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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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お祭り騒ぎって素敵やん

 ケリクさんのお店、鉄板焼きヒットと言う店名なのだが、そのお店は確かにケリクさんが言う通りの小さなお店だった。

 間口は開き戸で、中も大きな鉄板がどーんとありその周りにイスがあるだけのスタイル。

 確かに依頼のない時に半分趣味でやってるってのは間違いじゃない佇まいだ。

 しかし、こっちは大所帯だ。

 とりあえず間口の開き戸は取っ払っちまえという事で外して店の奥へ、そしてファントムカメリアのメンバーはこうしたことに慣れてるのか、周囲のお店に言ってイスやテーブルなどを借りてきている。

 ケリクさんは店の奥から、以前使っていたと言う鉄板や鉄網、金属製のバーベキュー台なんかを持ち出して来て店の前に並べ始め、もうお祭りみたいになってきた。


 「いやー、こんなに派手にやって大丈夫なんですか?。」


 俺は用意をしているケリクさんに心配になって尋ねた。


 「大丈夫大丈夫!たまにこんな事もやるからね。その代わりと言っちゃなんだが、周りの店でも飲み物や食い物を購入してやってよ!。」


 なるほどなるほど!こりゃいいね!前世界でもテーブルを囲むようにいろんな屋台が設置してあってそれぞれで会計するスタイルの居酒屋があったっけね。

 良く見てみれば、周りのお店も扉を開けて開店している様子。

 シエンちゃんなんか、既に山盛りの揚げた肉とポテトが盛られた皿を持って近くのテーブルに陣取っている。

 他にも準備の済んだ連中が各々飲み物なんかを買って飲んだりしているよ。


 「さあ!パーッとやりましょー!これは悪殺の団から差し入れでーす!どうぞ食べて下さーい!。」


 ありゃ、ネージュたちが切り分けたサンドチキンの肉を配って歩いてるよ。

 サンドチキンの肉だと聞いた人たちがどよめいてる。

 

 「ごちそうさまでーーっす!!。」


 「いやー!さすが悪殺の団!太っ腹!!。」


 みんなが口々に感謝の言葉を述べている。

 

 「おーい!トモちゃん!こっちだこっち!早く早く!。」


 シエンちゃんが大きな声で俺を呼んでくれる。

 俺はシエンちゃんの陣取ったテーブルに近づく。

 テーブルには焼きたての肉、なにか煮込み料理の入った鍋、山盛りのポテト、切り分けられた大きな焼き魚、もう所狭しと料理が置かれており、アルスちゃんとキーケちゃんも座って飲み物を持ち、喋りながらそれらの料理をつついていた。


 「ここここ!ここに座れトモちゃん!。」


 シエンちゃんに言われて隣の席に座る。

 

 「トモトモ、お疲れ様でした。」


 アルスちゃんが俺に木のジョッキを手渡してくれる。


 「あら!エール?。」


 「はい、そうですよ。今さっきエイヘッズ君が持ってきてくれたばかりですよ。」


 「ありがとう!いただくとするか!。」


 「お疲れだったな、トモよ。」

 「お疲れキーケちゃん!シエンちゃんもお疲れ!。」


 「お疲れだ!。」


 俺たちはそれぞれ持っている飲み物を掲げ乾杯した。


 「しかし、あれだね。冒険者稼業をやってると段々、世界の妙な連中と関わることになるもんだね。」

 

 俺はエールをグッと飲んで息を吐き落ち着くと、ジョッキを置いて言う。


 「きひひ、ストーンキッズに今度はミドルパか。まあ、特別依頼なんて受ける立場になれば必然的に絡むこともあろうさ。だがな、まだそいつらは商会という実態があるからある意味管理しやすい。レインザーは勿論の事、各国も目を光らせてはおるのだ。だからこそ、やつらもそこまで大掛かりなやり方ができん訳さ。」


