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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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落ちのある話って素敵やん

 目が覚めると俺は小舟の上で、その小舟は砂浜に打ち上げられていた。

 いやあ、良かったよマジで。目が覚めてまだ海上をさまよっていたらさすがに心が折れるわ。

 俺は小舟から降りて砂浜を歩く。潮風をほほに受け砂浜を歩く。

 どんどん歩く。見えるのは森。

 森を右手に見て砂浜を歩き続ける、振り向くと砂浜に俺の足跡だけ。

 なんだか嫌な予感がするぞ。

 嫌な予感を飲み込んで砂浜を歩いていると遠くに何かが見える。走って近づくと、やだよ、もう。

 なにか巨大な生き物の骨。

 やめてくれよ。どこなんだよここは。何がいるんだよここは。

 自然と手が腰に着けてる特殊警棒にいく。ちゃんとある。安心。肩からタスキ掛けしてるウェストバッグも確認する。中身もちゃんとある。ふー。それは良かったのだが問題は現在俺が置かれている状況だ。

 俺は思い切って森に入ってみることにした。

 森に入ってしばらく歩くと濃密な植物の臭いに圧倒される。木の密度が濃いし植物の量も多いし大きい。

 地面も倒れて朽ちた木や張った根、コケや何かで歩きづらいったらない。

 それでもワシワシとブッシュをかき分けかき分け進む。

 昆虫やら鳥やらは見かけるしホエザルかなにかの鳴き声も聞こえるが大きな動物には遭遇しない。

 ほとんどの動物は先に人を見つけて避けるなんて話を聞いたことがあるけど、そういうことなのかね。

 そうしてうっそうとした密林を歩いていると微かに水の流れる音が聞こえるのでそちらへ歩く。

 しばらく音のするほうに進むと幅1メートル程の小川に行きついた。

 流れる水にはなにか小さな水生生物もおり、という事は飲んでも問題なかろう。

 俺は直接口を付けてゴクゴクと水を飲んでついでに頭をじゃぶじゃぶと洗った。

 ふいーっ。スッキリした。飲み水も確保できたし、まあ何とかなるっしょ。

 小川の上流に向かって俺は進むことにした。

 しばらく進むと滝らしい水が落ちる音がしてくる。

 進むにつれその音は大きくなり、音の正体に行きつくとやはり滝であった。

 滝の水量自体は大したことはないのだが割と高さがある。俺はゲイルを使って乗り越えた。

 滝の上に行くと視界が開け周囲は岩場で、小川の流れる先には山が見えるのでそこへ向かうことにした。

 山に近づいていくと小川が大きな洞窟から流れ出ているのが見てとれた。

 近づくにつれその洞窟の入口のでかさが如実に現れてくる。


「こりゃあ、でかいぞ」


 思わずそう言葉にしてしまう程大きな洞窟の入り口付近は、日が差し込むためにシダのような植物が群生している。

 太陽光が入っているのか明るくて奥のほうまで視認できるのだが、その風景は幻想的で洞窟内に流れている小川からなのか靄がかかり一層神秘的に見せている。

 これは入ってみるしかないっしょ。

 俺は洞窟探検をしてみることにした。と言っても明るくて広い場所を散策するだけだけどね。

 しばらく進むが内部が狭まる気配はないしずっと明るい。ところどころ上部から太陽の光がさしておりこれまた神々しい光景で自然と背筋が伸びてしまう。

 更に奥へと進んで行くと、とんでもない光景にぶち当たった。

 巨大な赤い龍がいたのだ。

 背中に羽の生えた、あの龍。

 ギョロっとした目玉で俺を静かに見ている。

 参ったぞ。グリフォンどころじゃない、身体も心も相手の脅威度の高さに警戒警報を鳴らしている。

 相手を刺激しないように目をそらさずゆっくり後ずさる。


「おい、お前は人か?言葉はわかるか?」


 およよ、龍が喋ったよ。しかも女性的な声で。音量はでかいけど。


「ええ、そうですけど。私の事を食べようとか思ってます?」


 おっかなびっくり聞いてみた。


「食べぬよ、せっかくの話し相手ではないか。丁度退屈していたところでな、なにか話して聞かせてくれ」


「なにかって、じゃあ私の話になりますけどね」


 俺はこの世界に来るまでの事と来てからの事を話して聞かせた。


「ほうほう、面白いではないか。続きは?」


「いや、続きって言われても遭難して今に至ってますからねえ」


