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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
201/1111

ありがたいご厚意って素敵やん

 ライズ村に着くとアッシュバーンさんは衛兵詰め所に直行し、約束通りの対応をした。

 拘束した奴らを引き渡す時に衛兵さんから、この男もですか?と拘束されているくせにニヤニヤ笑っているオーガスタを指さし聞かれたが、アッシュバーンさんは、いやこいつは借金を踏み倒して逃げた男でこれからガーナンドまで連れていって貸主に引き合わせる所だ、と打ち合わせ通りに答えた。

 オーガスタはニヤニヤしながら、本当は国際テロリストですねん、と衛兵さんに言うが、すかさずシンシアさんが、ホンマしょーもない事ばかり言って!どうやって返すかの算段でもしとれ!ボケカス!と強い口調で言ってオーガスタの頭をひっぱたいたもんだから、衛兵さんは苦笑いするばかりだった。


「さてと、だいぶ日が傾いてきましたがどうします?インバーチャ村まで行きますか?。」


 俺は皆に尋ねた。


「そうですね、今から行けば日没ごろにはつけると思いますが。敵さんの反応も早かったですからねえ、難しい所ですね。」


「先ほど商隊がインバーチャ村まで行くと言って護衛を連れ出て行きましたから、彼らについて行けばよろしいかと。」


 逡巡するアッシュバーンさんにカサイムさんが助け舟を出してくれたので、我々はその商隊に続くように出発し無事インバーチャ村まで行くことが出来たのだった。


「しかし、無事についたのは良かったですがすっかり日が暮れてしまいましたね。」


「仕方ないさ、先に居た商隊は結構な大荷物だったからね。だからこそ、あの護衛の数だった訳で我々の道中の安全が確保できたんだから良しとせねばな。」


 俺のボヤキに男らしく答えるシンシアさん。


「しかしながら、随分と賑やかな様子ですな。」


 カサイムさんの言うように、村の至る所に馬車や馬が停められており、日が没しているにもかかわらず背負子などを担いだいかにも商人といった人々が通りを歩いている。

 我々も一旦馬車を道の脇に停めて、道行く人に話を聞いてみる事にした。


「ちょいと、お聞きしたいのですが。」


 ジョゼンが商人ぽい恰好をした男性に話しかける。


「なんでしょ?。」


 男は急いでいたのか早口で答える。


「お急ぎの所、すいません。今、この村に着いたところなんですが、随分と賑わってますなあ。何か祭りでもあるんですかい?。」


「なんだ、あんた、知らんで来たのかね?。明日からインバーチャ名物二十日市が立つんだよ。近隣の商人なんかが集まって来てるから早く宿に入らないと野宿することになっちまうぞ。じゃあ、急ぐから。お前さんらも急ぎなよ。」


 そう言うと男はセカセカと早歩きで行ってしまった。


「二十日市ってなんですか?。」


「ああ、二十日連続で催されるマーケットだよ。近隣のみならず離れた場所から生産者が直に売りに来ることもあって、目利きなら掘り出し物やお値打ち物を手に入れる事もできるんで人気のあるイベントだね。」


 ほほー、前世界でも十日市なんてのは聞いた事あったけど、それは十日に一度とか毎月十日に催されるものだったと記憶している。

 ところ変わればなんとやらだ、二十日ぶっ通しとは恐れ入る。


「うわー、凄いねそれは。二十日も店開いてたらもうほぼ地元の店だね。」


「いや、同じ店が二十日連続で出すのは稀だよ。入れ替わり立ち代わりって感じさ。」


 シンシアさんが教えてくれる。


「ちょっとちょっと旦那達、悠長に話してる場合じゃあござんせんよ。早いとこ宿を決めないと。」


「そうだったそうだった!。」


 てなわけで我々は宿を探すことになったのだが。


「困った事になったね。」


「どこも満室ですな。」


 シンシアさんとカサイムさんが渋い顔で言う。


「おいおいおい、野宿とか勘弁してやー!ワイ、ベッドやないと、よー寝れんでー。」


「お前はどっちにしても野宿じゃ!。」


 ふざけた事を言うオーガスタに俺は言う。


「嘘やん!勘弁してや!。」


「冗談はさておき、どうしますか?。」


「冗談なんかーいっ!。」


 俺はオーガスタのツッコミをスルーして続ける。


「ひとまず飯でも食いますか?。」


「なんやクーやん、流しよってからに。ほんでも、飯は賛成や。野宿するんならせめて飯位は豪勢なん食わせてーな。」


「お前は飯とスープだけな。俺たちは良く働いたからガッツリいきたいねー。」


「そんな殺生なー。」


「オーガスタのベタな笑いに付き合ってたら笑いの腕が鈍るわ。さ、皆さん、夕食にしましょー。」


「ひどっ!!それは酷ぉーおまっせ!。」


 俺たちはやいのやいの言うオーガスタの手枷を外し、その代わりにカサイムさんが服の袖から出した細い糸を奴の胴に縛りつけた。


「これはアダマンスパイダーの糸をほぐして撚り直した特注品です。街道で木を切り倒したのもこれを使いました。あの木のようになりたくなければおかしな気は起こさない事です。」


