まーるく収まるって素敵やん
俺たち一向がギルド出張所に着くと、大変な騒ぎになっていた。
「この野郎っ!!盗人をかばい立てする気か!!。」
「あんた達、こんな事をしてどうなるかわかってるのかね!!。」
「いつまでもぬるい事言ってると火ぃー着けてやるぞ!!火ぃーをっ!!。」
「いいから中に入らせろ!!。」
「こっちも限界だぞ!。」
「何人いると思ってんだ!!いつまでもこのままって訳にゃいかないぞ!!早く通せ!。」
ギルド出張所の前にはナーグスギルド長と、リグスさん他衛兵さんが4人おり、それを囲むように大勢の大人が押し寄せ怒鳴っている。
「ですから、何度も説明しておりますようにそんな人物はこちらでは確認されておりません!。また明日いらっしゃって下さい!。」
ナーグスギルド長が大きな声で説明する。
もう何度も同じ説明をしているのだろう、集まった人達は聞く耳持たず怒鳴り散らしている。
まるで銀行の取り付け騒ぎだ。
このままでは集まった連中が暴徒と化しそうだ。
俺は偽悪殺の団の連中に言う。
「最後の仕事、お願いするよ。」
「わかりました。じゃあ、みんな、行こう。」
イケメン君の呼びかけに、仲間たちも無言で頷いた。
「ちょっと皆さん、なんの騒ぎですか!そこをどいて下さい!。」
イケメン君は大きな声で言い、集まった群衆をかき分けて前に出る。
「今頃何しに来たんだ!!裏切り者め!!。」
偽悪殺の団を酒場に呼びに来て俺に追い返されたオッサンが怒鳴っている。
「まあまあ、ここへ来たって事はこの村で私に逆らっても得はないと気づいたのだろう。今からでも遅くはないから、こいつらを蹴散らしてギルドに逃げ込んだ盗人の身柄を確保しなさい。そして、速やかに盗まれたものを回収するのです。」
慇懃無礼な態度で喋り出したのはデビーン村長だな。
その隣にいて同様の尊大な態度を取っている男女は恐らく村長の弟と妹なのだろう、大物っぽく振舞ってはいるが、盗られた書類が世に出たら現在の地位剥奪どころか罪人だという事実をわかっているのだろう、汗はかいてるし落ち着きはないし目が泳いでるし、と相当に焦っているようだ。
「デビーンさん、我々がここに来たのはあなた方を助けるためです。」
偽悪殺の団のみんなは衛兵さん達を守るように横に広がって立つ。
「わかっている。だから、速やかに、」
「わかっていないようですから、説明しますが、」
「人の話を最後まで聞けー!!。」
デビーン村長はいつも周囲から丁重に扱われ、自分の意見が通らないことなどなかったのだろうな、こんな事で逆上しているよ。
「あなたこそ話を聞きなさい。これからあなたがやろうとしている事は明確な罪です。あなたは我々に屋敷の警護やあなたの用心棒は任せましたが、国に対して罪となるような事は出来ません。」
「しかし、元々は盗まれたものを取り返そうと言っているのだ。それが罪なのか?。」
村長は言う。
「では、何が盗まれたのですか?。」
「そ、それは。」
「なんですか?。」
「なんでもいいだろう!とにかく大事な物だ。確かに私のものなのだ。これを取り戻さないと大変な事になるんだ!もう、一刻も猶予はない!お前らがやらないなら、我々でやる!お前らにはもう金は払わん!お前らはクビだ!。」
「待ちなさい。そんなことはさせません。いや、お金はもういいですよ、元々大して頂いておりませんしね。やらせないのは、力に任せた暴挙のほうですよ。あなたたち自身の手で自分たちの罪を大きくしてどうするのですか。」
「うるさい!あれさえ取り返せば何とかなるんだ!俺は貴族にだって顔が聞くんだ、今だって部下に話を通しに行かせてるところだ!。」
「残念ね、それなら今頃は門前払いされてスゴスゴ帰ってる所よ!。」
ドラシュさんが現れて大きな声で言った。
「なんだとー!!。」
「その辺は昼間のうちに手を打ってますからね、私たち反村長派の有志であんたと繋がりがある近隣貴族、商会へは話を通してありますからー!残念!。」