「なんだ、もうおしまいか。なにか他にないのか?笑える話はないのか?しばらく笑っておらぬでな」


「笑える話ですか?うーん。その前にあなたのことを少し聞いてもいいですか?」


「構わぬが、それが笑える話となにか関係があるのか?」


「それはありますよ笑いってのはこれでなかなか奥が深いんですからね」


「そういうものなのか、まあ、良いが。我は龍族の王にして空を統べる赤龍の長エンの娘シエン也」


「えっ?それだけ?」


「これで十分であろう」


「フーム、まあよいでしょう。じゃあ、いっちょ話しますけど、架空の話ですからね、そこはお忘れなきようお願いしますね。あと、わからないことあったら聞いてくださいね」


「我にわからぬことなどないのだ」


「人間の事とかわかります?街の名前とか領主や王の名前とか?」


「それぐらいはわかるのだ。人と話すのは久しぶりだが人里に降りることもあるのだ」


「うそっ?そのカッコで?」


「そんなわけあるか!人の姿になることなど容易いのだ」


「ほうほう、じゃあ、いきますよ。えーー、ノダハの街に大工の夫婦が住んでおりましてね。夫の名前はエイトと申しました」


「フム」


「ある日の事、エイトは家で昼寝をしていました。うーーん、うーーん、とエイトがうなされているのを見たおかみさん。心配になってエイトを起こします」


「ほうほう」


「これ、あんた!起きとくれよ!大丈夫かい!。ねえったら。おうっ!びっくりした、なんだいなんだい、人が気持ち良く寝てるってのに」


 俺はパートを演じ分けて話す。


「なに言ってんだいこの人は。あんたが苦しそうにうなされてるもんだから、こっちは親切心で起こしてあげたんじゃないかい!それをこの人は!おいおいおい、起き抜けにそんなにキンキンするんじゃないよ。おー耳が痛い。しかし、あれだね、俺はそんなにうなされていたのかい?あんた!うなされてたなんてもんじゃないね!じゃあ、うなされてなかったのかい?屁理屈言うんじゃないよ!この人は。とにかく酷いうなされようでしたよ!いったいどんな夢を見ればあんなにうなされるんだい?」


「うんうん」


「いやあ、それが全然思い出せないんだよ。なんだかおっかない夢だったような気もするんだけれども、起きてしまったら何にも思い出せない。また、この人は!あたしは情けないよ!長年連れ添った妻であるあたしにも言えないってのかい!キーーーッ!悔しい!どうせあたしには言えないような夢を見てたに違いないんだからっ!ちょっと待ってくれよ、本当なんだって!本当に思い出せないんだから仕方ないだろう。さてエイトの言う事におかみさんは聞く耳持たず、怒りは収まりません」


「困ったものだのう」


「おいおい、やかましいねまったく。どうしたんだい?そう言ってエイトの家を訪ねてきたのは大家さんでした。近所から苦情がきてるよ。なにを言い争ってるんだい?大家と言えば親みたいなものだ、聞かせてごらんよ。いいところに来てくれましたよ!聞いてくださいよ大家さん!!この人ったらね!あたしは情けないですよ!」


「やかましいのお」


「まあまあ、落ち着きなさいよ。ほら、うちのカミさんがお茶とお菓子を用意して待ってるからいってらっしゃい。そう言ってエイトの妻を自分の家にやる大家さん。エイトのおかみさんはブーブー文句を言いながらも仕方ないから大家さんのおかみさんに話しを聞いてもらおうってんでいそいそと家を出た。残されたのはエイトと大家さんだ。さて、エイト君、なにをそんなに大きな声で争っていたんだい?聞かせてごらんなさい。はー、すいません、本当に些細なことなんですよ。カミさんがね、俺がうなされてたってんで何の夢を見ていたのかって聞くわけですよ。でもこっちは何にも覚えちゃいないもんだから覚えてないとこう言ったわけですよ。そうしたらあの有様ですよ。そうかそうか、よくわかった。大家と言えば親も同然。エイト君のこともそりゃ子供のように思っているんだよ私は。ね?わかるだろ?ええ、そう言って頂けると俺も嬉しいですよ、うちのカミさんにも言ってやってくださいよ、しょうもない事で駄々をこねるなって。わかったわかった、良く言って聞かせようじゃないか、ところでね、大家と言えば親も同然!それはわかりましたって!。そうか?わかってくれるな?では本当のところを聞こうじゃないか。はい?本当のところと言いますと?だからねエイト君、夢の内容だよ。勘弁してくださいよ、大家さんまで!本当に覚えてないんですから!君ね、大家と言えば親も同然。親にも話せないと言うのかね!」


