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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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いい天気って素敵やん

 「それで?お前さんは?こいつの仲間だろ?。」


 俺は馬車の荷台に縛られ寝ているオリネーラを指して言う。


「・・・。」


 黙り込むゲレイラ。


「ふーん、だんまりすっか。んじゃ、オリネーラに聞いてみっかな。あのデカいカボチャの事も教えてくれたし、お前さんの事も教えてくれる事だろう。」


「わかったわかった、起こさなくていいから。そいつうるさいから嫌なのよ、もうっ。話すわよ。私は確かにキメラネストのメンバーよ。てか、あんたらこそ何なのよー!国安対のエージェントと寄せ集めの冒険者だって聞いてたけど?国安対のエージェントが、トゲウオで悪殺と組んで顔役のヒュエイムを押さえつけ、隣国と繋がってたA級冒険者グループを無傷で捕らえた凄腕だって言うから念には念を入れて、どう考えても必要以上の重装備で望んだってのに!全部パーじゃないの!。」


「ふぅー。ゲレイラ君、あなたある意味ついてるわ。キメラネストだけどね、国が介入するわよ。さすがにね。あのカボチャはやりすぎよ。あのレベルになると国家間で結ばれた高危険度破壊現象拡散に対する安全保障構想に抵触しますからね。レインザー王国一国の問題じゃなくなる可能性が大きいわ。下手すると神弟の剣も出張って来るかもね。なにしろモミバトス教会は協力的脅威削減計画のスポンサーですから。」


 アッシュバーンさんがヤレヤレといった感じで言う。

 ちなみに高危険度破壊現象拡散に対する安全構想ってのはレインザー王国によって提唱されたもので、人族魔族を大量に殺傷すること、そして建造物などを多大に破壊することが可能な魔法、魔道具、兵器の拡散防止に対する取り組みである。

 そして協力的脅威削減計画ってのは、そうした高危険度破壊現象をもたらす魔法、魔道具、兵器を無力化する事、もしくは安全に管理するために必要な資金をモミバトス教会が出資しましょうという取り組みだ。

 この世界の人達も、前世界の人達同様自分たちの住む世界が壊れるリスクは回避するように努力しているのだ。

 それが、自国の安全のみを考えるものだったとしても、だ。


「噓よ、何のために多額の献金をしてると思ってるのよ。」


 呟くように小さな声で言うゲレイラ。


「まったく、あなたには色々と聞かなくてはならない事があるようですね。まあ、今度は私たちではなく、しかるべき相手になりますがね。さて、いつまでもキメラネストの暗い将来について語っていても仕方ないですね、出発しましょう。」


 アッシュバーンさんが言う。

 枷をかけられうなだれるゲレイラ。

 運転席のカサイムさんがハッと短く声を上げて馬に鞭を入れる。

 馬は軽くいななき、我々を乗せた馬車を引いて進む。

 それぞれの思いを乗せて、馬車は旅の終着点へと向かうのだった。


「プテターン領に入ります。」


 御者台助手席に座るシンシアさんが言う。

 街道脇に頑丈そうな看板が立っており、ここから先プテターン領と書いてある。

 看板を通り過ぎると裏には、ここから先ウェルスロック領と書いてありここが領境なんだなと改めて感じる。

 荷台を見渡せば、外枠に寄りかかり寝ているモスマン族のキャリアン、枷を嵌められうなだれているゲレイラ、縛られて目を閉じ横になっているオリネーラ、荷台最後尾で後方を警戒しているアッシュバーンさん、そして、何故か晴れ晴れした顔をして空を見上げるオーガスタの姿が見える。


「しかし、あれやね。今まで気づかんかったけど、いい天気やね。」


 オーガスタが眩しそうに目を細めて言う。


「ああ、そうだな。」


 俺は答える。


「なんで気づかんかったんやろな。見ようとせんかったんかな。それとも。」


 オーガスタはそこで言葉を止めた。


「それとも?。」


「なんやろな、ようわからんわ。でもな、今はワイ、思うねんな。天気がいいってええことやって。」


「それに天気の変化を味わえるってのは良い事だな。」


「そうやな。ホンマ、そうやな。クーやん、なんやあれやな、こんなんあまり言いたくはないんやけどな、なんか、この旅、おもろかったで。」


「オーやんらしい言い方やなあ。随分と賑やかになったしなあ。世の中、色んな奴がおるもんだよなあ、それがおもろいんかもなあ、知らんけど。」


 俺は、キャリアンやゲレイラを見ながら言う。


「ふふふっ、ホンマやなあ、知らんけど。」


「それに気づけば一丁前ってなもんだ、知らんけど。」


「なんか、ええ感じや、軽なった感じやで、知らんけど。」


 俺とオーガスタは顔を見合わせて笑った。


 プテターン領に入ってからガーナンドに到着するまでは魔物の一匹も出ず実に平和な道行だった。

 大きな街道に出ると行き交う馬車や馬も増え始める。

 人通りがあると随分と安心感があるもんだ。

 さすがはガーナンド、領主都だけのことはあり近づけば近づくほどに人通りも多くなってくる。

 ガーナンドは大きな城を中心にした街で、遠くからでもその立派な城は良く見えた。


「さあ、ガーナンド城が見えて来ましたよ。」


「美しい城ですなあ、シンシアさん。」


「ええ、ガーナンド城は要塞としてでも宮殿としてでもない、当時の領主の趣味のためだけに建設された城と言われていますからね。レインザーの貴族の間でもガーナンド城を模した邸宅を作るのがステータスになっているほどですよ。」


 シンシアさんがカサイムさんに説明している。

 確かに、近づくほどにはっきり見えて来るガーナンド城は圧倒されるような美しい城だった。

 あれだけ大きいのに外壁がとてもきれいな白で、ずっと眺めていると夢の中にいるような現実感が薄まる感じがする。


「おや?どうしたのでしょうか?。」


 シンシアさんの声に視線を降ろすと街の入り口に出来ている行列が目に入った。


「どうしました?ああ、やはりですか。」


 前方の様子を見にやって来たアッシュバーンさんが何か納得したように言う。


「やはりと言いますと?。」


 カサイムさんが質問する。


「検問ですよ。」


「ああ、そう言えばそのために回り道したんでしたね。大丈夫ですか?街に入れないなんて事はないですか?。」


「それは大丈夫ですよクルースさん。包み隠さず言えばいいんですから。モリコロ村で捕らえたオーガスタを真っ直ぐこちらまで移送したのだと。」


 笑顔でそう言うアッシュバーンさん。

 なるほど、一旦トゥマスクに行き検問の事実を聞いての回り道ではなく、モリコロ村からウェルスロック領経由でガーナンドまで来たと、そう言う事だな。

 距離的に考えればそれほど不自然な事ではないよな。

 なんでわざわざ領を跨いだんだと言われるかもしれないが、領の衛兵を連れている訳でもないし、指揮は王国安対のエージェントさんで我々もただの雇われ冒険者だから、距離的に多少近いからとかなんとか言っておけば特に問題は無いって訳か。

 アッシュバーンさんの言いたい事を読み取ったシンシアさんとカサイムさんも無言で頷く。

 そうして俺たちは長い行列に並び、順番が来て衛兵さんに質問されるもアッシュバーンさんが冷静に答え、なんの問題もなくプテターン領領主都ガーナンドへと入ることが出来たのだった。


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