潜入ミッションって素敵やん
その後は出てくる魔物、鬼土蜘蛛やらシュマシラ、アーヴァンクなどが出ると、俺の魔法の練習台にして退けていった。
基本的にはフォーカスの応用練習、先ほどのように形にして飛ばす技を色々とやってみたのだった。
フォーカスは強力な魔法なのだが威力調整が難しくて使える場所が限られていた。
街中だとか、今回のように洞窟内なんかだと周囲を大きく破壊してしまう危険性があった。
そこで俺が考えたのが、火魔法で言う放射と火球のような使い方だ。
これまでは放射のみだったので、火球のように小刻みに発射できないかという発想だった。
それで試したのが円盤ノコギリ状での発射だったのだが、これはとてもうまくいった。
見てくれのカッコよさからシエンちゃんが非常に気に入ってくれたのは計算外だったが、まあ良い。
次に試したのは、棒手裏剣のような小さな杭のような形状での発射だ。
これは鬼土蜘蛛で試してみた。
天井に張り付き糸を飛ばしてくる鬼土蜘蛛。
俺は糸を避け、なるべく小さな棒手裏剣、なんなら針くらいをイメージして発射したのだが、イメージが小さすぎたのか光のシャワーみたいになってしまった。
食らった鬼土蜘蛛は体中に無数の小さい穴をあけて天井から落ち、退治する事には成功したのだが大きさの調整はなかなか難しいことがわかった。
まあ、無数の光の針もこれはこれで使い勝手が良いのだけれども、俺がイメージしていたのは釘投げのフォーカス版だった。
威力にしても大きさにしても丁度手ごろで、狭い場所での戦闘に向いていると考えたからだ。
大ネズミのアーヴァンクは素早い動きのうえに体色が黒く闇に紛れやすいので、洞窟内ではなかなか手ごわい奴だった。
逆に言えば、フォーカス釘の練習に丁度良かった。
素早く見辛い標的に、俺は五寸釘サイズのフォーカスを叩きこむ。
イメージが大切なので、最初は投擲するように腕を降ってやると、凄く上手くいく。
しかし、本当に際どい戦いではノーモーションで複数個所への攻撃も求められるだろう。
四方から襲い掛かってくるアーヴァンクは、本当に良い練習台だった。
自分の認識能力の限界があるので、複数個所への同時攻撃は難しいが、やみくもに四方八方に打ち出すことは可能だった。
まあ、俺は新人類じゃないから仕方ない。
それでも、ある程度の魔法制御は出来るようになったので、その気になればフォーカス剣を片手にフォーカス釘の飛び道具と遠近両用スタイルでの戦いも可能になった訳だ。
遠近両用って言い方はちょっとあれだけど、戦闘スタイルのバリエーションが増えたのは喜ばしい事だ。
しかし、坑道の時と言い地下水路の時と言い、どうも俺はこうした場所では魔法の練習をしたくなるようだ。
そうして現れる魔物を魔法の練習台にしながら進んでいると開けた空間にでた。
「こりゃ広いねえ。天井があんなに高いってことは、通ってきた通路が下ってたってことか。」
「そのようですね。しかし、美しい場所です。」
アルスちゃんが言うようにこの広い空間、天井からツララのように釣り下がる石にテラテラと光るツルツルの壁面、実に壮大な鍾乳洞だった。
「風があるな。」
キーケちゃんが言う。
「だろ?どこか外につながっとるんだろうが、この先もしばらくはこんな感じのトゲトゲした景色が続くんでな、つまらぬから引き返したって訳だ。」
「シエンさん、この美しい風景がつまらないとは何事ですか!まさに自然が生み出した芸術ではないですか!なんてロマンティックなんでしょう。」
アルスちゃんが珍しく興奮して乙女チックになってるよ。
でもアルスちゃんの言う事もわかる。
この風景はちょっとしたものだ。
まるでシャンデリアのような鍾乳石、神殿の柱のような鍾乳石、棚田のようになっている鍾乳石、前世界なら観光スポットになってる事間違いなしだよ。
こんなところに柵も手すりもなしに立ち入れるなんて、冒険活劇映画の主人公になったみたいでワクワクするよ。
「えー、そうかー?よくわからん。」
シエンちゃんにはわからないようだ。
「きひひ、まあ、よかろうて。ひとまず風の侵入経路を確かめてみるとしようか。」
キーケちゃんはそう言うと周囲を見渡し、目を閉じた。
「こちらから強く感じるのう。」
キーケちゃんはすぐに目を開け、トットットと軽い足取りで先へ進みだす。
キーケちゃんに続いて我々も鍾乳洞を進む。
壁面はまるでスプーンか何かで細かく削り取ったみたいな、魚の鱗みたいな形状になっている。
奥からヒンヤリした風を感じる。
「どうやら、あのあたり外に続いているようだな。」
キーケちゃんが指さす天井付近にぼんやりと光が差し込んでいるのが見える。
「ちょいと見に行ってみるか。」
キーケちゃんが光の刺す方向へ飛んだので、俺もついて行ってみる事にした。
鍾乳洞の天井は、ツララのように垂れ下がる鍾乳石やこんもりと盛り上がった鍾乳石で複雑な地形になっている。
ぼんやりと差し込む光の位置を特定するために、俺とキーケちゃんはゆっくり天井を飛ぶ。
「どうやらこれのようだな。」
キーケちゃんが示したのは高さ15センチほど幅40センチほどの裂け目だった。
