大団円って素敵やん
しかし天蓋が付いたベッドで起きるなんて初めてだが実際に経験してみるとデカイ蚊帳だな、こりゃ。
きっと用途も似たようなものなんじゃなかろうか。なんて思いながら起床するとみんなすでに起きており、ハティちゃんにねぼすけトモちゃんとはやされる羽目になった。
「ねぼともちゃんだぞーー!食べちゃうぞーー!」
何だか知らんが追っかけてみたら大喜びだったが、スーちゃんに朝食前からあまりドタバタするでないよと怒られてしまい俺とハティちゃんはふたりでしゅんとなったのだった。
「失礼します。朝食の用意ができております」
これまたザ・プロフェッショナルといった感じのメイドさんが我々を案内してくれて、昨日とは違う場所で朝食を頂く事となった。
朝食後に出された紅茶を頂きながら一同くつろいでいるとトビラが開いてランツェスター首座司教、今度は本物が部屋に入ってきた。
立ち上がる我々に対して、まあまお座りくださいといった感じで手を動かす首座司教。
俺たちはまた着席する。
一緒に席に座った首座司教はゆっくりと口を開いた。
「昨日は皆さんありがとう。おかげで助かりましたよ。ドブレが色々と暴露しておりましてね。他の指導者達から、私も含めた皆さんを殺害しその中の誰かの犯行に、出来ればオウンジさんの犯行に見せかけるよう指示されたようです。ドブレは資金調達力の低下から教団指導者達との権力争いに負けて汚れ仕事を押し付けられたようで、身の安全の確保と引き換えに良くしゃべっているようですよ。ドブレ自身も残りの教団指導者たちに強い恨みをもっているようです。彼の話した犯行後の逃走経路について調べたところ見事に行き止まりでしてね。彼も捨て駒のひとつだったようですね。彼が使った邪法も能力を使用した後に一定時間で暴発するよう仕組まれていたようで、その能力も他の指導者から譲り受けたものだそうです。汚いやり方をする奴らですよ」
そう言って我々を見渡す首座司教は、何だか前世界のやり手弁護士とかそういったエネルギッシュなデキルおじさん風味で俺は少し気圧された。
「だがオウンジさんハティさん、みなさんも、もう安心して下さい。みなさんを襲撃することで残された数々の痕跡、そしてスウォン記者が提供された情報、そして教団幹部ドブレの自供により、教団指導者達への事情聴取と教団本部、指導者達の住居への捜査が決定しました。これは事実上彼らの崩壊となるでしょう」
「それでは、私たちは、私とハティは、もう自由という事ですか?」
オウンジ氏が尋ねる。
「勿論今すぐにと言うわけにはいきません。まだ実働部隊残党が残っているかもしれません。しかし、そう時間はかからずしてあなた達の安全は確保されるでしょう。ですからしばらくの間は王都の来賓館でお過ごし願いたい。そしてスウォン記者にもお願いがある」
「何であろうか?」
「今回の事を記事にするのは少しだけ待って貰いたいのだ」
「勿論である」
「ありがたい。それ程時間は取らせない。ドブレの安全確保、それから教団幹部全員とそれに直接繋がる者達の身柄確保が済み次第こちらからお願いに上がらせてもらう。そしてもうひとつお願いがあるのだが」
「何であろうか、出来るだけの協力はさせていただくのである」
「今回の事件について、我が教会の出版社にて手記を書いて貰えぬだろうか。出来ることならそれを大々的に出版しこのような偽りの団体が今後発生しないように、たとえ発生したとしても多くの民がこの事実を知ることで同じ犠牲者を出さぬようにしたいと思うのだが、いかがだろうか?」
「是非、やらせて頂きたいのである」
そう言ってスーちゃんは深く頭を下げた。
「いや、そう言って頂けるとありがたい。それからクルース殿であったな?」
「はい」
