虜囚救出って素敵やん
ドーケンさんとウォーレンさんは地下鍾乳洞で待機してもらい、我々は見取り図を頼りに地下牢があると思われる場所を探す。
「この辺りだろう。ちょっと穴を開けてみるぞ。」
シエンちゃんはそう言うとまた天井に穴をうがち始める。
「しかし、あれはなんで土くれひとつ出ないのかね?溶かしてるの?。」
俺はシエンちゃんに聞いてみる。
「あれは圧縮してるんですよ。周囲に押し寄せてるんです。ですから開けた穴周辺の地盤は固くなってます。その代わり重量が重くなってますので注意が必要です。」
「なるほどねー。あれだね、土魔法でより硬い鉱石を発生させる時と似てるねえ。」
「そうですね、通じるものは勿論あります。」
フーム、これは極めればダイヤモンドなんかも作れるかもしれないな。
「ここで間違いなさそうだ。牢番が二人、あとは部屋があるみたいだがそちらに人はいないようだな。」
戻ってきたシエンちゃんが言う。
地下牢はドーケンさんたちも入ったことがないので、大まかな位置は分かるが周辺の詳細な間取りは分からないそうなので、牢周辺に部屋がある可能性もあるってんでシエンちゃんには慎重に探って貰ったのだった。
「よし、それではその部屋の中に出るとしようか。できるかシエン?。」
「簡単な事だ。」
キーケちゃんに答えたシエンちゃんは天井をじっと見て、ここだな、と一言呟くと飛んで行ってさっきのように穴をうがち始める。
スイスイと天井に穴を開け進んで行くシエンちゃん。
すぐに姿が見えなくなり、少しするとまた落ちてくるように戻ってきた。
「部屋にはやはり誰もおらんぞ。」
「ありがとうございますシエンさん。では行きましょう。」
そう答えたアルスちゃんは、すぐさま飛んで部屋へと向かっていくので俺も後に続いた。
アルスちゃんに続いて天井の穴を通過して部屋に入る
部屋にはテーブルとイスが二脚、そしてシンプルな木製の棚が一つ。
壁には剣が3本、立てかけてある。
「扉を開けると左側に二人、牢番がいる。声の位置からしておそらく二人ともイスか何かに座っていると思う。」
壁に耳を当てたシエンちゃんが小さな声で俺たちに言う。
「よし、あたしが行こう。」
キーケちゃんは笑顔で言うと、音もなく扉に歩いて行く。
「行くぞ。」
小声で言ったキーケちゃんは一息で扉を開けると風のように飛び出していった。
すぐに続いて出た俺が見たのは、イスに座ったままテーブルに突っ伏しているひとりの男と、キーケちゃんに喉をがっちりつかまれてキョトンとしている男の姿だった。
「声を出したら喉をつぶす。わかったら頷け。」
キーケちゃんに小声で言われてゆっくり頷く男。
「見張りの交代はすぐにはないか?。」
男は額に汗を浮かべながら掴まれた喉に負担をかけないようにゆっくり頷く。
牢の先にある階段付近で気配を伺っていたアルスちゃんがこちらを見て頷く、どうやら近づく気配はないようだ。
「うむ、では眠れ。」
キーケちゃんが喉をつかんでいた手を放して男の顔を、目を閉じさせるように撫でる。
男はそのままテーブルに突っ伏した。
シエンちゃんは牢屋のカギを、先に突っ伏していた男の腰から取ると、牢を開け中に入った。
牢の中、隅っこに人が片寄せ合うように固まっている。
男性一人、女性二人、子供が二人。
いずれも怯えた目をしてこちらをじっと見ている。
身なりもそれほど汚れていないし、顔色も悪くない。
暴力などは受けていないようで良かった。
大切な商品だって事だろうか。
「助けに来た冒険者だ。ここを出るぞ。騒がずについてくるがよい。」
シエンちゃんが声をかけると子供ふたりは顔を見合わせ、大人たちは大きく頷いた。
俺たちは囚われていた人たちを隣の部屋に誘導し、部屋の床に開けた穴から地下鍾乳洞へと非難させる。
囚われている人全員を地下に誘導し、俺は彼らに事情を説明する。
そうしていると、上から地下牢撤収作業を済ませたアルスちゃんが最後に降りて来る。
