未開の地を探検するって素敵やん
さっきのジャンボすぎるタニシはキングスネイルという名前らしく、オオリクジャコなどのように崖に穴をあけて巣をつくる生き物の死骸や食べ残しを食べる掃除屋さんのような生き物なのだとか。
うーむ生物界ってのは良くできてるがやはりキモイものはキモイ。
側面に開いた穴を避け、崖に沿って上昇し続けようやく頂上へと到着したのだった。
降り立ったと言うのか登り詰めたと言うのか、とにかくやっとたどり着いた頂上はとにかく密林、ジャングルだった。
どういう訳だか崖直前、1メートル程の所には木は生えていない。
「これ外周部には草木が生えないのかね?ここを歩けば安全にデスポイントを一周できるのかな?。」
「それはなトモちゃん、外側は少しづつ崩れているから草木が生えないのだ。外周部は地盤が脆いから歩くには危険だぞ。」
「なるほどー。」
「それに外周を歩いていても仕方ないからな。奴らの屋敷はデスポイント中心部だからな。」
キーケちゃんの言う通り、やつらのアジトは地図で見るにこのテーブルマウンテンのほぼ中央に位置していた。
「よーし、ではやつらのアジトに向かって出発進行!。」
シエンちゃんは右手を上げて宣言すると、意気揚々と歩き出した。
俺たちもシエンちゃんに続いてジャングルの中へと歩みを進めるのだった。
ジャングルの中は草木を切り開かなければ歩いて進めない程は密集しておらず、大きな木に沿ってくるぶし丈ほどの草しか生えていない所が道のようになっており、大体はそれにそって歩くことになる。
しばらく歩いているとバリバリボクボクと草木を折散らかしながら何かが移動する音が近づいてくる。
「ムムム。」
キーケちゃんが渋い顔をする。
「おや?ありゃりゃ?来やがったかな?。」
シエンちゃんまでなにやら気づいたような事を言う。
「何が来たのよ?。」
俺が尋ねた瞬間、林立する草木を押し倒しながら大きな魔獣が現れた。
その魔獣は黒白のパンダカラーに鼻の短い象みたいな顔とマレーバクによく似ていたが、決定的に違うのはサイズがアフリカゾウよりデカいのと体の表面がまるでインドサイのような鎧状になっている事、そして太い尻尾の先にトゲが複数ついてる事だった。
「これの事?。」
「いや、違う。アーマーバクは大人しいから問題ない。こいつを追いかけまわしてるやつが問題だ。」
「なによー?。」
不安になってシエンちゃんに尋ねるのだが、俺の声をかき消すように、ぱるるるるるるるるる、と連続的な音が聞こえてきた。
なんだこりゃ?なんか聞いたことあるような無いような。
軽快な連続音の後に密林から飛び出してきたのは、特大サイズのスズメバチだった。
それこそコンビニのゴミ箱位のサイズはある。
そんなのが次から次へと飛んできて、さっきのアーマーバクを追いかけていくのだが、その群れの後ろ半分ほどが、どういうわけかこちらをロックオンしたようで俺たちの方に飛んで来た。
「これこれ!こいつがジャイアントベスピノ!これに刺されると痛痒くてたまらんから蹴散らそう。」
「ちょうどいいから、トモやってみい。」
突然キーケちゃんに言われた俺は、焦りながらも目前まで迫るジャイアントベスピノの群れに向けて、自分の背丈ほどのサイズのつむじ風を連発した。
ありゃ?ちょいと焦りながらやったためか蹴散らすつもりだったのに、粉々にしちまった。
「あちゃー、トモよ殺してどうする。あいつらは死ぬと仲間を興奮させ呼び寄せる物質を出すんだ。」
「ゲゲゲ!マジっすか!どうしましょ?。」
「仕方ないなートモちゃん。我とアルスで死骸を片付けるからやって来た奴を追っ払ってくれ。トモちゃん!。」
「はい!なんでしょ?。」
「殺しちゃダメだぞ。」
人差し指を立てて、まるでお姉さんが弟か何か年下の子に言い聞かすように言うシエンちゃん。
「トホホホホ。わかりましたー。」
ふえぇぇーん、まさかシエンちゃんに殺さないようにたしなめられるとは。
最近こういうの増えた気がするなあ、気をつけねば。
アーマーバクが逃げた方からジャイアントベスピノが戻ってきたようで、こちらに向かってキバをガチガチやって威嚇しながらホバリングしてる。
俺は呼吸を整えしっかりとイメージを固めて風魔法を発動する。
今度は威力をしっかり抑えたスタンダードなつむじ風を発生できる。
周囲の木から落ちた葉が巻き込まれて、少年の日に見た忍者漫画の主人公の技みたいだ。
木の葉の舞う渦の周囲は気流が乱され、千々に乱れて飛ばされている。
ジャイアントベスピノたちもその乱れた気流に翻弄され、こちらに向かってきたいものを思うように進めず右往左往している。
いや、右往左往というより空気の壁に阻まれ弾かれているといった感じか。
ジャイアントベスピノ達がガチガチ言わしていたキバ音が徐々に小さくなり、耳に迫るように聞こえていた羽音の音程がやや下がり圧迫感が減少する。
まるで攻撃の意思が薄れていってるようだ。
実際にそうなんだろう、ジャイアントベスピノは櫛の歯が欠けたように数を減らしてどこかへ去っていく。
「こっちは完了しましたよ。」
アルスちゃんの声がする。
こちらも、ジャイアントベスピノはあちこちへ飛び去って行き、最後の一匹が飛び去って行くのを確認してからつむじ風を消滅させた。
「よしよし、それで良い。」
