物を作るって素敵やん
アウロさんに降ろしてもらったのは噴水を中心としたターミナルのような場所で、ここから放射状に道筋ができておりパリの町のような作りなのだろうと予想される。
噴水の周りには屋台が出ており雰囲気も明るくて非常に良い感じ。屋台から道を挟んだ反対側には色んなお店があり店前に椅子やテーブルを出しているのは飲食店か。とても良い匂いがする。
さて、来る途中で魚を食べはしたが身体が若返ったせいかまだ食べられる、というか食べたいな腹減ってる。
俺はひとまずこの噴水広場を一周してみることにした。
肉の串焼きかあ、うまそうな匂いがするなあ。あっちはクレープか?甘いものじゃないな、トルティーヤとかブリトーみたいなやつだな。チーズとソーセージだな。うまそげ。それにしよう。
「お姉さん、それ一つちょうだいな」
俺は銅貨を一枚出した。
「ハーイ、まいどーっ」
お姉さんは紙を二枚折にしたものにトルティーヤっぽいものを挟んだやつを俺に手渡してきた。
「お釣りちょっとまっててねー。お客さん、旅の人?見ない顔だけど」
「そうなんだよ、今、着いたとこでねー。よくわかるねー」
「やっぱり?私、お客さんの顔覚えるの特技でね、あーお客さん、百レイン硬貨9枚になっちゃうけどいい?」
「いいよいいよ、ごめんね、細かいの無くて。しかし、すごいねー可愛いし仕事できるし、いやいやー、たいしたもんだっ!」
「やだーっ、もうっ、お客さん、おじさんみたい!もー、若いのに、うふふふふふふ、はい、これお釣りねっ」
「おっ、ありがとっ」
俺はお釣りを受け取りながら一口異世界トルティーヤをパクついた。
「うまっ!うんまーーっい!」
「わっ!、もー、お客さん、驚かさないでよーー」
「いや、ごめんごめん、でも、マジで美味いよ!」
「ありがとーね、お客さん。うち店もやってるから良かったら来てよね。お店のほうは夜もやってるから」
「おうっ、行きます行きます!なんて店?」
店員のお姉さんは屋台の上を指さした。
「これよ、これ。名前一緒だからね。よろしくね」
屋台のひさしにはスノウスパロウ2と書いてあった。
「この屋台は一応2号店なのよ」
屋台のお姉ちゃんは明るくそう言った。
「へー、景気良さそうだねえ。ちなみになんだけどさ、路上で商売するのって何か許可とか必要なの?」
「勿論、いるわよー。じゃなきゃ喧嘩になっちゃうわよー。なーに?お客さん、露店やるの?」
「うん、いやね、しばらくノダハで商売でもやろうかなーなんて思ってるんだけどさ」
「だったら商業ギルドね。露店の許可書は割とすぐ取れるわよ。でも、お客さん、何やるの?商売敵になるようなのは勘弁してよねー」
「ああ、安心してよ、飲食やるつもりはないよ」
「じゃあ安心ねー。そうしたら、何やるのー?」
「それをちょっと考えていてね。まずはマーケティングリサーチからだなー」
「負けちゃん?リサちゃん?なーに?それ、お客さん?」
「いやあ、あれだよ、ほら、どんなものが皆さんに喜ばれるのかどんなものが皆さんに求められているのか、町を歩いて調べてみようって事よ」
「へー、皆さんって私も含まれるのかしらー?」
「勿論、勿論、おねーさんみたいな可愛い娘はどんな事に興味があるのかな?休日どんな事をして過ごしてるのかな?」
「やだー、もー。それってデートのお誘い?もー」
「それはもっとお互いの事を知りあってから改めて、ね?で、どうなのかな?」
「うふふふ、うーーん、そうねー、仕事が休みの日ねー。そーねー、旅芸人さんとか吟遊詩人さんとかが来てれば見に行ったりー、友達と一緒だったら甘いもの食べに行ったりして、そのくらいかな?みんな、そんな感じだと思うけど」
「へー、なるほどねー。今の若い子達はみんなそんな感じなんだ」
「もー、お客さんだって若いのにー、またおじさんみたいな事言ってー。でも、みんなそんな感じだと思うよ」
あはは、やっぱ中身おっさんだからな、俺。つい出ちまうよおっさん臭さが。気を付けねば。
「そっかそっか、なるほどねーーー、深いっ!」
「えっえっ?何が?何が?深いこと言った私?」
「いやいや、ありがとねー。まあ、近いうちにね何かしらの商売をやると思うんでその時はごひいきにね。ああ、俺の名前はクルース、トモ・クルース。よろしくね」
「私はミーサ、スノウスパロウのミーサって言えば看板娘で有名なんだからっ!なんちゃって」
あら、やだ、なんちゃって、だって。かわいいーー。まったく、若い娘はかわいらしいなあ。なんてお父さん目線で見ちまってるな。
「ミーサちゃんね。忘れないぜっ!なんちゃって!」
「やだーーっ、もうっ!お客さん面白いんだからーー!もーーっ、忘れないでよーっ」
いいね、こっちの世界の娘は。前世界ならもっとビジネスライクな接客か下手すりゃ通報案件ってか。
俺はミーサちゃんに手を振りながら町を散策するために歩き始めた。
噴水を中心とする広場を時計回りに歩く。石造りの家、お店、露店などを眺めながら歩く。
ああ、いいなあ、旅に来たって感じ。しかも、まるっきりの異国、って言うか異世界だけど。道路は石畳。風景も映画やなんかで見たパリだとかアムステルダムだとかローマだとかそんな感じで非常に良い雰囲気。噴水前に階段なんかあった日にゃあどこぞのお姫様と一緒にジェラードを食べたくなるわ!