「クスクス、人間とは愚かな生き物よのう」


 食いついてきたぞ。


「勘弁して下さいよ!本当に覚えてないんですって!まだ言うか!親に向かって嘘をつくとはけしからん!本当のことを言わぬならこの家を出て行ってもらうぞ!。そんな無茶苦茶だ!なにを、本当のことを言えば済む話しではないか!どうしても言わぬというのなら本当に出ていってもらうぞ!今から商業ギルドに行ってギルド長に判断してもらおうじゃないか!とまあ大家さんも一歩も引かない。エイトもそこまで言われちゃ一緒に商業ギルドに行くほかなく、仕方なしについていった」


「それから、どうなるのだ」


「まあまあ、そう焦らずにお聞きなさい。一連のやり取りを大家とエイトから聞いたギルド長。君たちね、つまらないことで私を煩わすんじゃあないよ、まったく、馬鹿馬鹿しい。大家さんね、あなた、そんな事が認められるわけがないでしょう。ちゃんと家を貸す際に発行した契約書を読み返しなさい。ほら!早く帰りなさい!渋々帰る大家さん。まったく、いい大人が仕方のない奴だ、なあ?そうは思わぬかエイト君。いやあ、助かりました!ありがとうございます!本当にしつこいったらなくて。そうだろうそうだろう。もうしつこい大家はいなくなったな。・・・・なんだか雲行きがおかしくなってきたぞ」


「くすくすくす」


「さて、ここにはギルド長である私とエイト君のふたりきりだ。もう話しても良いのだよ、その夢の内容を。きたよー、きましたよ。勘弁して下さいよ!本当に本当に覚えてないんですから!エイト君!君ねえ!商業ギルドの長と言えば全ての働く民の親も同然!もう世の中親だらけだよ」


「うふふふふ、親には逆らえぬものよな」


「その親にも言えぬとは甚だ不届き!エイト君!君も大工としての仕事を続けて行きたいだろう?だったら正直に言いなさい!勘弁してくださいよ!覚えてないものは覚えてないんですから!お前も頑固な奴だな!こうなったらご領主様に判断してもらおうではないか!そういうわけで興奮したギルド長の剣幕に押されてエイトはご領主様の前に連れていかれたのでした」


「エイトも難儀よのう」


「さて、ギルド長とエイトから事情を聴いたご領主様。ギルド長!そなたは何を言っておるのだ!それは職権乱用にあたるぞ!不届き者め!今回は実害もないようなので大目に見るが、今後そうした事があれば罰を受けてもらうぞ!わかったら下がるがよい!ご領主様の怒った様子にギルド長はそそくさと退散しました。エイトと申したな、難儀であったな。ははー!ありがとうございます!まあよい、面を上げよ。さあ、うるさいギルド長も居なくなったぞ・・・・」


「まさか?」


「ではエイト、夢の内容を話してみよ」


「きゃはっ!でたのう、でたのう!きゃはははは!」


「そんな、ご領主様!どうかお許しを!先ほどお話ししたように本当に覚えてないんです!どうか、どうかお許しを!エイトよ、領主と言えば全ての領民にとって親も同然」


「きゃはははは!またもや!」


「その親にも言えぬとはどういう事だ!そう言われましても、本当に覚えてないんですから!ええい!不届きものめ!縛り上げて城門に吊るしてしまえ!頭を冷やして話す気になったら戻してやる!という事でエイトは城門から吊るされてしまいました」


「なんと哀れな、それからどうなる?」


「参った。なんでこんなことになったんだ。俺がなにか悪いことをしたと言うのか?エイトはなにか自分に非はあったのだろうかと考えました。しかしどう考えても自分に落ち度があったようには思えませんでした。ううう、なんてことだ。エイトが自分の境遇を嘆いていると空から巨大な龍が降りてきました。びっくりしたエイト。もはやこれまでかと思っていると、その龍が言いました。我は龍族の王にして空を統べる赤龍の長エン」


「なんと!父上ではないか!いつの事なのだ!そんな話しは聞いておらぬぞ!」


「いや、架空の話ですから、落ち着いてくださいな」


「そうであったそうであった。すまぬ。続きを頼む!」


「龍は続けて言います。一部始終を見ておった。人間とはなんと愚かな生き物であろうか。お前も難儀であったな。今、助けてやろう。エイトは龍の王に助けてもらいました。龍の背に乗り空を飛ぶエイト。エン様ありがとうございました。さすがは龍王様です。こんなにスッキリしたことは未だかつてありません!煩わしい人間から助けてもらい龍の背に乗り空を飛ぶことができたエイトは感動してそう言いました。そうであろうそうであろう、まったく人間というのはなんて愚かで弱い生き物なのだろうか、しかしそれでも人間なりに懸命に生きておるのだろう、エイトよあの者たちの事、許してやってくれ。なんと、恐れ多い!エン様はなんと懐の深い慈悲深いお方なのか!ふふふ、まあ、そう恐縮することもない、我ら龍族は絶対的存在、故に人間すべては我らの子供のようなもの・・・・・・」


