志を同じくするって素敵やん
「お呼び建てして申し訳ありません。私は商業ギルドシマオ村出張所でギルド長をさせてもらっています、ナーグスです。よろしく。」
部屋に入り、促されてイスに座ると正面に座る男がそう自己紹介をする。
ナーグスと名乗った男は、鋭い目をしており尖ったアゴ、やや瘦せ型の体形とシャープな印象を抱かせる人物だった。
「どうも、冒険者のクルースです。よろしくお願いします。」
「先ほどはうちの職員が失礼しました。どうも、おしゃべりでいけません。」
「いえいえ、非常に有益なお話を伺うことが出来て助かりました。」
「クルースさん。率直にお聞きしますが、あなたはこの村をどうにかされるおつもりなのですか?。」
「はい。どうにかしようと思っています。」
「・・・・。ふふ、そうですか。そんなに正直に言われるとは思わず、面食らってしまいましたよ。具体的にどうされるおつもりですかな?。」
俺は村はずれの欠落者を本来の仕事に戻し、しかるべき報酬を得れるように是正し、現在の村長と身内による富の集中化を分解しようと思っている事を伝えた。
「そんな事が出来るとお思いですか?。」
「はい、出来ると思います。ですが、それには協力者が必要です。今の所、自分の他にひとり、隠密活動のエキスパートがいるのみです。後は欠落者の皆さんも、おそらく協力してくれるとは思いますが、劣悪な環境でようやく日々を過ごしている方々ですから無理はさせられません。」
「ふむ。」
ナーグスギルド長は俺の目をじっと見つめた。
「わかりました。私はあなたに賭けてみようと思います。私と志を同じくする仲間がいます。我々も協力させていただきましょう。」
「ありがとうございます。それでは早速ですが。」
俺はこれから欠落者の地で肉でも焼いて、みんなで食べながら作戦会議をする予定だと告げた。
ナーグスギルド長は、そう言う事でしたら我々も物資をもって参加させて頂きます、という事になった。
「随分と時間がかかりましたなあ。」
商業ギルド出張所から出ると待っていたジョゼンに言われたので、俺は中であった事をかいつまんで説明した。
「また仕事が早いですなあ。しかし、あっしの事は先方さんに伝えたのですかい?。」
「ああ、泥棒が仲間にいるって伝えてあるよ。」
「ちょっと勘弁して下さいよ。」
「冗談だよ、隠密活動のエキスパートがいるって言っといたよ。」
「そりゃまた随分と。」
「別に大げさに言ったとは思ってないぞ。お前の能力に対する正当な評価ってやつさ。」
「なんだか照れ臭いですな。」
「それに見合った仕事を頼むぜ。」
「まあ、努力しますよ。」
「期待してるぞ。」
「まさか、この仕事してて人様から期待してるだなんて面と向かって言われる事になるとはねえ。凄い世の中になったもんだ。」
「そりゃ世の中が変わったんじゃないぜ、お前が変わったのさ。」
「あっしがですかい?。」
「おうよ。」
「いやあー、あっし自身は変わったって自覚ないんでやすがねえ。」
「そんなもんさ。」
そう、そんなもんだよ、実際に変化するってのは。
自分ではわからない、周りの人がそう評価して初めて気づいたりするもんだ。
それから俺たちは、食材やら飲み物やらを買い込んで再び欠落者の地へと戻った。
「そら!みんな!今日は旦那のおごりだ!飲んで食ってくれ!。」
ジョゼンが大きな声で言う。
すでにあちらこちらで火がたかれ、何処からか鍋やら鉄板やらが引っ張り出されている。
「しかし旦那、本当にいいんですかい?。」
宴の準備を見ながらジョゼンが俺に尋ねる。
「なにがだ?。」
「なにがって旦那、こんな事に首を突っ込んで。」
「お前だって突っ込んでるだろ。」