 カサイムさんが落ち着いたトーンで言う。


「どーもこのおっちゃん、シャレ通じそうもなくてあかんわ。」


 さすがのオーガスタもそう言って首を振るのみだった。

 俺たちは連れ立って飲食店を探すのだが、これも中々空きがない。

 何店舗か回ってようやく入れるお店が見つかる。


「やっと落ち着けるわー。」


「お前は落ち着くなや!。」


 店に入って早々にリラックスしだすオーガスタに取り敢えず突っ込んどく。

 もう慣例になりつつあるね、これも。 

 お店は居酒屋なんだが、さすがに誰もアルコールは頼まなかった。

 オーガスタは平気でエールを注文したが、シンシアさんがメニューで頭をひっぱたいて、みんなと同じダスドラック茶を頼んだのだった。

 その代わりと言っては何だが、食べ物は豊富に頼んだ。

 海が近い村だけあって海鮮物が多く、しかも非常に美味しい。


「あー、このカニ、ごっつ美味いなぁ。」


「おお、マジで美味いよな、これ。」


 オーガスタが言ったのは、手のひらより一回り小さい位のサイズの柔らかいカニを甘辛く味付けしたもので、かぶりついて吸うように食べるので手や口がベトベトするのが難点だが、後引く美味さで手が止まらなかった。


「しっかし、この後は野宿でっかー。せめて酒飲ませてくれまへんかあ?。」


「アホ、なんでお前に酒飲まさなあかんねん!まずは借金清算してからにしなはれや。」


「ホンマやで。君、あんまりいちびっとったら金主にあわす前に簀巻きにして海にほりこんでまうど。」


 オーガスタのボヤキに突っ込む俺に続いておっかないことを言うシンシアさん。


「いや、お宅さん達は随分と楽しそうですねえ。」


 やいのやいのとやっていたら、隣のテーブルの老夫婦が話しかけてきた。


「ああ、すいません、騒がしくて。」


「いやいや、全然、そんな意味で言った訳ではないんですよ。ねえ、お爺さん。」


「はいはい、そうなんですよ。つい楽しそうで羨ましくなってしまいましてな。」


 温厚そうな老夫婦はニコニコしながらそう言う。


「もしよろしければテーブル繋げてご一緒にいかがですか?。」


 アッシュバーンさんが老夫婦をお誘いする。


「あらあ、いいんですか?。」


 お婆さんが更に笑顔になって言う。


「どーぞどーぞ!大勢で食べた方が美味いってなもんや!。」


「だから、お前が言うなっちゅーねん!。」


「あらあら、おほほほ、あーおかしい。ねえ、お爺さん。」


「本当になあ、まるで子供たちが帰って来たようだ。」


 オーガスタに突っ込むシンシアさんを見て言う老夫婦。


「お二人とも、お子さんは?。」


 ジョゼンが聞く?。


「男ばかり5人もおりましてねえ。一緒に暮らしている時は毎日騒がしくてならなかったのですが、いなくなると寂しくなるものですな。」


「ええ、ホントにねえ。でも、みんな忙しく働いているんですからねえ、仕方ないですよお爺さん。」


「お子さんはみんな他所の町で働いているんですか?。」


 俺は聞いてみた。


「そうなんですよ。一番下の子が最近家を出ましてねえ。ねえ、お爺さん。」


「ゴゼファード領に行って一旗揚げるんだって、なにもそんな遠くに行くこともないだろうに。」


「あらら、私もゴゼファード領の出なんですよー。息子さんはどちらに行かれたんですか?。」


 そんな偶然もありでその後もこの老夫婦とは話が弾み、楽しく食事をすることが出来たのだった。


「いやー、楽しくて時間を忘れてしまいましたよ。」


「こちらこそです。」


 笑顔のお爺さんに俺は言った。


「ねえ、お爺さん。」


 お婆さんがお爺さんに何か訴えかける。


「わかってるわかってる。今言おうとしていた所だ。皆さん、どうやら今晩の宿が無いようにお見受けしましたが?。」


「いやあ、お恥ずかしい。実はそうなんですよ。明日から大きな市が立つらしくて、どこも空きがなかったんですよ。」


 俺は率直に答えた。


「もしよろしければ、我が家にいらして頂けませんか?大したお構いも出来ませんが、子供たちがいなくなって部屋だけはあります。寂しい老人の願いを聞いては頂けませぬか?。」


 お爺さんはそう言って頭を下げる。


「いやいやいやいや!頭をお上げください!そんなご親切に、本当によろしいのですか?。」


 俺は恐縮して聞き直した。


「勿論ですとも、ねえお爺さん。」


「そうですとも、ちょっと村外れなんで歩きますが、それでもよろしければ是非。」


 そんな訳で我々は老夫婦に一晩ご厄介になる事になった。

 少し距離があるとの事で我々の馬車に老夫妻たちも乗って頂き、我々は一路ご夫妻宅へと向かった。

 お二人の家は村外れにポツンと建っている一軒家で農家なのだろう、納屋や馬小屋もあり馬車とジョゼンの馬はそちらに停めさせて頂く事となった。


「フリドラムに飼葉まで用意して頂いて、申し訳ないです。」


 ジョゼンが珍しく丁寧に言う。


「いやなに、家にも馬がいますから、大した事ではありません。さあ、どうぞ中へ。」


 老夫婦のご厚意にて、なんとか屋根のある場所で寝ることが出来る。

 いやー、ありがたいですねー。


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