囚われ人を解放するって素敵やん
我々は砂漠を越え一路西へ向かう。
砂漠を越えたらすぐに山があり、獣道を通って山を登る。
大した高さのある山ではないので、いくらもしないで山頂部に出る。
見下ろす景色はすぐそこに山。
今いる山と変わらない高さの山がすぐそこに広がっている。
今いる山を下るのも次の山を登るのも訳はなかったが、その先の風景はちょいとばかり見ものだった。
確かにそこには川が流れていた、いたのだが川幅は10メートル程もあるだろうか、見た感じ深さはさほどないのだが、非常にきれいな清流で前世界なら絶対に鮎釣り師たちが群がりそうな、そんな眺めだった。
川の向こうは石が広がる河原がありその向こうはまた山、水面に見える石や岩の立てる白波を見るに川の流れは我々から見て左から右へと流れているようだ。
さっきまで魔獣やフードを被った悪の団体と戦っていたのが嘘のような牧歌的な風景だ。
「わー!きれーい!。」
「川だー!わーい!。」
スニーとネージュがきれいな川を見て喜び、山を走り降りて行った。
「転ばないように気をつけろよー!。」
俺は走っていく二人に声をかける。
「心配だな!我が付き添うぞ!おーい!待てー!ズルいぞー!。」
叫びながらシエンちゃんが駆けて行くが最後に本音が出てますよ。
「わたしたちも続きましょう。」
アルスちゃんに言われて俺も歩みを進める。
山を下りると開けた景色と川から来る風が涼しくて気持ち良い。
「あー気持ちいぃーっ!。」
「水が冷たーいっ!。」
「ぷひゃー!気持ち良いのう!。」
スニーとネージュは履物を脱いでズボンの裾をまくり川に足をつけてはしゃいでいる。
シエンちゃんは水をすくって豪快に顔を洗っており、ホント、ワイルドな山男といった風情だよ。
「さっぱりするからみんなも顔を洗うといいぞ!。」
シエンちゃんの言う通り、川の水はキレイで冷たくて顔をじゃぶじゃぶっとやると本当にスッキリする。
しかし、山を越え砂漠を飛び今度は川を辿ってと、なかなかの旅になって来たよ。
我々は清涼な川の水で癒されると、再び悪党待ち受ける館へ向かって進む。
川を辿り上流へ上流へと歩いて行くと川は二手に分かれ、一方は林の中から一方は山沿いに流れている。
我々はフードの男の証言に従い林の中を流れる川沿いに上流へ向かうと、果たしてそこには池があった。
フードの男は泉と表現していたから、きっと水が湧いているのだろう。
林の中も泉の周囲も軽く整備されて道っぽくなっていて歩きやすい。
「館とはあれですね。ここからは林の中に入って近づきましょう。」
泉の外周部を歩くとすぐに館は見えてきた。
薄いオレンジ色の外壁に窓枠が白、二階建ての建物は前世界で言うビクトリア様式の洋館みたいで優雅なことったらない。
「こんな所にあんな洒落たもん建築するなんてナメとるのう。」
林に入って身をひそめながらキーケちゃんが言う.