「あっしはいいんでさ。こんな生き方しかできませんから。旦那は冒険者としての腕もあるし、商業ギルドでの仕事の早さなんざ、旦那。どうやってそんな風に話を持ってたのかわかりませんが、それだけの交渉力を持ってれば商人としても十分やってけますよ、いや、もうやってらっしゃるのかね。なんにしても旦那。こんな事に首を突っ込んだって一レインの得にもなりゃしませんぜ。」
「なるさ、俺の気が済む。」
「どうにも旦那って人は、バカなのか大物なのか。」
「まあ、バカだろうな。」
「どうにもあっしは、おっかねーお人を巻き込んじまったのかも知れませんな。」
「クルースさん。お待たせしました。」
「おお、ナーグさん。よくいらっしゃいました。」
ジョゼンと話をしているとナーグスギルド長がやって来た。
袋を抱えたナーグギルド長の後ろには荷車を引いた男がひとり、そしてその荷車を押すように女性がひとり見える。
「紹介しましょう、彼は衛兵のリグス君、彼女はドラシュ、村で喫茶店を経営してます。」
「リグスです。よろしく。」
リグスさんは細く見えるが肩の盛り上がりや上半身のがっちりさは服の上からでもわかる、かなりの使い手なのだろう。
「私はドラシュ、村の情報なら任せて。」
もうひとり、ショートカットでスレンダーな女性は村の人が良く集まるお店の店主なのだろう、愛想よさそうに笑ってそう言う。
「よろしくお願いします。俺はクルース。冒険者をやってます。こっちの男はジョゼン。隠密活動のエキスパートです。」
「へへ、エキスパートなんて言われると照れますけど。よろしくお願いしますわ。」
「早速ですけど、この荷物、食料品ですので皆さんで分けて下さい。」
ナーグスギルド長が言うと、みんな口々にありがとう、いつも済まない、と感謝の言葉を言いながら荷物を持っていく。
「今、いつも済まないって言ってましたね。こうした事は良くされるんですか?。」
俺はナーグスギルド長に尋ねる。
「ええ、我々以外にも見かねている者はいますんでね。有志の者でやってますよ。」
「私たち以外にも村長のやり方に不満を持っている者は大勢います。ここにいる人達と親しかった者もいますし、いつ自分たちがこの立場になるか、他人事ではなく思っている者も多くいます。」
ギルド長に続いて衛兵のリグスさんが言う。
「肉が焼けたよー!おっちゃん達も来なよー!。」
プッジョが元気よく叫ぶ。
「続きは食べながらで如何ですか?。」
俺がそう言うと、集まってくれた3人は笑顔で頷いてくれる。
俺たちは声をかけてくれたプッジョに手を振り、そちらへ向かった。
「しかし、クルースさんはなぜこんな事を?。」
焼いた肉や野菜の入った木皿を手渡され火を囲んでいると、ドラシュさんが口を開いた。
「ジョゼンにも同じことを言われましたよ。簡単に言えば気が済まないからですかね。」
「そんな理由でですか?下手をすれば命が危なくなるかもしれないのに?。」
リグスさんが前のめりになって言う。
「いや、上手くやればそれ程の危険はないと俺は考えてますよ。」
「クルースさんはご存じないかもしれませんけど、デビーンの奴は用心棒として悪殺の団を雇ってるんですよ!。」
「悪殺の団と言えば、悪を懲らして弱者を助くって聞いてたけどね、ホント、がっかりよ。」
強い口調で言うリグスさんに続けて、ドラシュさんが吐き捨てるように言う。
「それなら心配ないですよ。」
俺は彼らに言う。
「え?悪殺の団の4人相手にですか?もしかしてクルースさんってAランク冒険者?。」
今度はドラシュさんが前のめりになって俺に尋ねてくる。
「違いますけど。」
「なんだー。」
がっかりした口調で上体を戻すドラシュさん。
「でもねえ、俺はゴゼファード領のノダハから来たんでね、悪殺の団の事はまあまあ知ってますけどね。村長の所にいる連中、偽物の可能性が高いんじゃないかって思うんですよね。」
「そうか!クルースさんがいらしたのはノダハでしたね。でしたら納得できる。悪殺の団のリーダーが立ち上げたブランドの本店がノダハにあると聞いてます!。」
