表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
215/1115

風向きが変わるって素敵やん

 アッシュバーンさんが馬車を運転する横で、俺は周囲の気配を探る。

 人の気配は感じられない。


「今は気配は感じませんね。」


 それに気づいたのかアッシュバーンさんが言う。


「ですね。でも我々の動きはどこかでつかんでますよね。」


「一本道ですからね。常に監視する必要はないでしょう。彼らにしてみれば来るとわかっている者を待ち伏せればいいんですから楽な物でしょう。」


「ふふ、お相手さんはそうは思ってないでしょうけどね。なにしろ、打つ手打つ手、軽くいなされてるんですから。今頃は先ほどのキメラより強いものを用意するのに大忙しといった所でしょう。」


「やめてよシンシアさん。」


 物騒な事を言うシンシアさんに俺は言った。


「いや、その可能性は高いですよ。私が奴らなら次で決着をつけたい所ですね。長引けば長引くほど持ち札は減り街に近づくわけですから。」


「これ以上は遊んでられないって訳ですね。」


 荷台から言うカサイムさんにアッシュバーンさんが答える。

 皆、次がキメラネストの全力だと考えているようだ。

 勘弁してもらいたいが、チマチマと攻撃を受け続けるのもそれはそれでしんどいものがある。


「用心に越した事はないですね。」


 俺は自分に言い聞かせるように言った。

 その後も馬車は山間の道を順調に進み、峠道は緩やかな下り坂になった。


「奴ら仕掛けてきませんね。もしかしたら諦めたなんて事はないでやすかね?。」


 ジョゼンが言う。


「お前、そんな事言ってると出るんだぞ~。」


 俺は馬車に並走してるジョゼンに言ってやる。


「よしてくだせーよー、旦那ぁー。」


「ヒヒヒヒ、出るぞ出るぞ~。」


 ジョゼンの奴が面白いほどビビってるんで、俺も調子に乗って脅かしてやる。


「ほらっ!!上を見てみろ!!出たぞ!!。」


「もうっ!いい加減しつこいでやすよっ!。ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!。」


「うおっ!!!。」


 ジョゼンと俺は空を見上げて大きな声を出してしまった。

 脅かすつもりで言ったのに、マジで出るとは!!。

 そこにいたのは角の生えたトカゲのような頭、蛇のような首、爬虫類チックな翼、恐竜のような身体と太い尻尾、まんまドラゴンだった。


「ド、ド、ド、ドラゴンだぁぁぁぁ!!。」


 ジョゼンが叫び、怯えて竿立ちになったフリドラムから転がり落ちる。


「みんな!!慌てず冷静に!!!。」


 アッシュバーンさんがそう言いながら馬車を停める。


 空で羽ばたいている鉛色したドラゴンはこちらに向かって大きく口を開ける。

 何かを放つ気か?。


「させるかっ!!。」


 俺はゲイルで飛んで軽自動車位はあるドラゴンの頭に下から蹴りを入れる。


「ガアッフ!!。」


 思ってたよりあっけなく首は上を向き、口から吐いた火の玉は空へと飛んで行った。


「よく見て下さい!あれはドラゴンではありません!キメラです!。」


 カサイムさんが叫ぶ。


「へ?。」


 地面でへたり込んでいるジョゼンが間抜けな声を出した。

 俺は空中で尻尾を振るうドラゴンもどきの攻撃をよけて、至近距離からアイアンバレットを連射する。

 身体に当たった鉄球は弾き逸らされたが翼に当たったものは見事に貫通する。


「身体はメタルリザードですから土魔法は弾かれます!!。」


 カサイムさんはそう言いながらドラゴンもどきの身体に電柱サイズの氷槍を複数放つ。


「あ!効いてやす!効いてやすよ!!。」


 胴体に刺さった氷槍を見てジョゼンが喜んでいる。


「ジョゼン!!オーガスタを守れ!頼むぞ!。」


 俺は大きな声で言いながらドラゴンもどきの胴体に刺さった氷槍に蹴りをぶち込んで根元までめり込ませてやる。


「わかりやした!!。」


 ジョゼンが答える。


 翼に穴が開き、胴体に氷槍を食らったドラゴンもどきは空に向かって地響きのような鳴き声を発し地上に降りた。


「ぐっ、ドラゴンじゃないとは言え半端なキメラじゃなさそうですね。」


 シンシアさんが顔をしかめる。


「総攻撃です!!。」


 アッシュバーンさんとシンシアさんとで、氷槍と矢を連発する。

 それに対抗するかのように翼を広げるドラゴンもどき。


