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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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休む暇もないって素敵やん

 平野部を進んで行くと進行を遮るように川が流れていた。

 川の水はキレイで魚が泳いでいるのが見える。


「川沿いに進んでみましょう。人の痕跡があるかも知れません。」


 アルスちゃんの意見で我々は川の上流へと進む。

 昔話や何かで川上から人工的に作られたもの、食器だとかそういった物が流れて来るのを発見し、人が暮らしていることに気が付くなんてエピソードは良く聞いたことがある。

 生き物が生きていくためには水は必要不可欠だ。

 我々は、何かの痕跡がないか周囲に注意を払いながら川沿いに進んで行く。

 川の向こう側は林になっており、時折野生動物が水を飲んでいるところに出くわしたりしたが、大抵の生き物はこちらの存在に気づくとすぐに林の中に姿を隠してしまうのだった。


「この川を遡っていくと何があるのかしら。」


 スニーが誰に言うでもなく疑問を口にする。


「恐らく大きな池か何か、水源があるな。」


「シエン先生なんでわかるの?。」


「匂いだ。強い水の匂いがする。近くにあるぞ。」


 シエンちゃんが言うようにそれからいくらもしないうちに大きな池が見えてきた。

 池と言うよりちょっとした湖だ。


「本当だ!シエン先生すっごい鼻してるね!。」


 スニーが驚いてる。

 本当にビックリだよ、海ならまだしも淡水の匂いを、それも流れる川のそばにいるのに感じ取るとはねえ。


「くふふふ。なーに、大したことではない。魔族の中にはもっと鼻が利くのもいる。」


 嬉しそうなシエンちゃん。


「湖の向こうに小屋がありますね。中継小屋でしょうか?行ってみましょう。」


 湖は我々がいる方向から左回りに行くと途中までは野原、その先は林になっている。

 川を挟んだ反対側はやはり林。

 小屋は左回りに行った先、林と野原の境に建っている。

 湖の外周を歩いて小屋へと向かうのだが、湖から何かの気配を感じる。


「何かが来るね。」


 俺は湖を見て言う。


「ああ、来るな。みんな我らの後ろに下がってろ。」


 シエンちゃんが馬術クラブメンバーに言い、彼らも素早くその指示に従う。

 直後、岸辺の湖面が波立ち大量の何かがこちらに向かって飛び出てきた。


「なんだ!フライングアーミフィッシュは淡水には生息しないはずだが!。」


 驚きながらもシエンちゃんはミニ竜巻を大量に発生させて、湖から飛んできた羽の生えた魚の群れを蹴散らしている。


「いえ、これはフライングアーミフィッシュではありませんね。よく似てますが小型の近種でフライングカラシンです。しかし、それにしても熱帯に生息するものでこの辺りで繁殖したなんて話は聞いたことありませんよ。」


 アルスちゃんはウォーターカッターを鞭のように振り回しながら言う。

 しかし、あの鞭状のウォーターカッターはかっこいいね、うねうねと水の筋が空中を踊っているのだがそれに触れたフライングカラシンはどんどん千切れて落下していく。


「じゃあ、これも今まで同様、例のあれかね?。」


 俺も負けじと土魔法の散弾を連発しながら言う。


「かもしれんのう。しかし、こんなのが湖に住み着いたんじゃあ生態系が狂うのう。」


 キーケちゃんは落ち着いた調子で言うが、両手は猛烈な動きで空中を引っ掻くような動きをしており、それに伴って発生した無数のエアカッターで空飛ぶ魚の群れを細切れにしている。


「まったく!、王国法で特定外来魔獣の輸入、飼育、栽培、運搬などは禁じられてます。本当に今回の相手はモラルの低い方たちでうんざりします。」


 アルスちゃんが怒ってるよ。

 アルスちゃんは鞭のように操っていたウォーターカッターの数を増やし、周囲を飛ぶフライングカラシン達はさながら複数現れた水龍に食いちぎられまくっているかのようだった。


