気を取り直すって素敵やん
「だ、旦那、どういう連中なんですか、あいつらは?。」
御大層なやり方にジョゼンが驚いて俺に尋ねた。
俺たちがこの店に入るように誘導したのだろうか?いや、下手すれば宿もか?それとも、奴らと事を構えた時に俺が衛兵詰め所の近くに宿をとったのを覚えていたのか?いずれにしても、あいつらは結構な大人数で俺たちの動きを把握、もしくはある程度コントロールしていたって事だろう。
「ああ、昔、仕事で絡んだ連中でな。」
俺は発見者騒動の事をザックリ説明した。
「そいつはあっしも耳にしたことがあります。発見者はそれで解散し消滅したと聞いてますぜ。」
「そうですね。それに伴って発見者に肩入れしていた商会や貴族が随分とあおりを食ってましたよ。」
「ああ、それならば私も知っているよ。しばらくの間、関係はないがあくどいやり方をしていた貴族や商会も静かにしていたからね。あれにはクルース殿が絡んでいたのか。そうかそうか。」
「今の奴らの素性は理解したが、奴の言ったキメラネストとはどういった組織なのですか?。」
ジョゼン、アッシュバーンさん、シンシアさんとで発見者事件を話している所にカサイムさんが質問する。
それそれ、俺もそれを聞きたかったんだよ。
「ああ、そうでしたね、失礼しました。キメラネストというのは元王宮魔術師などの高ランク魔術師たちによって作られた破壊商会の名前ですよ。」
アッシュバーンさんが言う。
「え?元王宮魔術師?。」
「ええ。彼らの組織名にもなっているキメラというのは、ライオンの頭にヤギの胴、尾は蛇という魔物ですが、マンティコアやグリフォン、ミルメコレオなど複数の生物が合成された生き物を指してキメラ生物という事もあります。」
「なるほど。」
俺は相槌を打つ。
「いっとき王宮魔術師の間でキメラ生物の人為的合成について盛んに研究された時期がありました。元々はワイバーンに代わる移動手段として、もっと手軽で小回りの利く生物はいないかという所から始まったのだと聞きます。ところが、一部の魔術師が兵器としての流用を考え出しました。しかし、モミバトス教会から強い反対があり、それを押してまでの利点は無しと見た国はキメラ生物の軍事利用を禁止しました。しかし、それに納得しない者もいました。」
「そいつらが、キメラネストを結成したのですか?。」
「早く言えばそうです。強引に実験をした末に発生した制御不能の合成生物が王宮内で暴れまわるという事件が発生し、その実験に携わった魔術師たちは追放されました。その集まりがキメラネストの始まりという訳です。」
アッシュバーンさんが説明してくれる。
「なるほど、よくわかりました。しかし、レインザー王国が利点少なしと見るのも納得できるのですが、召喚術や魔道具と比べてどうなんでしょう?彼らはそれ程までに恐れるべき組織なのでしょうか?。」
カサイムさんが言うのも良くわかる。
アサシンの者がわざわざ俺に直接伝えるってのは、よほどの事なのだろうが、それに値する組織なんだろうか?。
「いや、それはもしかするとおっそろしい事やで。召喚術の利点は、魔道具が必要ない、魔道具ほど条件がない、魔道具より制御できる、という事や。その代わり、誰でもが出来る事とちゃう。せやけどな、召喚したもんがやられてまうと、術師もダメージを受けてまう。まあ、どちらも利点と欠点がある言うこっちゃで。だが、自分が自由に操れる、しかもそれが倒されても自分にダメージが無い魔物がいたとすれば、それは便利やでー。まあ、恐らくそう簡単には作れへんのやろけどな。更にな、ホンマはこっちの方がおっかないんやけどな。生物の長所を掛け合わせることが出来たらどうや?ごっつ固い奴とごっつ素早い奴とごっつ攻撃力の高い奴を合成させたらどないなんねん?欠点のない生物が出来上がるんちゃいまっか?そんなん作られたらかないまへんで。」
「ナウガウイでも研究されておりましたが、精々、植物や家畜などにおいて、人為的に交雑させ続けると時に発生する変化した種を我々にとってより都合が良い形にする、つまり、より産出量の多い、より育成しやすい種に改良するくらいです。そんなに都合の良いものが出来るのでしょうか?。」
カサイムさんがやはり懐疑的な意見を言う。
「それについてはカサイムさんも正しいですし、オーガスタも正しいのですよ。実際、そんな欠点のない生物を作れるのならば、それこそストーンキッズ商会のような武器製造卸商会が放っておかないでしょうし、自分たちがそうした商会を立ち上げても良いでしょう。そうしないのは、まだまだ、製品化できる質ではないからです。しかしながら、近年、彼らがかかわったとされる破壊活動の中で目撃された合成生物は、それこそ本物のキメラ並みの力を持ちながら決められた動きをしていました。」
「本物のキメラ並みというと、マンティコアとかその辺りの強さって事ですか?。」
「さすがにマンティコア程ではないですが、グリフォンレベルかそれよりやや強いような物もいたと聞いています。」
「グリフォンと同等かそれ以上となると、なかなか厳しいですね。そんなものを複数相手にするとなると。」
アッシュバーンさんの答えにシンシアさんが渋い表情をする。
「グリフォンでしたら、以前街道にはぐれが出現して戦ったことがあります。それと、つい最近ですが、仕事でフリーエリアに入ったのですが、そこで大きな双頭のカメレオンと戦った事があります。どちらも仲間と共にですが倒すことができましたよ。ですから、皆さんと一緒ならば大丈夫だと思います。」
俺はそれが慰めになるかわからないが、過去に戦った魔物の事を話してみた。
「魔物ならば私も国で何度か戦ったことがあります。皆さんとならば、余程の事がない限り大丈夫でしょう。」
カサイムさんも心強い事を言ってくれる。
「うむ。そうだね、我々は一人じゃない。この仲間とならばきっと大丈夫さ。」
シンシアさんも晴れたような表情で言ってくれる。
「あっしは最初から不安に思っちゃあいませんぜ!。」
「お前は終始不安がってるだろ。」
「そりゃ酷いでやすよー、旦那ぁー。」
少しだけ固くなっていた場が和むのを感じる。
ジョゼンのキャラクターには感謝だよ。
そうして俺たちは気を取り直して食事を終え、宿に戻り英気を養うのだった。