キーケちゃんは納得したようにそう言った。
「いやー今度から気を付けるよ。ホント、ある程度は色んな生き物の生態を知っておかないとこういう土地を歩くのは危険だねえ。」
「そうですね、冒険者を長く続けるコツはそうした知識を蓄積し上手に使う事ですからね。」
「そうだな!我も経験によって裏付けられた確かな知識故に長生きしているからな!わっはっはっはっは!。」
豪快に笑って大威張りのシエンちゃんだが、普通の人は一回目の経験で死亡してると思うんだよねえ。
「うふふふ、シエンさんのやり方は真似できませんよ。普通、経験した時には取り返しがつかないことになってる訳ですからね。」
「きひひひ、だな。シエンはシエンよ。何物にも真似できぬ。」
「テヘヘヘ、そう?そんなに褒められると照れちゃうなあ。まいっちゃうなあ!なあ!トモちゃん!。」
照れながら俺をバシバシ叩くシエンちゃん。
「ブホッ、シ、シエンちゃん。進もう、さ、先に進みましょ。」
照れ隠しのバシバシが強烈すぎるよ!。
俺はなんとかシエンちゃんを促し、さらに先へと進む事にした。
しばらく進むと小川が流れているのに突き当たった。
川幅一メートル程の小さな川が我々の進行方向を、左から右へと流れている。
俺は地面に膝をつき小川を覗き込んだ。
川の中は底に落ち葉や倒木が堆積し、そうした障害物付近には色んな魚が泳いでいて見ていて楽しい。
体の側面に蛍光色のラインが入った小さな魚の群れや、底にじっとしている細長いハイギョのような魚、やけに口の長いダツみたいな魚ってあれ?ダツみたいな魚がこっちに気づいて向かってくる。
「あんまり水面に近づくと危ないぞ。」
キーケちゃんが注意してくれたので一瞬早く身構えることが出来た。
俺の目に向かってダツみたいな魚が飛び跳ねてきたのを、指で挟んで捕まえる。
「それはニードルカラシンですね。光るもの目がけて突進してくる習性があります。」
「いやー、キーケちゃんが注意してくれなきゃヤバかったよ。ありがとね。」
「なんの。初めての土地では注意する事だ。」
「ういっす。」
「ほら、トモトモ。あちらでも変わった生き物の習性を見れますよ。」
アルスちゃんに言われた方を見ると、川の上にかかった木からエメラルドグリーンに輝く蛇が水面に見える魚を狙っているのが見えた。
蛇が魚に近づくと、パシュッっと音がして蛇の頭が消し飛んだ。
頭を破壊された蛇は力なく木から川に落ち、水面に見えていた魚はその蛇の胴体を加えて川底に潜って行った。
「蛇が魚を狙ってると思ったら逆だったんだ!。」
俺は今見た光景に興奮して言った。
「うふふ、どちらも相手を捕食しようと狙っていたんですけど、今回はバレットフィッシュの方が勝ちましたね。あの魚は軽い水魔法を使うのですよ。圧縮した水の球を発射して獲物を狩るんです。今回は負けてしまいましたがフォレストパイソンは鼻先から強い音響振動を発することで対象を気絶させて捕食します。」
「はやぁー。凄いねえ。どちらもお互い捕食対象なんだ。」
俺は感心してしまった。
元々、俺は動物好きで子供の頃は良く図鑑を見たりしたもんだし、動物ドキュメンタリー番組なんかも大好きだった。
今回の様子は、アルスちゃんの解説も相まって本当に動物ドキュメンタリーみたいで面白かった。
やはりこの世界でも、こうしたジャングルには多くの種類の生物が生息しているんだな。
さて、ここから先に進むにどう行くか。
「これはどうしたもんかね?川を越えて進む?。」
「いや、川を遡る。そうすれば水の源にたどり着く。我々が入った場所から考えれば水源はまず間違いなく水晶湖だ。」
「なに?すいしょうこって?。」
「湖の底に水晶が沢山沈んでるんだ。だから水晶湖。我が名付けた!。」
「おほほほ、シエンさんたらロマンチストですねえ。見てみたいですわぁ水晶湖。」
うーむ、ロマンチストと言うより見たまんまのリアリストだと思うのだが、まあ、アルスちゃんがそう言うならそれで良いよ、シエンちゃんも喜んでるみたいだし。
しっかし水晶湖って、なんかおっかねーネーミングだよ、猟奇的な事にならないか心配になるよ。
まあ、この土地はデスポイントなんて呼ばれるだけあって、こんな穏やかそうな小川ですら人間を殺傷できる力を持った生物がいて、しかも襲ってきたりするぐらいだからね、もうちょっとやそっとの事じゃビビらないけどね俺も。
なんて考えながらみんなと一緒に小川を上流へと歩いて行くと、川岸に一輪の大きなオレンジ色した花を発見。
花弁がチューリップのようだが放射状に開き、全体の様子はヒマワリのみたいだ。
いい匂いがする。
更に匂いを嗅ごうと俺は顔を近づけた。
クチャァァァーー。
いやな音をたてて花の中心部が開いた。
「ひゃぁぁっ!。」
俺は驚いて後ろずさった。
開いた花の中心部はギザギザの歯が生えており、俺の顔があった場所をパックリ食いついていた。
「それはトラップフラワーですね。匂いでおびき寄せた小動物を捕食します。さすがに人間は大きすぎて食いついてもすぐに吐き出しますから安心してください。ただ、内部にある液体は刺激が強くて目や鼻がしばらく痛くなるそうですから気を付けて下さいね。」
「あ、ありがと、アルスちゃん。」
やっぱり、ビビるもんはビビりますわ。
はー怖かった。