アルスちゃんには簡単には地下牢に入れないように階段を土魔法で塞いでもらったのだ。
その上で地下部屋の侵入口は分からないように戻してもらっている。
「さてと、この後が本番よ。」
キーケちゃんがそう言って作戦を説明する。
三手に別れて突入する、場所は最初に侵入したドーケンさん達の部屋、家の外から正面玄関、そして本命の二階奥の部屋、これをほぼ同時に突撃する作戦だ。
ほぼ同時と言うのはまず正面玄関から派手に突撃後、後の二か所はその音を合図に侵入し、できるだけ速やかに相手戦闘員を無力化し、他に囚われている人がいないか探す手筈。
「ざっとこんな感じで行こうと思う。異論はないか?。」
キーケちゃんが我々に尋ねるが皆、異論はなかった。
「よし、では人員の配置なのだが、我らの中から誰かひとり、彼らの警護と不慮の事態への備えとして待機してもらいたいと思う。誰か頼めぬか?。」
「よし、我が頼まれよう。」
「うむ、助かるぞシエン。では突入班だが正面はあたしが、室内からはアルスが、二階奥の部屋へはトモがという事で良いか?。」
「え?マジで?俺が?。」
「ああ、そうだ。恐らくそこにはこの屋敷の責任者がいよう。話し合いで投降させられれば上々、そうでなくともトモならば平和的解決策を選択するだろう。お願いできるか?。」
「うん、そういうことなら任された、出来る事をやるよ。」
「うむ頼んだぞ。そしてアルスよなるべく隠密裏に頼むぞ。正面に敵を引き付けたいでな。」
「わかりました。一階は半分、正面玄関逆側を捜索したら二階へ上がります。」
「よろしく頼む。では行こう。」
「がんばれよ、トモちゃん。」
「うん、行ってくるよ。」
なんとなくシエンちゃんの表情から母親的な慈愛を感じる。
なんかちょっと、照れ臭かった。
俺は二階奥の部屋に外側からアプローチすべく、二階奥部屋の真下に位置する辺りへアルスちゃんに教わったやり方を真似て土魔法で分け入っていく。
うん、イメージとしては藪を分け入っていくのが近い。
ワシワシと岩盤を押し込みながらキーケちゃんに当たりをつけてもらった箇所を進んで行く。
しばらく穴を作りながら進むとうっすらと地上の気配がしてくる。
熱や風の気配をだんだんと強く感じて来る。
慎重に地上に出てみる。
少し顔を出し周囲を見る。
くるぶし丈の草に囲まれたその場所は見事屋敷のすぐ脇、二階奥部屋の窓のほぼ真下だった。
さっすがキーケちゃん、かなり適当に、ホイここにせいってな感じで見てくれたんだが見事すぎる。
俺は気配を消して屋敷の壁にくっつき、サウンドコレクションを使って正面玄関方面の音に注意を払った。
しばらくそうしていると、ドーーンッーー、と大きな音がし屋敷内から男たちの声や走る音が聞こえた。
一拍待って俺はゲイルを使い、例の窓の近くへ移動する。
気配を消したままサウンドコレクションを使って部屋内部に耳を澄ます。
「ソルデン氏はここから動かないで下さい。ドッカはここで待機しろ。様子を見て来る。」
「おう。」
野太い男の声の後に扉の開閉音と遠ざかる足音が聞こえる。
「だ、大丈夫なのか!お前は行かなくていいのか!。」
「大丈夫ですよ、下にはうちの連中がいるんです、それに加えて今カルタノが向かったんですからね。ただ、警戒はしてくださいよ、賊がどこにいるかわかりませんからねっ!。」
中から殺気が走り、窓から入ろうと構えた俺に向かってなにかが飛んで来た。
俺は何かを避けながら窓をぶち破って部屋の中に突入する。
「ほら、いたでしょ?。」
ねっとりした声で言った筋肉の塊のような小男は、小さな目をさらに細めニヤ付きながら両手に持ったモーニングスターをクルクル回している。
こん棒の先に鎖に結ばれた棘鉄球がついているこの武器、おそらく先ほど俺を攻撃したのもこれだろう、鎖が伸びるギミックが施されていると見て間違いない。
「ほらではないわっ!!早く捕らえよ!早く!。」
中肉中背、カイゼル髭を蓄えた男が偉そうにわめき散らす。
