ジャングルクルーズって素敵やん
「お前、言ってたことと相違があればただじゃおかないぞ。悪殺の団リーダー、怒りの赤い龍、トモちゃんが黙ってないぞ!!。」
「あら!それは聞き捨てならないですわ!悪殺の団リーダー、愛の戦士トモトモが黙ってませんわよー。」
「ちょいちょいちょいちょい!二人とも程々に!ソルデン君がビビりまくってるでしょ。」
シエンちゃんもアルスちゃんもソルデン君を脅すついでに俺を何に仕立て上げるつもりじゃ!アルスちゃんに至っては山奥で修行しなきゃならなくなるわ!。
二人とも俺には笑顔でハーイなんて返事してるけどね。
「この野郎、野生の魔物利用して随分勝手な事をしてくれたなあ。お前の家を教えろ、更地にしてくれるわ。」
「本当にあれは不愉快でしたわ。これから迷惑かけた魔物さん達に謝罪に行かせましょうか。身体を張ればわかって貰えますよ、きっと。」
ふたりとも小声ではあるけど、真顔で目を見て言ってるもんだからソルデン君は目をウルウルさせて小動物のように震えてただひたすら首を横に振っているよ。
まあ、彼にはそのくらいの目には合って貰わないと自分が加担してたことがどういう意味を持つのか理解できないだろうからな、いい薬ではあるだろう。
勿論、きちんとした裁きは受けてもらうんだけどね。
ソルデン君みたいな人って小理屈こねて高圧的に出るから、常識ある大人は話にならない人だと判断して無駄な時間を省くために引くんだよね、それを理屈で勝ったと思っちゃうもんだから処置なしなんだよなあ。
捕らえられてんのに途中まで自分が教えてあげるから的な態度だったもんなあ。
どこかで痛い目見ないとわからない人っているんだよね。
その痛い目が死じゃなければいいけども、この世界は前世界程その辺、ぬるく無いと思うんだよね。
前世界はその点、まだぬるかった。
特に俺が暮らしていた国では死はそこまで身近なものではなかった。
俺がいたころに見た死因のランキングは、悪性腫瘍が一位で続いて心疾患、老衰、脳血管疾患となっていた。
まあ、年齢別にするとまた違った結果になるが、いずれにしても俺が暮らしていた国の中では戦争も起きてなかったし、法治国家で武器の所持も制限されていたが山賊や海賊が出るでもなし、熊や猪なんかは出る場所もあるが出ればニュースになるほどの事でありそう滅多には人を害さない、他に武器を所持してないと危ないような生物もいないしで、人々は安全を享受し丸腰での生活が当たり前だった。
それは良い事だと思う、思いはするんだけど、こっちの世界に来て出会った人々を見るとどっちが良いのか即答できない。
こっちで出会った人々は皆、生きる事に飽きてないというのか、エネルギーがあるというのか。
そんなところも大いに気に入っているのだけど、話を戻そう。
屋敷の中を再度確認し、他に囚われ人がいない事や何か証拠になりそうな書類などがないか探すが、ソルデン君の言った通り、囚われ人もいなければ帳簿の類も一切なかった。
書の類であったのは地図と魔物の図鑑、娯楽のための創作物語くらいであった。
ソルデン君が図鑑が二冊消えていると言う。
植物についての図鑑が二冊あったはずだが無くなっていると主張する。
もしかしたら何らかの事情があってサーヴィングが持ち去ったか処分したのかも知れない。
ソルデン君も知らされていない情報が入っていたのかも知れない。
現段階ではうかがい知れないのでとりあえず良しとして、我々は当初の予定通りデスポイントから出ることにした。
ソルデン君と五人組を一つの小船、もう一艘の小舟にはその他の用心棒8人を乗せる。
二艘の船は縄で縛り繋げてある。
一艘目の船首と二艘目の船尾に縄が括ってあるので、それを持ちながら洞窟を歩いて進む。
先頭を歩くキーケちゃんと一番後ろを歩く俺で縄を持つことにする。
小舟より少し広い幅の地下水脈は、本当にゆっくりゆっくりと流れており、場所によっては歩く速度よりもゆっくりになってしまいキーケちゃんが縄を引いたりもした。
俺にはフラットに感じられる道は緩やかに曲がり、そして長く続いた。
囚われていた二人の子供も気丈に歩き続け、早く親元に帰りたくて仕方がないのだろう、休憩しようと言っても歩き続けると言って聞かない。
仕方がないので、ソルデン君を歩かせて子供たちを船に乗せてやる事にする。
ソルデン君は足枷だけ外してやり妙な事はしないよう重々言い含めたが、アルスちゃんとシエンちゃんから受けたプレッシャーが効いたのか余計な事は言わずに素直に頷くのみだった。
そうして、結構な時間地下水路を歩くとやがて薄っすら明かりが見え、出口にたどり着いた。
地下水路から流れ出た水はそのまま川になり、その川はやがてデスポイントから流れ落ちる滝から発生する大きめの川に合流する。
合流地点の陸に同サイズの小舟が二艘、裏返しにしておいてある。
ソルデン君に確認すると、やはり彼らが用意した物だと言うので使わせてもらう事にする。
二艘の小船を連結し、先頭にキーケちゃんとアルスちゃん、魔物狩り師のドーケンさん、そしてどうしても先頭が良いと言う子供二人、最後尾に俺とシエンちゃん、そしてウォーレンさんと残りの囚われていた人達が乗り込み、四艘連結で川を下る事となった。
フリーエリア侵入に比べて魔物狩りのエキスパートがいるので移動はすこぶる楽であった。
ほとんどの魔獣はドーケンさんとウォーレンさんが、何か丸薬的な物をぶつけたり、笛を吹いたり、粉を撒いたりするなどして戦わずに済ませてしまうのだった。
「ほうほう、さすがはその筋のプロだな。無用な争いにならないのはアルスも喜ぶだろう。」
「ホントだねえ。これは助かるねえ。ドーケンさんとウォーレンさんみたいな人がいればフリーエリアに居住区を作ることも可能なんじゃないかねえ?。」
「いやいや、そんな事は。それに、ここに居住区を作るメリットがあまりないですからね。」
シエンちゃんと俺の話に謙遜して言うウォーレンさん。
「そうかあ、確かにそうかもしれないなあ、できたとしてもそれに伴う価値がなくてはやる意味がないか。まあ、そんなに人の居住区を広げる必要もないもんね現状では。手つかずの自然を残すのも大切か。」
「不思議な事をおっしゃいますなクルースさんは。手つかずの自然ですか。そんな風に考えた事はなかったですよ。自然を残す、ですか。」
考え込むように言葉を噛み締めるウォーレンさん。
そうだな、確かに自然を残すなんてのは前世界的な言い方だったかもしれないな。
考えてみると随分と傲慢な物言いのようにも思えてきて少しだけ恥ずかしくなった。
「ほら!見てみろトモちゃん!あいつは一生木から降りないんだぞ!変な顔をしておる!。」
そんな俺の思いを察してかシエンちゃんが愉快な顔をした生き物を指さして教えてくれる。
木にぶら下がったその生き物は、平たくて膨れたような顔をしており確かに変な顔だった。
「ホントだ、面白い顔してるねえ。」
「だろだろ?葉っぱしか食べない癖に凄い爪をしてるし、おかしなやつだ。」
なるほど、確かに。
前世界のナマケモノみたいな生き物だ。
落ち着いて良く見てみれば水辺にはいろんな生き物が見受けられる。
俺はシエンちゃんのおかげで気分を持ち直し、ジャングルクルーズを楽しむことにしたのだった。