屋台は基本的に持って歩けるタイプの食べ物を売っている店が多いな。後は小物、アクセサリーとかそういったもの。そして、野菜果物なども売られているし驚いたことに新聞スタンドもあった。前世界の様にタケノコ状に新聞が刺してあるのは面白かった。一方で店舗を構えての商売はと言うと、まずは飲食店、これはレストラン的なものでざっと見た感じパスタやピザ、肉料理、魚料理、それも焼き物だけじゃなくて揚げ物もあるな。そしてミーサちゃんの言ってた甘いもの。果物と生クリームとホットケーキっぽいものの組み合わせのようだ。アイスクリームぽいものも見受けられた。まあ、魔法で氷を作れるならアイスクリームも作れるか。
そして、飲食店以外でよく見かけるのが服飾雑貨店だな。日常服専門から防具系専門まであるな。防具系専門店は以前の世界での登山アウトドア用品店とかワークギア専門店みたいなもんかね。
そういうお店は前世界でも好きだったのでちょいと入って物色してみることにした。
アーマーショップセンザンコウと書かれた看板、店先の棚には巾着袋みたいな小袋がサイズごとに並んでる。そいつを横目に店内へ入ると中はコンビニよりもやや狭い感じ。奥のカウンターには店員らしきおじさんがおり、店内には所狭しと防具が並んでいる。
うひょー、ワクワクするなー。観光地の土産物屋でたまにある武器防具のフェイク品を沢山売ってる店を彷彿とさせるけど、展示の仕方が実用品の販売って感じで非常によろしいですわな。特に気になったのはバックラーって言うんですか、フライパン位の大きさの丸い盾。持ち手がバンドになっていて小手に装着できるギミックが超カッコイイ!これは冒険者登録するなりして町の外に出かける事になったら買う!でも今は荷物になるから買わない!
一通り見て回って革のウェストバッグを購入し頻繫に出し入れするものや小物はこれにしまうことにした。今のところウェストバッグには財布代わりの巾着とアウロさんから貰った切り出しナイフ、アウロさんから貰った激渋鞄にはこれまたアウロさんから貰った工具セットが入っているのみだが、これから町を散策し生活に必要なものや商材になりそうなものを購入していこうと思っている。
防具屋さんを出て散策を再開する。
そう言えばアウロさんはお孫さんに何か土産物を買って帰るなんて言ってたけど子供の玩具なんてのも売っているのだろうか、俺は探してみることにした。
しかし、おもちゃ屋らしいものは無いようだった。
服飾雑貨店や小物屋さんに動物の形の木彫りの置物やぬいぐるみ、コマ、木製の小さな剣と盾、木製の荷車のミニチュア、そんなものは見かけたがやはりそうしたものを専門に売っている店は無かった。
やはりアウロさんが言っていたように玩具など趣味性の強いものの製作販売には力を入れない社会のようだ。この辺にビジネスチャンスが隠されているように思う。というよりも、現時点で自分がおっかない所から目を付けられずに発揮できる強みはエンターテインメントが溢れかえる社会でそれに浸かって生きてきたエンタメ魂しかない!いや、それが楽しい!せっかくのこの世界、前の世界では出来なかったような楽しみ方をしようじゃないか!