 「実態?どういう事?。」


 「うふふ、トモトモ。組織が存在する事は確かですが本体がわからない、組織員はあらゆる商会、国、犯罪組織に潜んでいる。そうした組織もあるのですよ。」


 「うわっ、それ、やだなー。前に話した発見者騒動の時、普通の市民が急に襲ってきたり、街中で吹き矢で攻撃されたりしたからね、あれは不気味だったもん。」


 「きゃははは!心配いらん!我がおる!今日は楽しもうではないか!。」


 「そうだなシエンの言う通りよ。今日は食べて飲もうではないか。」


 「うふふ、今日は楽しみましょうね。」


 「きひひ、アルスは上機嫌よな。」


 「うふふ、ねえトモトモ。」


 「ああ、勘弁してよー、ホント、修行が足りなくてお恥ずかしい。」


 「きひひ、本当だぞ。タヌキ爺クラスを相手にした時にあれでは命にかかわるぞ。」


 「トモちゃんは優しいからな。でもなトモちゃん、その優しさで自分も他人も殺すことにならないようにだけは気を付けるが良いぞ。これは、マジだぞ。」

 

 シエンちゃんの言っている事はよく分かった。

 それは、あの後、俺も考えた事なんだ。

 優しさとシエンちゃんは言ってくれたが、おそらくは弱さなんだと思う。

 俺は自分でもわかっているのだが、親しい人が傷つくのが耐えられないのだ、耐えられぬばかりに目を塞いでしまうような所があるのだ。

 本当なら直後に思いつくべき事、優先すべき事、今回ならばアルスちゃんの安否確認と保護をすっ飛ばして復讐に向かってしまった事。

 これは今後、実力が近い相手や自分より強い相手と事を構えた時に致命的になる。

 痛い事や嫌な事から目を逸らさない、現実的な解決策を選択できるレベルの冷静さを保つ、これは今後の俺の課題だな。

 俺はそう考え、そうした事をポツリポツリと仲間に話した。


 「うむ、お主がそこまで考えているのならばなにも言うまいよ。」


 キーケちゃんがそう言いジョッキを傾けた。

 アルスちゃんとシエンちゃんは、うんうんと頷き食事を続けるのだった。

 

 「いやー、今回の任務はお疲れさまでしたー。」


 ケリクさんがジョッキを片手にやって来た。


 「お疲れでしたー。店の方は大丈夫なんですか?。」


 「ええ、もうみんなで勝手にやってますよ。もう、うちやブランカのメンツだけじゃなくて、近所の連中も混じってお祭り騒ぎですよ。サンドチキンの肉、近所の連中もご相伴にあずかってしまって、なんだかすいません。」


 「構わん構わん!大勢のが楽しいもんだ!な!。」


 シエンちゃんが言う。


 「その代わりと言ってはなんですけど、これは近所の連中からの差し入れです。どんどんやって下さい。」


 ケリクさんが言うと、大きなトレーにいろんな食べ物飲み物を持った人たちがこちらにやって来た。


 「いやー、あんな高級肉食べれるなんて思わなかったです。これ、良かったら召し上がって下さい。」


 「本当にご馳走さまですー。飲み物も置いておきますねー。足りなくなったらすぐそこのラビーってお店なんで来てくださいねー。勿論、今日は無料で提供させていただきますよー。」


 「これはうちの自慢の肉煮込みだ。是非食べてくれ!。」


 「よーしよしよし!遠慮なく貰おう!。」


 「あら、この飲み物は山ぶどうかしら。美味しいー。」


 「どれどれ、あたしも頂くかね。うん、美味い。」


 うちのメンバーも喜んでいるようで嬉しい限りですよ。

 そして、山ぶどうのジュースは良く冷えてて非常に美味しい。

 酒の口直しにぴったりだ。

 煮込み料理もコクがあって非常に美味い。

 