「これじゃあ、人の出入りはできないねえ。」
「まあ、土魔法で広げれば可能だがな。周囲がどうなっているかわからんから慎重に行くぞ。」
「了解。」
キーケちゃんは裂け目を土魔法で徐々に広げ、肩幅ほどまで広げた時点でゆっくりと上体を突っ込んだ。
「問題はないが草原のど真ん中で、何の遮蔽物もないし周囲に建造物も見当たらない。もう少し洞窟内を進むとしようか。」
そう言うとキーケちゃんは広げた穴を土魔法で元の大きさに戻した。
「どうだった?。」
「いや、まだ草原のど真ん中だった。建物も見当たらず出るには早い位置だな。」
「そうか、では先に進むか。」
シエンちゃんはキーケちゃんの答えを聞き洞窟の先へと歩き出した。
俺たちはその後も鍾乳洞の内部を進んで行く。
鍾乳洞内には小さな蝙蝠やナメクジやゲジゲジ、豆粒に細い手足が生えたようなザトウムシっぽい昆虫くらいしか見かけず、魔物はめっきり出没しなくなっていた。
鍾乳洞は長く続き、まるで階段のように段々になった地面を上がったり下がったり、右折し左折し俺なんかはもう方向感覚がぐちゃぐちゃで、どこに向かってるのかさっぱりわからないのだが、みんなはどうやらわかっているようで、だいぶ逸れてるな、とか、地面に近づいとる、などと言い合ってる。
そうして一時間ほども歩いただろうか、シエンちゃんが天井をにらみ上に人工的な建造物がある、と言う。
「本当かシエンよ。」
「うーん、あまり自信はないのだが、どうも音の響きや熱がなあ。違和感がある。天井を掘ればもっとわかる。やってみるか。」
「おお、やってみよう。ただ、本当にあった場合を考えて慎重にやろう。」
「くふふ、なんなら屋敷ごとここに沈めてやってもいいぞ。」
シエンちゃんが不敵に笑う。
「またまたまたぁー、冗談キツイよシエンちゃん。」
「くふふ、わかってるわかってるって。人質がおるかもしれんからな。無茶はしないさ。」
「うーむ、どうにもその笑みが怖いよ。」
「まあまあ、心配性トモちゃん、大丈夫だから任せとけい!。」
シエンちゃんは不敵な笑みを浮かべながら天井に飛んでいき、土魔法でじわじわと穴を開けていく。
マンホールほどの大きさの穴をじわじわと、まるで溶かすように開けている。
さっきのキーケちゃんもそうだったけど、土くれひとつ落ちてこないもんね。
まるでシエンちゃん自体がドリルになったようにズンズン天井に入って行く。
シエンちゃんの姿が見えなくなり天井に開いた穴だけが見えるようになって数分後。
「ただーいまっと!。」
シエンちゃんが直立不動のカッコのまま落ちてきて、地面に着く瞬間ゲイルの魔法でショックを消しふわっと降り立った。
「ほい!、慎重に掘り進めたぞ!見るがよい!。」
シエンちゃんに言われて俺は天井に開いた穴をゲイルで飛んでくぐる。
マンホール程の直径の穴を上昇する。
ライトの魔法を使い小さく明かりをつけながら進むと天井に行き止まりがある。
良く見ると木の板で、どうも家の床のようだった。
サウンドコレクションを使って木の板越しの音を拾ってみる。
人の足音、食器か何かを動かす音、そして話し声も聞こえてくる。
「どうやら、そうらしいな。」
「ああ、ハイドエルもお縄だって話だ。」
「ヤバくないか?。」
「ああ、風向きが怪しくなってきたな。タイミング見てずらかろうか。」
「くそっ、ったくついてねーよ。魔物狩りじゃあ儲からねーって誘われたのがイリーガルな上に沈む船かよ。」
「まったくだ。どうせ、俺たちは魔物避け専門だ。いっそ、地下牢にいる連中と一緒に逃げりゃーよ、罪も軽くて済むんじゃねーか。」
「かもしれねーな。そうするか。」
「そうしたらいいと思いますよ。」
「誰だ!。」
俺が下から声をかけたもんで、上で話している二人は驚いたようだ。
「話は聞かせてもらいました。そういう事なら、さらわれた人たちの解放に協力してくれるなら衛兵隊に口添えしますよ。ちょっと、そちらに行きますから場所を開けてもらえますか。」
俺は木の板をノックし、一拍置いてから風魔法のカッターで切りつけた。
丸く切り取った板をそのまま持って俺は上にでた。
こういう事はグズグズしないで畳みかけた方が良いだろう。
「突然失礼、私はトモ・クルース。人さらい事件を追っている冒険者です。」
俺は、依頼の事やここに至った話、下に仲間がいる事などをかいつまんで話した。
「し、知ってるぞ、悪殺の団だ。悪にゃ滅法強いが、情もあると聞いてる。ここは協力した方がいいと思うが。」
「ああ、俺もそう思う。ギリギリのところでツキはあったのかもしれねー。俺はドーケン、よろしく頼む。」
二人組のうちの大柄やせ型の方がそう言って頭を下げた。
「俺はウォーレン、ここは俺たちにあてがわれた部屋で急に誰かが入ってくることはない。それで、どうしたら良い?。」
小柄でがっちり体形の方が俺に尋ねる。
「ひとまず、仲間を呼ぶよ。」
俺はそう言って鍾乳洞で待機している仲間たちに声をかける。
どうやら、潜入解放ミッションの入り口は上々のようだ。
この調子で速やかに片をつけたいな。




