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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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旧知の仲って素敵やん

「いいぞー!キット!いい子だ!」


 俺はマズヌルの街を出ての馬移動を満喫していた。


「どうだ!トモちゃん!楽しかろう!競争しようではないか!。」


「いやいや、キットがかわいそうだよ競争なんて。・・スタートッ!。」


「あっ!ずるいぞ!。」


「ヒャッハーーー!いいぞキット!速いぞ!。」


「待てーー!トモちゃん!。」


「にゃははははーー!欲しけりゃ自分で分捕りなぁーー!。」


「すぐに追いつくぞ!行け!ナーハン!負けるな!。」


「イーヒッヒッヒ!ピーキー過ぎてお前にゃ無理だよっ!!。」


「くふふふふ!見よ!ナーハンの力を!。」


 凄い勢いで後ろから追ってくるシエンちゃん。


「わーーーっ!頑張れ頑張れ!キット頑張れ!。」


「見ろ!見たか!きゃはははは!さらばだ!。」


 一気に抜き去っていくシエンちゃん。


「おいキット!どうしたーー!。」


 あきらかに失速するキット。


「ありゃ、どうしたのだナーハン!」


 仲良く横並びになり歩くキットとナーハン。

 首を振るキットの目は、御主人、不毛なことをさせるでないよと言っているように見えた。


「ごめんなーキット。お前も俺と同じで争いごと嫌いなんだよな。いい子だなー」


 首筋を撫でてやる。


「フフンッ」


 やっとわかったか、とでも言うように機嫌よさげな鼻息のキット。


「ナーハンもごめんな」


 俺は横に並んだナーハンの首も撫でてやる。


「ブフーブフー」


 こちらはまだやれたとでも言ってるかのような鼻息。


「ナーハンはまだやれたと言っている!兄に義理立てしたのだろう」


「わかるの?」


「なんとなくな」


「おー!キットは?キットはなんて言ってる?」


「いや、言葉を話しているわけではないからな。あくまでそう感じられる程度の事だ。馬は賢い生き物故にトモちゃんも何か感じるものはあるのではないか?」


「確かにそうだ。キット、機嫌良さそうだもん」


「な?賢いな」


 シエンちゃんはそう言ってナーハンの首を撫でる。


「フッフ」


 気持ちよさそうに首を振るナーハン。


「ナーハンも機嫌よくなったみたいね」


「しかし、さっきのはズルかろうトモちゃん」


「ズルとは失礼な作戦と言ってくれ作戦と」


「いーや!ズルだ!あれはズルだ!」


「悪かったって。勘弁してちょ!」


「どーしてくれるかな」


「わかったわかった、じゃあ、なんか贈り物をしよう」


「ほーー!それは名案!何をくれるのだ!こう見えても我はありとあらゆる宝を送られておるぞ。その我を満足させることがトモちゃんにできるだろうか?楽しみだな!くふふふふ!あーー楽しみだっ!」