「私たちの出る幕はないようね。」


「いや、そうでもなさそうだぜ。」


 フライリフが言うように、フライングカラシンを撃ち落としてる我々の背中側、野原からも何者かが近づく気配がする。


「恐らく地中だ、そっちは任せるから用心しろよ。」


 シエンちゃんが言う。


「わかったっ!みんな!気を付けてね!。」


 スニーが構えながら言い、他のみんなも体制を整えた。

 地中から飛び出してきたのは靴位のサイズの茶色い虫だった。


「うおっと!こいつぁ珍しい!ミナミトゲケラじゃねーか!。」


 エイヘッズが飛び掛かる虫を炎を纏った平手で撃ち落としながら言う。


「何よ珍しいの?高く売れる?。」


 手足を硬質の岩でプロテクトして踊るように周囲の虫を退治しながらネージュは言う。


「いや、人を集団で襲うような虫じゃねーって事よ。なんかあるなこりゃ。」


「ああ、怪しいったらねーな。ちょいと、ここは任せていいか?。」


「いいけどフラちゃん、気をつけろよ。」


「おう。」


 フライリフは短く返事をすると虫が飛び出て来る場所周辺の草むらに身を潜めた。


「何なのこの虫。初めて見るけど。」


「こいつは普段、地中で暮らしててな。もっと南の水田地帯なんかに良くいる奴なんだけどな。自分より大きな生き物を襲うなんて見たことも聞いたこともないよ。大人しい虫で子供が飼ったりするぐらいでさー。おかしいよ、こんなのは。」


 スニーの質問にエイヘッズが頭をひねった。


「もう!そんな事、言ってる暇ないでしょ!結構な勢いでぶつかってくるから当たったら痛いわよ!。」


「いや、こいつらが本気でぶつかればちょっとした生き物なら肉がえぐれるんだが。ネージュ、お前どんな肌してんだ?。」


「キーっ!乙女に何てこと言うのよ!まだぶつかっちゃいないし、赤ちゃんみたいな肌だってよく言われるんだからー!もーーっ!!。」


 ネージュは怒って、土魔法でエイヘッズの近辺に人の頭ほどの大きさの岩石を降らせた。


「ちょ!バカ!殺す気か!。」


 降ってくる岩石を避けながら言うエイヘッズ。


「おーい!これだろ原因は!。」


 フライリフがちょっと離れたところの草むらからヒョイと顔を出し右手を上げる。

 上げた右手には杭みたいなものが見える。


「お、それみたいね原因は。ぱったり出てこなくなったよ。」


 実際に虫はすでに鳴りを潜め、こちらのフライングカラシンも湖から飛んでこなくなったのだった。


「なんだろね、これ?。」


 フライリフは近くにいたアルスちゃんに長さ30センチほどの杭のような形状の物を渡し尋ねる。


「フムフム。これは地面に突き刺して使う道具のようですね。そして、これは。」


 アルスちゃんはその杭状のものをひねると上下に分解した。


「どうやら、雷魔法を発生する装置のようですね。中に小さな魔石が入ってました。」


 魔石ってのは魔力を蓄積できる高価な特殊金属で、魔導機船の動力部に使われるものよりは性能が劣るが、それでも高価な事には変わりない、要するに狩人が仕掛けるようなものじゃあないって事でじゃあ誰が仕掛けたのだという事になりますわな。

