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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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和気あいあいって素敵やん

 「ジョゼーーーンっ!!無事かーーっ!!。」


 俺はジョゼンを追っている狼人間の気を引く意味も含めて大きな声を出した。

 俺の声が聞こえれば、奴らはオッサンが負けた事を知るだろう。

 それで動揺を誘えれば。


「ジョゼーーーン!。」


 争うような気配。

 ゲイルで加速し木々を抜ける。


「近寄るな!こいつの首をへし折るぞ。」


「すいません旦那。ヘマしやした。」


 後ろから羽交い絞めされたジョゼンの足元には吹き矢の筒が落ちている。

 そして少し離れた所には狼人間がひとりうつ伏せで倒れている。


「お前、ひとりは倒したんだな。たいしたもんだ。」


「いや旦那、魔族ってな、たいしたもんですな。まさか、五発も食らわさないと寝かせられないなんて、グッ。」


「黙ってろ!!おい!お前!武器を捨てろ!。」


 ジョゼンの首を押さえる手に力を込めた狼人間は俺にそう言う。


「武器なんて持ってないよ。」


「嘘をつくな!人間ごときが素手でラゴルを倒せるはずがねー!早くしろ!。」


「いや、マジで何もないけど、そんなに疑うなら身に着けている者を捨てようか?。」


「何でもいいから早くしろ!!。」


「しょうがねーなー。」


 俺はいつも肩からたすき掛けにしてるウェストバッグを外して地面に置いた。」


「これでいいか?。」


 俺は狼人間に聞いた。


「いや、ダメだ!もっとだ!。」


 どうも、こいつは気が弱いのか怯えているのか、これ以上なにをさせたいのか?。

 興奮されてジョゼンになにかあっても困る。


「わかったから落ち着け。どうすりゃいいんだ?。」


「服を脱げ!。」


 参ったなあ。

 まあしょうがない。

 俺は上に羽織っていた服と下着のシャツも脱いで上半身裸になり手を上げた。


「どうだ、丸腰だとわかったろ?ほら、ジョゼンを離せ。」


「ダメだ!全部脱げ!。」


「全部って下もかよ。」


「そうだ!全部と言ったら全部だ!!。」


「参ったなあ。」


 俺はそう言いながらブーツを脱ぎズボンに手をかけた。

 まさか、こんなところで真っ裸になる羽目になるとは。

 周囲に女性がいないのが唯一の救いか。


「いい加減にしなさい!。」


 女性の声と同時に狼人間の頭に電撃の光が見えると、狼人間はそのまま膝から崩れ落ちていった。


「いやー助かりやしたー。危うく旦那のあられもない姿を目にしちまう所でやんした。」


「お前、それ見たら俺に惚れるぞ。」


「勘弁して下さいよー旦那。」


「もうっ!クルースさん!冗談言ってる暇があったら服を着て下さい!!もうっ!。」


 そう言って目を逸らしながら林から出てきたのは誰あろう、王国安全対策委員会のサンドラ・アッシュバーンさんだった。


「お久しぶりですアッシュバーンさん。助かりましたよ。」


 俺は靴を履き、シャツを着ながら言う。


「また、クルースさん。私が来なくても何とかされてたでしょうに。」


「いや、そんな事はないですよ。」


「そうそう、危うく全裸にされるとこでやしたからねぇ。ところで旦那、こちらの美女はどちらさんで?。」


「こちらは国家安全対策委員会のサンドラ・アッシュバーンさん。以前、仕事でお世話になったのさ。」


「お世話になったのはこちらですよ。アッシュバーンです、よろしく。」


「ジョゼンと言いやす、以後お見知りおき。」


「アッシュバーンさん、ジョゼンは今回色々と俺に力を貸してくれた隠密活動のエキスパートなんだ。」


「あら、そうなんですか?私はてっきり巷で噂の黒フード義賊、ブラックフードさんかと思ってましたけど?。」


「ジョゼンお前、そんな異名があったのか?。」


「いやいや、テヘヘヘ。」


「テヘへじゃないよテヘへじゃ。いやあ、アッシュバーンさん、国安対のアッシュバーンさんにこんな事言うのはあれなんですが、見逃してもらえませんかねえ?。」


「うふふ、クルースさん。ちょっと意地悪言って見たかっただけですよ。まずは、彼らの始末をつけましょう。」


「ああ、そうですね。」


 てなわけで危うい所を国安対のアッシュバーンさんに助けて貰った俺たちは、狼人間3人を拘束し改めて事情聴取することと相成った。

 アッシュバーンさんは、ナウガウイ王国宰相の娘がレインザー王国に亡命している事は、当然両国合意の上でありレインザーとしては外交問題に発展しないように気を配っていたのだと言う。


「ここに居を構える際もドレイパーさん側から報告されてますし、私も一度お会いして話を聞かせて頂きました。心根のお優しい方で、友好的に迎え入れてくれたレインザーの皆様には感謝していると申されていました。それは心からの言葉だと、私は感じました。そんな訳で彼女自身については国も問題なしという事で静観するにとどめてはいたのですが最近になってナウガウイ王国第三王子の動きが怪しくなり初めましてね。」


