空って素敵やん
洞窟を出て待っていると、シエンちゃんが凄い勢いで行ったり来たりしている。彼女が往復する度に洞窟前に果物の山が出来上がる。
「おーーいっ!止まって止まって!」
「なんだ!どうした?何があった!言ってみろ!」
「何があったって。こんなにどうすんのよ?」
「どうするのって食べるに決まっている。他に何か使い道でもあるのか?何か楽しい使い道が!トモちゃん!お前なら知っていそうだな!どうやるのだ!ほれ!このバナナで見せてくれ!ほれほれ!」
そう言って俺の顔にバナナをぐりぐりと押し付けるシエンちゃん。
「よせってば。そうじゃなくてこんなにたくさん食べきれるのかってことだよ。それとも随分と時間がかかるの?」
「いや、かからん。今から出発しても日暮れまでには到着するな」
「じゃあ、こんなにいっぱい要らないよ」
「そんなぁ。せっかく採ってきたのにぃ」
ショボーンと肩を落とすシエンちゃん。
「いや、そんなしょんぼりするなって!出発前に食べようよ!そうだ!腹減ってたんだ!忘れてたよ!いやー!腹減ったー!」
「そうか!よし!食べよう、食べよう!出発前の腹ごしらえだ!な!トモちゃん!」
満面の笑みで言うシエンちゃん。本当に、天真爛漫って言うのかなんて言うのか。まあ、悪い奴じゃないよな。俺はだんだん慣れてきたのか、シエンちゃんの乱気流のような感情を少し好ましく思えてきていた。
シエンちゃんが採ってきてくれた果物は、バナナやマンゴー、パパイヤ、からマンゴスチン、ランプータン、まわりがギザギザしたやつ、何だっけねバンレイシだかアテモヤだか、もう、トロピカルフルーツてんこ盛りで、こりゃ、前世界ならお高いぞ。香りもいいし、猛烈に食欲が出てきた。
「うわー!めっちゃ美味そう!いっただっきまーす!」
「よしよし!我も食べるぞ!」
俺は最初にギザギザしたやつ、アテモヤ(仮)をウェストバッグから出した、アウロさんに最初に貰ったでお馴染みの小刀でぱっくりとふたつに割った。
緑色の外観に中身はきれいな白色。プーンとかなり強い甘い香りがする。
「なんだトモちゃん!丸ごといかぬのか!」
「なによ、いつも丸ごといってるの?」
「当然であろう」
「いや、当然じゃないよ。ほら切ってやるから」
俺はシエンちゃんが持ってきたバナナについてた大きな葉を地面に敷く。
そして、手近な枝を軽く加工して爪楊枝を作る。
そして、トロピカルフルーツの果肉を食べやすくカットして葉の上に並べていく。
「ほら、これで刺して食べな」
そう言って俺はシエンちゃんに自家製爪楊枝を渡す。
「ほう、器用だなトモちゃん!なんだか楽しくなってきたぞ!人は面白いのう!いただきまーす!」
「はい、どうぞ」
俺もカットしたアテモヤ(仮)を食べる。ちょっとプニプニと柔らかかったので痛みかけてるのかなと思ったが、むっちゃ甘い!なんだかヨーグルト味のゼリーみたい!