まずは色んな人との交流だな。露店の許可とって小売りだな。何を売るかは薄っすら決まっている。ただ、それを製作する材料が安価で手に入るか、それが問題だ。この世界の人たちは趣味性の強いものにお金をかける習慣がなさそうなので手に入れやすい値段設定じゃないと話にならない。
俺が欲しいのはスティック状の木の棒、木のお椀、紐だ。
紐は服飾雑貨店で良い塩梅のものが安く売っているのを見たので大丈夫。
後は木工製品だ。
俺はそれらしきものを求めて歩く。
しばらく歩くと木工場独特の木を削る良い匂いがするエリアに差し掛かる。
これこれ、これですよ。子供の頃、こうしたエリアが町にはあったものだ。材木屋と言うのか、外に大きな木材が規則正しく立てかけてあって正月などはその材木に元旦とかペイントされていたものだった。おっと、いけないいけない、ノスタルジックな気分に浸っている場合じゃねーよ。商材探しだ。
木製食器屋さんを見つけると安価なお椀が店頭の棚にごそっと売られている。これもオッケー。
後はスティック状の木の棒だ。理想としては掃除用具のはたき、あれくらいの細さと長さが良い。まあ、長さについてはアウロさんに貰った工具があるからなんとでもなるな。
そうして探していくと農機具とかそうしたものを商っている店に農機具などの取り換え用の柄が沢山置かれているコーナーがあり手ごろな細さの棒で安価な物を発見。長さはモップの柄ぐらいあるがまあ加工するので良いだろう。さて、これで商材のメドはついた。後は実際に作ってみて上手く機能するかだな。
イヒヒヒヒ、ワクワクが止まらん!
というわけで、各材料を購入し作ってみることにした。
まずはお椀二つの加工から、椀の底にある出っ張りって言うのか椀を置くときの接地面のやつ、アレを削っちゃう。切り出しナイフで粗削りしてヤスリがけして椀の底を球体状にする。そして曲尺で椀底のど真ん中を測りにキリで穴をあける。アウロさんに貰った工具、大活躍じゃ!
そして、スティック状の木の棒、長さを測って30センチの棒を二本作り先端に紐を結ぶ。紐の長さは足元から胸元位。これはやる人の身長で変化するので販売するときの紐は長めにセットして購入した人が簡単に調節できるようにしよう。
二つのスティックの先端側面にキリで穴をあけ紐を通して、一つはしっかり結んでしまいもう一方は紐を長めに通して軽く結び余った紐をスティック先端に巻きつけ軽く結ぶ事にした。
そして、底に穴あけた椀二つだが、これからが勝負所だ。椀の底どうしをくっつけるのだが中心にあけた穴に軸となる棒を通すのだがこれの固定に一工夫が必要だ。強度を持たせて固定するために穴のサイズよりやや大きめに軸棒を作りゆっくりとハンマーで叩き入れる。木が割れないようにゆっくりと入れていく。更に椀底両部にあて木をし軸棒が簡単に壊れないようにあて木ごと釘打ちし椀の底が密着しないように少し軸棒を露出させる。ヨーヨーみたいに。
そうして出来上がりました、ディアボロでございます。
ジャグリングでよく見るやつ、中国ゴマとも呼ばれるが厳密には中国ゴマとは形が違うのだ。
昔付き合ってた彼女がジャグリング好きで、催し物なんかがあると人前でやるくらいの腕前だったのだ。
俺も教えてもらって多少できるのだ。
俺は底で合わせた椀、この部分をディアボロと言うのだが、それに紐を通して持ち上げた。軸棒に紐が通りディアボロが持ち上がる。ここからちょっとコツがいるのだが利き手方向に紐を引いてディアボロを回転させそれを何回も繰り返してドンドン回して遠心力を発生させる。
それからディアボロを紐の力で高く投げてキャッチする。
よしよし、まだ出来るな。身体が覚えてるな。この投げ方ね。紐をたるませてからスティックを使ってピンと張りその力で投げ上げるんだよ。キャッチもコツがあるんだよな、スティック近くで取る感じ。
いけるな。キャッチしてから更に回転をかける。このドンドン回転をかけていき遠心力が強まる感触も楽しいんだよな。
