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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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再分配って素敵やん

 シマオ村までの道行はジョゼンとふたりだったからか、もしくは野盗ネットで俺達が野盗を捕らえた情報が拡散されたのかわからないが、とにかく野党にも出会わずスムーズなものだった。

 村に到着してからも、衛兵詰め所に行き野盗との一件を説明し衛兵さんが早馬を飛ばし事実確認をし、感謝をされるまでスムーズに話は進む。

 そして、ここからですわな。


「さて、じゃあ案内してもらおうかね、付き合って貰いたい場所とやらに。」


「へいへい、それではちょいと行きますかね。」


 俺たちは低い物干し台みたいな馬繋ぎ場に馬を繋ぐ。

 ではついてきてください、と言うジョゼンの後に続いて村を進んで行く。

 村といってもそこそこの大きさで、街道から入ってすぐ衛兵詰め所がありその付近には宿屋や雑貨屋、飲食店や先ほどの馬繋ぎ場などもあり、それなりに賑わっている村のようであった。

 ジョゼンは賑わっている街並みを通り過ぎ、民家と民家の隙間みたいな狭い道を抜け、家がまばらになり畑が広がる地域を更に進んで行く。


「何処まで連れて行く気だ?。」


「もう少しでさ。」


 軽く答えるジョゼン。

 更について行くと辺りの雰囲気が変化してくる。

 どこの街にも必ずある、ケインたちと最初に会った場所のような雰囲気。

 打ち捨てられたようなボロ小屋、ただ屋根だけ残るような焼け跡のような家屋、そんな雨風もろくにしのげないような廃屋に、これまたぼろきれみたいな衣服をまとった人たちが集まっている。


「着きましたよ。」


「ここは?。」


「欠落者の地ですよ。」


「かけおちもの?。」


「はい、重い年貢に耐えられなくなり土地を手放さざるを得なくなった者たちです。」


「なるほどな。」


「なんだよネズミのオッサンまた来たのかよ。どうせ来るなら食い物でも持って来いっての。」


 振り向くとボッサボサな頭をした少年が腕組みをし、笑って立っていた。


「誰がネズミだ!ジョゼンだ!食い物は持ってこなかったけどな、話を聞かせてくれればそれ相応の礼はするぞ。みんなを集めてくれ。」


「んだよ、また同じ話をさせんのかよ、めんどくせーな。」


「そう言うな。今度は情報料を払うって言ってんだからよ。」


「本当だろうな?じゃあ、みんなを呼んで来るぜ。」


 ジョゼンに声をかけてきた男の子はそう言って走って行った。


「今の子は?。」


「へへ、あっしは仕事の前に入念な下調べをするって言ったでやしょ?その時に知り合った子でプッジョってやつでしてね。みんなを呼んできてくれるって言ってましたからね、すぐに旦那自身の目で確かめることが出来るってもんでさあ。」


 ジョゼンの言う通り、プッジョと言う子供の行動は早かった。

 あっという間に俺たちのいる場所に大勢の人が集まってきたのだった。

 俺は早速その人たちに話を聞くことにした。

 彼らは元々は農民であったのだが、年貢を納めることが出来なくなり畑や家を没収されたため、こうしてホームレスになってしまったとの事だった。

 いわゆる、つぶれ百姓ってやつだな。

 しかし、普通はその土地を統治する者にとって農民は税収入の財源であり、潰してしまうくらいなら年貢を減免するなどして生かして生産活動を維持させた方が良いはずだ。

 ところが話を聞いていると、ここの村長はむしろつぶれ百姓が出る事を促進しているようだった。

 村長家を始めて村長の親戚縁者、関係の深い商家等々なにしろ村長とゆかりの深い家には定期的な付け届けが求められ、それをする者には便宜を図りしない者には様々なデメリットがあるとの事。

 そのデメリットとは、農機具や生活必需品などあらゆるものの値段が上がる、荒天時の見回りや水路の掃除など公共のための無償労働が各家には割り当てられるのだが、それが本業に支障が出るレベルで割り当てられる、収穫物の買い取り値が下がる、凶作時などのための救済措置として村長が管理している村の資金があるのだが、それを借りる時の金利が高くなる、などなど。

 そんな事をしていれば、つぶれは出るだろう。

 それで下がった生産力をどうしているのかと思えば、没収した土地には村長の縁者のための豪華な屋敷を立て住まわせて、没収した畑の世話は自分たちに付け届けを欠かさない農家にレンタルしていると言うのだ。