「むっちゃ美味い!」
「美味しいな!美味しいな!中身だけ食べるとこんなに美味しいのな!やはりトモちゃんは面白いな!」
何だかんだでふたりしてほとんどのフルーツを食べてしまった。
「いやー食べた食べた!美味しかったなー!な!それじゃ、寝るか!」
「そうそう、食ったら寝るに限る。って、おーい!送ってってくれるんじゃないんかーーーい!」
俺は乗ってから突っ込んでみた。
「きゃはははは!さすがはトモちゃんだのう。面白いのう!わかっているのう!」
「ゴアアアアア!」
「キョォォォォォーーー!」
「ほれ!トモちゃん!空を見てみろ。面白いぞ」
空を見上げると翼の生えた巨大なライオンとこれまたバカでかい猛禽が戦っていた。
「マンティコアとロックだな。どっちが勝つと思う?トモちゃん!」
「ふひゃー!スゲー!」
実際凄かった。巨大ライオンマンティコアは尻尾がサソリの尾みたいでそれを使ってロックを牽制している。
ロックはこれまたバカでかい鷲爪で上空から攻撃を仕掛ける。
「空中戦ではロックに分がありそうだねえ」
「それはそうだ。あれは鳥だからな。美味しいんだぞ」
「シエンちゃんにとってはただの食べ物かいな。おっ!マンティコアが落っこちたぞ」
マンティコアはサソリの尾をロックに握り潰されたようで、シッポがブランブランになって地上の密林へと消えていった。
「どうなったんだ?」
「うむ、マンティコアは逃げたのう。しっぽをやられたのう」
「尻尾巻いて逃げたってか」
「きゃはははは!まさにそうだな!まあ、折れてるがのう。しばらくはロックがでかい面をするのう。我に挑んでこぬかのう」
「もう、シエンちゃんは好戦的だなあ。最強生物なんだから、もっとどっしりと構えていたほうがいいぞ」
「別に我は最強ではないぞ。我より強いものなどいくらでもいるぞ」
「マジで?」
「マジだぞ」
「おっかねーー!」
「おっかなくなかろう。楽しいではないか」
「うわっ、なによシエンちゃんは戦闘狂ってやつ?俺より強い奴に会いに行くとか?そんななの?」
「トモちゃんは我をなんだと思っとるのだ。別にわざわざ探しに行ったりはせぬ。だが、世界には自分より強いものがいると言うのは愉快ではないか」
「ふーん。なんか、あれだね、シエンちゃん。いいね。そういう所」
「そうか?そうか?もっと褒めろ!」
「いや、人間はさ、最強になって好き勝手に生きたい!とかさ、とんでもない金持ちになって好き勝手に生きたい!とか思ってる人が多くてね」
「別に今のままで好き勝手に生きればよかろう」
「そうもいかないのが人間なのかね。まあ、最強になろうがどえらい金持ちになろうがそんな好き勝手に生きれるわけでもないと思うけどさ、なんか自由をはき違えてるのかね。シエンちゃんはそういう所ちゃんと分かってるよな」
「くふ、くふふふふ。トモちゃんは褒めるのが上手だのう。今まで我を称える者や崇拝する者もおったが、どいつもこいつも我の強さや知識量ばかり褒めよった。そんなものは我を構成する要素のごく一部ぞ。我の本質とは遠いのだ」
この子はこの子で身の内に孤独を秘めているのかも知れないな。
今までメリットデメリットで近づいてくるやつばかりだったのかも知れないな。
よし、じゃあ、そういうの抜きで付き合える奴らのいる場所に行こうではないか。
「よし、じゃあ、シエンちゃんの本質と付き合える人に会いに行こう」
俺はシエンちゃんの頭をワシワシと撫でながら言った。
「なんだ、これは?」
キョトンとして俺に言うシエンちゃん。
「なにって、頭を撫でてあげてるんだが」
「どういう意図で?」
「いや、なんてんだろうな、言葉では言い尽くせないから思わず出る行動だからなあ。なんてんだろうな。よしよし、よく頑張ってきたな、偉かったな、って気持ちとか、これからは一緒にもっともっとシエンちゃんの本質を理解する仲間を増やしていこうなって気持ちとか、そうした意図かな」
「・・・・・・。くふ、くふふふふふふ。トモちゃーーん。いいぞ!いいぞお前は!とてもいい!」
俺をビシッと指差して言うシエンちゃん。
「早速行こう!すぐ行こう!よし行くぞー!」
はーテレビもねー!ってか!。こうして俺とシエンちゃんはノダハに行くことになったのだ。
おらノダハさいくだ!