回転がいい感じになってきたらば左手スティック付近にディアボロを持って来て軸に紐を一周巻きつけて軽く締め付ける。ディアボロが右手スティック側へ移動する。
よーしよしよし。また回転をかけて今度は右スティックを上にして同じアクションをする。
ディアボロは上スティック側へと昇っていく。エレベーターと呼ばれるアクションだ。まだまだイケルじゃん。その後も俺は昔の彼女に教えられて練習したディアボロの技を反復してやってみた。
紐を跨いで足の上にディアボロをジャンプさせキャッチしたり、上に投げたディアボロを腕をクロスさせてキャッチしたり、背面でキャッチしたりする。
いいな、凄くイメージ通りいく。以前よりもスパッと決まるぞ。これは昔やってうまくいかなかったやつ、やってみるか。
俺はディアボロを高く投げてから両方のスティックを片手で持ち、落ちてくるディアボロに紐が引っかかるように振り下ろす。よっし!上手く引っかかった、ウィップという技だ。すぐにスティックを両手に持ち替えて回転をつける。今度は同じことを背面でやる。違うのはさっきは振り下ろしたけど今度は振り上げる事だ。
これは今までほとんど成功しなかった技だ。これもスパッと決まった。
おおっ!自分でもビックリだわ。体がイメージ通りに動くのは単に若返ったからってだけじゃないな、どうも、わからないけどこれも異世界効果なのだろうか。
とにかく俺はこれはイケルと強く思ったのだった。
そうして購入した材料で作ったディアボロ三個を袋に入れて俺は商業ギルドに向かった。
商業ギルドが噴水広場の近くにあるのは町を散策してわかっていたので真っすぐ向かって中に入った。
室内は横並びの受付に待合の長椅子にテーブルという役所や銀行みたいなスタイルだった。
俺は空いている受付に行き声をかける。
「すいませーん」
「はい、本日はどういったご用件ですか?」
返事をしたのは若い娘さんだった。まあ、こういった場所は大抵若い娘さんだよな。
「えーとですね、露店の許可証を頂きたくて来ました」
「ではこちらに記入して頂いてからもう一度お声掛けください」
と言って受付の姉さんは一枚の紙を差し出す。
俺はそれを受け取るとテーブルに行き内容を確認した。
露店許可申請書と冒頭に書かれたその紙には申請者と使用目的の記入欄がある。
その下に場所又は区間と書かれた欄があるがそこには噴水公園西4ブロック13区画と書かれている。
ウーム、申請者は名前だけでいいのかね?住所とかいらないのかね。まあ、いいや、とにかく記入して出してみよう、俺は申請者の所にトモ・クルース、使用目的に玩具販売と記入して受付に持って行った。
「すいませーん、お願いしまーす」
「はーい」
出てきた受付嬢は一通り申請書に目を通す。
「はい。ではここを親指で押して下さい」
そう言って俺の書いた名前を指さすので俺は言われた通りにすると記入した名前の上に拇印を押したように親指の形が浮かび上がった。おおっ。
それを確認した受付嬢は申請者にバツンと景気のいい音をたてて何かをスタンプした。
そこには数字が書かれておりどうやら日付のようだった。3・15~3・24と記載されている。
「明日から10日間の使用となります。使用場所については壁に地図が掲示されておりますのでそちらを御確認下さい。それでは、千レインになります」
うわっ!結構するなあ。まあ仕方ないな。俺は千レイン銅貨で支払い許可の取れた場所を地図で確認するとまず宿を探すことにした。
許可の取れた場所、噴水公園西4ブロック近くで手ごろな宿はないかなあ、と見て回る。
俺が許可を取った区画は露店が立ち並びにぎやかだった。人通りも多くてまずまず良いロケーションと言えた。
露店が立ち並ぶエリアを抜けると飲食店の看板が見え始めた。宿かあ、飲食店は看板にナイフやらフォークやらジョッキやらのマークがあしらってあるのですぐわかるのだが、宿ねえ。なんて思いながら歩いているとありましたベッドのマーク、これは宿でしょ。スノウスワロウと書いてある。おや?おやややや?