ドラシュさんが満面の笑みで言った、ちょっと、なに侍ですか?。
「そんな、なにを話したって言うんだ、あいつらには多額の付け届けをしてるって言うのに。」
「ふっ!語るに落ちたな村長!いや、元村長と言った方がいいかな?。」
リグスさんが鼻息荒くそう言った。
ナーグスギルド長が調べた村長から賄賂を受けている周辺貴族、商会連中にはドラシュさんが集めた反村長派閥の人間の手である情報を流したのだ、
その情報とは、近くデビーン村長一派の不正が暴かれるのでとばっちり食わないように注意してくださいね、と言うモノだった。
大人数の手により同時に流された情報は、横のつながりでの情報共有により補強されそれを押してまで村長を助けようとする者が現れない状況を作る事には成功したようだ。
「さあ、デビーンさん、ジーオさん、ミジーハさん。今まで自分たちがやった事を噛み締めて潔くしましょう。」
イケメン君がしっかりした口調で言う。
「返事来ましたーー!!。」
ギルドのトビラが勢いよく開いて受付のおばちゃんが出てきた。
受付のおばちゃんは手に持った小さな紙をナーグスギルド長へ渡した。
ナーグスギルド長はそれに目を通しすぐにリグスさんに渡す。
リグスさんはそれに目を通すと嬉しそうに微笑みナーグスギルド長へ頷いた。
「衛兵隊本部長、商業ギルド本部長連名にて身柄を確保し事情聴取せよとのお達しが出た。デビーンさん、ジーオさん、ミジーハさん、同行願います。ここに集まった方々も後日改めて事情聴取しますので、自宅に居るようにして下さい。さあ、行きましょう。」
リグスさんが村長兄妹に言い衛兵の皆さんで囲むようにして移動を促した。
「やったーー!!。」
「ざまーみろ!。」
「お天道様は見てるってこった!!。」
「今は夜だけどな!。」
「やったやった!!バンザーイ!!。」
「バンザーイ!!。」
「ギルド長バンザーイ!衛兵さんバンザーイ!。」
「悪殺の団バンザーイ!!。」
「悪殺の団はツケ払えよー!。」
「ぎゃははははー!でも、よくやってくれたぜ!ツケはある時払いでいいぜ!!。」
「ああ!うちもそれでいいぞー!。」
衛兵さんに連れて行かれる村長たち、解散させられ背中丸めて帰宅する村長一派、そしていつの間にか遠巻きで見ており今は声援を送る村の人々。
「さて、と最後の仕事ご苦労様でした。これから、みんなどうする?。」
俺は偽悪殺の団のみんなに聞いてみた。
「あたい、いや、もう普通に喋ってもいいよね。私は、許されるなら本当のことを言ってしばらくはこの村のために働きたい。ダメかな?。」
偽シエンちゃんがそう言う。
「僕も同じことを考えてたよ。みんなどうかな?。」
「私だって、そうだよ。そうだよね?。」
偽キーケちゃんが偽アルスちゃんの肩に手をやり言う。
「うん。それがいいと思う。世間様に顔向けできるように真っ当に生きたい、私。」
偽アルスちゃんが力強く答える。
みんな、憑き物が落ちたような顔をしている、やはり心のどこかで今までやっていたことに抵抗があったのだろう。
「皆さんならできますよ。それに、こちらからもお願いしたいのです。おそらく、これで村長一派は総崩れです。捕縛されなくても、もうこの村に居続けるのは難しいと思います。そうなると、足りないのが人手です。ある程度は欠落者の人達に元の場所に戻ってもらえば動きますが、今まで村長が外部に依頼していた事、農地周辺の害獣対策や商店の仕入れ等での警護などは手が回らなくなってくると思います。冒険者への依頼も出しますが、村が新体制で落ち着くまで専属で契約して頂けると大変助かるのですが。」
ナーグスギルド長の言葉を聞いて、偽悪殺の団のみんなは下を向いて肩を震わせ始めた。
そして、小さな声で、お願いします、と言うのだった。
丸く収まったってことでいいのかな?いいよね。