「悪者なら悪者らしくひっそり肩身を狭くしてボロ小屋でも建ててろってんだよね。」
「ホント、なんか洒落てるだけに腹立つわ~。」
ネージュが俺に追従して言う。
「さて、ではわたしが偵察してきましょうか。」
「きひひアルスよー、ひとりで行くことはあるまいて。あたしも行くぞ。」
「あら、ありがとうございます。ではキーケちゃんと行ってきますので皆さんはここで少々お待ちください。」
アルスちゃんとキーケちゃんは葉音も鳴らさずに館の方へと移動していった。
「大丈夫かねえ、あの二人で。」
シエンちゃんが言う。
「なんで?心配なのシエン先生。」
スニーが聞くけど、意味が違うと思うぞ。
「ああ、二人で終わらせやしないか心配でなあ。」
ほらね。
「その心配ですかー。シエン先生暴れたいんですかー?。」
「人聞きの悪い事を言うでないぞスニー。それでは我が無法者のようではないか。我は大人の淑女ぞ。な?トモちゃん。」
「お、おう。そう、そうだよ。シエンちゃんはねえ、そう、気品があって優雅な魅力ね。」
「くふふふ、それよ。初めて会った時もそう言ってくれたっけなあ。のう?トモちゃん。」
「キャー!聞いた聞いたスニー!やっぱりシエン先生とトモちゃん先生って!。」
「聞いてるけどネージュ、声が大きいって。静かにしなきゃ誰かに見つかるって。」
「ゴメーン。ダイジョブだった?見つかってない?。」
「今の所大丈夫そうだけど。」
「ごめんなさい。」
いつになくショボンとするネージュ。
「大丈夫だ。屋敷の方も動きはないしこの近くに人の気配はない。そんなにしょんぼりするな。」
シエンちゃんがネージュを慰めてる。
「只今帰りました。」
アルスちゃんが戻ってきた。
「キーケちゃんは?。」
「継続して見張ってます。屋敷の入り口に二人見張りがいます。館の中には一階に五人前後、二階に十人弱、地下があるようですが、地下の気配は何か結界でも張ってあるのか掴みづらかったですが、恐らく捕らえられている人が五人程に見張りが二人と言ったところだと思います。外から地下への入り口はありませんでしたので、中に入ってから地下への入り口を探します。そこで皆さんには正面から入って内部の敵を相手にする班、二階から潜入し無力化する班、裏口から侵入し地下への入り口を探し地下へ行く班の3班に別れて同時に突入したいと考えています。」
アルスちゃんが状況と作戦を報告してくれる。
そう悠長にしてもいられないので戦力的に考えてアルスちゃんに割り振ってもらう事にする。
「では一階突入班はなるべく派手に暴れてひきつけて頂きたいのでシエンさんとネージュさんエイヘッズさんでお願いします。二階突入班は敵人数も多く、戦闘員でない人間、おそらくこの館の責任者らしき人物がいますので護衛班も手ごわい可能性があります、ですのでこちらも人数多めでキーケちゃん、フライリフ君、スニーさんエマさんでお願いします。裏からの潜入はわたしとトモトモで行きます。」
「よし、ご期待通り派手にやっちゃるか。」
シエンちゃんが嬉しそうな顔をしている。
「では、正面組の突入に合わせますのでお願いします。では行きますよ。」
そう言って林の中を進むアルスちゃん、そして無言で続く我々一行。
キーケちゃんに合流し手短に作戦を告げたアルスちゃんは、皆を見てお願いしますよと頷いた後、俺と一緒に館の裏口へ向かう。
「裏口に見張りはいませんが、裏口入って近くに人の気配があります。」
「了解、合図と同時に入って遭遇したら気絶させるよ。」
俺たちは気配を消して裏口近くの林で合図を待つ。
「みょぃ~~~~~~~~~~ん。」
「パリンッパリンッ!パリンパリンパリンッ!!。」
「なんだなんだ!!。」
これは鉱山で使ったホーミーの風魔法バージョン、フューチャリングシエンちゃんだな!窓ガラスの割れる音と慌てる声、まさに派手な合図ってわけだ!。
俺とアルスちゃんは裏口のドアを風魔法の空気弾、サイズ大で吹き飛ばし中に突入する。
入ってすぐに煙草をくわえた男が腰の剣に手を伸ばしている所に遭遇。
アルスちゃんの言ったとおりだ。
