救いがあるって素敵やん
「あんちゃんよ、とりあえずこいつを何とかしてやれよ。」
俺はぐったりしたギロチンワームを指さして優男に言った。
「あ、ああ。」
優男は力無く言うとギロチンワームを幾度か撫で、何かモゴモゴと唱えてから背中のバカでかい剣を手に取り砂地に刺した。
ギロチンワームはゆっくりと地面に戻って行く。
「元居た海に帰らせた。」
優男が言う。
背中の大剣、結局使わなかったなと思っていたがどうやら使役するのに使う物のようだった。
「それでいい。じゃあ、改めて話を聞こうか。」
という事で、捕縛した奴らと一緒に馬車の荷台に乗ってもらう事にした。
「さてと、それじゃあ色々と聞かせて貰おうかね。」
「わかりました、こうなればもうジタバタしても仕方ありません。我々の、と言うよりはリーダーの自分が知っている事ならば答えましょう。しかし、その前に教えて頂きたいのですが、あの仲間割れはお芝居だったのですか?。」
「ああ、そうだよ。」
俺は答えた。
「それにしては、あなたの慌てぶりが本気のようでした。」
「あの場にいたのか。ああ、慌ててたのは本当だからな。元のシナリオと違う展開だったからな。本当は俺が先に店を出る予定だったんだよ。それがまったく逆の結果になったもんでなあ。」
「ふふふ、真実味を増すために少し展開を変えたんですよ。皆さんもそれに良くついてきてくれました。」
満足げにシンシアさんが言う。
「いや、馬車まで持ってくことなかったでしょうに。」
「それもまた、真実味を増すためです。」
「フフフ、そうか、君自身も一杯食わされていたって訳か。それでは我々が騙されるのも仕方ない。」
自嘲的に笑って言う優男。
「まあ、そんな訳だ。さてお次はそちらの番だ。」
「ふふ、わかったよ。」
優男らはインセクティアンズという名でフリーの破壊商会をやっているそうだ。
破壊商会と言えば営利目的のテロリストみたいな奴らだよな、フリーでって事はどこにも所属しない個人経営ってことか、じゃあこの優男は個人事業主ってか。
まあ、それは置いといて。
クライアントは個人で、長身短髪瘦せ型だが引き締まった身体で何かの心得がありそうな動きだったとの事。
報酬は前金で貰っており、目的は囚人の生死を問わずの身柄確保。
身柄と引き換えに別途成功報酬有、という破格の条件だった。
前金もそれなりに大きな額だったのでそれなりにリスクも高いのだろうと考え、メンバー総出で行う事にした。
と言っても、総勢6人だそうだが。
虫使いは自分を合わせて3人、他の3人は攻撃魔法に長けた冒険者崩れで、依頼をこなす際は必ず虫使いと冒険者崩れのペアで行う。
今回はトンネルで3人がかりで虫を使役し俺たちの実力を図ったのだが、予想以上の戦力だったためにその場でそれ以上攻撃するのはやめて、自分たちの戦いやすいシュチエーションになるまで様子を見ようという作戦だったとの事。
街中で寝込みを襲い混乱に乗ずると言うのもプランの一つとしてあったと言うのだから、アッシュバーンさん達の読みは合っていたのだった。
結局、彼ら自身もクライアントの正体はわからないという事だった。
彼らにとってお金が支払われれば、それ以上の事は必要がないとの事でそれは、まあそうなんだろうよ。
非合法な仕事を頼むのに身分証明書やら保証人が必要だ、なんてのもおかしな話だもんな。
ちなみに、街道の封鎖というのはこの場に居なかった二人の虫使いの手によって行われたようだが、俺の後ろについていたアッシュバーンさんシンシアさんペアと俺の前に先行していたジョゼン、カサイムさんペアの手によって打ち破られ拘束されたようだった。
封鎖のやり方ってのがこれまた気味の悪いもので、街道に大量のヤスデが発生し無理に通ろうとしてもつぶれたヤスデの体液でヌラヌラになった道では馬車も馬もまともに通行できない状態だった、という事だ。