いかにも、小さい権力を笠に着る小人物と言った風情だ。
「あなた、ドッカと呼ばれてましたよね?雇い主に恵まれなかったようですね。」
「ひゅっ!。」
短い呼気の音と共に、体格からは考えられないような速さで間合いを詰めて来るドッカ。
狭い室内にはソルデンと呼ばれた男の他に、イスに座らされ頭にふくろを被せられた人がひとりいる。
俺は向かってくるドッカの振るう棘鉄球を片手で受け止め強引に奪い取り窓の外に投げ捨てる。
驚愕の表情を浮かべながらもためらいなくイスに座らされた人の元に飛んだのは、さすがその道のプロか。
人質にとって有利に事を運ぼうって考えたのだろうが、それは俺も視認した瞬間に危惧してた事だ。
想定していた通りの行動をとるドッカの頭に空雷弾を当てるのは、さほど難しい事ではなかった。
飛んでいるドッカの頭から胴へ三発、俺はしっかりと食らわしてやった。
食らったドッカは身体を硬直させてそのまま壁に突っ込んっで行ったので、俺はドッカとイスの人の間に立つように移動する。
「あいつつつ、なんだいそりゃ?やってくれんじゃねーか?。」
頭をさすりながら起き上がったドッカの小さな目は笑っていなかった。
「楽しませてくれよ。」
ドッカはそう言うと何も持っていない右手を軽く振った。
空中に5本発生した氷の杭が俺に向かって飛んで来る。
俺が避ければ後ろの人質に当たる射線だ。
咄嗟に火球をぶつけ空中で氷杭を蒸発させる。
周囲が蒸気に満たされる、俺は間合いを詰めドッカの懐に入り肘を入れる。
ドッカの後ろは壁、逃げ場所はない。
ドッカはそれでも強引に後ろに飛び部屋の壁を壊して俺の飛び込み肘打ちを避けた。
壁の向こうは廊下ですぐに下へ降りる階段がある。
下に逃げられると面倒だ。
牽制の意味で風雷弾を散弾状に放つ。
階段の手すりに立ったドッカは、片手に持ったモーニングスターを回転させ俺の放った空雷散弾をすべてかき消して見せた。
大したもんだ、こんな避け方をされたのは始めてだよ。
しかし、立った場所が悪かったな。
ドッカはしたり顔でモーニングスターを構えたまま、ゆっくりとこちらに向かって倒れてきた。
「余計な事をしてしまいましたか?。」
階段を飛んで上がって来たのはアルスちゃんだった。
俺の空雷散弾を打ち消すのに必死で下から来るアルスちゃんの存在に気がつかなかったドッカの負けだった。
「いや、助かったよ!。」
俺はそう言いながら急いで部屋に戻った。
「さ、さ、下がれ下郎!貴様らのような冒険者風情が!この者を殺されたく。」
イスの人の首元に刃物を突き付けながら叫ぶカイゼル髭のオッサンのセリフを、最後まで待ってやる義理はないので、軽い空雷弾を降ろしたままの手からアンダースローで放ち、イスの足の間から見えるオッサンの脛に当ててやる。
「アフンッ!。」
荒事には慣れてないんだろう、妙な声を上げて体を硬直させたヒゲのオッサンは刃物を落としてそのまま真横に倒れた。
「あらあら、だらしがないですねえ。」
入ってきたアルスちゃんが倒れたヒゲのオッサンの手足に土魔法で作った枷をはめながら言う。
「まったくだね。さて、大丈夫ですか?。」
俺はイスに座らされた人の頭に被せられた袋を取って尋ねた。
「ええ、ありがとうございます。助かりました。」
どうやら拘束されていた人は女性だったようだ。
「俺はクルース、そちらは仲間のアルスちゃんです。さあ、逃げますよ。」
「は、はい。」
「アルスちゃん、外に俺が出てきた穴があるからそこから彼女を避難させてもらっていいかい?俺はキーケちゃんと合流するよ。平和的解決できなかったって報告しないといけないから。」
「うふふふ、死者は出てませんから一応は平和的解決と言ってもよろしいのでは?では、すぐに戻りますね。」
アルスちゃんはそう言って微笑むと拘束されていた女性の手を取り、窓の外に飛んで行った。
さてと、キーケちゃんに合流するか。




