどこそこの地域を捜索してほしいとなっているようで、依頼内容としては痕跡の発見収集であり直接の捕縛は依頼に含まれていない、との事だった。もしも犯罪組織を発見したら報告してほしい、出来れば交戦は避けて貰いたい、とも言われたのだった。


「なぜだ?その場で全員退治してはいけないのか?。」


 とはシエンちゃんの疑問。シエンちゃんならそう言うだろうな。


「ええ、そこから先は基本的には衛兵隊の仕事になります。もちろん、衛兵隊から協力を依頼される事もありますからその際はまた依頼が貼られますので。」


 ふむ。この辺りは前世界でも近いものがあるな。逮捕権とかなんとか、探偵物の作品で扱われる事があるやつだな。


「しかし、それが面白い依頼なのか?。」


「まあ、依頼の地域がちょっとあれでしてね。場所はマキタヤ手前のギリヤド山なのですが、ここにはちょっといわくがありましてね。」


「ほうほう、聞かせてください。」


 なにやら、面白くなりそうですよ。


「この山の奥には、昔々、まだ王国内が統一されておらず、各地の領主が覇権を争っていた時代の話しなのですが、その時に敗走した兵士たちが逃げ込んで作った隠れ里があったらしいのです。彼らはそのまま山賊となり周辺の村々を荒らしまわっていたそうです。それを嘆いたひとりの美しい村娘が村にある酒をありったけ集めさせて自分と一緒に山賊に献上するように、村長に言いました。村長はその通りにしました。」


「それから?それからどうした?。」


「シエンちゃん、慌てないで。ギルド長、続きをお願いします。」


「早くっ!早くっ!。」


「山賊たちは大喜びでした。その晩は酒盛りでみな大いに飲み騒ぎ、しまいには寝てしまいました。そうして寝込んでしまった山賊たちを娘は髪に刺していた髪飾りでひとりひとり頭を貫いて殺して行きました。」


「なかなか豪傑だのう。」


「いや、娘は豪傑ではありませんでした。山賊とは言え大量に人を殺めたことに心を痛めた娘は髪飾りで自分ののどを突きました。翌朝、山賊のアジトに行った村人が見たものは、山賊達の屍と跪き祈るような姿勢で息を引き取った娘の亡骸でした。」


「なんと。救いのない。」


 つぶやくように言うシエンちゃん。


「村人達はそれを見て失われた命の数に愕然としました。自分たちは年端も行かぬ娘に何という事をさせたのか、悲しみ、その罪の重さを受け止めた村人は山賊達と娘の遺体を葬りその場所に石碑を建て、もうこうした惨劇が起きないように祈ったそうです。しかし、村も過疎化が進み今ではその石碑に祈りをささげる人はおろか山に入る人自体が居なくなりました。」


「なぜだ?。」


「それがですね、出るんですよ。」


 ギルド長が声をひそめて言う。


「何がだ!何が出ると言うのだ!。」


 前のめりになるシエンちゃん。


「幽霊ですよ。幽霊。」


「ぷっ、きゃはははは!幽霊だと?きゃはははは!あーおかしい。そんなものいるわけがなかろう。」


「え?いないの幽霊?。」


 俺は爆笑するシエンちゃんに聞いた。


「おらんだろ、普通に考えて。」


「なーんだ。つまんない。」


「いやいや、そうとも言えませんぞ。目撃談は結構あるんですよ。」


「ほー、どんな話しだ?。」


「キレイな若い娘を中心にして酒盛りをする山賊の姿を、それもですね。」


「それも、なんだ?。」


 何だかんだ言って食いついとるやないかい!シエンちゃんは。


「グズグズに腐乱した姿なんですよ。」


「うわっ、気持ち悪いのう。」


「そうでしょう。ね?ちょっと面白い依頼じゃないですか。」


「なるほど、これはちょっとした肝試しだな。」


「ふむ、トモちゃんが構わないなら我は良いぞ。」


「よし、じゃあこれにするか。」


 という事で俺とシエンちゃん、ふたりで受ける初依頼はギリヤド山捜索となったのでした、ちょっくら依頼受けようかなー、みょーに変だなー、ひったひったひった、なんだか怖いなー、みょーに嫌だなー。