「きゃーーーっ!でたーーーっ!でたでた!待っておったよ!きゃーーはっはっはっは!」


 洞窟内の空気がビリビリ震える。


「龍王の背でエイトは震えあがりました。どうか、どうかご容赦を!ご容赦ください!待て待てエイトよ。なにか勘違いしてはおらぬか?え?と言うと?我は龍の王ぞ、この世の万象を知る賢さの象徴的存在であるぞ。その我が人の夢の内容になど興味を持つと思うか?いやあ、すいませんでした。早とちりしまして。ほっと胸をなでおろすエイト。しかしのう、エイトよ、そちがどうしても話したいと言うならば聞いてやらぬこともないぞ」


「きゃーーははははは!父上はそういうお方じゃ!父上ならそう言うに違いない!きゃはははは!」


「うわーーーっ!ふーーふーー。肩で息をするエイト。辺りを見回すと自分の家だった。どうやら寝ていたようだ。いやーー、焦ったーー!マジ焦ったわ!いやー、よかったー。安心するエイトにおかみさんが言いました。あんた、ずいぶんうなされていたけど、どんな夢を見ていたんだい?」


 俺はゆっくりとお辞儀をする。


「おおうっ!なんだそれは!ちょっとゾクゾクしたぞ!こんなのは初めてだ。大いに笑ったし感心もしたのだ!人とはなかなかに侮れぬのう」


「喜んでいただきまして何より。では、日も暮れてまいりましたので、この辺りでお開きにさせて頂きたいと思います。またのご観覧をお願いいたします」


 そう言ってそそくさとその場を去ろうとする俺。


「ちょっとまて」


「ギクッ!」


「今、ギクッっと言ったな。口に出して言ったな。なにをそんなに恐れておるのだ」


「いや、だって、正直に言って怒りません?」


「怒らぬ」


「怖いんですよ」


「誰が」


「あなたですよ!シエンさん!」


「我がか?お前が我を怖がっているのか?きゃははっはは!それは傑作だ!」


「いや、そんな笑われても」


「それは笑うわ!お前は!面白い奴だ。そうだ、名を何という?」


「クルース、トモ・クルースですけど」


「そうかトモか。トモよ、なぜ我を恐れる?」


「それは大きいし強いし」


「大きいから恐れるか。では、これでどうだ」


 そう言うとシエンは人の姿になった。

 20代位だろうか、少し赤く見えるショートカットの髪に好奇心の強そうなくりくりした青い目、もう異性と深い仲になるのはこりごりだと心に強く刻んでる俺でも少し切ない気持ちになるようなキュートさを持った女性だった。昔観た、サスペンスの巨匠が撮った映画、見つかった死体を殺した犯人は自分だとみんなが思い込むブラックコメディでデビューした名女優にどことなく似てる。


「どうした?これでもまだ恐ろしいのか?」


「いや、もうさっきほど怖くはないけど、でもやっぱり自分を容易く殺せる存在が近くにいると思うと怖いことは怖いよ」


「さっきからお前は何を言っているのだ。お前も十分強いではないか」


「えーー。そんな事ないでしょ。シエンさんに比べれば何でもないでしょ」


「お前はここをどこだと思っとるのだ?」


「どこって、それがわからないから困ってるわけでして」


「この島はな、この地上でもかなり高位の力を持つ魔獣が住む島でな。普通のものならここまでたどり着くこともできぬよ」


「いやあ、ここに来るまでに鳥と虫くらいにしか遭遇してませんでしたけど」


「お前は、最初から説明しないといけないのか。この島の奴らが高位と言うのはだな、相手の力量を見る能力も長けているからなのだ。我がここまで来るのにも誰も挑んでなどこんわ!我の弟ですらここまで来るに何回か挑まれるぞ!まあ、今のところ勝ってはいるがな。つまりだ!お前の力は弟以上、我と同等か下手をすれば上回っておるかもしれぬ。その辺りは実際に戦ってみないと何とも言えぬが。そんなに心配ならひとつ手合わせしてみるか?」


