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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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丘の上の屋敷って素敵やん

 「すいません、自己紹介がまだでしたね。私はローラ・ナイルダー、モリコロ村で教師をやっています。教師をやる前はケリちゃんと一緒にパーティーを組んでました。」


 ケリちゃん、ね。

 ケリクさん、尻に敷かれていたと見た。

 俺たちは教室、と言うか正面に黒板のついた礼拝堂だねこれは、中央に通路があり左右に長椅子、そして正面に教卓という部屋に通され一番前の長椅子に座って話を聞いた。

 ナイルダー先生は教卓の後ろからイスを引っ張り出して来て、我々の正面に座る。


「ええ。私はここに来る少し前にケリクさんと一緒に仕事をしましてね。仕事を終えるとケリクさんから話があると言われましてね。」


「私が子供たちの教育の事で悩んでいるから相談に乗って欲しい、ですか?。」


「はい。私がゴゼファード領チルデイマで臨時教員をさせて貰っているって事もありまして、ケリクさんから伺った話では、ナイルダーさんは最近になって子供たちの事がわからなくなったとお悩みになられていたそうですね。」


「はい、そうなんです。私も若い頃は冒険者として色んな土地を渡り歩き、随分と見聞を広めましたが、こんな事は初めてです。」


「子供と言うのは日々成長しますからね。急に他人行儀になったり反抗的になったりする事もありますよ。心も身体も大人でもなく子供でもない、そんな状態に戸惑い自分自身が振り回されたりするものですよ。ナイルダーさんは気にし過ぎなのでは?。」


「思春期と言うにはあまりにも不可解なんですよ。私には子供たちが何を言ってるのかわからないんです。船を作るとか、自由世界へ行くとか、最近そんな事ばかり言うんですよ。みんなお家ではそんな事は言わないようなんですよ、というより私以外の大人の前ではそんな事は言わないようなんですよ。何なんでしょう?。」


 何なんでしょうって言われても、なんだそりゃ?としか言いようがない。


「ちょうど、これから授業が始まります。教壇の裏が司祭室になっています。そこに居れば子供たちの声も良く聞こえますから、聞いていてもらえませんか?。」


 という事で俺とジョゼンは司祭室で待機する事となった。

 そうして待つことしばし。

 子供たちのガヤガヤした喋り声が聞こえ出し、少ししてから鐘が鳴る。


「起立。」


 子供の声がしてガタガタっと生徒たちが立ち上がる音がする。


「礼。」


「おはようございます。」


 生徒たちの揃った挨拶が聞こえた。


「はい、おはようございます。着席してください。今日はまず算数からです。みなさん、教科書と文具板を出して下さいね。」


「文具板ってなに?。」


「黒板の小さい奴ですよ旦那。」


「ほう、ノートの代わりか。」


「紙を使ってたらお金がかかってしょうがないですからね。子供が使うにはその度に消せる文具板の方が都合が良いんでさ。」


「なるほどな。」


 そんなこんなで俺たちは授業の様子を聞いていたのだが、ナイルダー先生の言ってた事態はすぐに訪れた。


「あれ?これじゃ船の寸法間違えてないか?。」


「ホントーだー、メシーナ昨日のやつ違ってるよー!。」


「いっけねー、ホントだ。これじゃ、合わないじゃん!。」


「今日作り直そう!。」


「早くしないとマキアが始まっちゃうよ!。」


「約束の地に行けなくなるぞ!。」


 算数の授業中、急に子供たちが騒ぎ出した。


「まだ授業中ですよ!静かに!。」


 ナイルダー先生が場を鎮めようとするが生徒たちは、船がどうの、マキアがどうのと話が止まらない。

 結局、子供たち同士で話に決着がついたのか、今日は急いで作業をしよう、そうしよう、という事で静かにはなったが、その後も事あるごとにそんな話で勝手に盛り上がったり議論をしたりで、その間は先生が何を言っても耳に入ってない様子。

 ナイルダー先生も、時には子供たちにそれについて質問したり、先生も仲間に入れてと頼んだりしてその話に加わろうとするのだが、子供たちはそれに答えもせず話を続けるのだった。

 なるほど、これはただ事じゃない。

 思春期とか反抗期とかそんな話じゃないよ。

 お昼休みになり、生徒たちはお弁当を持って外に出たとの事でナイルダー先生が司祭室に入ってきた。


「お聞きになられまして?私の指導力のなさもありますが、それにしても理解に苦しみます。」


 入って来るや否やナイルダー先生は頭を抱えてそう訴えるのだった。


「いや、先生の指導力うんぬんの問題ではなさそうですよ、これは。彼らがこうなるきっかけみたいなものに、何か覚えはないですか?。彼らがこんなになった頃にこの村で起きた変わった事などは?。」