 「飲んでるかー!!。」


 「ちょっと姐さん!酔い過ぎっすよ!。」


 「これぐらいで酔ってなどおらん!。」


 おっ!セルミーさんやって来たが、だいぶ酔ってらっしゃる様子。

 一緒にいるのはブランカフォックスのメンバーで確かギークさんだったか。

 

 「すいませんねー、姐さん酒癖悪くって。」


 「何言ってんだギーグ!場がしらけるような事を言うな!。」


 「あたっ!。」


 ギーグさんはセルミーさんに頭をはたかれている。

 こりゃ、ギーグさんも苦労してるなあ。


 「邪魔するぞ!。しかし、デスポイントに行ってしかも手練れとやりあっていながら、負傷者なしとは恐れ入った。君たちが捕縛した5人組だが、あれは全員名の知れた元冒険者でな。」


 シエンちゃんの隣にドカッと座り大きな声で言うセルミーさん。

 そして、どもども、と頭を下げながらその隣に座るギーグさん。


 「元と言うと今は違うんですか?。」


 俺は聞いてみる。


 「ああ、そうだ。皆、腕は良かったのだが暴力に酔いすぎる傾向があったのだ。時にそれはパーティーメンバーに向かうこともあるほどでな、そんな事では誰も一緒のパーティーになろうとは思わなくなる。そんな連中が集まって徒党を組んだのがあの5人組さ。あまりにも素行が悪いため冒険者としての資格を剥奪されている。その後は落ちるところまで落ち、数々の犯罪行為に手を染めている。当然ながらお尋ね者でな、今回は依頼料に上乗せしてそっちの懸賞金も結構な額入るぞ!。」


 「あらあ、そんな方々だったんですかあ。本当に仕方のない人達ですねえ。」


 のんびりした口調でアルスちゃんが言う。


 「今回は各屋敷にいた用心棒の中にもお尋ね者がかなりいたようだな。俺たちもそこそこ稼がせて貰ったよ。」


 ケリクさんも上機嫌で言う。


 「そう言えばフライリフ君達が捕縛した自称十本指ですか。あの連中も賞金首だったようですね。」


 「そうだそうだ!君たちの生徒は本当に素晴らしいな!全員うちのパーティーに欲しいくらいだ!特にネージュ君はいいな!彼女は是非、自分の後継者として育てたいのだ!ネージュ君をくれぬか!頼む!。」


 ギーグさんに続いてセルミーさんがいきなりの爆弾発言後に頭を下げた。


 「いやいやいやいやいや!頭を上げて下さい!俺は別にネージュの父親じゃあないですから!うちの生徒たちの将来は彼ら自身が決めるものですから。」


 「そうか。それは残念だ。クルース殿から説得してくれれば返事も変わると思ったのだが。」


 ショボンとするセルミーさん。


 「いやあーネージュ君もみんなも、まだまだ学びたい事が沢山あるし興味のある事も沢山あるんで、と丁重にお断りされましてね。姐さん、諦めましょう。」


 「いーや!諦めんぞ!こうなれば学園に足繫く通わせてもらうぞ!こうなったら飲むぞ!とことん飲むぞ!。」


 「はいはい姐さん。付き合いますよー!。」


 セルミーさんはそう宣言すると、ギーグさんを引き連れて飲み物を提供してくれたラビーという店へと歩いて行った。

 

 「いやはや、やかましい連中ですいませんな。ああ見えて後進の育成には常日頃から気をかけている奴でしてな。」


 ケリクさんがそう言ってセルミーさんを見る。

 セルミーさんはエマに抱き着いてうちに来いと大きな声で言っており、エマはやめちくりーとバタバタしている所だった。


 「ははは、えーと、そんな話をしに来たのではなかった。」


 「と、言いますと?。」


 誤魔化すように笑って居住まいを正すケリクさんに俺は尋ねる。


 「実はちょっと相談したい事がありましてね。」


 急に真顔になったケリクさん。

 なんだなんだ?。

 俺も身構えるのだった。


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