通行できずに集まった冒険者たちで手分けしてヤスデを蹴散らし、吹き飛ばししていたが次から次へと湧き出て来るのでキリがなかった。
しかし、アッシュバーンさんたちは原因がわかっているので、虫たちを引き付けている虫万がどこかにあるはずだと睨み探していると、駆除している冒険者たちに紛れてヤスデの群れの中にちょこちょこと何かを投げている奴を発見する。
そして、そいつに近づき問いただそうとすると近くにいた奴と一緒に逃げ出したので、追いかけ攻防戦の上で倒し捕らえた、という訳だった。
しかし、駆除に集まった人に紛れて燃料を追加するとは大胆だが有効な手段だとも言えるな。
そんな状態じゃ混乱して周りの人の事なんて気にしてられないだろうし、何か聞かれたとしても虫の忌避剤を撒いてんだとかなんとか言っとけば一般の人ならそれ以上何も追及しまい。
ただ、今回は一回被害にあってるアッシュバーンさん達がいたから露見したけどな。
前世界でも、ヤスデの大量発生によって列車がスリップし運休になる、なんてことはあったようで、それにちなんでキシャヤスデなんて名付けられたヤスデもいたものだ。
だが、ヤスデは大人しい虫で人や家畜に危害を加える事はないし、むしろ落ち葉を分解し土壌を良くする益虫としての側面も大きいため、見てくれはあれだけど目くじら立てて駆除せねばならないものではなかったはずだ。
実際、今回の街道封鎖もケガ人などは一人も出ず、そこまで大事にはならなかったようだった。
「しかし、お前な。そんな能力があるんならもっと人のためになる事に使ったらどうだ?。」
「ふふ、この力を破壊以外の目的に使うのですか?害虫駆除ですか?我々、虫使いのできる事なんてたかが知れてますよ。実際、上位冒険者にも王宮魔法使いにも虫使いはいません。この力でお金を稼ぐにはこの稼業が一番なんですよ。」
また自嘲的に言う優男。
「そんな事はないと思うぜ、虫にも益になる奴がいてな。使い方次第で利益を生み出せると思うぜ。俺はゴゼファード領チルデイマで学園の教師をやってんだが、懇意にしてる商会長さんも幾らかいてね。俺の考えを面白いって商売にしてくれたりすんのさ。お前さんたちも、罪を償ってだな、行く当てが無かったらチルデイマ学園に尋ねて来いよ。知り合いで食うに困ってる虫使いがいたら一緒に連れて来いよ。結構、大きな商売ができると思うぜ。」
俺は優男に言った。
実際、ちょっと考えつくだけでも養蜂関係から果樹園の受粉請け負い、食糧難の地域へ昆虫食の提供、農耕地用の土質改善など、纏めて請け負えば商売として成り立ちそうなものがあるもんだ、デンバーさんやアウロさんたちと話し合えばもっともっと良い案が浮かぶかもしれない。
「あなたはおかしな人ですね。我々はあなた方の命を狙ったと言うのに。なんだか、本気で信じてしまいそうですよ。」
「本気で信じてもらっていいんだって。こっちにもメリットのある話なんだから。だいたい、こんな凄い特技が重用されてないってのが信じられないよ。まあ、こっちにとっては大きな商機だけどな。」
「旦那がこう言ってるって事は本当なんでしょうなあ。そう言う事でハッタリは使わない人でやすからねえ旦那は。」
「他の事はハッタリで生きてるみたいに言うなよジョゼン。」
「いやあ、近い物あると思いやすが。」
アッシュバーンさんたちが笑う。
「まあ、よ。今回の件ではケガ人も出ていないようだし、大した罪には問われんだろう。お務めを果たしたらマジで来いよ。当てにしてるからな。」
「本当に、おかしな人だ。」
優男は静かに言って俯く。
俺たちは、ひとまずこれで安心して宿で寝れるなとホッとするのだった。