「そーですねー。時期が合うかどうかはわかりませんけど、この村で起きた変わった事と言えば丘の上の館に人が住むようになった事ぐらいですかねえ。後は、本当に何も変わらない村ですので。」


「丘の上の館って、あのお化け屋敷ですかい?。」


 ジョゼンが驚いた様子で尋ねた。


「ええ、そうです。」


「あんな荒れ果てた屋敷に、よくまあ。」


「そんなに荒れ果てた屋敷だったのか?。」


「あれは確か旧領主所縁の屋敷だって話だから、もう内戦前の建物のはずですよ旦那。お化け屋敷だってんで子供たち格好の遊び場だったんですが、あまりに荒廃しすぎて危険だから子供たちには立ち入らないように大人が口を酸っぱくして言い聞かせる場所でしたよ。」


 内戦って言うとレインザー王国統一前って事か。

 そりゃ、大昔も大昔の話だ、前世界なら指定文化財か国宝かって話だよな。


「それがきれいに改築されて今では立派なお屋敷ですよ。改築完成と引っ越しの挨拶を兼ねたパーティーには、村の人全員が招待されたんです。私も行きましたけど、本当にきれいになっていて、さすがは大昔のお貴族様のお屋敷って感じでした。」


「それで先生、新しい屋敷のご主人さんはどこぞのお貴族さんです?それとも大商会のご隠居か何かですかい?。」


 ジョゼンが聞くとナイルダー先生は少し間をおいてから答えた。


「それが、外国の女性でね。独身だって言うし、なんでこんな辺鄙な村にわざわざ来たのか、みんな不思議がってましたよ。ご本人が言うには身体が弱いので療養のために来たとの事でしたけど、本当にねえ、とってもキレイな人で腰も低いし、素敵な方でしたよー。お家も本当に素敵でー、まさに深窓の令嬢といった風情でした。」


 ナイルダー先生は夢見る様子で言ってらっしゃるけど、なんだか怪しいなー。

 俺はジョゼンを見る。

 ジョゼンも俺を見て、こりゃあきまへんわ、といった感じで頭をゆっくり横に振った。


「今わかっている事から読み解いていきましょう。まずは、その丘の上のご令嬢に話を聞いてみるとしますか。」


「あら、レギネ婦人をお疑いになるのですか?。」


「レギネ婦人とおっしゃるのですか?丘の上のご令嬢は?。」


「いえ、お名前はロシレーヌ・ドレイパーさんとおっしゃられましたけど、屋敷のお庭にレギネのお花が沢山あるものですから、みんなレギネ婦人って呼んでるんですよ。あのお方にピッタリだと思いません?。」


 またウットリしながら少女の目で語りだすナイルダー先生。

 うーむ、この先生も夢見る夢子ちゃんだなあ。


「ふぅー、先生、ありがとうございます。旦那、行ってみますか?。」


「ああ、そうしようか。」


 やれやれといった感じで先生に謝辞を述べ俺を見るジョゼンに同意する。

 そうして俺とジョゼンは学校を後にした。


「さて、どう見やす?。」


「どうだろうな、子供たちだけで熱狂的に流行っている事なのかも知れないし何とも言い難いが、どうにも違和感を感じるよ。授業にならなくなってしまうのは問題だが、それもずっとという訳ではないしな。それに子供たちはナイルダー先生の事を嫌ってはいないのはわかる、それどころか慕ってもいるんだろう、あのわけわからん話をしている以外の時の様子でそれはよくわかった。大体、先生が嫌いなら学校に来なくなるだろうしな。だから、余計に不自然に感じるんだよ。」


「それはあっしも感じやした。ナイルダー先生に反抗してとかそういったものは感じられなかったですな。ただ船だかなんだかの話になると先生が視界に入らなくなる、そんな感じでしたな。」


 俺とジョゼンは丘の上の屋敷に向かいながら今あった事を話し合った。

 俺が感じた違和感はジョゼンも感じていたようだ。

 ジョゼンが言うように、あの話になると先生の事が見えなくなるってのは言い得て妙だと思う。


「あれでやすよ旦那。」


 緩やかな坂の上に見えるお屋敷。

 近づくにつれ庭に群生した花が見えて来る。

 大きな緑色の葉、その上にまるで首を出している鳥の様に見えるオレンジ色の花。

 これは見た事あるなあ。

 確か極楽鳥花とか言ったか。


「ああ、レギネの花がきれいでやすねえ。」


「それで誰言うことなくレギネ婦人か。」


「これは会うのが楽しみですな旦那。」


「さて、何が出て来るかな。」


 俺たちは丘の上の屋敷の庭でレギネの花に囲まれながら気を引き締めるのだった。 


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