俺は慌てずそいつの頭に帯電させた空気弾、名付けて雷空弾を食らわす。
そいつはのけぞって意識を失い倒れる。
俺はそいつの口から離れて床に落ちた煙草の火を水魔法で消す。
「うふふ、心配性ですねえ。」
「煙草の不始末、火事の元ってね。」
俺たちは地下への入り口を探す。
アルスちゃんの話じゃ何か隠ぺい魔法みたいなものがかかっている可能性があるのだ、俺は呼吸を整え視覚に意識を集中させる。
らせんを意識し腹の下、丹田まで落とし込んだ呼吸を背骨に沿ってゆっくり上げ、そうして感じた熱を眼に纏わせるイメージ。
空気がねっとりとした透明のゼリーのように見え、床の足跡がはっきりと見え始める。
複数の足跡を追い廊下を通るとその足跡は壁に向かっていた。
アルスちゃんを見ると彼女も頷いている。
俺はそっと壁を押す。
押した壁は触った瞬間に扉になり、カギは掛かっていないようでスッと開いた。
「認識疎外の魔法です。中には誰もいないようですが。」
入った部屋は何の調度品もなく、ただ奥の壁に暖炉があるだけだった。
足跡は暖炉へと続いている。
「暖炉は偽装ですね。」
アルスちゃんがそう言って暖炉に手をかざすと暖炉は姿を消し地下へ続く階段が見えた。
「これも認識疎外魔法?。」
俺は小声でアルスちゃんに尋ねる。
「はい。人の思い込みを利用した簡単なものですが。下から人が二人上がってきます。」
アルスちゃんが小さな声で俺に伝えてくれる。
俺とアルスちゃんは階段入り口の両脇にしゃがみ込み、下から上がってくる人間を待つ。
「何の音だ?敵襲か?。」
「まさか、こんな所に誰が来るんだ?。」
「奴隷を取り返しに来た誰かじゃねーのか?。」
「そんなわけあるか、罠も仕掛けてるし十本指もいるんだぞ。」
どうやら、囚われ人ではないようだ。
俺はアルスちゃんと頷き合う。
階段を上ってきた男はアルスちゃんの言った通り二人。
俺は自分に近い方の男に雷空弾を食らわす。
アルスちゃんはいつの間にか手にしていた扇子で男の頭を軽く仰ぐと、その男は膝から崩れ落ちた。
「あれ?その扇子?。」
「はい、気に入ってるんですよ。うふふ。」
アルスちゃんが手にした扇子には狼少女の絵に頑張るニャンの文字がある。
迷宮都市で購入したやつだ。
狼少女の絵は迷宮都市の長、メルヘンベルだ。
元気にしているだろうか?。
なんて考えてる場合じゃないよ、俺とアルスちゃんは倒れた男を階段の両脇に寄せ地下へと向かった。
地下に意識をめぐらすが敵意や殺意のような刺々しい気配は感じられない。
「地下には囚われた人以外いなさそうだね。」
「ええ、油断は禁物ですが。」
俺とアルスちゃんは階段を下る。
下った先は廊下になっており、壁にはランプが掛けられている。
まっすぐ進むと突き当りにイスが二脚とテーブルがあり、テーブルの上にはカップとカードが散らばっている。
どうやら見張りの二人はカードゲームに興じていたようだ。
そして突き当り右側には頑丈そうな扉がある。
アルスちゃんは扉に鍵がかかっていることを確認すると、扉と壁のわずかな隙間、鍵がかけられている辺りをスッと指でなぞった。
カキンと硬質な音がする。
錠部分を破壊したのだろう。
アルスちゃんは扉を軽く押した。
中に入ると後ろ手に縛られた人が五人、壁に背を預けて力なくうなだれていた。
認識疎外魔法の上からでもアルスちゃんの気配探知は確かだった。
囚われている人たちは何が起きているのか気づいていないようで、下を向いたままでいる。
きっと、騒いだりして散々酷い目にあったのだろう、あきらめきった様子ではあるが皆、大きなケガや身体欠損などは無く健康状態はわるくなさそうだった。
「皆さん、助けに来ましたよ。ロープを切りますから立ち上がって下さい。」
アルスちゃんがにこやかに声をかける。
「さあトモトモ、皆さんを解放してから援護に行きましょう。」
「一先ず俺は先に援護に回るよ。アルスちゃんは彼らを頼んでいいかい?。」
「わかりました。お願いしますね。」
そんな訳で俺は先に上に戻り遊撃に回る事にしたのだった。