 俺とシエンちゃんは各々キットとナーハンに乗り込みギリヤド山へ向かった。


「どう思う?。」


「何がだトモちゃん。」


「いや、幽霊に似たモノっていないの?」


「そもそも幽霊とはなんだ?よみがえる死者か?それならアンデッドがおる。だが、アンデッドなどすぐに骨だけのスケルトンになるぞ。この国がまだ戦乱の中にいた頃の死体などもうとっくに骨になっておる。」


「じゃあ、なんか、透明でゆらゆらしてて殴っても効かない、みたいなのは?。」


「ガス状の魔物か?それはいるぞ。生き物の死体をほおっておくと腐乱してガスが出る。それに邪な精霊が力を与える事がある。すると、そうした魔物になる。死体が人でしかも強い力を持っていた時、人型のガス状魔物になる。」


「いるじゃん幽霊!。」


「それが幽霊なのか?人の言う幽霊とは死者の魂が意志を持って存在するようなモノなのではないか?。」


「確かに。」


「そうであろう。では、やはり幽霊はおらん。」


「そうかあ。なんだかさみしいなあ。」


「さみしいのか?なぜだ?。」


「いや、死んだら無ってさみしくない?。」


「無になるとは限らんだろ。」


「シエンちゃんは知っているの?死んだらどうなるのか?。」


「いや、知らぬ。」


「さすがのシエンちゃんでも知らないかあ。」


「我とて全知全能ではない。ただ長く生きただけ情報の蓄積量が多いだけの事だ。興味のない事などは覚えておらぬし、そもそも熱心に知ろうとはせぬからな。」


「興味ないの?。」


「うむ。しかし、トモちゃんが前の世界からこちらの世界に来た事はなにか関係あるような気もするが、トモちゃんも前の世界でそうした現象は無かったと言っておったろう。」


「まあ、自称する人たちはいたけどね。死後の世界を見たとか。」


「それも、なんの確証もあるまい。さっきの腐乱した山賊どもの酒盛り目撃談と変わるまい。」


「まあ、そうですな。」


「その時が来たら嫌でもわかるのだからよかろうよ。」


「さすがシエンちゃんだな。」


「そうか?くふふふふ。。」


 街道を走るペースも急かさず流しているつもりでも結構なハイペースになっているようで、幾台かの馬車や馬を抜かす事となった。


「ここが分岐点みたいね。」


 街道の道が大きなものと林の中を右にそれる小さなものと二つに分かれており、左マキタヤ右ギリヤドと看板に書いてある。


「あまり人が通っていない道のようだな。」


 確かにシエンちゃんの言う通り、林の中を抜ける道には草が生え、踏まれてなんとか道っぽくなってはいる、といった様相だった。


「まあ、看板にはこっちだと書いてあるし、行ってみよう。」


「よいぞ。」


 俺たちは獣道のような道を馬で進んだ。

 しばらく進むと斜面になり、さらに進むと馬での乗り入れは難しい本物の獣道になった。


「ふむ、これ以上は馬では入れそうもないな。辺りに馬を害する生き物の気配もないしナーハン達はここで待っていて貰うとしよう。何かあれば直ぐに逃げるんだぞ。」


 シエンちゃんは言い聞かせるように首筋を撫でる。


「ごめんなキット。ちょっと待っててくれよな。」


 俺もそう言ってキットの首筋を撫でた。

 俺たちは樹木の密集する獣道を分け入るように進む。

 昼なお暗きとはこういう事かね。鬱蒼とした山林をどんどんと進む。

 倒木を乗り越え、小さな沢で水を飲み、何時間山道を歩いただろうか。背の高い木がない開けた場所に出た。