 ネージュなんかは、行く先々で邪魔をしてムカツク!ってプンスカしてるよ。


「まあ、ここで考えていても仕方ない。ひとまず小屋を探ってみようではないか。」


 さすがの冷静沈着キーケちゃんに促されて俺たちは小屋の中を探ることにした。


「うわっなーにこれー。荒れ果てちゃって。」


 ネージュが開口一番言ったように内部は荒れており廃墟のようだった。


「どうやら、中継小屋として作られたのは確かだがしばらく使われていなかったようだな。」


 キーケちゃんが壁に掛けられた素材に貼るネーム札を指さして言う。


「でも、誰かが寝床にはしていたようですねえ。」


 アルスちゃんが言うように部屋の隅にぼろきれがまとめられていて、まあ寝床と言えなくもない感じになっていた。


「ちょっと、中で寝泊まりする気にはなれないわー。」


「ホントホント。これなら野宿のがマシね、だいたい屋根も穴だらけだしね。」


 スニーとネージュが話している。


「フーム、では今夜はこの小屋の前でキャンプするか。水辺も近いしここを寝床にしていた奴が帰ってくるかもしれぬ。」


「よし!そうと決まれば飯の用意だな!だったらさっきの魚も食ってやろうじゃないか!用意してくるぞ!!。」


 言うが早いか荷物を置いて走っていくシエンちゃん。

 何するんでも即断即決なんだよなシエンちゃんは。


「よし、じゃあ暗くなる前に準備をするか。」


「よし、じゃあ、薪を集めてきますよ。」


 フライリフとエイヘッズが言うので俺もついていく事にする。

 林に入って薪になりそうな木を集める。

 生木ではススがでてしょうがないから乾燥したやつを探す。

 この林は広葉樹が多く、倒木も必然的に広葉樹が多い。

 広葉樹のほうが密度が高いから燃焼時間も長く薪に適してるんだよな。

 小屋近くの林で薪を拾ってるとどうも視線を感じる。

 嫌な気配ではない、敵意よりもどちらかと言えば恐れか、そうしたモノを含んだ視線を感じる。

 小屋の寝床の主だろうか?。

 いずれにしても、我々に敵意がない事を知れば出て来るだろう。

 俺たちは薪を拾い小屋の前に戻り焚き火を始めた。


「やだ、シエン先生、本当にその魚食べるの?。」


 ネージュが串に刺されたフライングカラシンを見てシエンちゃんに言う。


「ああ本当に食べるぞ!美味いんだぞ!。」


 そう言ってシエンちゃんはせっせと串に打ち焚火の近くの地面に刺して並べていく。

 火に炙られたフライングカラシンは表面に焼き目が付き、ほんのりと油の焼ける匂いもしだして非常に食欲をそそった。


「やだ!めっちゃ美味しそうな匂いがするんですけど!。」


「まだだぞ、ネージュ。中までじっくりと火が通るのを待つんだ。火に近づけちゃダメだぞ!この位置がいいんだからな!後、あんまりいじっちゃダメだ!ジッと我慢が大切なんだ、生焼けじゃあ美味しくないからな。」


「はーい!めっちゃお腹減っちゃいましたー先生!でも美味しい魚を食べるため!我慢しまーっす!。」


「よーしよしよし!ネージュよ、お前には料理の才能があるようだ!料理で一番難しいのは何だかわかるか?。」


「うーーんと、作る前に食べない事、かしら?。」


 ネージュがトンチンカンな事を言う。


「バーカ、ネージュ。お前はどんだけ食いしん坊なんだよ!。」


 エイヘッズが言った直後。


「その通りだネージュ!!やはり我の目に狂いはなかった!!お前には料理の才能があるぞ!!魚が焼ける間に肉の下ごしらえを伝授しよう!行くぞネージュ!。」


「はい!先生!。」


 あんぐりと口を開けるエイヘッズにアカンベーをしたネージュは、意気揚々とシエンちゃんについて行った。

 と、その瞬間、林の中から何者かが躍り出て焼けた魚を何本か奪い取った。

 人間のように二足で躍り出たその人物はどう見ても虎だった。

 服を着た虎人間はあっという間に焼き魚を両手に1串づつ持ち更に口に1匹咥え、林の中に去って行った。

 啞然とする我々。

 さっきの視線はこれか、しかし気配を感じなかった。


「このヤロー!!魚を返せーー!!。」


 シエンちゃんが大きな声を出しながら駆けて行った。

 お魚咥えた虎人追っかけて駆けてく愉快なシエンちゃんなのだった。

 って、俺たちも追いかけなきゃだな。

 俺はシエンちゃんの後に続いて虎人間が消えた林の中に入って行くのだった。


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