「参ったなあ。でも、まあ、そうだな、じゃあマキタヤに寄ろう。そこに知り合いの店があるからさ」


「おーっ!いいぞ!行こうマキタヤへ!」


 シエンちゃんは手慣れた感じで軽く手綱を振るとナーハンは飛ぶように駆けていく。


「はやーー!」


 俺も習って軽く手綱を振ると軽やかにキットも駆けていく。

 足でしっかりキットの胴を挟みニーグリップする。前傾姿勢になり走るキットの上下運動に身体をあわせる。

 リズミカルで楽しい。


「おっ!トモちゃん、急に上手になったな!」


「コツを掴んだっぽい!やべー!気持ちいいーー!」


「そうであろう!我も馬での移動は大好きなのだ!」


 ダカダッダカダッダカダッ!一定のリズムで疾走してるとなんだかトランス状態になってくるな。

 そうして俺たちはバンコウテを通り過ぎ、山間の道を抜け陽が落ちる前にマキタヤへと到着したのだった。


「いやー、ちょっと急ぎすぎたか。キットもナーハンもご苦労さん。今日はマキタヤに泊まるか」


「なんだ、今日中にノダハに行かぬのか?」


「ああ、馬を休ませてやろう。マズヌルからほぼ休みなしだったからな」


「そうか、まあ良い。トモちゃん、寄りたいところがあると言っていたな」


「ああ、行こう行こう」


 アウロさんの店に行く俺たち。店の前に馬を繋ぎ中に入る。


「いらっしゃいませ」


 2度目だがやはりその高級店っぷりに気後れしてしまう。シエンちゃんは堂々としたものだが。


「あ、クルース様ですね?先代をお呼びしますか?」


 覚えてくれてたのか、さすが高級店じゃ。


「お願いします」


 幾らも待たずに奥からアウロさんが出てくる。


「いやあ、クルースさん!どうでしたか冒険者としての初仕事は?まあ、ここではなんですな、お連れの方も一緒に中へどうぞ」


 前回同様に奥の仕事部屋へと通される俺とシエンちゃん。


「今、お茶をお持ちしますからな。そちらにお座りください」


 そう言ってアウロさんはお茶を用意して戻ってくる。


「おふたりともどうぞ。しかし、クルースさん。そちらの淑女はどなたですか」


「ええ、彼女はですね…」


「我は龍族の王にして空を統べる赤龍の長エンの娘シエン也、お前はアウロだな。トモちゃんの親友と聞いとる。という事は我とも友人だな」


「コラコラ、シエンちゃん」


「今、こちらの淑女、シエンさんでしたか、シエンさんの言われたことは?」


「まあ、本人が言ったことですから事情を説明しても構わないでしょう。いいよね?シエンちゃん?」


「良いも何も、もう言っておる」


「まあまあ、話すと長くなるんですけどね」


 そう前置きしてから俺はアウロさんと別れた後の王都までの決死行、そして敵の指導者格の捕縛により無事依頼を完遂できたこと、その後船で王都からマズヌルまでの移動中に嵐に会い遭難した事、たどり着いた島で龍王の娘である彼女に出会い、意気投合し行動を共にすることになりノダハに戻るところだという事、全て話した。


「いやあ、ご苦労様でした。大変でしたなあ。しかし、シエンさんはクルースさんの経緯を全てご存知だとの事ですが、なんと申されましたか?龍である彼女は?」


「ただ、面白い話しだ、と」


「ふーむ、シエンさん。失礼ですが質問させていただいてもよろしいでしょうか」


「トモちゃんの親友だろう。遠慮するな」


「では遠慮なく。クルースさんのような例は他にもあるのでしょうか?」


「いや、聞いたことはないし見たこともないな」


「過去にあったのでしょうか?」


「あったのかも知れぬが確かめようもあるまい。我はお前ら人間で言えば百世代以上生きておる。父上はもっと生きておるが父上からもそんな話は聞いたことがない。まあ、父上も多くは語らぬ方故、今度会ったら聞いておいてやろう」


「そうでしたか。ありがとうございます。知恵と賢さの源と言われる龍族の方がこう言われるという事は、クルースさん、国王様や教皇様でも知らぬ可能性が高いですな」


「そうですね。でも、地道に生きることには変わりませんし、心配して頂いてありがとうございます。しかし、アウロさん、よく彼女が龍族だとすぐに信じましたね」


「昔、まだ若かった頃、見聞を広めるためにあちこちに行った話しはしましたな」


「ええ、聞きました」


「実はその時にやはり龍族の方にお会した事がありましてな。そのお方は名をエンポリオさんと申しましてな」


「なんだ、弟の知り合いか」


「弟さんでしたか。弟さんには命を助けられましてな」


「ほうほう」


 アウロ氏の話しはこうだった。

 若きアウロ氏は見聞を広めるために旅をしていた、レインザー王国の北、ガンニール伯領ザユウの街、雪深い山奥の街に向かう途中、吹雪に見舞われたアウロ氏は道に迷ってしまった。このままやみくもに歩いても事態は悪化するばかりと考えたアウロ氏は大きなかまくらを作り嵐をやり過ごす事にした。

 そうしてかまくら内で火を焚き食事をこしらえていると、ひとりの青年が来た。その青年は光の加減で赤く見える髪に大きく好奇心旺盛そうな目をした美青年で、まあ要するにシエンちゃんの男版だったわけだ。