「酒盛りをするのに丁度良さそうだな。」


「ほんとだね。満月の夜にこんな所で酒を飲んだら気持ち良いだろうなあ。」


 シエンちゃんの言葉に俺は感想を言った。


「ほほう、幽霊が怖くはないのか?。」


「またまた、シエンちゃんたら。勘弁してよ。いないんでしょ?幽霊なんて。」


「では、あれは何だと思う?。」


 そう言ってシエンちゃんが指さした先には、鬱蒼と茂る藪の陰からこちらを見ているオッサンの姿があった。

 それも、頭髪は抜け落ち所々皮膚が剥けて骨が露出しているオッサンの姿が。


「ひゃぁー!出たー!。」


「きゃはははは!ひゃぁー!だと?なんだ!かわいい声を出しおって。きゃはははは!。」


「もうっ!シエンちゃんはー!。」


「もうっ!だって!トモちゃん!お前はかわいいのう!。」


「勘弁してくれー、って、あっ!逃げた!。」


 こちらを伺っていた腐乱したオッサンが踵を返して茂みの奥へと逃げて行く。


「追うぞ!。」


「合点承知の助!。」


 俺はシエンちゃんに続く。

 藪を漕ぎ漕ぎ後を追って行くと、またもや開けた場所に出る。

 そこには、先ほどのオッサンと同じような腐乱したオッサンが沢山おり大きな岩を囲むようにしている。

 大きな岩の上には豊かなブロンドヘアーにグラマラスなスタイルをした女性がいた。


「いらっしゃい。」


 まあ美人と言って差し支えない顔、テラテラと濡れたような大きな瞳に妙にねっとりと赤い唇の女がそう囁くように言う。

 その声は強烈な色気を感じさせるもので、まるで耳の中に熱い舌を差し込まれているようだった。

 しかし、俺は平常心だった。なんなら、少し不愉快な程だった。


「あれは淫蕩の者だな。何者かの力によって作られたサキュバス的なモノだな。トモちゃんはなぜ何ともないのだ?トモちゃんも雄であろう。」


「俺の前世界での話しは聞かせたよね。」


「ああ聞いた。」


「なら、俺が特定の異性と深い関係になることを望んでいないのは御承知だな。」


「ああ、承知しておる。だが、そんなものを凌駕するのがあれら淫蕩の者の力よ。最愛の妻を失い、生涯その妻だけを思い生きると誓った男すら蕩けさせるのがあれらの力よ。だのに、なぜ平気なのだ、トモちゃんは。」


「わかんないのか?そいつはちょいと残念だな。それはな、シエンちゃん。君ほどの超絶激キュート且つ理知的な女性がずっと傍にいるのに俺は手を出していないだろう?そういう事だよ。シエンちゃんに比べれば何でもないよ。シエンちゃんがアウロさんの所で作ってくれたスープあったでしょ?あれに比べたらどんな高級スープもそこまで感動しないよ。それと、同じ事だよ。俺の、特定の異性と深い関係になることを望まぬ思いの深さはそれ程という事でもあるしね。」


「どうも、喜んで良いのやら悲しんでよいのやら、人の思いとは、かくも深いものか。いや、トモちゃんだからこそなのだろうかな。よし、わかった。トモちゃんの思い噛みしめさせてもらうとするか。」


 そう言って微笑むシエンちゃんの表情には、なんだか慈愛のようなものを感じるのだった。


「ちょっとーーーーー!ほっとかないでくれますかーーーー?。」


 岩の上の女が言う。いや、なんだか少し口の動きと声があってないような。


「お兄さんたちーーー!何しに来たんですかーーー?」


 あれ?声が、遅れてるんじゃない?