ナーグスさんが言う。
「ケイトモでしょ?あいつら散々自慢してたもの。自分が一から立ち上げたんだって、使えない連中を苦労して育て上げたんだってさ。今じゃ働かなくてもその儲けがジャンジャン入って来るんだって言ってたけど、確かにその割には金払い悪いしセコイ連中よ!。」
「毎日酒場で飲んだくれては自慢してますよ。はぐれグリフォンの首を素手でねじ切ったとか、クブロスカの顔役デフマフ・ヒュエイムは舎弟だとか。」
ドラシュさんに続いてリグスさんが言うが、ちょっと待って欲しい。
俺の事はともかく、ケインたちの事を知らないくせにあーだこーだ言うのは許せない。
なにが使えない連中を苦労して育てた、だ!。
「なんですかそれは?悪党の武勇伝じゃないですか!!腹立つなぁー!!。」
「まあまあ旦那、そんなに怒らないで。」
ジョゼンが俺をなだめる。
「いや、それはもう偽物決定ですよ!そんなの!。」
「そうおっしゃられましてもね、私はあいつらが馬より大きいヤクルスを倒した所を見てますからね。」
ヤクルスって確か、ジャイアントアーミーアント事件の時に鉱山にいた翼の生えたデカイ蛇だ。
あの時の奴は馬3頭分はあったけどな、しかも、シエンちゃんがビンタ一発でぶっ飛ばしてたっけ。
「しかも、たった4人で、ですよ。」
リグスさんが恐ろしい者でも見たかのようにゆっくりと言う。
ドラシュさんとナーグスさんがゴクリとつばを飲み込んだ。
「ふう、大丈夫ですよ。もう、そいつらの事は俺に任せて下さい。」
「いや、しかし、おひとりでは危険です!衛兵にも同志はいますから協力します!。」
「だがリグス君!タイミングを間違えれば君たちは反乱を起こす危険分子として罪に問われかねないぞ。」
「それは覚悟の上ですナーグスさん!!自分たちにはその覚悟があります!。」
「まあまあ、おふたりとも落ち着いて。本当に自分ひとりで大丈夫ですよ。むしろ俺のスタイルだとひとりの方が動きやすいんですよ。別に面と向かって4対1でやりあわなくても時間を稼げばいいんですから。」
「なにか策がおありなのですか?。」
ナーグスさんが俺に問い、リグスさんとドラシュさんも俺を見て返事を待っている。
実際、ヤクルス相手に4人がかりって時点て連中の実力は知れてるんだけど、ここは策があるとしておいた方が皆が安心するだろう。
「はい。ですから安心してお任せください。」
俺はゆっくりと3人を見て言う。
「わかりました。そこまで言われるのでしたら、そちらはお任せしましょう。」
「皆さん皆さん、大事な事を忘れてはいませんかね?今回の作戦は悪殺の団の相手だけじゃあありゃしません。村長一派の不正を暴き失脚させるってのが目的でござんす。問題はその不正の証拠ってわけでして。」
ジョゼンが神妙な顔で言う。
「それなら、心当たりがあるわ。」
ドラシュさんが考えるように言った。
「デビーンの弟のジーオと妹のミージハがたまにうちに来るんだけどね。毎月必ず大きなカバンを持ってきてね、コソコソと受け渡ししてんのよ。あれ、絶対、怪しいよ。」
「どんなカバンですか?。」
ナーグスさんが聞く。
「革で出来た立派なやつよ。こう、取っ手がついてて上が開くやつ。そうそう!それで金具がついてて鍵がかかるようになってたのよ!こんな所でそんな用心してるの怪しいなっていつも思ってたのよ。」
ほうほう、昔のお医者さんが持っているようなやつか。
確か、ドクターバッグとかダレスバッグとか言ったな。
俺もこっちの世界に来てだいぶ経つけど、そんなカバンを持ち歩いてるのは貴族か商会関係者かギルドの上の人か、なんにしてもそれなりの責任を負う人々だった。
「そのふたりはどんな仕事をしているんですか?。」
「ジーオはデビーン関連の商店の会計をミージハは領へ納める年貢の取り仕切りをやってます。デビーン周辺のお金の流れはこのふたりが握っています。うちのギルドへ帳簿を持ってくるのもジーオですしね。」