ひとまず入ってみますか。
「ごめんくださーい」
店内に入るとすぐにカウンターがあり、そこには小柄で目のギョロっとしたおじさんがいた。
「はい、いらっしゃーい。お泊りですか?」
「ええ、そのつもりなんですけど出来れば10日程。おいくらになりますかね?」
「お一人様ですか?」
「ええ、そうです」
「そうしますと、連泊割引が効きますし、ああ、これは先に言っておかなければいけなかった、ここは食堂設備がないので素泊まりになりますよ、ですので素泊まり料金という事でご了承くださいね、それで10日の連泊ですと五千レインになります」
うわっ、安い!一日五百レインかよ。こりゃ決まりだな。
「はい、じゃあ10日でお願いします。先払いでいいですか?」
「それは勿論こちらとしてはありがたい話ですが、後払いでも大丈夫ですよ」
「いや、先払いできるならそれでお願いします」
俺はウェストバッグから巾着を出しその中から五千レインを出して渡した。
ギョロ目のおじさんはそれを受け取り数えるとカウンター下から金庫みたいな箱を取り出して中に入れた。
そして、同じくカウンターの下から一冊のノートを出して開いた。
「ではこちらにお名前を記入して下さい」
言われた箇所に名前を書いて渡すとおじさんは俺が記入した名前の横に支払い済みと書いてから俺に再びよこした。
「こちらの名前と支払い済み両方の文字にかかるように指を添えて下さい」
俺は言われたようにすると申請書の時と同じく指の跡が浮かび上がった。
「はい、ありがとうございます。それではこちらがお部屋の鍵になります」
俺はおじさんから鍵を受け取った。鍵には木製のプレートが付けられており雪だるまと燕の絵の間に大きく3と書かれてあった。
「お部屋番号は3番になります。ドアに書かれておりますのでお間違いになられないようにご注意ください」
「ああ、わかりました。因みになんですけどこの辺でおすすめの食事処ってありますか?」
「それでしたら当店の姉妹店になりますスノウスパロウをおすすめさせて頂いてますよ。そちらの鍵についたプレートをお見せになられればサービス品が付きますのでよろしければ是非ご利用ください」
ああ、やっぱりそうか。ミーサちゃんとこのお店だ。名前が似てたからもしかしてと思っていたがビンゴだったな。
「ああ、昼間二号店で食べましたよ。凄く美味しかったですよ。是非行かせてもらいますよ。それからなんですけど、こちら中庭とかありますか?商売品のちょっとした木工細工をやりたいのと材料を幾らか置かせて貰いたいのですけど」
「それでしたら中庭をお使いください。中庭に馬屋と納屋もありますのでご自由にお使いください」
「ありがとうございます」
俺はおじさんに感謝して部屋に向かった。
3と書かれたドアのカギを開け中に入る。部屋の中には椅子と机とベッドがありこぎれいな感じだった。
「十分だよこれは」
思わず言葉に出てしまった。荷物を置いてウェストバッグだけ持って中庭に行ってみる。
中庭には馬屋があり馬がいた。かわいいなあ。まあ、馬は移動手段だものなあ、駐車場みたいなもんだよな。
馬屋には農具を置くスペースがあるのでここに材料を置かせてもらうとするか。
作業するスペースも端っこでさせてもらえば邪魔にはならないだろう。よし、メドはついたぞ。
そうして俺は材料をまとめて購入しディアボロ製作に突入することにした。
今回はついでに塗料と筆を買ってきました。コマ部分に模様をつけるのだ。クルクル回るからカラフルならせん模様とか回転が映えるような柄をつけるのだよ。
製作自体は慣れてくると簡単だ。コマ部分だけを作り続け塗装が乾燥するのを待つ間にスティックを作っていく。そうして俺は日が暮れるまでに20セット作ったのだった。
ちなみに製品を持ち歩くための大きめの袋と背負子、製品を並べるための敷き布、そして折り畳みの小ぶりな椅子も材料と一緒に購入したので材料は外に置きそれ以外は部屋に持ち帰ることにした。
さて、それでは飯を食いに行きますか。俺は部屋の鍵をウェストバッグに入れ宿屋を出た。
飲食店が並ぶほうに歩き出すとスプーンの両側に小鳥と雪ダルマのマークの看板を発見。屋号を見るとスノウスパロウ1と書いてあり店の中から賑やかな声がきこえてくる。俺はトビラを開けて中へと入った。
「いらっしゃいませー!」
威勢の良い声に出迎えられる。
いいねえ、いいですよこの雰囲気。色んなエンタメ作品で見たあの感じ。西洋のパブ的なやつだ。ゴロゴロと大きなミートボールの入った山盛りパスタを奪い合いながら食べたくなるぞっ!