「だからさせねーっつーの!。」


 俺は翼にアイアンバレットを連射する。

 ドラゴンもどきは鉄球を食らいながらも穴だらけの翼を羽ばたかせると、竜巻が発生しこちらが胴体に向けて放った攻撃を弾き飛ばしてしまう。


「風を操るとは、どうやら翼はウィンドバットのものらしいですね。という事は翼には火です!。」


「了解しました!!。」


 俺はカサイムさんのアドバイスを受け、ゲイルで奴の側面に飛び穴だらけの翼に向かってバレーボールサイズの火球を連発する。

 十発以上放った火球は全弾翼に当たり、辛うじて残っていた皮膜は燃え、骨格部分も炭化し崩れ落ちた。


「こっちも来やした!!。」


 ジョゼンの声に馬車を見ると、森から出て来る大きなウサギに囲まれていた。

 それもただのウサギじゃない、頭に鹿のような角、背中はハリネズミのようなトゲトゲだらけの奴だった。


「こっちは私たちで対処します!。」


 アッシュバーンさんとシンシアさんが素早くトゲツノウサギの群れに攻撃をする。

 ジョゼンも風魔法で応戦しだした。


「首はファイアリザードです。サイクロプスを倒した水魔法で行って下さい!。」


「了解です!。」


 そう俺に言って胴体への攻撃を続けるカサイムさん。

 俺はアルスちゃん直伝のウォーターレーザーをドラゴンもどきの首と頭に向けて発射する。

 三筋のウォーターレーザーはドラゴンもどきの頭に二発、首に一発命中する。

 ところがウォーターレーザーによって開けられた穴は瞬時に塞がってしまう。


「これは!!。」


 カサイムさんが驚きの声を上げる。

 こうなりゃアルスちゃん直伝の水魔法第二弾、ウォーターレーザーを鞭のように操るやつだ!。

 俺は間髪入れずウォーターレーザーの鞭、ウォーターウィップとでも名付けるか、それでもってドラゴンもどきの首を切り刻む。

 刻んでも刻んでも、どんどん回復しちまう!。

 こいつは、まるで!。


「クルースさん!!ヒュドラです!ヒュドラの特性を備えてます!。」


「てことは再生は条件付きってことですね!。」


「そうです!。」


 俺とカサイムさんはドラゴンもどきのが口から出す火球を避けながら話す。

 ヒュドラなら以前にキーケちゃんとシエンちゃんが戦ってるのを見たし、アルスちゃんから説明も受けてる。

 首が条件付きの無限再生を備えてるって事は、別の場所から先に切断しなけりゃいけないって事だ。

 そして、そこを切断する時には切断面を焼いて再生を防がなければならない。

 首が一本しかないからには、先に切断できる場所も限られてくるな。


「となれば、ここだろがい!!。」


 俺は火魔法で作った剣で奴の尻尾を切り落とし切断面も焼いてやる。


「お見事です!!。」


 カサイムさんが言って首に氷槍を食らわす。

 首に開いた穴はもう再生しない。


「とどめです!!。」


「行きますっ!!。」


 カサイムさんの声に合わせ俺はドラゴンもどきの首に飛ぶ。

 俺がウォーターウィップで首を切り落とすのと、カサイムさんが放った電柱サイズの氷槍が胴体に複数食い込むのとは、ほぼ同時だった。

 俺は念のために切り落とした切断面を火炎で焼き馬車へ戻る。

 飛びかかって来るトゲツノウサギをアイアンバレットで撃退していると、樹上でこちらを見張っている奴を発見する。

 ジョゼンを見ると気づいているようで、ここは任せて奴をと俺に頷く。

 俺は頷き返し、力を貯めて一気に樹上の奴めがけて飛ぶ。

 俺が凄い勢いで自分の方に来るのに気づいた奴は急いで逃げようとするが、加速がついてる俺の速度にはかなわない。

 樹上から飛んで逃走しようとする瞬間に俺はそいつの腕をつかんで電撃を食らわしてやる。

 あんまりソワソワしないでっつーんだよ。

 空中で身体をビクッとさせ力を失ったそいつを抱きかかえて馬車へ戻ると、既にトゲツノウサギの群れは全て倒された後だった。


「旦那、大丈夫でしたかい?。」


「ああ、急いで逃げようとしたけどちゃんと捕まえてやったよ。」


「キメラネストでやすかねえ?。」


「それをこれから聞かせて貰おうじゃないの。」


 俺は抱えている奴を馬車の荷台に降ろして言う。

 次から次へとうっとおしい相手だったが、ようやくシッポを捕まえたよ。

 大人しく喋ってくれるとも思えないけど、これで防戦一方の風向きが変わってくれればいいけどな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