「貴殿には本当に感謝している。ここまでの旅路、幾たびもの襲撃に対し被害を最小限に抑え、みごとな武勇と知略であったと聞いている」
「いや、そんな。依頼の完遂に努めただけです」
「ふふ、今時珍しい騎士道の持ち主とお見受けする。しかしながら、今回の依頼料ではその武勲に見合わないでしょう。王国より改めて報奨金が出ますからお持ちなさい。実際、見事でした」
「ありがとうございます」
こうして俺の冒険者として初仕事は大成功となったのだった。
よかったよかった。
報奨金を受け取った俺はみんなに別れを告げた。
「みなさん、色々ありましたが楽しく仕事をさせてもらえて感謝しています。機会があれば是非ノダハにいらして下さい」
俺はそう言って頭を下げた。
「こちらこそ、ありがとうございました。クルースさんの仰っていたような、発見者を辞めて苦しんでいる人の力になれる事をこれからやりたいと思っています。それから、ハティも、好きなことをさせてあげたいと思っています。本当にありがとうございました」
そう言って手を差し出すオウンジ氏と固く握手をする。
「トモちゃん行っちゃうの?」
そんな泣きそうな目をしないでおくれ。
「ノダハあるでしょ、最初に会った街。そこに住んでいるんだよ。ハティちゃんもいつでもおいで。ハティちゃんより少し年上のお兄さんお姉さんがいっぱいいるから、きっと仲良くなれるよ」
「ハティ、仲良くなれる?」
「ハティちゃんなら誰とでも仲良くなれるよ」
「トモちゃん、また会える?」
「会えるよ!」
「うん!」
俺はハティちゃんの頭をワシワシと撫でてやった。ハティちゃんは眩しい時のように目を細めていた。
「クルース殿」
「なんだい、改まって」
「貴殿には幾ら感謝をしてもし足りぬのである」
「よせやい、照れるじゃないか」
「吾輩もなりたい自分になれるよう、諦めないでやっていくのである」
「スーちゃんなら大丈夫だよ。それから、ハティちゃんの事頼んだよ」
「うむ!任されたのである!」
別れってのは寂しいものだが、今生の別れってわけでもないし、よく考えれば俺にとっての今生ってなんだ?とかあらぬ深みにハマりそうなので感傷もそこそこに俺は王都の街を歩く。
さてと、どうしたものかね。ギルドへの依頼達成報告は報奨金を貰った際に先方でしておくとの事だったので冒険者としての業務は完了している。あとは観光でもして帰るか。みんなにお土産でも買っていくかと王都の街をぶらぶらする。
報奨金は30万レインも出たので俺はスーちゃんとオウンジ氏とで山分けした。ふたりとも受け取るのを渋ったが、旅の記念だと言って納得してもらった。
それでも懐はホクホクだ。街を歩きながらこの服は女子たちが喜びそうだな、男の子たちにはこの靴がいいなあ、帽子なんかもいいねえ、なんて思っていたのだが持って帰るにどうすんだ?と、ふと気がついてしまった。
そのために馬車でも買うか?そりゃもったいないだろ。
なんか手はないかと街を散策すると、ありましたよ宅配屋さんが。
軽い荷物や手紙程度なら乗合馬車などに乗せてもらう手もあるのだそうだが大量の荷物となると専門の業者があるようで、特に王都レベルになると観光客から個人商店の仕入れまで荷物を各地方に運んでほしいと言うニーズは多いようで商店の連なる場所には荷馬車マークの看板が良く出ている。
俺はそうしたお店のひとつに入り話しをさせてもらうと、ノダハまでだと明日発で四日後の着予定である、冒険者なら冒険者割があると言うのでお願いすることにした。
そうして再度街ブラし、さっき見かけた服や靴や帽子、それ以外にも楽器屋さんで販売していた横笛やケーナとか尺八みたいな唇を添えて吹くタイプの縦笛、卵サイズの木の実で造られたマラカス的な打楽器、竜騎兵人形、貝殻を加工して造られた首飾りやブローチ、木で作った大聖堂のミニチュア、レインザー城などが書かれたポストカード的な物、などなどあの子たちの顔を思い浮かべながら物色していたら思いのほか大荷物になってしまった。
