真っ当に生きるって素敵やん
山の稜線に太陽が隠れると一気に日が暮れる。
村の中心部付周辺は魔道具を使った街灯がチラホラ立っており、真っ暗闇ではないのだがこれも昨日聞いた話では村長一派の家や店を繋ぐルートに立っているとの事で、本当にこの村は村長一派のモノなのだなと感じさせる。
日が沈んだとはいえまだ夕方を過ぎたばかり、酒を飲むにはいささか早いか。
まあ、先に店に入って軽く飲み食いしながら待てばよいか、なんて思いながら店を探し中に入る。
「遅かったじゃないか!待ちくたびれたぞ!こっちだこっち!。」
大きな声で俺を呼ぶのは偽シエンちゃんだ、もう結構出来上がってる様子。
「いやーすいません遅くなって、俺が会計持つって店員さんに言ってきますね。」
「ぎひひひ、気が利く男じゃないか。早く行ってこい。」
偽キーケちゃんが笑って言う。
俺は店員さんに今日の彼らの飲み食い分は全て自分が持ちますので、これは前金です足りない分は帰りに支払いますと銀貨を一枚手渡した。
店員さんは、これじゃ貰い過ぎですと言うので、じゃあ彼らのツケの支払いに回しといて下さいと伝えると店員さんは助かりますと深く頭を下げるのだった。
「さあ、お待たせしました。ジャンジャンやって下さい。店長さーん俺にもエールと、後は、簡単にできるつまみ適当にお願いします。」
俺はテーブルの空いている席、偽シエンちゃんの隣に座る。
「あー!あと、エール人数分追加で!。」
偽アルスちゃんが大きな声で言う。
「君は随分と羽振りがいいけど、冒険者だろ?そんなに実入りの良い依頼があったのかい?。」
偽俺がイケメンボイスで聞いて来る。
「ええ、ちょっと腕の良い魔獣猟師と知り合いましてね、フリーエリアで素材を集めてました。」
「フリーエリアに入ったのかい?てことはあんた、相当腕が立つんだね?。」
偽キーケちゃんがやけに色っぽい目で俺を見て言う。
やめて欲しいなあ、仮にも俺の仲間を名乗ってるのにそんな安っぽい色目使うの。
「いやいや、腕が立つのは同行してくれた魔物猟師でね。良く効く魔物避けを沢山持ってましてね、目的の魔物だけ狩ってそれ以外は退散させてましたよ。」
「へー、そんな腕の良い魔物猟師なら会ってみたいなあ、是非一緒に仕事がしたいものだよ。」
偽イケメンがまたカッコよく言うから、ちょっとチクリとやりたくなってしまう。
「その人達、ゴゼファード領のチルデイマの学校へ行くって言ってたから、皆さんとも顔を合わせる事になるんじゃないですかね?だって皆さん、そこで臨時講師もされているんでしょ?。」
「あぁ?なにが、」
「ええ!はい!そうなんですよ、よくご存じですね。あまり表向きにしていない話なのに、情報通ですねえ。」
偽シエンちゃんが柄悪くなにがだと言いかけたのを、イケメンが急いで被せてフォローしたよ。
このチームはやっぱイケメンが仕切ってんだな。
イケメンは一生懸命他の連中に目配せしてやんの、余計な事を言うな俺に任せろ、みたいな?。
「まあ、あちこち旅してますからねえ、悪殺さんの噂はよく聞きますよ。あれ?お酒足りてます?頼みましょうね、すいませーん!。」
俺は店員さんを呼んでドリンクを追加する。
「なんでも皆さん、ヤクルスを退治されたそうで。」
「おーうっ!そうそう!そうだぜぇー!スゲーだろ?馬よりデカイ奴だぜ!。」
偽シエンちゃんがやっと本当のことを話せるとばかりに食い気味に話す。
「馬よりデカい奴が鳥より早く動きやがるからなあ、並みの冒険者なら全滅してたさ。」
追加で届いたエールを美味そうに飲みながら偽アルスちゃんが言う。
「いやーお見事!ねー!大したもんだ!他にどんな魔物と戦ったことがあるんですか?聞きたいなー。」
「げひひひ、そりゃお前、沢山戦ったさー!。」
偽キーケちゃんが笑いながら話し出す。
俺は、さすがですねー、知らなかったなー、凄いですねー、センスあるもんなー、そうなんですかー、と上司殺しのさしすせそを駆使し、散々持ち上げて酒を進めた。
そうしていい加減、彼らも酔いが回り出し話す内容が現状の愚痴になりだす。
「あたいたちだってよう、こんな事やりたくてやってんじゃねーわ!畜生!。」
「だよなあ、クソっ。なんでこんなシケた事になってんのかねぇ。」
「ホントよう、金だよ!金!金がないのは頭が無いのと一緒だってよ、誰かが言ってたさ。」
「はぁ~。みんなには苦労をかけるねぇ。そのうち、きっと実入りのいい仕事にありつけるよ。それまで、頑張ろうじゃないか、ねえ。」
「ああ、そうだ!いつか美味しい仕事にありつけるように!。」
「そうだ!美味しい仕事に!。」
「カンパーイ!!。」
もう、三次会のスナックのノリだよ。
疲れたサラリーマンか?