「気づいたかトモちゃん。」


「声がずれてるねえ。」


「術者が近くにおるの。おーい!出て来い!。」


「あー、できたら話し合いで解決しましょーよー!。」


 俺が続けて言った。


「お兄さんたち、術にはかからないし、山賊アンデッドにも怖気づかないし。なんなんですかー?ここを荒らすつもりですかー?。」


「いや、そんなつもりはなくてですねー!。」


 俺はここに来た目的を話して聞かせた。


「なんだ。悪い人たちじゃあないのね。」


 そう言って岩の裏から出てきたのは小さな女の子だった。ハティーちゃんよりは年上だがうちの事務所の子たちよりは少し年下だろうか。なんにせよ小さな女の子だ。金色の髪に黒いカチューシャ、深い青のワンピースを着て首元に黒いリボンをしている。なんだか、死んでくれる?とか言ってきそうだぞ。


「こんにちは。わたしはノーライフキングのアルス。」


 やっべ、ギリギリー!ってノーライフキング?


「あれ?お前?アルスか?。」


「どちら様ですか?。」


「ああ、我は会うのは始めてだった。弟のポリ助から聞いた事があるぞ!。」


「ぽりすけさん?ですか?。」


「エンポリオだよ!エンポリオ!。」


「あら、まあ!エンポさんのお姉さんですか?シエンさんですか?。」


「おう。我がシエンだ!こっちはトモちゃんだ!。」


 俺を紹介してくれるシエンちゃん。


「あらあら、これはこれは、ご丁寧に。アルスと申します。」


 と言って頭を下げるアルスさん。見てくれは少女なのに言葉遣いが古めかしいと言うか、品の良いおば様口調と言うのか。そして、シエンちゃんは決して丁寧ではない。


「なんだ、そうかそうか!トモちゃん!こいつは悪い奴じゃないぞ!ポリ助の知り合いだ!。」


「あらやだ、エンポさんはお元気?。」


「おう!元気にやっておる!。」


「それは良かったわー。」


 なんだか一気に親戚の家に来たみたいになってしまったな。


「それで、アルスはこんな所で何をしておるのだ。」


 そう聞くシエンちゃんへ、アルスさんの答えはこうだった。

 この場所は悲しいいわくのある場所で、しばらくは人が来て祈りを捧げたりしていたのだが、月日は巡りやって来る人は減りやがて誰も来なくなった。哀れに思ったアルスさんはちょくちょく来ては祈りを捧げたり草を刈ってやったりしていたそうだ。

 いい人やないの。

 まあ、人かどうかわからないけど。

 ところが、今度はガラの悪い男たちがやってきて、たむろするようになったのだそうだ。そいつらは我が物顔で振る舞い、死者への敬意のかけらもない。

 悲しみを感じたアルスさんは埋められた山賊と娘さんのお骨に語りかけ、彼らを追い払うべく力を借りたとの事。そうしてガラの悪い男たちを散々驚かせて退散させたそうだ。

 そいつらは何処に行ったのか聞くと、この山からさらに奥のザタワン山脈方面に消えていったと言う。

 恐らく山脈を抜け隣の領へ行ったのではないか、と言うのはシエンちゃんの予想だ。


「ふーむ、そいつらが今回の依頼にあった犯罪組織なのかどうかはわからないけど、一応報告しておくか。」


「そうだな、結局何も起こらなかったな。」


「いやいや、十分起きたでしょ、ノーライフキングさんがいたんだから。ノーライフキングさんって不死者の王様でしょ?。」


「まあ、そうだが、ポリ助から聞いた限りそんな無法者ではないぞ。むしろ平和主義者だと聞いている。」


「なら、いいけどさ。だったらアルスさん、ちょっと伺ってもよろしいですか?。」


「はいはい、なんでも聞いて下さいな。」


 早速俺はシエンちゃんとも話していた死後の世界について聞いてみると、ノーライフキングのアルスさんもそれはわからない、と言う。

 自分はそうしたことわりから外れてしまった存在である。普通なら行ける場所があるのかも知れないが、普通の道から外れてしまった自分にはわからない。出来る事なら自分も知りたいし、そうした世界があるのなら行ってみたいとまでアルスさんは言われる。