 レンタル料金を取り、尚且つ収穫からは年貢を取る。

 農家に売る物品は村長の息のかかった商家。

 この村はすべて村長の都合の良いように回っている。

 村長には何もしなくてもお金が入って来る、村長の縁者もその分け前にあずかり肥え太る。

 農民は搾り取られるだけ搾り取られる。

 最近では農家の働き手の数が足りなくなってきているので、安い労働力を確保するために画策中のようで、ここにも村長の使いがやってきて労働しないか話があったそうだが、その条件はひどいもので元々提示された給金も労働の強度に比べて極めて低いのに、更に出来高が悪い時はそこから引かれるものだった。

 出来が良い時は給金が上がるのかと言えばそれはないと言う。

 更には、手が足りない時に依頼する形になるそうで手が足りている時には仕事がない、勿論給金も出ない。

 都合が良いにもほどがあるし、元々は自分たちの土地畑だったものだ、その話を聞いた彼らは激怒し村長の使いを追い返したのだそうだ。

 村長の使いは去り際に、同じ村のよしみで最初に話を持ってきたやったのに馬鹿な奴らだ、この条件でもやらせてくれと頭を下げて言う者は世の中には沢山いるんだ、そういう連中が来ればお前らなんてこの場所すら失う事になるぞ、その時に頭を下げたって遅いんだからな、と吐き捨てるように言ったそうな。

 それは、俺にも非常になじみのある話だった。

 なんせ、前世界では本当に良く聞く話だったからね。

 ピンハネ、中抜き、非正規雇用、派遣、等々、前世界では自分自身もその渦中にいたわけだし、立派なワーキングプアだったからね。

 だから彼らの置かれていた状況は良く理解できる。

 富める者は益々繁栄し、持たざる者は益々貧しくなる。

 前世界ではそのシステムはガッチガチに出来上がっており、それを是正することはどうあっても不可能に思えたものだった。

 だから俺は自分にできる範囲の楽しみを見つけ生きていたのだ。

 しかし、今、俺が生きている世界は違う。

 俺に出来る事はあるんだ。


「どうですかい?旦那?。」


「ああ、良くわかった。良く、ね。ジョゼン、ギャンブルの軍資金あったろ?あれ、要らないからここの人達に情報料として配ってやれよ。それからな、ジョゼン。どうせなら、この村の仕組みを盗んでやれよ。」


「お?旦那、いい顔してやすぜ。どういう事か話を聞かせて下さいよ。」


 ニヤリと笑ってジョゼンが言う。


「まあな。その前に作戦会議だ。今日は有益な情報を提供して頂いた皆さんと一緒にここで肉でも焼いて食おう。食材を買いに行くぞ。」


「へへへ、やっぱり旦那は話が分かるお方だ。あっしの目に狂いはなかった。」


「さて、いつまで笑ってられるかな?お前にも色々と働いてもらうぞ。」


「へっへっへ、あっしに出来る事なら何なりと。」


 笑顔で答えるジョゼン、本当に調子のよい奴だが今回の仕事にはこいつのスキルが必要だ。


「で?旦那は俺に何をさせようってんですかい?楽しい事ですかい?。」


「ああ、楽しい事だ。」


 俺たちは歩きながら話す。


「村長の所から金を盗んで彼らに配ってもたかが知れてる。彼らに元の生活に戻ってもらい本来受けるべき報酬が受けられる村にするんだよ。富が特定個所に集中しない村にする、それこそがお前の言う富の再分配の本来の意味だろ。」


「そりゃ旦那、理想はそうだがそう簡単には行かないからあっしが骨を折ってるわけでして、はい。」


「今回はもっとデカイ事のために骨折って貰うぞ。」


「それですよ、あっしが聞きたいのは。」


「なに、話自体は難しくないさ。」


 俺の考えはこうだ、村長一派の不正の証拠を盗み出し、しかるべき場所へ提出して一派を根こそぎ失脚させるというもの、至ってシンプルなものだ。

 俺はそれをジョゼンに言って聞かせた。


「旦那、それは確かにデカイ事ですが、下手すりゃお上からも奴らからも追われる事になりますぜ。」


「そうならないようにこれから作戦を考えるんだよ。」


「いや旦那、簡単に言いますけどねえ。」


「いいからいいから、やれば何とかなるもんだよ。とりあえず食材を売ってる店に案内してくれよ。」


「へいへい、参りましたなこりゃ。あっしの人を見る目も鈍りやしたかねえ。」


 ぶつぶつと文句を言っているジョゼンを急かして俺たちは商店の連なる場所へと行く。

 村の繁華街に出た所で俺はジョゼンに尋ねた。


「冒険者カードで買い物できる所かお金を引き出せる所はないか?。」


「この村だと冒険者カードで買い物できるとこはないですなあ、でも商業ギルドの出張所がありやすから、そこでなら引き出しくらいはできるんじゃないですかね。ほら、あそこに看板が出てる、あそこです。」