シエンちゃんはドラゴンになる。最初に洞窟内で見た大きさよりも小ぶりだ。
「なによシエンちゃん、大きさ自由自在なん?」
「ふふん!見事だろう!まあ、勿論限度はある。だが発揮できる力にさほど変わりないぞ!さあ!乗った乗った!」
「おお、じゃ、おじゃましまーす」
俺は龍になったシエンちゃんの背中に乗る。
「首のところにまたがって角を掴め」
「はーい」
俺は言われたように首の根本にまたがって座り、長い首に並ぶ大きな角を掴んだ。
「よし、しっかり持ったか?行くぞ」
そういうとシエンちゃんはゆっくり羽ばたき宙に浮いた。
それは飛ぶために羽ばたいたというよりも飛ぶと羽が動く、といった感じだった。
ある程度の高さになると一気に加速した。
「おおうっ!」
「振り落されるなよ!」
なんだか彼氏が運転するバイクの後ろに乗った女の子みたいな気分だ。
意識が引っ張られるような凄い加速だ、頭を上げたら持ってかれそうだ。前世界で若い頃に所有してたリッターバイクを高速道路の合流地点でフル加速させたときに感じたようなやつ。心臓がドキドキする。やべーー、楽しい!
「うひゃーーー!きっもちいいーーーーー!」
「そうであろう、そうであろう!もう少し速度を上げるぞ!」
「よっしゃ!いけいけーー!スピードの向こう側に行くぜ!」
「くふふふ、ワクワクするのう!」
更にスピードが上がる。
「面白いことをしてやろう!よく見ておれよ!」
そう言うとシエンちゃんは高度を下げる。
速度を落とさず海上ギリギリまで高度を下げる。海の上を切るように海水が後ろに巻き上げられていく。
シエンちゃんの後ろ足の付近に空気の層が目視できる。これ、ひょっとして、ソニック的な?
「すげー!すげーすげー!マジすげーよ!シエンちゃんバリーーッ!キャッホーーー!幻の6速だぜ!ビートツ来いやーー!」
「くふふふふ、楽しかろう!我も今日は楽しいぞ!くふふふふ」
いやー、最高だ。こりゃ気持ちいい。最高にハイってやつだ。
「いつまでもこうしていたいなあ」
思わず口をついて出てしまう。
「えっ?」
おうっ、急に飛行に乱れが出て左右に揺れる。
「ど、ど、ど、どーしたー?」
「トモちゃんが急に妙な事を言うから驚いたのだ。もー」
おう、ドラゴンモードでプンプンモードのシエンちゃん。龍状態でも照れてるのがわかる。
「ありゃりゃ、照れたか!シーちゃんカワユス!カワユスシーちゃん!わーーい!」
俺はシエンちゃんの首をニーグリップして手を叩いてはやしてみた。
「よさんか!」
「いやー、でも本当に最高だな!」
「いつでも飛んでやるぞ」
「ありがとう」
「ふふふ」
そうして俺たちは空の旅を楽しんだのだった。
「もうすぐ着くぞ」
シエンちゃんが俺に言う。
「おう、そうか。それじゃ人目につかない所に降りようよ」
「わかっておる。騒ぎになると面倒だからの」
「ふふふ、言うまでもなかったな。かしこかしこのシエンちゃんだもんな」
「くふふふふ」
シエンちゃんは速度を緩め再び海上すれすれを飛ぶ。今度はさっきみたいなショックウェーブは起きない。
まるで海上をするすると滑っているかのような錯覚を起こすほど水面ギリギリを飛ぶシエンちゃん。
遠くに陸が見えてくる。
「あそこだ、あそこだ」
シエンちゃんが言ってる先に見えるのは断崖絶壁。近づくにつれ崖の中ほどに空いた穴が見える。
「洞窟か」
「そうだ。あの中に入るぞ」
そう言うとシエンちゃんは高度を上げて洞窟の中へと進むのだった。




