プロって素敵やん
「リュカントブリゲードですね。確かこいつは団長のラゴルと言いましたかね。」
屋敷に着きカサイムさんに事情を話すと、我らのトラブルに巻き込んでしまい痛み入る、是非、協力させて下さい、と快く招き入れてくれた。
そして、捕まえた狼人間を見てカサイムさんはそう言った。
「リュカントブリゲードとは?。」
アッシュバーンさんがカサイムさんに尋ねた。
「リュカントロポスで編成された傭兵部隊です。争い事を飯のためにする奴らですよ。」
「リュカントロポスってやつらも言ってましたけど、何なんですか?。」
俺は尋ねる。
「ああ、それはワーウルフ族のことです。身体能力に優れ魔法も使いこなす厄介な連中ですが、よくぞ無傷で捕らえられました。」
「ええ、この二人はレインザーではちょっとした有名人でしてね。二人ともその分野では腕利きとして知られてますから。ね?。」
笑顔で言うアッシュバーンさん。
ちょっと怖いよその笑顔。
「いやいやまあまあ。そう言えばこいつ、レインザーとナウガウイの関係悪化とロシレーヌさんの父上とそれを擁護する第一王子派閥の失脚が目的だと語ってましたよ。雇い主についても、第三王子に肩入れしてる近隣国か、と尋ねたら察しが良いなと言ってましたよ。」
「ふうむ。そんな事をペラペラしゃべるとは、よほど人族を侮っていたのでしょうな。種族的な長所を過信する傾向がありますからね彼らは。まあ、それは良いとして。奴の語った内容については、さもありなんといった所ですね。特に最近、近衛兵団絡みでちょっとした事件がありましたからね。私も警戒はしていたのですが。」
「よろしければ、ラゴルの事情聴取にお付き合い願えませんでしょうか?。」
アッシュバーンさんがカサイムさんに言う。
「それは、こちらからもお願いしたい事です。」
「ありがとうございます。では、ここで始めても?。」
「ええ、結構です。」
という事で、狼人間3人を連れた状態で最初に通されたこの応接室にて、事情聴取を執り行うこととなりました。
「では、ラゴルを覚醒させますね。」
アッシュバーンさんはそう言ってラゴルの額に手をかざす。
「うっ。」
「気が付きましたね。」
「誰だ、テメー。クソッ。若造ぅ~、テメェ。」
ラゴルは俺をねめつけるように見る。
「あなたの相手は私です。私はレインザー王国安全対策委員会のアッシュバーンです。あなたはリュカントブリゲードの団長ラゴルですね?。」
「後ろのジジイ。見覚えがあるぞ。あぁ、思い出した。ナウガウイの猟犬カサイムだろ?引退したと聞いたが、まさか無能嬢ちゃんのお守りかい?ケヘヘヘヘヘ。」
カサイムさんは目をキュッと細めてラゴルを見返した。
「随分と良く喋りますけど、そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ。我が王国は尋問中の拷問は禁止されておりますからね。」
「別に拷問なんざ怖がっちゃいねーよ、お嬢ちゃん。」
「そうですか?では刺客ですか。さすがの傭兵団団長でもプロの暗殺者は怖いですよね。当然です。しかし、協力してくれるならば、身の安全は必ず保障します。」
「・・・・・。」
痛い所を突かれたのかラゴルは押し黙った。
「あなた達のような方の事をウォードッグスだなんて言って蔑む人もいますけど、私はそうは思いませんよ。ねえ。他の呼び名で確か、ワイルドギースなんてのもありましたっけね。」
「そんな古い呼び名、良く知ってるな。」
ラゴルが答える。
「はい。ワイルドギース、つまり野生の雁は渡りを行う際に様々な艱難辛苦を潜り抜け、その間に命を落とす仲間がいても決して隊列を崩さず必ず目的地に辿り着くものです。傭兵という稼業もそうしたものだと聞いています。」
「・・・、で?何が言いたいんだ?。」
「国のためでも主義のためでもなく戦うあなた方は、頼れるのは己と仲間だけ。実際、捕虜になれば扱いは一般兵より酷いものです。後ろ盾として正式に国がいるわけではないですからね。」
「・・・・。」
「しかしですね、ラゴルさん。これは戦争ではありません。あなた方は捕虜ではない。今ならば、単なる軽犯罪ですみます。我々としても、穏便に済ませられるならそれに越した事はないのです。どうですか?知っている事を教えては頂けませんか?。」
ラゴルは難しい顔をして考え込んでいるようだ。
「失礼します。」
応接室のトビラが開いて男が顔を出した。
「どうしました?緊急の用事ですか?。」
カサイムさんが男に尋ねる。
「はい。村の方が助けを求めているようです。クルースさんにあわせて欲しいと言われてますので、こちらまでお通しさせていただきました。」
「わかった。入って貰え。」
カサイムさんにそう言われて入って来たのは村で見かけた事のある男の人だった。
「すいませんっ!ナイルダー先生に呼んできてくれと頼まれましてっ!。」
男は息せき切って話し出す。
「落ち着いて下さい。なにがあったのですか?。」
俺は男に話しかけた。
「そ、それが、突然、森から魔物が現れまして!学校でナイルダー先生が食い止めて下すってるんですが、次から次へと来やがりましてっ!!クルースさんとジョゼンさんに力を貸してほしいって事でして、お願いします!!。」
「わかった。すぐに行きましょう。」
「私も行きます。」
俺に続いてアッシュバーンさんが言う。
「待て。」
ラゴルが口を開いた。
「なんですか?。」
アッシュバーンさんが聞く。
「そいつは恐らく依頼主が持たせた魔道具が原因だろう。船の中にあるはずだ。」
「ありがとうございます。」
アッシュバーンさんはラゴルの目を見て言う。
「おそらく、魔道具を使用した奴がいるはずだ。」
「わかりました。」
アッシュバーンさんにそう言われたラゴルは一瞬笑ったように見えたが、すぐに力なく頭を垂れた。
「私も行きましょう。なにかお力になれるかもしれません。」
「ありがとうございますカサイムさん。」
俺はカサイムさんに感謝する。
「私も行きます!ローラちゃんのピンチに黙ってなんていられません!それに村の人達のことも心配です!!。」
どうやらドレイパーさんも話を聞いていたようだ、乗馬する時のようなパンツスタイルで意気込んでいる。
「お嬢様、危険です!。」
「止めても無駄ですよカサイム。一人でも行きますから。」
「仕方ない。お嬢様、決して私から離れないと約束して下さい。」
ドレイパーさんはああ見えて一度言い出したら後には引かない質なんだろうな、カサイムさんはヤレヤレと言った様子で念を押しドレイパーさんは嬉しそうに頷いた。
「そうと決まれば急ぎやしょう!!。」
「屋敷の事は頼むぞ。」
カサイムさんは村の人をここまで案内した使用人さんに言う。
「お任せください。」
俺たちは急ぎ学校へと向かうのだった。