 彼が言うには吹雪が強くなり進むのが億劫になった故、良ければここにしばらく居させてはもらえまいかとの事だった。

 若く怖いものなしだったアウロ氏も慣れぬ猛吹雪に多少心細くなっていたので快く了承し、こしらえていた料理も分け与えたそうだ。エンポリオ氏はそれをたいそう有り難がたがったそうだ。若きアウロ氏が恐縮するほどに。袖振り合うも他生の縁とばかりにアウロ氏はエンポリオ氏と意気投合したそうだ。

 まるで俺とシエンちゃんのように。

 そうして夜が更け吹雪が多少収まってきた頃、周囲に嫌な気配を感じたアウロ氏はそっとかまくらから外を覗いたところ、嫌な予感は的中し周囲を巨大な狼、ダイアウルフに囲まれていた。ダイアウルフと言っても前世界の新生代にいたとされるそれとは比べものにならない位デカいものだったそうで、その大きさはグリフォンの半分ほど、軽自動車ぐらいのサイズだな、それほどの狼が大量に周囲を囲んでいたのだからアウロ氏は肝を冷やした。死を覚悟するほどに。アウロ氏は当時も持って歩いていた戦斧を握りしめてエンポリオ氏に外へ出ないように、自分が戻らなかったら雪をかぶり息をひそめてダイアウルフが行き過ごすのを待つように言ったそうだ。

 すると、エンポリオ氏はキョトンとして何故ですか?とアウロ氏に問うたそうだ。

 アウロ氏はダイアウルフの群れに囲まれている旨を説明した。

 するとエンポリオ氏は笑い出し、なんだ、そんな事ですかそれでは一宿一飯の恩、丁度良いので返します、と言い外に出た。

 危ないから待ちなさいと戦斧片手にエンポリオ氏を追うと外に出たエンポリオ氏は龍に変わり、その姿を見たダイアウルフの群れは逃げて行った。エンポリオ氏はアウロ氏に、会えて良かった、吹雪も収まったので行きます、息災で。と述べ去っていったとの事。

 そうした話しをアウロ氏はしてくれたのだった。


「なんだ、ポリ助の知り合いであったか。そんな話をポリ助から聞いた気がするな。人もまた興味深い生き物だと、出会えて良かったと思えるものだと、なんだかそんな事を言っておったな。その時はなにを人ごときにと思ったものだが、トモちゃんと会った今は弟の言っておった気持ちもわかる」


「そうでしたか、エンポリオさんはそのように言って下さっていたか」


 そう言うアウロ氏の瞳は心なしか潤んでいるように見えた。


「エンポリオさんに会う事があったなら、アウロが感謝を述べていたと、機会があればもう一度お会いしたいと、そうお伝えください」


「おうおう、任せておけい。ポリ助は我に良く懐いておる故に、容易い願いだ」


「ありがとうございます」


 アウロ氏はそう言って深々と頭を下げた。


「よせよせ!堅苦しい!トモちゃんの友は我の友だ!」


 ふひゃっ、俺とお前と何五郎だ!照れくさいよ。でも、なんのてらいもなく、真正面からそんなことを言うシエンちゃんは本当に好ましいよ。


「なんだトモちゃん!その目は!よせ!恥ずかしいぞ!」


「なによ、照れてるの?」


「わからん!なぜだか、今のトモちゃんの目は、・・・・わからんっ!」


 赤くなるシエンちゃん。なんだか、あれだな、あんまり思わせぶりなのもいけないな。俺は、異性と深く付き合う気にはなれないのだから。


「さてと、アウロさん、再会できて楽しかったです」


「これから、どうされるのですか?」


「マキタヤで一泊してからノダハに戻ろうと思います」


「宿はお決めですか?」


「これから決めようと思います」


「では、ご迷惑でなければ私の家に泊まっては頂けないだろうか。妻も喜ぶと思います」


「いいんですか?」


「ええ、他ならぬクルースさんと、エンポリオさんの姉上ですから」


「それでは、お言葉に甘えさせて頂きます。」


「ええ、歓迎いたします」


 と言うことで、今晩はアウロさん宅でお泊りさせて頂く運びになったのだった。

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