「いらっしゃーいって、あれー?お客さん昼間のー」
出迎えに来てくれたのは昼間の屋台で接客してくれたミーサちゃんだった。
「よっ」
俺は手を上げた。
「もーっ、またーおじさんみたいな事してーー。クルースさん本当に来てくれたんだー。うれしーー。テーブル席空いてるからどうぞー」
「おっ、ミーサちゃん名前覚えててくれたんだ。こっちこそ嬉しんぼよ!」
「もーーっ、またよくわかんないこと言ってーーー!ほらほら、こっち座って。これメニューだから決まったら声かけてね!」
元気の良い娘だなあ。こっちまで明るい気持ちになるよ。さてと、メニューを見ますか。
おおっ、エールときましたか!酒類はエールとワインとシードル、これはリンゴの発泡酒だな。ひとまずエールだな。あとは食べ物だな。適当に頼むか。腹減っちゃってもう、たまらんわ。
「すいませーーーん!」
「はーーい、ただいま、うかがいまーす」
と言ってまたまたミーサちゃんが来てくれた。
俺はエールとメニューから肉を焼いたものっぽいやつとポトフっぽそうなやつとソーセージ、ジャガイモとコーンを炒めたやつを注文した。そしてスノウスワロウのカギのプレートを見せた。
「やだあー、クルースさん、スワロウに泊まってくれたんだあー。サービス品がつくからねっ!お楽しみにね!」
ミーサちゃんは本当に元気だ。
しばらくすると注文品が届いてテーブルの上が一気に賑やかになった。
「これ、サービス品ね!おいしいんだからーー。うちの名物よっ!多めに盛っといたけど気に入ったら注文してねっ!」
そう言って付けてくれたのはキャベツの漬物みたいなもの、一口食べてみる。ほほー、ほうほう、これはザワークラウトってやつだな。これはソーセージと間違いなくあうぞ。という事でソーセージを頬張る。
うーーん、最高だわ!そしてエールをグビグビやれば・・・・。
「ぷはーーーーっ!生き返るーーーー!」
こりゃ、いいお店を見つけたものだ。なんかこの世界に来て引きが強くなったっつーか運が良くなったっての?なんだろね、前世界で溜めといた幸運がこの世界で来始めた感じ?捨てる神あれば拾う神ありっての?ちょっと違うか。なんにせよあれだわ、この世界の神様にかんぱーーーーい!なんて言ってはエールをやって、ポトフ食ってアツアツのウマウマ!エールをまたグビグビ、そしておじゃがとコーンをやる。
焼いた肉はボア肉って言ってたからイノシシだろう。ガブつくと塩コショウが効いててワイルドな旨さ!ひっさしぶりに肉を食ってるなーーって感じ!独りで生きるようになってからどこへでも独りで行ったものだが焼肉屋だけはなんとなく独りで入る気にならなかったんだよな。牛丼やカルビ丼、チャーシュー丼なんかも良いのだけどやっぱり肉って言ったらこーゆーヤツだよね。肉肉しいねーーー!
俺はエールとボア肉とザワークラウトを注文する。
持ってきてくれたのはミーサちゃんとは別の娘さんでショートカットにキツメな感じの目がちょっとクールビューティーな娘さんだった。
「はい、ご注文の品ねーー。お客さん、相席大丈夫ですか?」
おおっ、そう言えば店内が結構混み合ってきたな。相席か、それも又良しってなもんだ。
「ああ、大丈夫だよ」
「ごめんなさいねー。お客さーん!こちらどうぞーー!」
とクールビューティーちゃんに言われてこちらに来たのは40がらみのこぎれいな身なりをした中年男性と20代後半位のがっちりした冒険者風のかっこをした兄ちゃんの二人組だった。
「どーもどーも、相席させて頂きますね」
中年男性が愛想よく言った。
「いやいや、どーも、遠慮なさらずどーぞどーぞ」
俺もそこそこいい感じに酔いがまわって人と話がしたかった所だ。
「クルースと言います、こちらへは良く来られるんですか?」
俺はおじさんに聞いてみた。
「ああ、どうもデンバーと言います。彼はキックスです。ええ、商いで良く来るんですよ」
彼らのエールが届きひとまずは乾杯となる。
「クルースさんも商いですか?」
「そうなんですよ。明日から10日程露店で。今日、許可証取った所なんですよ。売れると良いのですけどねえ」
「ほうほう、何を商われるんですか?」
「木製の玩具なんですけどね」
とここまで言って、製品の名前を何にしようか考えてなかったことに気づいた。ディアボロって確か悪魔の意味もあったと思うんだよな、この世界、リアルにいる可能性があるからな。
他に呼び名あったっけなー。中国ゴマってのはなあ、前世界の国名入っちゃってるしなあ、輪鼓って和名で日本でも古くから遊ばれてきたってのは知っとるけどちょいと名前が固いなあ、うーむ、もうひとつの呼び名だなここは。
「空中ゴマと言うのですけどね」
「ほう、空中ゴマですか。コマの一種ですか、それは?」
「ええ、そうなんですけどね、熟達するとちょっとしたものでしてね、大道芸としても通用するような遊びですよ。良かったら明日実演販売しますのでお暇ならお立ち寄りください」
