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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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片が付くって素敵やん

 「ナイルダー先生!アッシュバーンさん!大丈夫ですか!!。」


 学校の前に来ると辺り一面、倒された魔物の山だった。

 俺とジョゼンは辺りにまだいる魔物を倒しながら声をかける。


「クルースさーん!!すいません!!抑えきれずに村に侵入したものが幾らかいます!そっちをお願いできますかーー!!。」


 屋根の上からアッシュバーンさんの声がする。

 数は少なくなったとはいえ、まだ森から出現する奴や、この辺りで徘徊する魔物もいるので、屋根からの遠隔魔法攻撃はまだ続けられていた。


「了解でやす!こっちは任せましたぜ、お嬢っ!!。」


「お嬢って!もうっ!そっちこそ頼みますよー!。」


 屋根の上でアッシュバーンさんが叫ぶ。

 さすがの仕事できる系女子アッシュバーンさんも、ジョゼンのちょけキャラには調子を崩されるようだ。


「行くぞっ!。」


「旦那ぁー。そいつを担いだまま行くんですかい?。」


「ここに放っぽってくわけにもいくまいよ。」


「いいんじゃないですか?ちょっとくらいゴブリンに頭でも齧られた方が。」


「まあ、そう言ってやるなよ。」


「まったく旦那はお優しいこって。」


「さあて、果たしてそうかな。」


 実際の話、こいつにとってはここでゴブリンに食べられちまったほうのが楽なのかもしれないしな。

 こいつのクライアントはこのままこいつが捕らえられる事を面白くは思うまい。

 強引なやり方じゃあなくとも、国同士の話し合いやら何やらで当事国は事情聴取もそこそこに身柄引き渡し、その後は謎の死か行方不明ってな前世界でも聞いた話だ。

 先に拘束したワーウルフ達の口封じに遣わされたって事は、ワーウルフ達よりも情報を多く抱えているって事だろうしな。

 俺のやってる事はこいつにとって優しい事とはとても言えまい。

 まあ、そんな事はどうでもいいんだ、こんな業界で生きてんだそれなりの覚悟もあるだろう、第一、本来しなくても良いやり方で多くの人の命を奪おうとしてんだからな、こいつは。

 村の中心部に入ると弾き飛ばされて宙を舞う魔物達の姿が目に入った。


「やっぱり只者じゃあなかったですな、あの執事さんは。」


「ああ、そのようだな。」


 カサイムさんは両手に切り出したばかりの丸太、伐採して枝を払っただけの木を鷲掴みにして軽々と振り回し、群がる魔物たちを片っ端から吹き飛ばしている。


「助太刀に参上!!。」


 ジョゼンはそう叫び、魔物の群れにエアカッターをバンバン放つ。


「お前、それはカッコ良すぎるだろーが!。」


 俺もジョゼンに続きアイアンバレットを撃ちまくる。

 どうやらカサイムさんは後ろに見える倉庫を守っているようだ。

 ジョゼンもそれに気づいたようで倉庫を守るように動いている。


「すいませんおふたりとも!。村人たちは中です。」


「お嬢は?。」


「中で子供たちを見ています。」


 ジョゼンの質問にカサイムさんが答える。


「なら安心ですな。」


 ジョゼンが俺を見て言う。


「ああ、そうだな。」


 俺は答えながら周囲にいるゴブリンを撃つ。

 カサイムさんはジョゼンの言葉を聞いてどこか嬉しそうだった。

 まあ、丸太を二丁ぶん回しながらではあるのだが。

 今までカサイムさんひとりで倉庫を守りながら戦っていたので、分散した残党の退治にまでは手が回らなかったという事で、俺とジョゼンは二手に分かれて村内に徘徊する魔物の退治に向かった。