俺の問にナーグスさんが答えてくれる。
そうなのだ、商業に関することは商業ギルドが取りまとめているのだが、農業に関することはその町や村の自治責任者、つまり町長や村長が取りまとめているのだ。
商業ギルドに提出されている帳簿は粉飾決算のされた二重帳簿の可能性が高いな。
定期的に受け渡しされてるカバンの中身は、事実の記録された帳簿なのではなかろうか?。
「おそらくカバンの中身は裏帳簿でしょう。」
「それではナーグスさん、もしそれが本当に裏帳簿だとしてそれがあれば村長一派の不正を暴き失脚させることができますか?。」
「そうですね。内容にもよりますが、領へ納めるべき租税を懐に入れていたのなら重罪です。規模によっては国財対が出る案件ですね。」
「なんですか?こくざいたいって?。」
「国家財政対策委員会の事です。国家対策委員会が出るという事は、王に対する重大な忠誠義務違反に問われる可能性が大きいという事です。それは、一大事ですよ。」
リグスさんが説明してくれる。
A級冒険者亡命事件の時、トゲウオの街で捜査していたアッシュバーンさんが確か、安全対策委員会だった。
あの時アッシュバーンさんは、国に対する諜報破壊活動の無力化と国と国民の利益安全の保護が仕事だって言ってったっけ。
さしずめ国財対のお仕事はその国家財政版といった所か。
前世界も税の徴収は厳しかったけど、こっちはなんたって王様だからね、使い道みんなで知って明るい納税、なんて朗らかに言っちゃあいないだろうからな。
「それでは、その裏帳簿を手に入れれば我々の勝ちですか?。」
「そうですね、ギルド本部にはその可能性も含めて何度か進言していますからね。証拠さえ手に入れば話は早いと思います。トゥマスクの商業ギルドに軍用伝書鳥を飛ばせばすぐに返事は来るでしょう。問題は返事が来るまでの間です。」
「衛兵は私が押さえましょう。同志もいますからそれ程難しい話ではありません。」
俺の問いかけにナーグスさんとリグスさんが答えてくれる。
「そうなるとやっぱり問題は、悪殺の団よねー。」
「いやいや、ドラシュの姐さん。そこは心配ないとあっしからも言っておきましょうか。裏帳簿の回収はあっしがやらせてもらおうと思っとりやす。こういっちゃあなんですが、あっしもこの道のプロでやす。騒ぎにゃしないつもりです。」
ジョゼンがいつになく真面目な顔で言うけど、この道ってどの道だよ!と突っ込みたくなる。
ナーグスさん達には隠密活動のエキスパートと紹介してあるので、まあまあ苦しいかもしれないがそれなりには納得して頂き、同じ目的の仲間という事で深くは詮索しないで貰っているが。
「ジョゼンさんの事を信用していない訳じゃあないんですけどね。なにしろ連中と言ったら用心深くてねえ。知り合いが屋敷で使用人やってるけど、帰りには持ち物検査されるんですって。」
「ドラシュの姐さん、その知り合いってな村長屋敷の使用人ですかい?。」
「だけじゃないわよ。ジーオとミジーハの屋敷の使用人もやってるわよ。それぞれで雇えばいいのにケチなのよねー!。」
「そいつは姐さん、ありがたい。その方に各屋敷内の間取り図を作って貰えると仕事がしやすくなるんですが。」
もう、ジョゼンの奴は仕事って言っちゃってるよ。
「そんなのお安い御用よ。」
「クルースの旦那、こりゃ勝ちの目が見えてきやしたぜ。」
「最初から負ける気なんてないさ。」
俺はジョゼンに言ってやった。
ジョゼンよ、前世界の格闘家にそんな事を言った日には、負けると思ってやるバカがどこにいるんだってビンタされるぞ!。
「へへへっ、まったく旦那にゃかなわねーなー。」
「後は段取りだな。段取りさえしっかりしてれば。」
「仕事は成功したも同じ!。」
俺とジョゼンは顔を見合わせて笑ったのだった。