なんだか可哀想になってきたよ。
「きっと、いい事ありますよ。世間様に顔向けできないような事はせず、真っ当にやっていれば、いつかきっと。ね?。カンパーイ。」
俺はみんなにそう言って乾杯した。
「あたいたち、終わっちまったのかな。」
偽シエンちゃんが結構酔っぱらったのか、そんな事を言う。
だから、俺は言ってやるのだった。
「まだ始まってもいねーって!。」
偽シエンちゃんの背中をバシッと叩いて俺は言った。
ジョーダンじゃないよ!偽シエンちゃんバカヤロウ!俺は心の中で首をカクカクさせるのだった。
「うっ、あんた、力あるなー!うん!そーだな!ダメだダメだ、辛気臭くなっちゃ!な!。」
「そうそう!食べて食べて!昔ね誰かが言っとりましたよ、人間、一番気が弱くなるのは空腹と寒さだって、飯も食わないで寒い部屋でひとりで考え込んでるとね、どんどん気が弱くなるって。腹減った寒い死にたいって不幸はこの順番でやって来るんですって。だから、気弱になったら暖かくして食べる、そして一人にならない。これだって。皆さんは良い仲間がいるじゃないですか、ね?。」
「あんた、いい事言うなあ。そうだな。本当にそうだな。」
偽アルスちゃんがしみじみと噛み締める様に言う。
偽イケメンと偽キーケちゃんは下をむいちゃってるよ。
「さあ、仲間にカンパーイ!店員さーんエール人数分追加ね!後、なんか身体が温まる食べ物お願いしまーす。」
そうしてちょいと湿っぽくなってしまったが、なんかいい感じに飲み会は続いた。
いや、飲み会じゃねーか。
でも、いい感じだよ、俺は彼らを励まし、笑って、飲んで、出てきた煮込み料理を食べてまた笑った。
「大変だー!先生!何してるんですか!。」
そうして場が整った所に招かねざるお客さんがやって来た。
「先生たち!いつまで飲んでるんですか!大変な事が起きてるのに!!。」
息せき切って入ってきた男は、いい感じに酒が入ってる偽悪殺の団の連中を見てイラつきながら言う。
「なんですか?なにが起きたって言うんですか?。」
イケメンが聞く。
「泥棒ですよ!村長の弟さん宅に置いてあった重要書類が盗まれたんですよ!!しかも、盗人は商業ギルドに逃げ込んだらしいんですが、ギルド長は知らぬ存ぜぬで中に入る事も出来ないんですよ!ちょっと行って下さいよ。中にいるに違いないんですから。」
「それでは村長は我々にギルドへ押し入れと言うのですか?。」
イケメンは鋭く聞き返した。
「そのために雇われてるんでしょうに!今更なにを言ってるんですか!早くしないと村長がまずい事になるんですよ!。」
イケメンを筆頭に偽悪殺の団の連中は考え込んでしまっている。
それはそうだ、ツケで飲み食いしたり村人を恫喝したりとは次元が違う、出張所とはいえギルドに押し入るなんてな完全に犯罪だ。
どれ、私が後押ししてあげましょうかねえ。
「おい、おっさん!テメーは悪殺の団の皆さんに犯罪をさせよーてのか!こらっ!。」
使い走りとはいえ権力者から遣わされたもの者だ、話し方からして傲慢なのが見て取れるので俺は強めに出てみた。
「な、なんだお前は!関係ない奴は引っ込んでろ!。」
「俺の目の前で起きてんのに関係ないわけねーだろーが!村長がまずい事になるだぁ?そりゃまずい事やってるからだろうがっ!!そいつに目をつぶるどころか積極的に協力して甘い汁をすすってるおっさんも同罪なんだよ!それがわかってるから悪殺の団の皆さんを煽ってもみ消そうってんだろうが!テメーの保身のため他人に罪を犯させるのか!おい!おっさん!どーなんだよっ!!!。」
「お、お、お前は、お前は何者なんだ!この村にいて村長に逆らって無事でいられると思うなよ!覚えてろよ!。」
男は雑魚チンピラが言う定番のセリフを吐いて店を出て行った。
「ふぅー、まったくとんでもない奴でしたね。なに考えてんですかね、ホント。さてと、それじゃあ、偽悪殺の団の皆さんはこれからどうします?。」
俺は偽悪殺の団の皆さんをゆっくりと見て言った。
「あんた、何者なんだい?。」
つばを飲み込んでゆっくりと偽アルスちゃんが尋ねた。
「悪殺の団はデカい商会から面白くない存在と思われてるからね、下手に名乗るのはよしといた方が良いよ。ちなみになんだけどね、本物のシエンちゃんとアルスちゃんはお酒飲まないからね。」
俺はそう言ってから残ったエールを一息で飲んだ。
「君、まさか本物の。」
イケメン君がかすれ声で言う。
かすれ声でもイケボだな!。
「そんな所だよ。ところで皆さん、ツケを払えるだけの算段はついてますか?もう村長はあてにしないほうがいいよ。多分、しょっぴかれちゃうから。」
「すいません、ありません。」
イケメンが答える。
「それじゃあ、どうする?。」
「できれば、働いて返しますから待って頂ければ。」
「そう?逃げない?。」
「はい、身に沁みました。真っ当に世間の皆さんに顔向けできるように生きます。」
「そっか、だったら俺も協力しようかな。最後に悪殺の団として一仕事してもらおうかな。」
「え?。」
俺は彼らに仕事を依頼する。
勿論、仕事だから報酬は出す。
てなわけで俺は、いや俺たちは店を出てギルドへと向かうのだった。