 そうなると気になるのはアンデッドやスケルトンだ。そうしたものを従属できるらしいが会話はできるのか?意志は持っているのか?疑問点を聞いてみた。

 まず、会話は出来ないとの事。ただ、死んでしまった存在に対して敬意を持って祈り、協力を仰ぐ気持ちで術を施し、よろしければお願いしますという気持ちで動いてもらうのだとか。

 アルスさんは更にそうした現象について、もしかしたらそれは自分の心の中の事なのかも知れない、実際は死後の意識などは無くて、自分がそうしたものなのかと腹の深いところまで呑み込めたものだから、効力を持つのかも知れないとまで言う。

 まあ、はっきりしたことはわからないが、それでも実際にそれなりの姿になり、自分の望んだように動いてくれるのは確かであるとの事。


「いやー、実に面白い話しでした。ありがとうございます。」


「いえいえ、そんな、お粗末様です。ところで、クルースさんでしたか、あなたも龍族ですか?。」


「いやいやいや!ただの人です。」


「えーーっ!それはないですよーー!おふたりとも山を登ってくる時からわかりましたもの。凄い魔力の気ですよ。」


「そうか。また一発フォーカスやっとくか。」


「そうだね。やっときますか。」


 俺とシエンちゃんは以前やったように天に向かってフォーカスを放つ。

 2筋の光が雲に穴をうがち空へと昇っていく。


「よし!。」


「ぷはー!スッキリ!。」


 俺とシエンちゃんは言う。


「やっぱり、人ではないでしょう?。」


 アルスさんが言う。


「トモちゃん!話してやれよ!。」


 という事で俺は前世界からこの世界にやってきた話しを、アルスさんに聞かせたのだった。


「あらー、そんなことがあったのですか。不思議なお話しですねえ。わたしも随分長く生きてきましたけど、」


「生きてないだろうっ!。」


 シエンちゃんが突っ込む。


「きゃははははは!。」

「おほほほほほほほ!。」


 ふたりで笑ってら。あはは。


「おほほほ、あー、面白い。でも、聞いた事ありませんねえ、そんな話しは。」


「そうだろう、そうだろう!トモちゃんは面白かろう!我の相方だからな!な!。」


「そうそう、相方でごぜーやすからな!。」


「きゃはははは!ごぜーやすだって!なんだ!それは!きゃははは!。」


「なんだか、おふたりとも楽しそうですこと。わたしもついていってよろしいかしら?なんだかとっても楽しそうなんですもの。」


「おう!ついてこい、ついてこい!確かベッドはもう一つあったはずだ!かわいい我のお友達を紹介してやるぞ!な!いいよな!トモちゃん!いいだろ?な!。」


 うわーっ、ふたりともウッキウキな顔してるよ。これは断れん。


「うん、いいよ。」


「やったーーー!な!。」

「わーーーい!。」


 時折見てくれ通りのリアクションするなあ、アルスさんは。


「でも、アルスさんはここを離れてもいいんですか?。」


「はい、大丈夫ですよ。さっきの山賊さんたちには人が来たら隠れるように言っておきますから。それからアルスさんって他人行儀ですから、アルスちゃんとお呼びになってくださいな。わたしも、トモちゃんと呼ばせて頂きますから。」


「ダメダメ!ダメだぞ!トモちゃんをトモちゃんと呼ぶのは我だけなのだ!違う呼び方にしろっ!。」


「あら、そうですか?では、そうですねー、トモトモとお呼びしても?。」


 ふえー、好きにしてくれー。


「は、はい。」


「では、トモトモ。シエンさん、行きましょう。」


「よしっ!ついて参れ!。」


 殿様か!

 そんなわけで仲間が増えたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