 第三王子の衛兵隊掌握最大の障壁、それは王国近衛兵団だった。

 王直近の兵団であり王を守るために存在する軍隊である近衛兵は勿論、王や王国に強い忠誠心を持っていなければいけない。

 良からぬ思惑を持っているだろう外国の勢力にバックアップをされているような第三王子の元には降らない、と近衛兵団長は常々そう言って隊員たちを鼓舞していたそうだ。

 所が最近になって近衛兵団長の体調が思わしくない状態になり、療養のため一時団長を退くこととなった。

 そのため副団長か団長代行となり、副団長補佐が副団長代行になったのだがこの副団長代行の実家の仕事が良くなかった。

 大きな商店をやっていたのだが、第三王子の後ろ盾となっている国がナウガウイ王国の政情不安を理由に輸出制限をかけてきたのだ。

 実家の商店は大きなダメージを負い損失補填のために内部留保金のほとんどを使ってしまう事となった。

 ナウガウイ王国はそれに対し声明文を出して強く批判したため、近隣国のからの信用問題もあり後ろ盾国は一部の輸出制限を解いたが未だ制限をかけられた物品はあり、それはモロに副団長代行の実家の扱う物品だったのだ。

 ナウガウイ王国は近隣友好国に根回しをし、このまま制限を続けるのならば友好国も含めて輸出入の管理をするとさらに強い声明文を出した。

 結局、後ろ盾国は全物品の制限を解く事になったのだが、その間に副団長代行の実家に接触した形跡があり、副団長代行が第三王子との融和路線に動き出したのだった。

 副団長代行は元々実直な男であったため部下の信頼も厚かったのが余計に事態を悪くした。

 近衛兵団は真っ二つに割れ緊張が高まり、クーデター寸前の様相だった。

 そんな中で副団長代行の実家とコンタクトを取ったと思われる者が某貴族の屋敷にかくまわれている事が発覚。その某貴族屋敷はすぐに捜査され首謀者は皆拘束される。

 そしてその某貴族が罪の軽減を条件にリークした情報のひとつが、レインザーへ亡命した王国宰相の娘を利用してレインザーとの関係を悪化させる事だった。

 その情報を受けたレインザー王国は国家安全対策委員会にロシレーヌ・ドレイパーの安全の確保を指示。

 そうしてやってきたのがアッシュバーンさんだったってわけだった。


「でも本当に良いタイミングでしたよ。今回もクルースさんに助けて貰っちゃいましたね。」


「いや、たまたまですよ、たまたま。アッシュバーンさんは優秀な方だから、私がいなくても解決してられましたよ。」


「へへへ、今回の仕事は美女だらけで非常に結構でやしたなー。やっぱり旦那についてきて正解でやした。」


 俺たちはひとりづつ狼人間を担いで森の中を走り抜けた。

 しかしまあ、みんな狼人間背負って良くこのペースで走れるよ、アッシュバーンさんもだが、ジョゼンですら軽々と担いで走ってるもんな。

 まあ、魔法による身体強化なんかもしてるんだろうけど、やるもんだよ。

 ジョゼンのやつは、狼人間のひとりを戦闘不能状態にしてるもんな。

 普段、ちょけてばかりいるけど、今までひとりで義賊として戦ってたわけだもんな。

 やってる事はちょっとまあ、何と言ったらいいのかあれだけども、王国安対でもマークしていながらこうして見逃されてるってのは、そう言う事なのだろうよ。

 うん、そう思っておこう。


「アッシュバーンさん、こいつらをどこへ移送するんですか?。」


「まずは、事情の説明もあるのでドレイパーさんのお屋敷へ。」


「大丈夫ですか?こんなの連れて行って?。」


「クルースさんもいるし、ブラックフードさんもいるんだから大丈夫ですよ。」


「いやあ、ちょいとその呼び名は。勘弁して下せえ。」


「うふふ、それに彼らについてカサイムさんならなにかご存じかも知れませんからね。」


「へえ、カサイムさんてただの執事じゃあないんですね?立ち居振る舞いにスキがなかったけど。」


「ええ、カサイムさんはナウガウイ王国中央情報局の腕利き局員だったんですよ、元々は。ご本人はドレイパー家に恩があったので奉公させてもらっていると言ってましたが。」


「なるほどねえ。それは、是非とも面通ししないとですね。」


「ひゃー、国安対やら中央情報局やら、おっかねーですなあ。」


「怖がらなんですむような生き方をしろよ、お前は。」


「またまたー、キツイなー旦那はー。」


「うふふふ、どうやら良いコンビみたいですね。」


「どーだろーなー?。」


「そんな旦那ぁー。息ぴったりじゃないですかぁー。」


「うふふふ。」


 アッシュバーンさんが楽しそうだから良しとしておくか。

 という訳で我々は和気あいあいとドレイパー家へと向かうのだった。


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