そう言って俺は自分が取った区画を教えた。
「ええ、是非立ち寄らせて頂きますよ」
「ところでキックスさんは冒険者さんですか?」
俺はキックスさんに尋ねてみた。
「はい、そうです。デンバーさんとは雇用関係にありまして」
そう言ってキックスさんは笑った。屈託のない、いい笑顔をする兄ちゃんだ。自信を持って生きてる人って感じがする。これは、冒険者としても腕がたつんだろうなあ。
「へえー、と言うと護衛ですか?」
「まあ、そう言ったところですよ。大口の商談には危険が伴うものもありますのでね、こう見えてキックス君はB級冒険者でね。頼りになる男なんですよ」
でたーーーーっ!冒険者のクラス!きたきたー!テンション上がるなー。
「おおっ、そうなんですか!どうりでただものじゃあない感じがしましたよー!」
「またまた、クルースさん、よしてくださいよ。デンバーさんも」
そう言ってはにかむキックスさんは快男児といった風情があり好ましい。
「いやいや、ほんとですよ、ほんと。もし良かったら冒険談なんてお聞き出来たら嬉しいなあ。勿論、デンバーさんのお仕事に触るようなもの以外で、ね」
デンバーさんの表情が少し柔らかいものになった気がする。ボディーガード付けるようなお仕事の事を聞くほどヤボちゃいますよん。
「いやあ、それでは西の火山に行った時の話なんですけどね、スカイリザードの巣に遭遇しましてね」
「おおっ!それで!どうされたんですか?」
「その時はB級C級混成パーティーでしてね、水系魔法の使い手がいなくてですね」
お酒も程よく入って雰囲気もほぐれてきたように感じる。俺も気持ちよくなってきた。合いの手にも力が入る。
「ほうほう」
「おおっ!、それからそれから!」
「きましたよっ!。さっすがキックスさんっ!」
「やったーー!」
「よいしょーーーっ!」
酒の力も借りて会話がブンブン回っていきキックスさんの武勇伝も乗りに乗ってきた。フヒヒヒ、なんかオッサン上司をおだてにおだてて盛り上げに盛り上げた飲み会を思い出してしまうな。楽しいぞ。
「というわけで、何とか無事に任務を達成することができたんですよ」
キックスさんが話し終わると我々のテーブルの周りにいた人達が一斉に歓声を上げた。
「いやーー!面白かった!」
「よかったぞ!兄ちゃん!」
「ハラハラしたわよー!」
みんな口々に感想を述べ元居た席に戻っていく。
「キックスさんって話し上手なのね!お客さん達みんな夢中になって聞いてたわよ!これ、お店からサービスね!」
そういってミーサちゃんがテーブルにソーセージの盛り合わせを置いていった。
「ありがとねーーっ!」
俺はミーサちゃんに言った。
デンバーさんが真剣な顔をして俺を見ている。実は俺がキックスさんの話に合いの手ぶちかましてあっげあげにしている時も観察するように見ていたのだが、特に不審がられるような事はなかったと思うのだがどうだろう。俺は率直に聞いてみる事にした。
「デンバーさん、先ほどから何か俺に聞きたそうにされてますが、どうかされましたか?」
「いやいや、失礼。クルースさんはお若く見えますがだいぶ人生経験を積んでおられるように感じられましたのでね。もしかするとそうした種族の方なのかと思いましてね。いや、すいません失礼な質問でしたね」
俺は一瞬焦ったが気を取り直して返事をする。
「いえいえ、そんな、失礼だなんてことはないですよ。自分は普通の人族ですよ。しかし、なぜそう感じられたのですか?」
「キックスがこんなに饒舌になっているのを初めて見ましてね。クルースさんの話の引き出し方が非常に上手だなと、そして宴席慣れしてらっしゃるな、と感じたものでしてね。そんな風に勘ぐってしまいました。クルースさんは玩具の露店をされるとの事でしたが実演販売と言われてましたね。そう言えば旅をしながら実演販売をし話の巧みさを売りにする商売法を聞いたことがあります。クルースさんがされるのもそうしたものですか?」
おおぅ、デンバーさん、かなりやり手の商売人だなこれは。デンバーさんが言ってるのは啖呵売みたいな事だろう。前世界の日本で国民的映画の主人公がやっていたあれだな。あの映画は俺も大好きで何度も観たし口上も覚えたくらいだが、明日からやるやつはどちらかと言えば見せる技主体で口上は二の次だからちょっと違うのでその辺りを俺はデンバーさんに説明した。
「ほー、そう言えば熟達すれば大道芸でも通用するものだと言われておりましたっけ。クルースさんは芸で稼ぐわけではないのですよね」
「ええ、そこまでの技術はありませんので」
テヘヘと俺は頭をかいた。
「ふうむ、それでも購買意欲を煽るぐらいの技術はあると、そういう事ですな。ふうむ、そしてこの話術ですか・・・・ふむっ!キックス、聞いていましたか?」
「はい」
そう言っていわくありげに微笑むキックスさん。えっ?なに?なんですか?