「勘弁してくださいよーシエンさん!俺は平和主義者なんですから」


「その喋り方はなんとかならぬか?さん付けで呼ばれるのも堅苦しくていかん」


「えー?怒らない?」


「怒らぬ」


「じゃあ、シエンちゃんでいい?」


「ムム・・・まあよかろう」


「あれ?今ちょっと間があかなかった?嫌だった?」


「別に嫌ではない。我をシエンちゃんと呼ぶ者などおらぬので少し面食らっただけだ。嫌ではないぞ!」


 なんで2回言った?。しかも2回目強めに。


「それでは、あれだな。我もお前のことをトモちゃんと呼ぶとしようか」


「えーー」


「あーーっ!お前!嫌な顔をしたな!露骨に嫌がったな!なぜだ!なぜいかんのだ!理由を説明してみろ!」


「いや、別に嫌じゃないけどさ、最初に話したでしょ、ここに来るに至った経緯を。ハティちゃんの事話したでしょ」


「ああ!聞いたとも!それがどうしたのだ!」


「ちょっと、落ち着けって!ハティちゃんはそれは素直でかわゆくてね」


「うむ。それで?」


「そのハティちゃんが俺のことをトモちゃんトモちゃんって呼んでくれたわけよ」


「それが、どうしたのだ。どうしてそれが、我がお前をトモちゃんと呼ぶことに対して、お前が露骨に嫌な態度を取ることになるのだ?どうしてだ?説明してみよ!」


「シエンちゃん、最初から説明しないとダメなのかい?」


「ムムム、先ほどの意趣返しか?案外幼いのう」


「そういうわけでもないけどさ、ハティちゃんが呼んでた呼び方をされるとねえ、せっかくの可愛らしいハティちゃんとの思い出が」


「汚れるとでも言うのか!」


「いや、そこまでは言わないけど」


「グムムムム!我は可愛らしくないのか!我は素直では無いのか!」


「いや、まあ確かにシエンちゃんは素直だな、うん、それは確かだ」


「可愛さは?可愛らしさはどうなんだ?言ってみよ!今すぐ言ってみよ!」


「今の姿でしょ?可愛らしいってのとはちょっと違うかなぁー」


「そ、そんなー。うぅ、なぜ、なぜだ」


「ちょっと、そんなに落ち込まないでよーー。可愛くないわけじゃあないんだから、どっちかって言えば色っぽいと言うのかなまめかしいってのともちょっと違うけど、そう!気品があって優雅な魅力っての?そういう感じよ!」


「気品!優雅!魅力的!!!!そうかそうか!ならいいぞ!うむ!そうだろう、そうだろう!なにせ我は大人であるからな!クフフフフ。そうであろう!」


 うっわー!めっちゃ笑顔だーー。


「わかってもらえて良かったよ。それからトモちゃんでいいよ」


「もっと嬉しそうに言え!」


「トモちゃんって呼んでよーーーーんーー!」


「よし!そこまで言うのならば呼んでやろうではないか!トモちゃん!くふふふふ、のうトモちゃん!」


 また妙なのになつかれてしまったな。外見が超激キュートなだけに始末に負えないよ。


「ははは、ねえ。ところでシエンちゃん。この島には人は住んでないの?」


「住んでいるわけなかろうトモちゃん!。たまに修行に来る酔狂な奴はいるが人が住んでも面白くない土地だろう。なあ、トモちゃん!」


「わかったって、もう。じゃあ、ここから1番近い人里ってどこ?」


「1番近い人里のう。レインザー王国かのう」


「レインザー王国のどこよ?」


「どこと言われても。どこでも一緒のようなものだぞトモちゃん」


「いや、レインザー王国って言っても広いっしょ」


「人の身にはそうかも知れぬの。我にとってはこの島と変わらぬ」


「やっぱスゲーなシエンちゃんは。俺はレインザー王国のノダハって街に帰りたいんだけどさ。どうしたらいいと思う?」


「なんだ、来たばかりではないか。しばらくここに居たら良いではないか」


「いやあ、そうしたいのは山々なんですけどね。待っている人がいるものでね」


「なんだと!伴侶か?」


「いや、違うけど」


「では恋人か?」


「違うって。仕事仲間の子供たちだよ!話したでしょ!」


「おうおう!あの子供たちか!我も会ってみたいのう。そうだ!我に乗っていけ、ついでに我もついてくぞ!。そうと決まれば用意をせねばだな!よしよし!楽しくなってきたぞ!バナナを持って行こう!道中食べようではないか!美味しいぞー!いっぺんに沢山食べてはダメだぞ!ちゃんと計算しないとな!うふふふふふ!」


 そう言うとシエンちゃんは洞窟の外に行ってしまった。

 おいおい、どうなるんだよこれ。俺は頭が痛くなってきたのだった。

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[一言] 天狗裁きとても好きな噺です。
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