 ちなみに担いできた羊野郎はカサイムさんに事情を説明し倉庫のトビラ前に寝かしておいた。 

 今度は大群を相手にするわけではないので、素材採りの際の状態を考慮して空気弾で俺は倒していく事にした。

 それにしても、酷い有様だ。

 まるで盗賊団か何かに荒らされたかのような惨状だ。

 家々のトビラは打ち破られ、家屋の中も荒らされている。

 中には煮炊きの最中に急いで避難したのか、火事を起こしている家もありそうしたところは水魔法で消火することになった。

 食われた家畜、荒らされた畑、唯一の救いは村の主要産業である材木には被害がなかったことか。

 被害は大きいが、雑魚ばかりとは言えこれだけ大量の魔物の素材があればなんとかなるだろうよ。

 後は人的被害が出ていないかだけが気がかりだ。


「おーい!旦那!。」


「おっ!ジョゼンか。どうだった?。」


「へい、酷いもんでやすが逃げ遅れた人はおりやせんでしたよ。」


「こっちもだ。村内の魔物はほぼ一掃出来たと思うぞ。」


「へい。カサイムさんの所に戻りやしょう。」


 そんなに広い村じゃない、俺とジョゼンとで残党狩りをしながら二手に分かれたが、落ち合うのも早いもんだ。

 合流した俺たちは住民の避難した倉庫へと急ぎ戻った。


「おぉ!早かったですな!村内はどうでしたか?。」


 倉庫の前に戻ると魔物の屍の中、丸太二丁を持って仁王立ちするカサイムさんに声をかけられた。


「ええ、魔物退治は完了しましたが、火事を出してる場所もあったりしてで家屋や畑、家畜への被害は出ていますね。勿論、火事は消してあります。」


「それなんでやすがね、ちょいと旦那たちに相談したい事がありやして。正確には、ナイルダー先生とアッシュバーンさんも含めてなんですがね。」


「ほぅ、なんでしょう?。」


 ジョゼンの話に興味を持ったのかカサイムさんが楽しそうな顔をして聞き返した。


「みなさーーん!!大丈夫ですかーー!!。」


「けが人などは出てませんかーー!!。」


 どうやらアッシュバーンさんたちも掃討が済んだようで、こちらに駆けつけてくれたのだった。


「ちょうどよかった、あっしが提案したかったのはこいつらの事なんですけどね。」


 ジョゼンは地面に転がる魔物の死骸を見て言う。


「こいつらの素材買い取り金を村の復興資金にしたらいかがですかねえ?村は惨憺たる状況ですが、これだけの数の魔物素材売却金があれば、なんとかなるんじゃないでしょうかねえ。」


「いいんですか?ジョゼンさん?命がけで討伐した獲物ですのに?。」


 ナイルダー先生が言う。

 ナイルダー先生は村の住民だからな。


「いやいや、先生。クルースの旦那と一緒でしたからなー。ちょっとした狩り感覚でしたよ。」


 またジョゼンは、魔物溢れる魔道具抱えてヒーコラ言ってたのにカッコつけやがって。


「命がけで働いたジョゼンが良いなら俺に異論はないな。」


「旦那ぁー。」


 ジョゼンが嬉しそうに俺を見る。


「私は仕事でやった事ですから。それに、対応がもっと早ければ皆さんに危険が及ぶこともなかったはずですし、逆にお願いしたいぐらいです。」


「お嬢ぉ~。」


 はにかんで言うアッシュバーンさんにすまなさそうな声を出すジョゼン。


「村の方々には良くして頂いてます。それに、私たちも、この村の住人ですしね。是非、それでお願いします。」


「カサイムの旦那、ありがとうございやす。」


「いやいや、ジョゼンさんが頭を下げる事ではございません。さあ、避難している皆さんを安心させてあげましょう。」


 カサイムさんに言われて我々は、倉庫の扉を開け避難している村人に脅威は去った事を告げる。

 どよめきがあり、村人たちは立ち上がり倉庫の外へと出てきた。


「なんてことだ。」


 倉庫から出て村の様子を見た村人たちは村の惨状に唖然となっていた。

 身の安全が確保されたこともあったからだろう、自分たちの家や家畜、畑などの財産が失われたことのダメージに押しつぶされそうになり嘆き悲しむ村人たちにジョゼンとナイルダー先生は先ほど我々が決めた事を伝えて安心させようとしていた。

 そして、俺とカサイムさん、そしてアッシュバーンさんとで倉庫の奥を見ると、そこにはひな鳥を守る親鳥のように子供たちを守り、怖がらせないように物語を話聞かせるドレイパーさんの姿があった。


「それで?それから、どうなったの?。」


「そうして違法鉱山労働をさせられていた鬼たちを解放した勇者一行は、国民の英雄である我々は国民から遠く離れてはいけないのだ!と強く言い祖国へと向かったのでした。あら?カサイム。外はどうですか?。」


「はいお嬢様、 すべて済みました。」


「そうでしたか。それは良かった。さあ、みんな。もう安全ですよー。お外に行きましょう。」


「わーーーい!!お姉ちゃんも一緒に行こうよー!。」


「お話の続きを聞かせてー!。」


「お姉ちゃんが元気になって良かったねー!。」


「お姉ちゃんとローラ先生ってお友達なのぉー?。」


「お姉ちゃんの病気って先生が治したの?。」


「どうしたらお姉ちゃんみたいに美人になれるの?。」


「犬と猫どっちが好き?。」


 ドレイパーさんは子供たちに手を引かれ質問攻めにあいながらこちらへやって来た。

 子供たちは子供らしいとりとめのない質問をしている。

 もう、ドレイパーさんは言葉の能力をむやみに発生させてしまうことはないだろう。

 いい笑顔で子供たちに受け答えするドレイパーさんの姿を、カサイムさんは眩しい物でも見るかのように目を細めて見つめ、何度も何度も頷くのだった。


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