「キックスさん?どういう事ですか?」
「ふふ、デンバーさんはクルースさんの事を気に入られたようですよ」
またいい笑顔でこの人は!俺はデンバーさんを見た。こちらも笑顔だった。
「クルースさん、どういった商いをされるのか勉強させてもらいますよ」
参ったなあ。この人、皮肉とか冗談とかじゃなくて言ってらっしゃるよ。
「またまた、もー、勘弁してくださいよーー。自分なんて若輩者ですよーー。何かあったら、こちらこそ勉強させてください!」
俺は軽く頭を下げた。
デンバーさんは益々笑顔になった。
「これですよ、キックス。いつも私が言っている事ですよ。稼ぐほどこうべを垂れる商売人、ですよ。クルースさん、こちらへの滞在は10日程と言われてましたね。楽しみにしていますよ」
いやいやいやいや、プレッシャーだわーー。これは。ちょっと売り方工夫してみようかなあ。路上に品物並べて適当にトリックかましてれば人が寄って来るだろなんて思っていたけど。そうだな、もうひとつ商材として考えていたヤツ、アレを作って客寄せに使うかな。
なんて一瞬考えていると、すかさず「おや、また何か商売の作戦を考えられてますね?これは、益々楽しみです。さて、我々はこの辺でお暇させて頂きますね。」とデンバーさんが言う。
「ああ、私もこの辺で上がりますよ。すいませーん、お勘定ーー」
てな感じで我々は別れたのだが、まだ夜も浅い時間なのでさっき言ってた客寄せアイテムをチャチャっと作ったろかいな。
材料は買ってあるのよ、といっても大したものじゃない、高さ50センチ、幅と奥行30センチの木箱を作り側面に一つ直径12センチ程の穴を開ければ完成。カホンでございます。
カホンってのはペルー発祥の打楽器で叩く場所で音が変化する単純だけれども面白い楽器なのだ。
側面に一つだけあけた穴はサウンドホールと言って音の抜けを良くするものだ、サウンドホール対面の板は他より薄めの厚さにするのがコツだ。
さてさて、こいつを作るなら折り畳みの椅子を買う必要はなかったな、なぜならカホンはそこに座って演奏するからだ。つまり演奏してない時でも椅子代わりになるのだ。
まあ、折り畳みの椅子は木製で小ぶりなので値札立てかけるのに丁度良いか。かわいらしくて良いか。
よし、じゃあ、もののついでだ、この椅子にあった値札も作ろう。
俺はカホンを作って残った木の板に塗料で絵と文字を書いていく。
まずは商品名、空中ゴマと大きめに書く。その周辺に小ぶりな文字で、楽しいっ!カッコイイ!新しいっ!などと煽り文句を入れていく。ポップ書きみたいで楽しくなってくるな。しかし、あんまり調子に乗ってごちゃごちゃ書いてしまうと見にくくなってしまい本末転倒なので注意しなきゃだな。酒が入ってるから余計に気を付ける。店長オススメ!とか書きたくなるけど抑える。そして空中ゴマの絵を描いて、と。後は値段だよな。
これが悩みどころなんだよな。言っても娯楽品だしな、上流階級の金持ち相手ならいざ知らず露店売りだからね。お手頃価格で行きたいが、材料費に幾ら乗せるかなんだよな。
露店の使用許可が10日で千レインで宿代が10日で五千レインだろ、材料費は結構安いんだよな、空中ゴマ20個作るのにザックリで千レイン程だから単純計算で一日にかかる経費が材料費込みで千六百レイン。てことは、空中ゴマ一個80レインで売ると損得なしということになる。まあ、食事代と俺の工賃は経費に載せないとしてだ。
さてさて、これにどれだけ乗せるかが勝負だな。面白くなって来やがった、と。
どうせ簡単に作れるものだ、マジで人気が出ちゃったら大手がすぐに参入するだろう。小売りなんてそれまでの勝負なんだから強気で行ったろか。
よーし、俺も男だ、ここは思い切って120乗っけて200レイン丁度で勝負だ!
ちょっと乗っけすぎかとも思うが男は度胸だ、案外、もっと乗っけても行けたんじゃね、なんて後から思ったりしてね。
しかし、そうなると一日20個全て売れた場合、そしてそれが10日続いた場合だよ。幾らの利益になるんだ、一日で二千四百だから二万四千か。二万四千っ!アウロさんは腕の良い職人に月給として四万レイン出してるって言ってたよな。10日でその半分以上の稼ぎか!ちょっとヤバいな。カタギの稼ぎ方じゃないな。
でも、まあ、捕らぬ狸の皮算用だしな。最悪計算通りになったとしても、最悪の使い方おかしいけど、まあ、短期決戦だしな。
いったれーーー!という事で大きく200レインと書いてやった。
ふーーっ、ドキドキしちゃったよ。
ドキドキして疲れちゃったから寝ーようっと。俺は部屋に戻って眠りについたのだった。