先ほどの宅配屋さんに持って行って代金を払う。このくらいの量なら良くある事なのか特に驚かれもせず普通に受け付けてくれた。
土産も買って後はどうするかなあ、なんて考えながら再び街を歩いていると港に出た。
船かあ、船旅ってのもいいかもなあ。
俺はノダハ近くまで船が出てないか確かめることにした。
聞いてみるとタスドラック領マズヌルまで、今日の昼出航で明日の夕方前には着くと言う。
こりゃ文字通り渡りに船だってんで俺は船賃を払い、出発の時間まで港で過ごすことにした。
まあ、出発までの時間といってもそんなにあるわけじゃないので、まずは腹ごしらえということで飯屋をさがす。こういうところは美味い魚介類を食わす飯屋があるに違いない、と言うわけで周囲を少し歩くといい匂いをさせてるお店を発見し中に入る。
オススメと言われて魚介のパスタと漁師のスープってのを注文する。
店内は港で働く人たちなのか活気があっていい雰囲気だ。
「はいよっ!」
料理が出てくるのも速い。
あっつあつで嚙み応えのあるパスタに濃いめに味付けされた魚介がよく合う。ボリュームもあって食いごたえがあるぜ!漁師のスープってのも、しみじみ美味い。魚のあらを使ってるんだな、塩味だけなんだけど後引く美味さだ。
いやー、ごっそさん!ということで料金を払って店を出て、船でも見ながら待つかと思い停泊していた場所に向かう。
俺が乗せてもらう船は結構でかくて高いマストが2本立ち、船首から1本目のマストの間にも帆が張られ、今は畳まれているが各マストにある帆も合わせて三つの帆がある船だった。
まあ、なんというのか、勇壮って言うの?壮観ですな。
近くで見る帆船って男心をくすぐるな。プラモデルやなんかで根強い人気があるのもわかる気がするわ。
俺は出航の時間を今か今かと待ち構えるのだった。
そうしていると出航時間になり、さっき俺が船賃を払ったオジサンがでかい声で出航を告げだした。
俺はオジサンにさっき船賃を払ったときに貰った木製の割符を見せて船に乗り込む。
割符は下船時に回収するので失くさないようにしてくれとの事だった
。俺は身につけているウェストバッグの中にしまった。このウェストバッグは俺がハードに使っても千切れないように補強したものなので、今回の度重なる襲撃者との戦闘においても身体から離れることはなかった信頼できる一品なのだった。そいつを俺は肩からタスキ掛けにして身に着けている。中身は相変わらずで、巾着に入れた現金と冒険者カード、アウロさんから貰った切り出しナイフだ。五寸釘は置いてきた。オウンジ氏に邪魔でなければ置いていって良いか、後は売るなりなんなり好きにしてもらって良いからと言ったら何かに使えるでしょうと引き取ってくれたのだ。
そしてウキウキで購入したバックラーだったが、アサシン軍団との戦いで壊れてしまったので廃棄処分となったのでした。まあ、よく頑張ってくれたよ。
あと持ち物と言えばこれも今回は本当にお世話になった。アウロさんに感謝!でお馴染みの特殊警棒。こちらも本体は勿論、入れ物の革ケースまで耐久性抜群!革ケースのベルトループの造りもガッチリしていて、丈夫な革紐で編み込んだベルトと組み合わせて使用しているのだけれどそう簡単には脱落しない、なんせ橋から飛び降りてスーちゃんをキャッチしてエアクッション噛ませてからのジャンプ時もケースに差しただけの状態だった特殊警棒が落ちなかったからね、ケースの蓋をしっかりすればもう失くす気がしない、まさにタフな男のアイテムと言って良いだろう!