 ジョゼンが指さす先には他の商店と変わらぬ大きさの建屋があり入り口に、商業ギルドシマオ村出張所、と書いた看板がぶら下がっていた。


「よし、ちょっと金を降ろしてくる。一緒に来るか?。」


「いや、ギルドにゃ特に用もなし、外で待ってやす。」


「そうか。すぐ戻る。」


 俺はジョゼンにそう言ってギルドに入った。

 中は狭く長椅子が二つと後はカウンターで受け付けもおばさんがひとり座っているだけ、まるで田舎の郵便局みたいだった。


「すいません、お金を引き出したいんですが。」


「はいはい、どうぞー。」


「じゃあ、これでお願いします。」


 俺は冒険者カードを渡す。


「はいはい、それではお幾ら引き出しますか?。」


 おばちゃんはカウンターの下からテキパキと石板を出し、その上に俺のカードを乗せると尋ねた。


「そうですねえ、じゃあ、1万レインお願いします。」


「硬貨の内訳はどうされますか?。」


「うーんと、銅貨5枚と後は小硬貨を適当にお願いします。」


「はい、わかりました。」


 おばちゃんは石板をスッスと素早くなぞる。


「はい、手続きは完了です。今、現金を用意しますのでカードのご確認をお願いします。」


 おばちゃんはそう言って俺にカードを返却した。

 俺はカードの裏に指を押し当てる。

 そうすると、取引内容が明示されるのだ。

 相違ない事を確認している間におばちゃんはトレーに硬貨を入れて持ってきてくれる。

 仕事のできるおばちゃんと見た。


「はい、ではこちらお待たせしました。ご確認ください。」


「はい、どうも。」


 俺はトレーの上の硬貨を確認すると、銅貨一枚を残して革袋にしまう。


「いやあ、お姉さん、仕事がテキパキしてて小気味良かったですよ。これ、少ないですけどチップです。取っておいてください。」


「え?やだ、そんな、お姉さんだなんて、それに、いいんですか?何だか悪いわー。」


「いやいや、街ならこんなに仕事が出来ればこのくらいのチップは当然ですよ。どうぞ、遠慮なく。」


「いやー、そう?なら、ありがたく頂戴しますわね。お兄さん、どこからいらしたの?都会から?。」


「ゴゼファード領のノダハから来ました。」


「あらー!最近なにかと話題の!!いいわねー、ゴゼファード領って暮らしやすいって言うでしょ?それに、いろいろと進んでるって言うじゃない?ねー。羨ましいわー。」


 さすがはおばちゃん、グイグイ来たぞ。


「いやいや、俺なんてしがない冒険者ですからね。風の向くまま気の向くまま、浮き草稼業ってなもんですよ。それにプテターン領だって中々どうして、良く発展してますよ。」


「まあ、それなりにはねえ。」


「この村だって活気があるじゃあないですかあ。」


「それは、来たばっかりでうわべしか見てないからよ。本当の所はね、お兄さん。」


 急に小声になる受付のおばちゃん。


「ろくなもんじゃないわよ、この村は。私だってね、ギルドの仕事で期間限定だからやってるけどね、じゃなきゃこんな村にいつまでもいないわよ。」


 ヒーーット!!狙い通り食いついてきました!。


「ほうほう、そんなですか。」


「まず村長が腐ってるわよ。うちのギルド長、と言っても私とギルド長のふたりしかいないけどね、ギルド長だって村長のやり方には腹を据えかねててね、ここだけの話、商業ギルド本部へ何度も掛け合ってるのよ。」


「それでも事態は変わらないんですか?。」


「そうなのよ。本部は証拠となる物を持ってこないと動けないの一点張りで。実際、村長関連の商売での帳簿もうちで定期的に見させてもらってるけど、悔しい事になんの不正もないのよね。絶対、どこかに裏帳簿隠してるに決まってるんだから。それに領へ納めるお金も絶対ちょろまかしてるわよ。とにかく、尻尾を出さないのよねー、ムカつく事に。本当に腹立たしいったらないわよ。」


「それは許せませんね。私もトゥマスクに知人がいますから話してみますよ。ここのギルド長以外に村長の不正に腹を据えかねてる人っていないんですか?。」


「そんなの村長の身内以外全員よ。」


「そうですかー。ギルド長みたいに実際に動いてる人っていないんですか?。」


「フィルミーさん、ちょっと。」


「あっ、はい。お兄さん、ちょっと待っててね。」


 受付のおばちゃんはカウンター奥の部屋に入っていった。

 ギルド長に呼ばれたのだろうか。


「お兄さん、ギルド長が話がしたいってさ。どうぞ、こっちに入って来て。」


 奥の部屋から出てきたおばちゃんはカウンターを開きながら言う。

 どうやら、もう少し大物がヒットしたようですな。

 俺はおばちゃんに案内されて奥の部屋へと入るのだった。


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