マキタヤに着いたらアウロさんに使用した感想とお礼を伝えよう。
なんて割符をしまい荷物の確認をしていたら船出となった。
俺は離れ行く王都の港を見ながら、今度はゆっくり観光で来たいなあと思ったのだった。
船の甲板で風を浴びながら見渡す限りの海を眺める。
すでに陸は見えず周囲すべてが海という絶景、なのに乗り込んだ人たちはさっさと船倉っていうの?船の中に入っちゃう。
もったいないねえ、やっぱりこの世界の人たちは楽しむって事に疎いのかねえ、なんて思って景色を見ていたのだが、なるほど飽きますね。あまりにも変化がない景色はキレイでもすぐに飽きるな。
ということで俺もすごすごと船の中に入るのだった。
甲板からトビラを開けると廊下になっており左右にまたトビラがある。
右側手前のトビラに客室と書いてあったので開けて中に入る。
中は広い部屋になっており、乗り込んだ人たちが布を敷いて各々くつろいでいる。
敷き布なんて持ってこなかったなあ、なんて思いながら客室をうろつくと隅に畳んだ布が置かれており、ご自由にお使いくださいと書いてあったのでひとつお借りした。
空いてるスペースに布を敷き寝転がる。
これはあれだ、暇だな。参ったな。何も暇つぶしになるようなもの持ってこなかったよ。
仕方ないねこんな時はあれですな、寝るに限るという事で俺は昼寝をすることにした。
「ゴン!ゴン!ガタン!」
うおっ!なんだなんだ!でかい音に目が覚めた。
船内がグラングラン揺れている。
何だってんだ。何か海の怪物にでも襲われてんのか?俺は客室を出た。
轟轟と強い風の音が聞こえてくる。
まさか嵐に遭遇したのではあるまいな。
甲板へ出て見ると、こりゃひでー。何かにつかまってないと立ってられねー。
すげー雨と風で船が翻弄されておまけに激しい波が甲板を打ちつけている。
「おいっ!誰だか知らねーがそこの人!マスト降ろすの手伝ってくれ!」
俺は突然声をかけられた。
「どーすりゃいいのーー!」
「こっちのロープを引くの手伝ってくれ!」
「了解!」
俺は波にさらわれないように注意して指示された方へ行く。
「じゃあ、せーので引っ張ってくれよ!せーのっ!」
俺は屈強な海の男と一緒にロープを引っ張った。
「せーのっ!」
俺はビショビショになりながら滑る足元に気を使いロープを引っ張った。
幾度目かの掛け声で引っ張るロープの抵抗がなくなる。
「こっちは大丈夫だ!船首の方を頼む!」
「わかった!」
俺は船首へ向かった。
船首に着くとこちらも海の男たちがロープを引っ張っている。
「おーい!こっちだ!手伝ってくれ!」
俺に気づいた船員が声を掛ける。
「おうっ!」
返事をして近づいたその時、ロープを引っ張っていた男が手を滑らせたのか結構な勢いで甲板際の手すりへとすっ飛んで行った。
俺は咄嗟に風魔法のゲイルを使ってすっ飛ばされた男が手すりに激突する前にキャッチし、即座にロープを引っ張ている船員たちのほうへ濡れた甲板上を滑らせるように投げ渡した。
「おおうっ!」
俺はゲイルで自分の身体の加速を殺しながら、助けた男が他の船員に受け止められるのを確認した。
直後に視界が暗くなり強い衝撃を感じる。
身体が水中でグルグルとかき回される。
これはあれだ、俺は波にさらわれて嵐の海に投げ出されたという事だな。
俺は息を止めて身体の回転がおさまるのを待つ。
前世界でサーフィンやっていて波に巻き込まれた時も慌てずこうしていたものだ。まあ、ちょっと規模が違うけど。
そうしていると身体が水上に浮いていく。
「プハーッ」
海上に顔を出し息を吸う。
周りを見渡して船を探すが波と激しい雨で何も見えない。
さすがにこれは参ったな。
ゲイルを使い海上をエアクッションで移動してやろうとしても、あまりの暴風っぷりにすぐに海に叩きつけられる。
さすがにヤバいぞ。
そう思っていると何かがこちらに近づいてくる。
波にもまれながらだんだんと近づくその影。じわりじわりと近づいてくるのがもどかしいが、こちらから近づこうと泳いでみても波にもまれるばかりでどうにもならない。
俺は波に翻弄されながらそいつが近くに来るのを待った。
そうして待っているとそれが小舟だと確認できた。
奇跡ってあるのね。
本当に、この世界に来てから何度目になるだろうか、何者かわからないがこの世界の神様的存在に感謝する。
ようやく小舟が手に届く所まで来て何とか乗り込んだ俺は、安心と疲労で吸い込まれるように眠ってしまったのだった。




